NVIDIA、AMD、Armは2026年9月8日前後、AI推論サーバーやGPUドライバーに関する新たなセキュリティ情報を公開しました。
NVIDIAは「Triton Inference Server for Linux」の2件のHigh脆弱性を修正しました。CVE-2026-16497は認証なしでサービス拒否(DoS)につながる可能性があり、CVE-2026-47625は認可処理の不足により、情報漏えい、データ改ざん、DoSにつながる可能性があります。
AMDはLinux GPUドライバーのNULLポインタ参照「CVE-2026-43603」を公表しました。ローカルユーザーが特定のGPUメモリ処理を実行するとカーネルクラッシュを引き起こし、DoSにつながる可能性があります。CVSS v4.0は6.9です。
ArmはMali GPUのkernel driver/userspace driverに関する複数の脆弱性を公開しました
9月10日時点で、今回確認したNVIDIA、AMD、ArmのCVEについて、各ベンダーの一次情報に実際の攻撃で悪用されているとの記載は確認できませんでした。CISA Known Exploited Vulnerabilities(KEV)Catalogの公式GitHubミラーでも掲載を確認できませんでした。
NVIDIA・AMD・Armのセキュリティ更新サマリー
確認できている内容:
- NVIDIAは2026年9月8日、Triton Inference Serverのセキュリティ情報を公開しました。
- NVIDIAの対象はCVE-2026-16497とCVE-2026-47625の2件で、いずれもCVSS 7.5、Highです。
- CVE-2026-16497は過剰な反復処理によりDoSにつながる可能性があります。
- CVE-2026-47625は認可処理の不足により、情報漏えい、データ改ざん、DoSにつながる可能性があります。
- NVIDIAはTriton Inference Server r26.07以降への更新を案内しています。
- AMDは2026年9月8日、Linux GPU DriverのCVE-2026-43603を公表しました。
- CVE-2026-43603はNULL Pointer Dereferenceで、kernel crashとDoSにつながる可能性があります。
- AMDによるCVSS v4.0は6.9、CWEはCWE-476です。
- AMDは多くのEPYC、Athlon、Ryzen、Radeon製品向けに修正版を2026年7月に提供済みです。
- 一部のEPYC Embedded/Ryzen Embedded製品は2026年10月に対策版の提供が予定されています。
- Armは2026年9月8日、Mali GPU driverに関する複数CVEを公開しました。
- CVE ProgramのArm CNAレコードでは、同一のArm Security Bulletinを参照するCVEを10件確認できます。
- Armの問題は主にUse-After-Freeで、Bifrost、Valhall、Arm 5th Gen GPU Architectureのkernel/userspace driverが影響します。
- ValhallおよびArm 5th Gen GPU Architectureではr56p0が修正版として示されています。
- userspace driverの一部脆弱性はWebGL/WebGPUを介したGPU処理でも到達可能と説明されています。
- 今回確認したCVEについて、9月10日時点でCISA KEVへの掲載は確認できませんでした。
現時点で確認できていない内容:
- 今回のCVE群を利用した実際の攻撃
- 攻撃キャンペーンや攻撃者
- NVIDIA・AMDの今回の脆弱性に関する公開された実悪用事例
- Armの今回の10件を利用した実悪用事例
- すべてのArm CVEに対する統一されたArm公式CVSSスコア
| ベンダー | 主な対象 | CVE | 主な影響 | 対応 |
|---|---|---|---|---|
| NVIDIA | Triton Inference Server | CVE-2026-16497、CVE-2026-47625 | DoS、情報漏えい、データ改ざん | r26.07以降へ更新 |
| AMD | Linux GPU Driver | CVE-2026-43603 | kernel crash、DoS | 製品ごとの対策済みドライバーへ更新 |
| Arm | Mali GPU Kernel/Userspace Driver | 10件 | UAF、情報漏えい、DoS | 対応ドライバーへ更新 |
NVIDIA Triton Inference Serverに2件のHigh脆弱性
NVIDIAは2026年9月8日、Linux向け「Triton Inference Server」のSecurity Bulletinを公開しました。
Triton Inference Serverは、AIモデルを推論サービスとして提供するためのNVIDIAの推論サーバーです。
今回のSecurity Bulletinでは2件の脆弱性が扱われています。
| CVE | CVSS | CWE | 影響 | 影響バージョン | 修正版 |
|---|---|---|---|---|---|
| CVE-2026-16497 | 7.5 High | CWE-834 | DoS | 0.0~26.06 | 26.07 |
| CVE-2026-47625 | 7.5 High | CWE-862 | 情報漏えい、データ改ざん、DoS | 0.0~26.03 | 26.04 |
