孔子学院や日中友好協会など経済や文化を用いた日本における中国の影響力拡大

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孔子学院や日中友好協会など経済や文化を用いた日本における中国の影響力拡大

この記事では2020年に執筆された米国戦略国際問題研究所(CSIS)のデヴィン・スチュワート氏によって執筆された、日本における中国の影響力の拡大とその意図について、多角的な視点から分析された論文を和訳し要約しています。

1. 背景と目的

中国は、経済・文化・政治・情報操作といったさまざまな手法を用いて、地域全体に対する影響力を強化しており、その中で日本は特に重要なターゲットの一つとなっています。

本報告書の目的は、これらの影響力が日本社会、経済、政治にどのような形で表れているか、また日本がこれに対してどのように対応しているかを明らかにすることです。特に、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックがもたらした影響についても言及しており、日中関係の変化や将来の見通しについても考察しています。

2. 中国の戦略的影響力拡大と手法

2.1 経済的影響力の拡大

中国は経済的影響力を通じて、日本との関係強化を図っています。特に一帯一路(Belt and Road Initiative, BRI)やアジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment Bank, AIIB)といった経済協力プログラムを通じて、アジア地域全体の経済成長に貢献し、その中で日本を含む主要国とのパートナーシップを構築しています。

日中両国は、互いに重要な貿易相手国であり、相互依存関係を築いています。中国は日本にとって第3位の輸出先であり、日本は中国にとっても重要な技術供与国であるため、経済的な結びつきは極めて強いものとなっています。しかし、この経済的なつながりを背景に、中国は日本の経済活動を自国の利益に利用することも少なくありません。

具体的には、日本企業が中国市場に依存している点や、中国人観光客による消費が日本経済に大きな影響を与えている点などが挙げられます。

さらに、中国は日本に対して投資や経済支援を通じて、政治的影響力を行使しようとしています。日本国内のインフラプロジェクトや企業の買収、技術協力を通じて、経済的な優位性を確保し、それを背景に外交的な譲歩を引き出すことも試みられています。

日中関係促進のためのフォーラムの影響は限定的

この論文のインタビュー対象者の何⼈かは、中国が国際フォーラムや退役軍⼈とのシンポジウムを関係構築の⼿段として利⽤していると述べている。二国間関係と対話を促進するための比較的効果的で害のない影響力ツールは、北京‑東京フォーラムである。

2005年に設立されたこのフォーラムは、日本の⾮営利団体である言論NPOと中国の中国共産党所有の中国国際出版グループが後援している。フォーラムは東京と北京で交互に開催され、ビジネス界、政界、学界、メディア界から数百⼈の影響力のある参加者を迎えている。「日中間の最高の公的外交コミュニケーションプラットフォーム」と名付けられた最近のフォーラムは、2019年10月に北京で開催され、「新しい時代、新しい希望:アジアと世界の平和と発展を維持するために中国と日本が担う責任」というテーマに焦点を当てた

日本の元海軍中将、⾹田洋二氏はこのイベントに出席し、インタビューでこのフォーラムは効果的なパブリック ディプロマシーの取り組みだと語った。しかし、このイベントでは、⾹田氏は中国に対するメッセージを逆転させ、「日本が改⾰をせずに中国の魅力攻勢に捕らわれれば、中国は追い詰められるネズミになる」と述べ、テクノロジー、外交、ビジネスにおける中国の世界的な孤立に言及した。

実際、2020年初頭の新型コロナウイルス感染拡⼤の際、日経新聞の見出しは中国が「友⼈」を探していると主張した。記事では、中国当局と国営メディアの両⽅が、感染拡⼤中の日本による中国への⽀援を「熱烈に称賛」したと指摘した。

しかし、東京でインタビューに応じた防衛省防衛研究所の増田正之氏によると、こうしたフォーラムで中国が行使できる影響力は⾮常に限られているという。日本による対中援助の終了、日本社会における中国の好感度の低さ、外務省の権限縮⼩、首相官邸の権限拡⼤を受けて、中国は東京に影響を与えるための代替⼿段を模索してきた。

