原子力規制庁の「防災スマホ」、2025年度に10件紛失-年間紛失率は約1.7〜2.0%と高水準

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原子力規制庁の「防災スマホ」が2025年度に10件紛失

弁護士ドットコムニュースが原子力規制委員会に行政文書の開示を請求したところ、2025年に原子力規制庁の職員が業務用スマートフォン(防災携帯電話)を紛失した事案が少なくとも6件あったことが、2026年4月に開示された内部文書から判明しました。さらに規制庁への電話取材によって、2025年度全体では紛失事案が10件に上り、そのうち2件は現時点でも見つかっていないことが明らかになっています。

この一連の問題は、2026年1月6日に共同通信が「規制庁の職員が2025年11月に私用で訪れた中国・上海の空港で業務用スマートフォンを紛失し、原則非公表の核セキュリティ担当部署の職員名や連絡先が登録されていた」と報じたことをきっかけに注目されました。

この記事のサマリー

  • 原子力規制庁の職員が業務用スマートフォン(防災携帯電話)を紛失した事案が2025年度だけで10件発生し、うち2件は現在も行方不明です。
  • 発端となった中国・上海での紛失事案(2025年11月3日)では、テロ対策の観点から原則非公表とされている核セキュリティ担当部署の職員名・連絡先が登録されており、電波が届かず遠隔ロック・データ消去も困難な状況でした。規制庁は「情報漏えいの可能性が否定できない」として個人情報保護委員会に報告しています。
  • 開示文書で確認された6件の紛失状況は、出張先ホテル周辺・飲食店帰宅途中の路上・研修会場から宿泊施設への移動中など多岐にわたります。
  • 数日間にわたって紛失に気づかなかったケース、緊急参集用タクシーチケットを同時に紛失したケース、内閣情報調査室のカウンターインテリジェンス(CI)センターへの報告が必要と判断されたケースも確認されています。
  • 防災携帯電話の保有台数は500〜600台で、2025年度の紛失率は約1.7〜2%に相当します。この種の機器に期待される管理水準と比較して著しく高い数字です。

防災携帯電話とは何か—なぜこの端末の紛失が問題なのか

原子力規制庁の「防災携帯電話」は、原子力発電所に影響する災害や大地震等の緊急時に対応する職員に配布される業務用スマートフォンです。現在の保有台数は500〜600台で、現在はすべてスマートフォン型です。端末には職員の氏名・電話番号・メールアドレス等が登録されており、地震発生等の際には自動でメールが送られる仕組みになっています。

配布される職員は原則「肌身離さず携帯する」こととされており、遠隔でのロックやデータ消去も技術上は可能です。しかし今回の中国での紛失事案では、電波が届かない状況のため遠隔操作でのロック・データ消去が困難だったと報告されています。

このような端末の特性から、紛失は単なる機器の管理ミスにとどまらず、緊急対応網そのものの機能低下・個人情報の流出・最悪の場合は外国情報機関による情報収集の対象となりうる安全保障上の問題を内包しています。

最も深刻な事案—中国・上海での核セキュリティ担当者情報の流出可能性

2025年11月3日、原子力規制庁の職員が私的な目的で訪れていた中国・上海の空港の保安検査場で、業務用スマートフォンを紛失しました(日本経済新聞・共同通信・テレビ朝日が2026年1月6〜7日に報道)。

端末に登録されていたのは、テロ攻撃や核物質の盗難を防ぐことを目的とする「核セキュリティ担当部署」の職員名および連絡先です。この部署の担当者情報は機密性が高いため原則公表されていません。国内の原子力施設の核物質を守るための対策を担い、担当者情報が漏えいした場合はテロリストや外国情報機関による標的化に直結しうる性質の情報です。

職員は紛失から3日後に気づき、空港等に問い合わせましたが見つかりませんでした。規制庁は「情報漏えいの可能性が否定できない」として国の個人情報保護委員会に報告しています。規制庁担当者は、開示請求で判明した6件の文書にこの中国事案が含まれるかどうかについて「言えない」としており、別途の報告書が存在する可能性があります。

関連:原子力規制庁職員が中国で業務用スマートフォンを紛失、非公表職員の個人情報漏えいの恐れ

開示文書が示す6件の紛失パターン

弁護士ドットコムニュースが入手した「防災携帯電話の紛失について(報告)」と題された開示文書には6件の報告書が含まれていました。黒塗り部分は多いものの以下のパターンが確認されています。

紛失場所は出張先のホテル周辺、飲食店から徒歩約3キロの自宅への帰宅途中(コンビニに立ち寄った後)、研修会場から宿泊施設への移動中などです。端末の落とし方としては、ザックからの落下・ベルトに装着したホルダーの上蓋が閉まっていなかったことによる落下・ショルダーバッグのファスナーを閉め忘れた状態での携行などが確認されています。

