自民党がTikTok 公式アカウント開設か-「若者への訴求力」の裏に潜む国家安全保障リスク

セキュリティニュース

投稿日時: 更新日時:

自民党がTikTok公式アカウント開設-「若者への訴求力」の裏に潜む国家安全保障リスク

2025年6月4日、自民党の平井卓也元デジタル担当大臣は、動画投稿アプリ「TikTok」にて自民党の公式アカウントを開設する方針を明らかにしました。背景には「若年層への訴求力」「地方創生との親和性」などがあると説明されています。しかし、この決定には情報セキュリティの観点から強い懸念も根強く存在します。

TikTokの利便性と経済効果の評価

TikTokは世界で10億人以上、日本でも月間3300万人が利用する巨大プラットフォームへと成長しており、国内GDPにも4,855億円の寄与があるとされています。投稿者による観光PRや商品訴求が経済波及効果を生む点は一定の評価を受けています。

しかし、その一方で、TikTokは国家安全保障上の重大な懸念を各国政府から指摘され続けており、日本の与党がこうしたアプリを公然と利用し始めたことは、極めてリスクの高い判断とも言えます。

TikTokの本質的なリスク

TikTokが抱える主なセキュリティリスクは以下のとおりです。

  • 国家安全保障リスク:ユーザーデータが中国政府に収集・分析される可能性。

  • アルゴリズムによる世論操作:選挙介入や誤報拡散のツールとしての懸念。

  • プライバシー侵害:未成年の個人データ収集、子どもへの不適切な広告表示。

  • 企業ネットワークへの感染経路:従業員が私物デバイスでTikTokを利用→企業インフラへの侵入リスク。

  • 中毒性と情報偏向:偏ったニュース、センセーショナルな情報への依存。

アメリカでは3度TikTok禁止期間が延期中

米国政府は2024年2月に連邦政府機関に対し、30日以内に政府発行のデバイスからTikTokのサービスを削除するよう通告しました。米国の14の州は政府支給のデバイスでのTikTokのアプリの使用を禁止しており、モンタナ州は個人用デバイスでのTikTokアプリの使用を禁止するまでに至りました。

多くの米国政府関係者は、中国政府がTikTokに米国人のスマートフォンのデータを引き渡すよう強制したり、TikTokで人々が見る動画を中国共産党の好みに合わせて操作したりするのではないかとも懸念しています。

中国政府は法律により、中国企業に位置情報などのユーザーデータを情報収集活動のために提供するよう強制できることが背景としてあります。コラムニストのエズラ・クライン氏はニューヨーク・タイムズ紙に「中国企業は中国政府の気まぐれや意志に左右されやすい。この点については曖昧な点はない」と述べています。

また、ドナルド・トランプ大統領がTikTokを活用して支持層へのアプローチを行った一方、自身の政権下でTikTokの禁止を試みており、現在も国家安全保障の観点からTikTokの売却を推進していますが、3回の売却期限を延長し、現在の延期期限は6月19日となっています。

各国で進むTikTok排除の動き

TikTokの親会社であるByteDance(バイトダンス)は中国企業であり、中国の国家情報法により、政府は企業に対してユーザーデータの提出を命じることが可能です。この点が、「国家による監視」や「世論操作の温床」となる可能性を高めています。

実際に、以下のような各国政府がすでにTikTokの利用を制限・禁止しています。

  • オーストラリア・カナダ・イギリス・EU諸機関:公務員の端末や業務用デバイスでTikTokの利用を全面禁止。

  • インド:2020年にTikTokを全面禁止。

  • 台湾・フランス・オランダなど多数:政府機関による使用を制限。

    情報システム部門が警戒すべき点

    企業や自治体にとって、TikTokはもはや「若者向けSNS」ではありません。情報インフラに潜むリスク、BYOD(私物端末利用)環境での影響、ユーザーの操作不能なバックエンド挙動など、セキュリティ上の課題は深刻です。

    とくに公的機関がTikTokを活用することで、「国家的情報流出の可能性」が現実化する恐れがあります。情報システム担当者は、技術的対策だけでなく、広報やマーケティング部署と連携して使用方針の策定と制限措置を急ぐべきでしょう。

    まとめ

    自民党によるTikTokの公式活用は、「時代に即したSNS活用」として一定の合理性があるものの、それに見合うセキュリティリスク評価と対策がセットでなければ、国民の安全保障を揺るがす事態にもなりかねません。便利さとリーチの裏に潜む「国家リスク」を、今一度冷静に評価すべき時期に来ています。

    情報システム部門観点としては、TikTokの利用を全面的に許容する前に、「ガバナンス」「監視体制」「データ制御」の観点から十分な検討を行う必要があります。

    参照

    https://www.sankei.com/article/20250604-6HZ6S4RRA5BBTH4MSJHBL2ZH2Y/