
サイバー攻撃の脅威が増大する中で、企業は効果的なセキュリティ対策を導入することが不可欠です。その中でも、EDR(Endpoint Detection and Response)は注目されるソリューションの一つです。本記事では、EDRの基本からメリット・デメリット、導入手順、そして適切な選び方までを詳しく解説し、企業がEDRを導入する際の参考にしていただけるよう情報を提供します。
EDRについておさらい
EDRとは
EDR(Endpoint Detection and Response)は、エンドポイント(PC、スマホ、サーバなど)に対する脅威を検知し、対応するためのセキュリティソリューションです。従来のアンチウイルスソフトウェアと比較して、EDRはより高度な脅威検知機能とインシデント対応能力を備えています。
EDRの主な機能は次のとおりです。
- リアルタイム監視:エンドポイント上の異常な挙動をリアルタイムで監視し、迅速に脅威を検知します。
- データ収集と分析:エンドポイントの活動ログを詳細に収集し、AIや機械学習を活用して分析します。
- インシデント対応:検知した脅威に対して自動または手動で迅速に対応します。
EDRについて詳しくは「EDRについてわかりやすく解説 機能や構造から運用まで」を参照してください。
EDRが必要とされる背景
近年、サイバー攻撃はますます巧妙化し、従来のセキュリティ対策だけでは十分に防御できないケースが増えています。特に、ゼロデイ攻撃やランサムウェアなどの新たな脅威に対しては、迅速かつ効果的な対応が求められ、その一つとしてEDRが注目されています。
例えば、2017年に世界中ん企業に甚大な被害をもたらしたランサムウェア「WannaCry」や「NotPetya」は、既存のセキュリティ対策では防ぎきれず、当時の企業のセキュリティ対策では太刀打ちできませんでした。EDRは、こうした攻撃に対しても迅速に対応できるため、多くの企業がその導入を検討しています。
EDRとEPPの違いについて
EDRとEPP(Endpoint Protection Platform)は、どちらもエンドポイントセキュリティを強化するための技術ですが、その役割や対応範囲に明確な違いがあります。
EPPは、エンドポイントを保護するための基本的な防御策です。主に、既知のマルウェアやウイルスを検出・ブロックする機能を持ち、シグネチャベースの検出、ファイアウォール、デバイスコントロールなどの機能を提供します。EPPの主な目的は、脅威がエンドポイントに到達する前に、事前に防御することです。従来のアンチウイルスソフトウェアがEPPの代表的な例です。
一方、EDRは、エンドポイントで発生する脅威をリアルタイムで監視し、脅威が発生した際に迅速に対応するための技術です。EPPが防御に特化しているのに対して、EDRは異常な挙動を検出し、インシデント後の分析や、攻撃の進行を防ぐための対応に重点を置きます。EDRは未知の脅威やゼロデイ攻撃、ファイルレスマルウェアなどに対しても効果的で、攻撃が発生した際の影響範囲や原因を詳細に追跡できます。
つまり、EPPが「予防」の役割を果たすのに対し、EDRは「検知と対応」の機能を持つ、という違いがあります。
「EPPとEDRの違いとは 両者の比較と組み合わせの効果についても解説」も併せて参照してください。
EDRのメリット・デメリット
EDRのメリット・デメリットをいくつかご紹介します。
EDRのメリット
メリットとしては下記4つが挙げられます。
高度な脅威検知能力
EDRは、エンドポイント上の異常な挙動をリアルタイムで監視し、高度なアルゴリズムを用いて脅威を検知します。これにより、従来のアンチウイルスソフトウェアでは検知できない脅威を早期に発見することができます。
迅速なインシデント対応
EDRは、検知した脅威に対して即座に対応するための機能を備えています。これにより、被害を最小限に抑えることが可能です。
包括的なログ管理
EDRは、エンドポイントの活動ログを詳細に記録します。このログは、インシデント発生時の調査や将来的なセキュリティ対策の改善に役立ちます。
可視化と分析
EDRは、エンドポイントの状態を可視化し、分析するためのツールを提供します。これにより、セキュリティチームは迅速かつ効果的に脅威を特定し、対応することができます。
EDRのデメリット
デメリットとしては下記3つが挙げられます。
コストの増加
EDRの導入には、EDRのライセンス費用や導入時の設定費用、その後も運用コストがかかります。
専門知識の必要性
EDRの運用には、高度な専門知識が求められます。セキュリティチームが十分な知識とスキルを持っていない場合、適切な運用が難しくなります。従業員のトレーニングや外部の専門家の招聘が必要になります。
運用リソース
EDRは、エンドポイントの活動を詳細に監視するため、多くのデータを生成します。このデータを適切に保管・活用するためのリソースが求められます。
EDR導入の手順
EDRを導入する際の一般的な手順は以下の通りです。
- ニーズの確認:自社のセキュリティニーズを確認し、EDRが必要かどうかを判断します。
- 例えば、最近のインシデントレポートやリスクアセスメントを活用して、具体的な脅威やリスクを明確化します。
- ベンダーの選定:複数のEDRベンダーを比較検討し、自社に最適なベンダーを選定します。
- 市場調査やベンダー評価レポートを参考にし、機能性、コスト、サポート体制などを比較します。例えば、ガートナーのマジック・クアドラントやフォレスターのウェーブレポートなどの評価を参考にするのが良いでしょう。
- パイロット導入:小規模な範囲でEDRを試験導入し、効果を確認します。
