
2025年6月27日、オランダ・ハーグ地裁は、インフラ管理を担う政府機関「Rijkswaterstaat(RWS)」が、仮想化ソフトウェア大手VMware(現在はBroadcom(ブロードコム)傘下)から、最大2年間の継続サポートを受ける権利があるとの判断を下しました。
本判決により、BroadcomとVMwareは2025年7月22日以降も、永続ライセンス製品に対して「保守アップデート、バグ修正、セキュリティパッチ、技術サポート」等の継続提供が義務付けられます。違反時には最大2,500万ユーロの罰金が科される可能性があります。
目次
従来のライセンス体系からの急変と価格高騰
RWSは15年以上にわたり、VMwareのvSphere、NSX、vCenter Serverなどの製品を「永続ライセンス」で利用してきました。サポート契約も3年ごとに更新されてきましたが、2023年末のBroadcomによるVMware買収後、状況は一変します。
Broadcomは従来の永続ライセンスを廃止し、サブスクリプション型ライセンス(使用料+サポート一体型)へ移行する方針となりました。
さらにRWSは2024年春、既存のサポート契約が7月に満了した後、2024年のサポート契約の更新を販売代理店に申請しました。しかし、販売代理店は適切な提案ができないと拒絶。
サポート契約の期限切れ直前、BroadcomはRWSがサブスクリプションライセンスに同意することを条件に、9月30日までの延長を認めました。しかし、RWSが反対したため、契約は11月1日まで延長されました。
RWSが実施した分析では、提案されたサブスクリプション ライセンスに基づいて VMware 製品を使用するコストは年間 2,144,466 ユーロから 3,966,220 ユーロに増加し、85% 増加するという結論となり、予算上の継続利用は非常に困難でした。
RWSの主張:重要インフラへの影響と“継続サポート”の必要性
RWSは、国内の道路、橋梁、水門といった重要インフラを所管しており、仮想化基盤が稼働不能になることは、公共サービスの停止に直結します。そのため短期的なシステム移行は現実的ではなく、2~3年の「段階的な移行」期間を設ける必要があると主張しました。
裁判所の判断:RWSの正当性を認定
地裁は以下の点を重視して判決を下しました。
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RWSは公共インフラを担う極めて重要な存在である。
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永続ライセンス契約に基づき、ユーザーが一定期間サポートを受けられるという期待は正当である。
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Broadcomは価格交渉において実質的にRWSを囲い込み、不利な条件を押し付けた。
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安全な移行のためには、少なくとも2年間の継続サポートが必要である。
これにより、VMware LLCおよびBroadcom Inc.に対し、年額176万5千ユーロの有償サポートを2年間提供することを命じました。
セキュリティ的な影響と示唆
本判決は、単なる契約上の争いにとどまらず、セキュリティ実務にも大きな示唆を与えます。
パッチ停止リスクの深刻性
サポート終了により脆弱性パッチの提供が止まれば、サイバー攻撃に対して無防備な状態となります。特に公共インフラでのリスクが深刻です。
ライセンス更新交渉の透明性と準備の重要性
多くの組織が、従来通りの延長が可能と誤認して対応が遅れがちです。契約の打ち切りやモデル変更の影響を事前に評価し、BCP(事業継続計画)や移行計画に反映する必要があります。
今後の広がりとEUの対応
本判決はRWSに限定されたものですが、Broadcomの新ライセンス体系により影響を受ける企業は欧州全体で多数存在します。CISPE(クラウド事業者団体)は「不当な契約変更に歯止めがかかった」として、本件をEU全体の調査に拡大するよう求めています。
参照
https://www.theregister.com/2025/06/30/dutch_agency_wins_right_to/
https://uitspraken.rechtspraak.nl/details?id=ECLI:NL:RBDHA:2025:11349