CVE-2026-16497は認証不要でDoSにつながる可能性
CVE-2026-16497は「Excessive Iteration」に分類される脆弱性です。
NVIDIAのCVSS v3.1ベクトルは次のとおりです。
CVSS:3.1/AV:N/AC:L/PR:N/UI:N/S:U/C:N/I:N/A:H
ネットワーク経由で到達でき、事前の権限やユーザー操作を必要としない評価です。
悪用に成功するとTriton Inference Serverの可用性へ影響し、DoSにつながる可能性があります。
影響を受けるのは26.06までで、26.07で修正されています。
CVE-2026-47625は認可処理の不足
CVE-2026-47625はCWE-862「Missing Authorization」です。
NVIDIAは、攻撃者が認可処理の不足を悪用した場合、情報漏えい、データ改ざん、DoSにつながる可能性があると説明しています。
影響を受けるのは26.03までで、26.04で修正されています。
つまり、この脆弱性だけを見ると26.04以降で修正済みですが、同じSecurity Bulletinに含まれるCVE-2026-16497は26.07で修正されるため、NVIDIAはTriton Inference Server r26.07以降への更新を案内しています。
Tritonをインターネット公開している環境は到達範囲も確認
CVE-2026-16497とCVE-2026-47625はいずれも、NVIDIAのCVSS評価ではAttack VectorがNetworkです。
そのため、Triton Inference Serverを利用している企業では、バージョンだけでなくAPIや推論エンドポイントへの到達範囲も確認対象です。
特にAI基盤を社内検証から本番へ移行する過程で、認証・認可をリバースプロキシやAPI Gateway側へ依存している環境では、Triton本体の公開状態を把握する必要があります。
確認する項目としては、次のようなものがあります。
- Triton Inference Serverのバージョン
- インターネットから直接到達できるか
- KubernetesのServiceやIngressで外部公開されていないか
- 管理・metrics・推論用エンドポイントの公開範囲
- API Gatewayやリバースプロキシを迂回して直接接続できないか
- r26.07以降へ更新済みか
セキュリティ対策Labでは、2026年5月にTriton Inference Serverの認証回避脆弱性CVE-2026-24207も取り上げています。
TritonはAI基盤の一部として継続的に脆弱性修正が行われているため、モデルやコンテナイメージだけでなく、推論サーバー本体も通常の脆弱性管理対象に含める必要があります。
AMDはLinux GPU DriverのCVE-2026-43603を公表
AMDが9月8日に公開したAMD-SB-6034は、Linux GPU DriverのNULL Pointer Dereferenceを扱っています。
CVEはCVE-2026-43603です。
AMDによるCVSS v4.0は6.9で、ベクトルは次のとおりです。
CVSS:4.0/AV:L/AC:L/AT:N/PR:N/UI:N/VC:N/VI:N/VA:H/SC:N/SI:N/SA:N
CWEはCWE-476「NULL Pointer Dereference」です。
AMDによると、ローカルアプリケーションが特定のgraphics memory management interfaceを使い、一定のcompute-processing条件下で「clear」処理を行った場合、ドライバーが内部データ参照を使用する前に正しく検証しない可能性があります。
その結果、NULL参照が使用され、Linux kernelがクラッシュしてDoSにつながる可能性があります。
CVE-2026-43603はroot権限取得ではなくDoS
GPUドライバーの脆弱性では権限昇格や任意コード実行につながる問題もありますが、AMDがCVE-2026-43603について公表している影響はkernel crashによるDoSです。
公式説明から、次の影響を今回のCVEへ追加することはできません。
- root権限の取得
- 任意コード実行
- GPUメモリからの情報窃取
- リモートから直接攻撃可能
- VM間の情報漏えい
CVSSベクトルもAttack VectorをLocalとしています。
そのため、インターネットから直接1パケットで攻撃される種類の脆弱性ではなく、対象Linuxシステム上でGPU処理を実行できる環境が前提になります。
AI/HPC環境のように複数の利用者へGPUを提供するサーバーでは、ローカル非特権ユーザーがGPUワークロードを実行できるため、可用性の観点から確認が必要です。
AMDの修正版は製品によって異なる
AMDは対象製品ごとに対策版を案内しています。
多くの一般向け・ワークステーション向け製品では、Radeon Software for Linux 26.13が2026年7月20日に提供されています。
主な対象には次の製品群があります。
- AMD EPYC 4004/4005 Series
- AMD Athlon 3000 Series Mobile with Radeon Graphics
- AMD Ryzen 4000~9000系の複数製品
- AMD Ryzen AI 300/400 Series
- AMD Ryzen AI Max 300 Series
- AMD Radeon AI PRO R9000 Series
