政府のインテリジェンス(情報収集・分析)能力を強化する「国家情報会議設置法」が2026年5月27日、参議院本会議で可決され、成立しました(時事通信・TBS NEWS DIG)。2026年5月26日の参院内閣委員会での可決に続く本会議での成立であり、2026年3月13日の閣議決定から約2か月半での立法化となりました。
本法は高市早苗首相が掲げるインテリジェンス改革の「第1弾」として位置づけられており、今後は「対外情報庁(仮称)」の設置・機密漏えい行為の厳罰化・外国代理人登録法の制定という「第2弾」以降の立法も予告されています。
一方、日弁連・札幌弁護士会・兵庫県弁護士会・自由法曹団等は独立した監督機関の欠如・プライバシー侵害リスク・作用法的規律の欠如を強く批判しており、法的・社会的な論争は成立後も続く見通しです。
当サイトの既報記事(3月13日閣議決定時)では法案の基本構造を解説しました。本稿は可決・成立を受けた続報として、法案内容の確定版・立法プロセス・指摘されている問題点を包括的に整理します。
目次
この記事のサマリー
- 成立日:2026年5月27日(参院本会議)
- 立法の経緯:3月13日閣議決定→4月23日衆院可決→5月26日参院内閣委可決→5月27日参院本会議成立
- 賛成会派:自由民主党・日本維新の会・国民民主党・公明党・参政党
- 反対会派:立憲民主党・日本共産党・れいわ新選組
- 法の2本柱:①国家情報会議(首相を議長に官房長官・外相・防衛相等が参加。安保・テロ・外国勢力の影響工作を対象とする「重要情報活動」を審議)、②国家情報局(内閣情報調査室を格上げ。各省庁の情報を束ねる総合調整権を付与。国家情報局長は国家安全保障局長と同格)
- 付帯決議の主な内容:プライバシー保護への十分な配慮・選挙関連情報の収集禁止(政治的中立性)・活動内容の国会への適時の説明
- 今後の第2弾:対外情報庁(仮称)設置・機密漏えい厳罰化・外国代理人登録法の制定を高市首相が意欲を表明
- 主な問題点:①独立した監督機関の欠如(法的拘束力がない付帯決議のみ)、②各省庁個人情報の一元統合によるプライバシー侵害リスク、③「作用法」の欠如(どのような場合にどんな諜報活動が許されるかが法律に未規定)、④市民監視・政治利用への懸念(日本の情報機関による過去の違法監視の前例あり)
立法の経緯—連立合意から約7か月での成立
発端は2025年10月の連立政権合意書
今回の立法は、2025年10月20日に自由民主党と日本維新の会が署名した連立政権合意書に遡ります(札幌弁護士会声明)。同合意書には「インテリジェンス・スパイ防止関連法制について、2025年に検討を開始し、速やかに法案を策定し成立させる」という合意内容が明記されており、今回の法は文字通りその政権合意の実行です。
約2か月半での衆参通過
立法プロセスの主な節目は以下の通りです。
2026年3月13日に閣議決定・国会提出がされました。4月2日に衆院で審議入りし(日経新聞)、4月16日に衆院内閣委員会で参考人質疑が行われました(時事通信)。4月22日に衆院内閣委員会で可決し、4月23日に衆院本会議で賛成多数により可決・参院に送付されました。5月19日に参院内閣委員会で参考人質疑(海渡弁護士・元内閣情報官の北村滋氏・インテリジェンス研究者の小谷賢氏等が公述)が行われました。5月26日に参院内閣委員会で可決し(自民・維新・国民民主・公明・参政の賛成多数、立憲・共産・れいわは反対)、5月27日に参院本会議で可決・成立となりました。
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統一する背景
今回、政府がインテリジェンスの司令塔機能を強力に束ねる背景には、現代の安全保障環境の急激な変化があります。
最大のリスクとされているのが、外国勢力によるテロ活動・スパイ活動・サイバー攻撃、そしてSNS等を通じた「偽情報の拡散(影響力工作・認知戦)」です。有事と平時の境界が曖昧になる中、政府が一体となって迅速に情報の真偽を見極め、政策決定に反映させる必要性が高まりました。