- 特定の部門や拠点でパイロットテストを実施し、導入効果や運用上の課題を評価します。具体的には、10〜20台の端末を対象にし、検知精度や運用負担を確認します。
- 本格導入:パイロット導入の結果を踏まえて、全社的にEDRを導入します。
- パイロットテストのフィードバックを反映させ、本格導入の計画を策定します。導入スケジュール、担当者、予算を明確にし、順次拡大していきます。
- 運用・管理:導入後は、定期的な運用・管理を行い、EDRの効果を最大化します。
- 定期的なトレーニングやシステムアップデートを実施し、常に最新のセキュリティ状態を維持します。また、インシデント対応のプロセスを定期的に見直し、改善します。
EDRの選び方
EDRを選ぶ際には、以下のポイントを考慮することが重要です。
機能の充実度
検知機能、インシデント対応機能、ログ管理機能など、必要な機能がすべて揃っているかを確認します。例えば、特定の脅威に対する対応能力やカスタマイズ可能なアラート機能などが求められます。
コスト
導入コストだけでなく、運用コストも考慮して、コストパフォーマンスの良い製品を選びます。ライセンス費用、導入支援費用、保守費用などを総合的に評価します。例えば、年間コストを比較し、ROI(投資対効果)を算出することが重要です。
ユーザビリティ
セキュリティチームが使いやすいインターフェースを持っているかを確認します。インターフェースの使いやすさやレポート機能の充実度を確認します。例えば、ダッシュボードのカスタマイズ性やアラートの管理機能を評価します。
ベンダーのサポート
導入後のサポート体制が充実しているかを確認します。24時間365日のサポートの有無や、緊急時の対応体制などを評価します。具体的には、サポートチームの対応速度や品質を確認することが重要です。
EDR製品を比較したい方は「EDR製品比較9選 製品タイプや導入時の注意点も解説」も併せて参照してください。
EDR製品の効果的な導入のために
詳細なリスク評価の実施
自社のリスクプロファイルを理解し、保護するべき情報資産を特定することが重要です。インシデントレポートやリスクアセスメントを通じて、対応するべき脅威やリスクを明確化しましょう。
適切な製品の選定
市場には多種多様なEDR製品が存在します。自社のニーズに最も合致する製品を選ぶためには、機能性、スケーラビリティ、ユーザビリティを考慮する必要があります。
自社に必要十分な機能性を有したソリューションか、自社に最適なチューニングが可能か、従業員の負担が過剰に大きくなってしまわないか、よくよく検討しましょう。
ベンダーの信頼性とサポート
導入後のサポート体制が充実しているかを確認します。24時間365日のサポートの有無や、緊急時の対応体制などを評価します。また、ベンダーの実績や他社の導入事例を確認し、信頼性を確かめることも重要です。
段階的な導入とパイロットテスト
全社規模での導入前に、限定された環境でテスト運用を行い、効果を確認します。テスト運用の結果を元に、必要な調整を行い、徐々に全体へ、本格的な導入計画を策定します。
継続的な評価と改善
EDRシステムは一度設定したら完了ではなく、継続的な監視、評価、更新が必要です。新しい脅威の出現に応じて、システムを更新し続ける必要があります。例えば、定期的なセキュリティアセスメントを実施し、システムの脆弱性を評価し、必要なアップデートや改善を行います。
具体的な導入事例
同業他社の導入事例や評価を参考にします。実際の導入事例をベースに、成功事例や課題点を把握します。例えば、同業種の成功事例をベースに、自社の課題解決に役立てることができます。
具体的な導入事例
アプリ会社の導入事例
スマートニュース株式会社はEDR「VMware Carbon Black」を導入しています。同社は、次世代アンチウイルスとEDRを使用して、エンドポイントセキュリティを強化し、運用負荷を増やさずに安全性を向上させました。また、セキュリティリスクの可視化や迅速な対応が可能となり、社員の働きやすさを損なわない対策を実現しています。
参考リンク:https://www.cybernet.co.jp/carbonblack/casestudy/03/
食品会社の導入事例
モロゾフ株式会社は、サイバーリーズンのEDR、NGAV、MDRサービスを導入し、ランサムウェアなどのサイバー脅威からの保護を強化しました。特に、SOCサービスによりアラート発生時の迅速な対応が可能となり、業務負荷を増やさずにセキュリティレベルを向上させることができました。これにより、業務の停止や情報漏洩のリスクを軽減し、経営層を含めた社内のセキュリティ対策への共通認識が深まっています。
参考リンク:https://www.cybereason.co.jp/products/case-studies/morozoff/
素材製造会社の導入事例
株式会社JSPは、未知のゼロデイ攻撃やマルウェア対策としてSophos Intercept X Advanced with EDRを導入しました。これにより、クラウドからの自動監視・検知・駆除が可能となり、セキュリティ管理の工数が削減されました。また、リモートワーク環境でも効果を発揮し、インシデント対応の迅速化とセキュリティ工数の削減を実現しました。
参考リンク:https://security.cec-ltd.co.jp/showcase/jsp/
まとめ
EDRは、現代のサイバーセキュリティ対策として非常に有効なツールです。高度な脅威検知能力と迅速なインシデント対応能力を備え、企業のセキュリティレベルを大幅に向上させることができます。導入を検討している企業は、本記事で紹介した手順とポイントを参考に、自社に最適なEDRを選び、効果的に運用することを目指しましょう。