しかし、外国との接触、特にロシアや中国の当局者との接触に対する厳しい規制が、その実現をほぼ阻んでいる。将校や職員は外国の当局者と会うには許可を得る必要があり、同僚を同伴しなければならないと増田氏は述べた。中国は、⼈⺠解放軍(PLA)が後援するシンポジウムへの招待を通じて、退役した日本の将校との関係構築を試みてきた。中国では退役将軍が影響力を持っているためだ。しかし、日本では⺠間⼈が政策に関する権限のほとんどを握っているため、これは当てはまらない。

日本人は中国文化に興味もないし中国が好きではない

ラッセル シャオは、2019年の論文「日本における中国共産党の影響力工作に関する予備調査」
で、中国が日本で影響力工作を行うためにさまざまな効果を発揮する統⼀戦線の⼿段をいくつか指
摘している。シャオの論文は、孔子学院、友好協会、業界団体、日本における文化交流など、中国共産党の⽬標達成に向けて日本に影響を与えるさまざまな統⼀戦線組織を列挙している。

これらの⼿段には、寮、ホテル、語学学校を併設する日中友好センターなど、少なくとも7つの日中友好協会の存在が含まれている。

法政⼤学の福田円氏はインタビューで日中友好協会は日本⼈に中国文化への親近感を持ってもらいたいのですが、日本⼈は中国文化に興味がありません。

そもそも日本⼈は中国が好きではないので、協会の活動に参加したがりません。

また、協会の活動の進め⽅も日本文化に合っていません。部分的には中国文化が問題です。私は料理や書道などの活動に興味がありますが、中国のソフトパワーはほとんど感じられません。日本と台湾の交流とは⼤きく異なります。虎ノ門(東京のビジネス街)に台湾センターがあり、映画や本など本当に面白いイベントがあり⼈気があります。しかし、中国のセンターは日本⼈、特に若者にとって魅力がありません。

この部分に関しては多くの研究者が同意している。

2.2 孔子学院を用いた文化的影響力の拡大

孔子学院は、2004年に韓国で最初に設立されて以来、世界中に拡大し、日本には現在15の孔子学院が設置されています。これらの学院は中国語教育や文化交流を表向きの目的としていますが、実際には中国共産党のプロパガンダ機関として機能していると多くの専門家から指摘されています。

孔子学院は中国の文化的価値観を広め、教育機関を通じて中国政府の影響力を強化するための手段です。学院内のカリキュラムには中国政府の政治的立場が反映されており、特に中国の一党独裁体制や人権問題に対する批判的な見解は排除されています。

また、孔子学院は日本の大学や研究機関との学術交流を通じて、研究者や学生に対して中国の政策を支持する意見を広めるとともに、特定のテーマに関する情報収集も行っています。これにより、孔子学院は中国の「ソフトパワー」拡大とともに、日本社会に対する情報戦の前線基地として機能しているのです。

海外で閉鎖される孔子学院

日本国外では、スパイ活動や中国からの資⾦への過度の依存に関する政治的懸念の高まりにより、孔子学院の閉鎖が相次いでいる。CIの主要市場である⽶国では、2018年以降少なくとも15か所の孔子学院が閉鎖されています。

日本では、孔子学院は 1 つも閉鎖されていません。38 2014 年には、広島の孔子教室 (⼩中学校に相当) が閉鎖されましたが、この閉鎖は政治的な懸念ではなく、需要不足が原因でした。

2.3 情報戦とプロパガンダ活動

中国は情報戦やプロパガンダ活動を通じて、日本国内の世論形成や政策決定に影響を与えようとしています。特に、ソーシャルメディアや国営メディアを利用して、沖縄や日本の政治問題に関して、意図的な情報操作を行っています。沖縄の米軍基地問題や日本政府の政策に関して、中国政府は自国に有利な情報を流布し、世論を分断することを目的としています。

ラオックス社長羅怡文(ら いぶん、Yiwen Luo)と在日中国メディアの影響力

ラオックスの社長である羅怡文(ら いぶん、Yiwen Luo)氏は、日本における中国人ビジネスリーダーとして、在日中国人コミュニティに対して大きな影響力を持っています。羅氏は、ラオックスを中国資本によって買収した後、免税店として日本国内の中国人観光客をターゲットにしたビジネスモデルを確立しました。この背景には、訪日中国人観光客を通じて中国の影響力を日本国内に浸透させる意図があるとされています。