特に問題となるのは以下の3点です。

発覚の遅延として、あるケースでは出張先のホテルで充電する際に所在を確認したのを最後に、出勤前まで紛失に気づかなかったとされています。別のケースでは「遠隔地であり参集困難であることを理由に、日に一度の防災携帯確認を数日にわたって怠っていた」と報告書に明記されています。

緊急参集用タクシーチケットの同時紛失として、防災携帯とともに「緊急参集用タクシーチケット2枚」を紛失したケースが確認されています。このチケットは深夜・早朝の非常時でも職員が速やかに職場に集まれるように用意されているものです。緊急時の連絡手段と移動手段を同時に失う最悪のケースです。

通報の遅延として、「紛失自覚から関係者への通報に時間を要した。理由としては何とかして自力で確認することを優先したため連絡が遅れた」との記載が確認されています。

また、紛失事案の中には内閣情報調査室に置かれているカウンターインテリジェンス(CI)センターへの報告が確認されたケースもありました。CIセンターは2008年に設置された「外国の情報機関による諜報活動から我が国の重要な情報・職員等を保護する」組織であり、規制庁の判断でCIセンターへの報告が必要と認められたケースが含まれていたことは、紛失が単純な管理ミスにとどまらない問題として認識されていたことを示しています。

紛失件数の異常性

2025年度の紛失10件という数字を保有台数500〜600台で割ると、年間紛失率は約1.7〜2.0%です。

一般的な政府機関・企業のスマートフォン管理において、これほどの紛失率は著しく高い水準です。特に本機器が「原則として肌身離さず携帯し、緊急時に必ず機能することが求められる」端末であることを考えると、この数字はより深刻です。

また、規制庁の担当者は「紛失してもすぐに見つかった場合などは報告書を作成しないこともある」と認めており、開示文書で確認できた6件・電話取材で判明した10件はいずれも把握できている範囲の下限に過ぎません。実際の紛失件数はさらに多い可能性があります。

問題の構造

今回の問題には、管理ルール設計上の根本的な矛盾が存在します。

原子力規制庁は以前にも別の職員が業務用端末を紛失した前例があり、その再発防止策として「庁舎外に持ち出す際は常時携行すること」という内部ルールを定めていました。しかし「常時携行」という文言は、場所・状況を問わない物理的保持の義務として解釈されたため、私的な中国旅行においても業務用端末を持ち出さなければならないという状況を生み出しました。

本来、国の標準的な情報セキュリティ指針(「政府機関等のサイバーセキュリティ対策のための統一基準群」)は状況に応じたリスクベースの管理を求めています。しかし規制庁のルールはリスクを考慮せず物理的な携行のみを重視する硬直的なものであり、「中国への私的旅行」というリスクの高い場面での持ち出し抑制には機能しませんでした。

発覚後、規制庁は業務用スマホを海外に持っていかないよう注意喚起を行いましたが、これは事後対応に過ぎず、国内での高頻度な紛失という構造的問題には根本的に対処していません。

情シス・セキュリティ担当者へのポイント

本件は政府機関に限らず、重要インフラ・製造業・医療機関のセキュリティ担当者にとっても自組織の管理体制を見直す契機となる事案です。

「常時携帯」という単純なルールが逆に高リスク環境への持ち込みを誘発する事例として、端末管理ポリシーは「携行の義務」だけでなく「持ち出し禁止の条件」を明示的に定める必要があります。特に中国・ロシア等の情報収集活動が活発な国への渡航時の業務端末持ち込みは、多くの政府・企業のセキュリティポリシーで明示的に禁止されています。

また紛失発覚から通報・遠隔ロックまでの時間的ロスを最小化するためのプロセス(毎日の所在確認・紛失即時通報の義務化・緊急連絡ルートの整備)も今回の事案が示す重要な課題です。

よくある質問(FAQ)

Q. 現時点で情報漏えいの被害は確認されていますか? 規制庁の担当者によれば、現時点で悪用や情報漏えいなどの被害は確認されていないとのことです。ただし、中国での紛失事案は電波が届かず遠隔ロック・データ消去が困難な状況であり、「情報漏えいの可能性が否定できない」として個人情報保護委員会に報告されています。

Q. 10件のうち2件が「見つかっていない」とはどういう意味ですか? 端末の物理的な所在が確認できていないということです。見つからない端末については、遠隔ロックやデータ消去が施されているかどうかも不明な場合があります。

Q. 防災携帯電話は業務以外でも使用できますか? 規制庁などによれば、日常業務で頻繁に使用することは少なく、主に緊急対応のために配付されています。日常的な私用スマートフォンとは別に業務用として携行することが求められています。


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