- AMD Radeon PRO W5000/W6000/W7000 Series
- AMD Radeon RX 5000/6000/7000/9000 Series
AMD Instinct MI210、MI250、MI250X、MI300A、MI300X、MI308X、MI325X、MI350X、MI355Xについては、Linux GPU Driver 31.40が2026年7月15日に対策版として提供されています。
一方、一部のEPYC EmbeddedおよびRyzen Embedded製品については、9月8日時点で対策バージョンがTBDとなっており、2026年10月のリリースが予定されています。
組み込み機器や長期運用システムでは、単純に最新版のRadeon Softwareを導入できるとは限らないため、AMDの製品別表とOEMのアップデート情報を確認する必要があります。
ArmはMali GPU Driverの複数脆弱性を公開
Armの9月8日付Mali GPU Driver Security Bulletinでは、Bifrost、Valhall、Arm 5th Gen GPU Architectureのkernel driver/userspace driverに関する複数の問題が扱われています。
SecurityWeekの記事では「9 vulnerabilities」としています。
一方、同一のArm Security Bulletinを参照するArm CNAのCVEレコードを確認すると、次の10件が9月8日に公開されています。
| CVE | 対象 | 主な問題 |
|---|---|---|
| CVE-2026-0001 | Kernel Driver | Use-After-Free |
| CVE-2026-0860 | Kernel Driver | 機微なkernel情報へのアクセス |
| CVE-2026-5729 | Kernel Driver | Use-After-Free |
| CVE-2026-7476 | Kernel Driver | Use-After-Free |
| CVE-2026-7477 | Kernel Driver | Use-After-Free |
| CVE-2026-9034 | Userspace Driver | Use-After-Free |
| CVE-2026-9040 | Kernel Driver | Race Condition、DoS/情報漏えい |
| CVE-2026-11891 | Userspace Driver | Use-After-Free |
| CVE-2026-12285 | Kernel Driver | Use-After-Free |
| CVE-2026-12387 | Kernel Driver | Use-After-Free |
このため本稿では、一次情報に紐づくCVEレコードの件数を基準に10件として扱います。
Armの多くはローカル非特権プロセスから到達可能
Arm CNAのCVEレコードでは、kernel driverの多くの脆弱性について「local non-privileged user process」がGPU memory processing operationを行うことで、解放済みメモリへアクセスできると説明されています。
代表例のCVE-2026-0001では、Bifrost、Valhall、Arm 5th Gen GPU Architecture Kernel Driverが影響します。
CVE-2026-0860では、ローカル非特権プロセスが不適切なGPUメモリ処理を行うことで、機微なkernel情報を取得できる可能性があります。CWEはCWE-200です。
CVE-2026-9040はrace conditionで、DoSまたは機微情報の漏えいにつながる可能性があります。CWEはCWE-362です。
他の多くの問題はCWE-416、Use-After-Freeに分類されています。
Userspace DriverはWebGL/WebGPU経由の処理も対象
ArmのCVE-2026-9034とCVE-2026-11891はuserspace driverのUse-After-Freeです。
Arm CNAの説明では、非特権ユーザープロセスが正常なGPU processing operationを行うことで解放済みメモリへアクセスでき、その処理にはWebGLまたはWebGPU経由も含まれるとされています。
ただし、これは「任意のWebサイトを開くだけで、すべての端末が即座に侵害される」と断定するものではありません。
実際の影響は、搭載GPU、driver family、driver version、ブラウザやOS側のサンドボックス、OEMが適用している追加修正などによって変わります。
企業ではCVE番号だけを見て端末へ直接Armのdriverを導入するのではなく、端末メーカーやOSベンダーが提供する更新を確認します。
ValhallとArm 5th Gen GPU Architectureはr56p0で修正
Arm CNAのCVEレコードでは、多くの今回の問題について、Valhall GPU DriverおよびArm 5th Gen GPU Architecture Driverのr56p0が修正版として示されています。
Bifrostも複数のCVEで影響対象ですが、CVEレコードのsolutionではArm partnersに対し、利用可能な最新版へ更新するよう案内されています。
Arm Mali GPUはスマートフォンや組み込み機器など、SoCベンダーや端末メーカーを介して提供されるケースが多いため、一般利用者がArmから直接driverを取得して更新する構造とは限りません。