さらに、羅氏は「中文産業株式会社」を設立し、在日中国人向けのメディア「中文新聞(チャイニーズ・ヘラルド)」などを運営しています。このメディアは、日本に住む中国人や観光客に向けて中国政府の政策を支持するような報道を行い、中国政府の意向を反映した記事を掲載しています。

中文新聞(チャイニーズ・ヘラルド)のニュース記事は、主に在日中国⼈の視点から日中関係や中国社会について報道し、中国共産
党の路線に沿っている2020年2月の⼈気記事は「早稲田⼤学の中国⼈卒業生が武漢⽀援に行動」が人気記事でした

羅氏の活動は、中国政府が日本国内で情報戦を展開するための一部として機能しており、在日中国人コミュニティに対する中国政府の影響力拡大の一翼を担っています。これらのメディアは、日本国内の中国人コミュニティに対して、中国共産党の立場を支持する意見を広めるとともに、反中感情を抑制し、日中関係の緊張を緩和させるための情報操作を行っていると見られています。

沖縄を分断

例えば、中国のメディアは沖縄を「琉球」と呼び、日本の主権を否定するかのような主張を行っています。これにより、沖縄の世論を分断し、独立運動や米軍撤退を促すような風潮を作り出そうとしています。さらに、中国政府は日本国内のメディアに対しても圧力をかけ、反中報道を抑制しようとする動きが見られます。

情報戦やプロパガンダ活動は、日本国内の在日中国人コミュニティに対しても行われており、これらのコミュニティを通じて親中派の意見を広めるとともに、反中感情の拡大を防ぐことを目的としています。

中国製プロパガンダの影響力は薄い

しかし、全体として、日本における中国メディアの影響はごくわずかだ。朝日新聞の峯村健司記者は、中国の影響力を綿密に追跡しており、東京でのインタビューで次のように語った。「日本における中国メディアの存在感について言えば、⼤した影響力はありません。日本メディアは影響力を持っています。外国メディアが日本に浸透するのは、おそらくウォールストリート ジャーナル(日本語版)を除いて難しいです。私たちは⽶国のメディアを信頼していますが、中国のメディアを信頼する⼈は誰もいません」と峯村氏は語った。

「日本では、テレビや新聞はかなり客観的なので、日本⼈は情報を信頼する傾向がありますが、日本ではメディアリテラシー教育が未発達であるため、日本は脆弱です。彼らは信頼しすぎています。しかし、中国のプロパガンダは信頼していません。」日
本の日経新聞が2015年に英国のピアソンからフィナンシャルタイムズを買収したことは注⽬に値しますが、中国による日本の主要日刊紙の買収はありません。

2.4 政治的影響力の行使

政治的な影響力の行使は、中国の対日戦略の一環として行われています。経済的な優位性を背景に、日本政府や地方自治体に対して政治的な譲歩を迫ることが試みられています。例えば、沖縄や北海道など、地域経済が中国からの観光収入や投資に依存している場合、中国はこれらの経済的な影響力を利用して、地域政策に対する影響力を行使しようとします。

また、中国政府は日本国内の政治家や有力者との関係を強化することで、自国に有利な政策を推進しようとしています。特に、中国系企業や団体を通じて、日本の政治家に対するロビー活動を行い、外交政策や経済政策に対して影響を与えようとしています。

3. 日本のレジリエンスと脆弱性

日本は、中国の影響力に対して一定のレジリエンス(回復力)を持っているとされています。日本社会には、中国の影響を受けにくい以下の特性が存在しています。

  • 厳格な選挙制度と政治制度:日本の選挙制度は厳格であり、外国勢力が国内政治に介入する余地が限られています。
  • 政治的安定性:日本の政治体制は比較的安定しており、外国勢力による干渉が困難な構造を持っています。
  • 均質な国民性:日本社会は均質性が高く、外国からの影響に対して抵抗感が強い傾向にあります。
  • 中国に対する歴史的な不信感:日中関係には歴史的な対立があり、日本社会には中国に対する不信感が根強く残っています。

これらの要素は、日本に対する中国の影響力行使を制限する要因となっており、日本社会が中国の政治的影響力を受けにくい構造を生み出しています。

一方で、日本は経済的には中国に対して脆弱性を抱えています。日本の輸出産業や観光業は中国市場に依存しており、中国からの経済的な圧力に対して脆弱な側面があります。特に、新型コロナウイルスの影響で観光業が打撃を受けた際、中国政府が日本への観光客流入を制限したことは、地域経済に大きな影響を与えました。