新設される国家情報局には、各省庁に対して情報提供を義務付ける権限が与えられ、国家レベルでの包括的な分析・評価が可能になります。
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法案の内容—確定版の全容
第1の柱:国家情報会議の創設
国家情報会議は首相を議長に、官房長官・外相・防衛相らの閣僚が参加する司令塔組織として内閣に新設されます。安全保障・テロリズムを対象とする「重要情報活動」に関して調査・審議を行い、外国勢力による影響工作への対処について基本方針を決定します。
高市首相は衆院での審議において、外国勢力の工作活動やサイバー攻撃、偽情報の拡散も調査の対象となると説明しました。
第2の柱:国家情報局の創設
国家情報局は現在の内閣情報調査室(内調)を発展的に改編・格上げして創設されます。国家情報会議の事務機能を担い、各省庁が収集した情報を束ねる総合調整権が付与されます。
トップの「国家情報局長」は現行の内閣情報官を格上げしたポジションであり、国家安全保障局長と同格に位置づけられます(前報記事参照)。
付帯決議の内容
衆参両院の採決において付帯決議が付されました。内容は以下の通りです。
情報収集などにあたりプライバシーの保護に十分な配慮を行うこと、政治的中立性を確保するため、特定党派の利益や不利益となりかねない選挙に関する情報収集は行わないこと、活動内容について国会に適時適切に説明することが含まれています。
指摘されている問題点
①独立した監督機関の欠如—「付帯決議は法的拘束力がない」
日弁連・札幌弁護士会・兵庫県弁護士会・自由法曹団が一致して最も強く訴える問題点が、独立した国会・第三者機関によるインテリジェンス活動の監督機能が法律上設けられていない点です。
札幌弁護士会の声明によれば「国家諜報機関が私たちの個人情報や生活の核心部分をスパイしても、それを国会や第三者機関がチェックする仕組みさえない」と批判しています。野党側は衆院審議において個人情報保護への配慮や政治的中立性の確保を法案に明文化するよう求めましたが、政府は修正を拒否し付帯決議での対応にとどめました(札幌弁護士会声明)。
付帯決議は法的拘束力がなく、兵庫県弁護士会は「治安維持法の成立時にも濫用的な運用を戒める付帯決議が付されたものの何らの実効性も有さなかったという歴史的事実からも明らか」として、付帯決議による担保を厳しく批判しています。
②「作用法の欠如」—何が許されるかが法律に書かれていない
自由法曹団(2026年4月30日意見書)と月刊『地平』掲載の海渡弁護士の公述は、今回の法が「行政組織法」であり「作用法」ではないという根本的な問題を指摘しています。
高市首相は「本法案は行政機関相互の関係を律するものであり、国民の権利義務に直接関わるような権限の強化等を行うものではない」と答弁していますが、国家情報局には「重要情報活動及び外国情報活動への対処」という広範な任務が付与されているにもかかわらず、「どのような場合にどのような諜報活動をどのように行うのか」「プライバシー等の個人情報をどこまで収集できるのか」が全く規定されていません(自由法曹団意見書)。
自由法曹団は大垣警察署による市民監視事件(名古屋高裁令和6年9月判決)を引き合いに出し「法案を根拠に、作用法的根拠がなくても、国民監視の諜報活動はできることになる」と警告しています。
③各省庁の個人情報の一元統合によるプライバシー侵害リスク
札幌弁護士会の声明は「これまで各行政機関が個人情報保護法に基づき機関内で保管・使用してきた個人情報が、国家情報会議等が設置された場合に同組織において統合的に管理・利用される可能性があり、個人情報保護法の趣旨と相容れない」と指摘しています。
マイナンバー・税務・社会保障・出入国・通信など各省庁が持つ情報が一元的に統合されることへの懸念は、公明党の窪田哲也参院議員も議場で認めており「プライバシー侵害の恐れについては中道・立憲・公明3党が強い懸念を共有した」と述べています(公明新聞)。
④日本の情報機関による市民監視の前例
兵庫県弁護士会の声明は、日本における情報機関による市民監視の過去の事例を列挙することで、今後の濫用リスクに実体的な根拠があることを示しています。