Android端末の場合は、端末メーカーや通信事業者から提供されるセキュリティアップデートの適用状況を確認します。
Googleの2026年9月Android Security Bulletinでも、Arm componentsとしてCVE-2026-0001、CVE-2026-5729、CVE-2026-7476、CVE-2026-7477、CVE-2026-12285、CVE-2026-12387がHighとして掲載されています。
Arm Mali GPUの過去のUse-After-Freeについては、以下の記事でも扱っています。
3社の脆弱性は更新経路が異なる
NVIDIA、AMD、Armの脆弱性をまとめて「半導体メーカーのPatch Tuesday」と見ることはできますが、企業での対応方法は同じではありません。
NVIDIA Triton
Triton Inference Serverを自社で構築・運用しているAI基盤担当者が、コンテナイメージやサーバーバージョンを直接確認します。
Kubernetesやクラウド上で動かしている場合も、基盤側のOS更新だけではTritonのバージョンは更新されません。
AMD Linux GPU Driver
Linuxサーバー、ワークステーション、AI/HPC基盤で利用しているGPU driverを確認します。
同じCVEでも、Ryzen/RadeonとInstinctでは対策ドライバーが異なります。Embedded製品ではOEM側の更新待ちになるケースがあります。
Arm Mali GPU
スマートフォン、タブレット、組み込み端末では、SoC/端末ベンダーがArmの修正版を製品向けファームウェアへ組み込んで配信するケースが中心です。
企業が管理するAndroid端末の場合、MDMからOSのsecurity patch levelやメーカー更新の適用率を確認する運用が現実的です。
9月10日時点で実悪用の公表は確認できず
今回確認したNVIDIA、AMD、Armの各セキュリティ情報では、これらの脆弱性が実際の攻撃で悪用されているとの記載は確認できませんでした。
また、9月10日時点のCISA Known Exploited Vulnerabilities Catalogについて、CISAが運用する公式GitHubミラー「cisagov/kev-data」を確認しましたが、今回の記事で扱うCVEの掲載は確認できませんでした。
したがって、現時点で「ゼロデイとして悪用中」「CISAが緊急対応を要求している」と表現できる根拠はありません。
一方、KEV未掲載は安全を意味しません。
Tritonの2件はネットワーク経由で到達可能と評価され、Armのuserspace driverにはWebGL/WebGPUを介した処理に関係する問題が含まれています。AMDの問題も、共有GPU環境では非特権ユーザーによるDoSリスクを評価する必要があります。
情報システム部門・AI基盤担当者が確認したいポイント
今回の更新では、一般PCだけでなくAI/HPCサーバー、Android端末、組み込み機器まで対象が広がります。
- NVIDIA Triton Inference Serverを利用しているか
- Tritonがr26.07以降になっているか
- Tritonの推論APIや管理系エンドポイントを外部公開していないか
- Kubernetesやコンテナ環境で古いTriton imageが残っていないか
- AMD GPUを搭載したLinuxサーバー・ワークステーションを把握しているか
- Radeon Software for LinuxまたはInstinct向けLinux GPU Driverの実バージョンを確認できるか
- EPYC Embedded/Ryzen Embeddedで10月提供予定の対策を待つ製品がないか
- Arm Mali GPUを搭載したAndroid/組み込み端末を資産台帳から抽出できるか
- Android端末のSecurity Patch LevelをMDMから確認できるか
- サポート終了端末が残っていないか
- GPU driverをOS更新と別管理しているサーバーがないか
- AI/HPCのマルチユーザー環境で一般ユーザーがGPUワークロードを実行できる範囲を把握しているか
企業の脆弱性管理では、CPUやGPUの「メーカー名」だけでは更新可否を判断できません。
NVIDIA Tritonのようなアプリケーション層、AMD Linux GPU Driverのようなdriver層、Arm MaliのようにOEM経由で更新される組み込みdriverでは、資産の所有者、更新担当、配信経路が異なります。
今回のように複数の半導体・AI基盤ベンダーが同じタイミングで脆弱性を公開した場合は、CVEを一覧へ登録するだけでなく、「誰がどの更新を適用するのか」まで資産単位で紐付ける必要があります。
出典
- Security Bulletin: Triton Inference Server – September 2026 – NVIDIA
- Linux GPU Driver NULL Pointer Dereference – AMD
- AMD Product Security – AMD
- Mali GPU Driver Security Bulletin – Arm
- Android Security Bulletin—September 2026 – Android Open Source Project
- CISA Known Exploited Vulnerabilities data – CISA GitHub