さらに、日本国内における中国人コミュニティも、中国の影響力拡大の一助となることがあります。中国政府は在日中国人を通じて、親中派の意見を広めるとともに、日本国内の中国系メディアを通じてプロパガンダ活動を行っています。

中国製製品の規制および関連法案について

日本や欧米諸国では、中国製製品に対する規制や制約を強化する動きが近年増加しています。これには、サイバーセキュリティや国家安全保障、経済的な覇権への懸念が背景にあります。日本では、「特定重要物資等の調達に関する法律」(いわゆる経済安全保障推進法)に基づき、政府や重要インフラ企業における調達品について、セキュリティリスクが高い中国製品の使用を制限することが求められています。

特に、通信機器やソフトウェア、クラウドサービスなどの分野で、中国製製品の排除を目指す動きが進んでいます。

米国では、「2019年国防権限法(NDAA)」や「2020年安全機器法(Secure Equipment Act)」などの法案が、中国製品に対する規制を強化する主要な法律となっています。これらの法律は、ファーウェイやZTEなどの中国企業製品の使用を政府機関や取引企業に対して禁止しており、特に5G通信網などの重要インフラにおいて中国製品の排除を図っています。また、欧州連合(EU)においても、サイバーセキュリティの強化を目的とした規制が進んでおり、特定の中国製品の調達制限が実施されています。

日本はファーウェイについて公式な除外決定を下していないが、セキュリティ上の懸念がある中国製機器を除外しています。

ちなみに、三菱電機は2020年初頭、離島における中国に対する防衛力強化のため防衛省に提案した高速ミサイル設計の試作品がサイバー攻撃を受けた。同社は2019年に中国にあるサーバーも攻撃を受けており、中国のサイバー犯罪グループによるものとみられる

これらの規制は、国家の安全保障や知的財産権の保護を目的としており、今後さらに規制強化の動きが続くと見られています。

4. コロナウイルスと日中関係の変化

新型コロナウイルスのパンデミックは、日中関係に大きな影響を与えました。中国は当初、感染拡大の責任を回避するため、情報の隠蔽やプロパガンダ活動を行いましたが、やがて自国の感染対策の成功をアピールし、日本との連携を強化することで、国際社会における自国の立場を改善しようとしました。

中国政府は、感染防止における共通の利益を強調し、日本に対して医療物資の提供や協力を申し出ることで、日中関係の改善を図りました。しかし、日本国内では中国の初期対応や情報隠蔽に対する批判が高まり、日中関係はむしろ悪化する結果となりました。特に、習近平国家主席の国賓訪問が延期されたことは、日中関係の悪化を象徴する出来事となりました。

一方で、日本政府は、中国との経済関係を重視しつつも、政治的独立性を維持することを目指しています。そのため、中国との関係においては、経済的な協力と政治的な対立のバランスを取ることが求められています。

5. 日本の対応と今後の展望

日本は、中国の影響力に対抗するために、以下の対応を講じる必要があります。

  1. 経済的自立の強化:日本企業が中国市場に依存しすぎないように、経済の多様化を図り、サプライチェーンの再編成や新興市場の開拓を進める必要があります。
  2. 情報戦対策の強化:中国の情報操作やプロパガンダ活動に対して、政府とメディアが連携し、正確な情報を発信することが求められます。
  3. 民主主義諸国との連携:米国、オーストラリア、欧州諸国と連携し、中国の影響力拡大に対する共通の対策を講じることが重要です。

特に、米国やオーストラリアとは、情報共有や政策協調を通じて、中国の影響力を抑制することが求められます。これにより、日中関係のバランスを取りながら、日本の利益を守ることが可能となります。

6. 結論

日本における中国の影響力は、経済面では強まっていますが、政治的な影響力は依然として限定的です。日本の特有のレジリエンスが中国の影響力を抑制している一方で、経済的依存や在日中国人コミュニティを通じた文化的影響力が今後も続く可能性があります。日本は、独立した外交・経済政策を維持し、他の民主主義諸国と連携することで、中国の影響力に対抗し、自国の利益を守ることが求められています。