神奈川県警による日本共産党幹部宅盗聴事件(最高裁平成元年3月14日決定)・公安調査庁による元公安調査庁職員への監視・尾行(東京高裁平成16年判決)・自衛隊情報保全隊市民監視事件(仙台高裁平成28年判決)・大垣警察署による市民運動参加者の情報を民間企業に提供した事件(名古屋高裁令和6年判決)が挙げられており「これらは氷山の一角に過ぎない」と声明は述べています。
⑤「スパイ防止法への坂道」という懸念
本法はあくまでも「第1弾」であり、高市首相は参院内閣委員会での審議においても対外情報庁(仮称)設置への意欲を改めて示しました(時事通信)。今後に予定される機密漏えい行為の厳罰化・外国代理人登録法・対外情報庁設置という「第2弾以降」の立法が、本法設置の国家情報局を基盤として展開されることへの懸念が野党・市民社会から表明されています。
日本共産党は「国家スパイ機関を設置したら、国家諜報機関が私たちの大切な個人情報や大事な生活の核心部分をスパイしても、それを国会や第三者機関がチェックする仕組みさえない乱暴なものだ」と批判しています(しんぶん赤旗)。
賛成側の主な論拠
公明党の窪田哲也参院議員は「近年、サイバー攻撃や偽情報の拡散といった安全保障上の脅威が大きく変化しており、政府のインテリジェンス能力を強化し対応力を高めることは喫緊の課題」と述べています(公明新聞)。
各省庁にまたがる情報の縦割りを解消し、安全保障・テロ防止・外国勢力による影響工作に対処する体制強化という立法目的は、与党・中道改革連合・国民民主党・公明党・参政党の支持を得ており、衆参両院で安定した多数による可決を実現しました。
セキュリティ上の含意—日本のサイバー防衛体制への影響
今回の国家情報局設置は、当サイトがこれまで報じてきたセキュリティ関連の政策動向と直接つながっています。
Project YATA-Shield・G7サイバー政策・金融庁の官民AI防衛体制などで繰り返し示されてきた「日本のサイバーインテリジェンス能力の強化」という政策方向が、今回の制度的な基盤として具体化したものと位置づけられます。
国家情報局が担うとされる「重要情報活動」にはサイバー攻撃への対処・偽情報への対処が明示されており、今後のNISC(内閣サイバーセキュリティセンター)や警察庁サイバー部門との連携体制の変化が注目されます。
参考情報(主要ソース)
- 国家情報会議設置法案(衆議院公式・法案本文)
- 情報会議設置法案、27日成立 インテリジェンス改革の第1弾(時事通信・2026年5月26日)
- 【速報】「国家情報会議」設置法案 参議院・内閣委員会で可決 27日成立へ(TBS NEWS DIG・Yahoo!ニュース・2026年5月26日)
- 国家情報局の設置法案、衆院内閣委員会で可決(日経新聞・2026年4月22日)
- 外国勢力拡散の偽情報も調査、「国家情報局」法案審議入り 野党懸念(日経新聞・2026年4月2日)
- 「情報会議」法案が衆院通過(時事通信・2026年4月23日)
- 国家情報会議設置法の制定に反対する会長声明(札幌弁護士会・2026年5月22日)
- 国家情報会議設置法案の廃案を求める意見書(自由法曹団・2026年4月30日)
- この国家情報局法案は日本の民主主義に禍根を残すだろう(月刊『地平』・海渡弁護士・2026年5月)
- いわゆる「スパイ防止法」の制定に向けた国家情報会議設置法案について反対する会長声明(兵庫県弁護士会・2026年4月23日)
- 国家情報会議設置法案について(公明党・窪田哲也参院議員・公明新聞2026年5月6日付)
- 国家情報会議設置法案の狙い(しんぶん赤旗・日本共産党・2026年4月)
- 【当サイト前報記事】国家情報会議/国家情報局 設置へ 日本のインテリジェンスが迎える歴史的転換点(2026年3月13日閣議決定時)
- 【関連記事(当サイト)】「Project YATA-Shield」全解説——AIサイバー防衛体制の日本版国家戦略
- 【関連記事(当サイト)】G7・AI・サイバー攻撃・Claude Mythos対応政策








