2026年4月23日、米陸軍特殊部隊のギャノン・ケン・ヴァン・ダイク曹長(38歳)が、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所(SDNY)において連邦大陪審により起訴されました。同曹長は、2026年1月に実行されたニコラス・マドゥロ・ベネズエラ大統領の拘束作戦(アブソリュート・リゾルブ作戦)に関する軍事機密情報を利用して、暗号資産を基盤とするオンライン予測市場「ポリマーケット(Polymarket)」で約33,000ドルを投資し、約409,881ドル(約41万ドル)の不正利益を獲得したとされています。
本件は、国家最高機密を「インサイダー情報」として分散型金融(DeFi)プラットフォームで換金するという前例のない犯罪類型であり、司法省・FBI・SDNYが「国家安全保障上の重大脅威」として最優先で対処している事案です。
この記事のサマリー
- 2026年1月のマドゥロ大統領拘束作戦(アブソリュート・リゾルブ作戦)に通信スペシャリストとして参加したヴァン・ダイク曹長が、作戦の正確なタイミング・動員部隊規模・攻撃目標・戦争権限法の発動などの最高機密情報をリアルタイムで把握できる立場にありました。
- 作戦実行前日の2026年1月2日までに、「マドゥロが権力から排除されるか」などベネズエラ情勢に関する複数のイベント契約に約33,034ドルを投資し、作戦成功後に約41万ドルのペイアウトを獲得しました。
- 2026年4月23日、商品詐欺(3件)・電信詐欺・違法な金銭取引など5つの連邦法違反容疑で起訴されました。すべてで有罪となった場合の最大刑は禁錮40年です。
- 本件最大の法的革新は、予測市場のイベント契約を「商品(Commodity)」と位置づけ、軍事機密を「重要な非公開情報(Material nonpublic information)」として商品取引所法(CEA)の商品詐欺を適用した点にあります。
- 事件を受けホワイトハウスは全職員に予測市場での賭けを禁止し、議会では「2026年金融予測市場における公的誠実性法案」が提出されました。
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目次
背景
2026年1月3日未明、ニコラス・マドゥロ大統領およびその妻シリア・フローレス氏を標的とした極秘作戦が実行されました。マドゥロ大統領はコカイン密輸や武器取引に関与したとする麻薬テロリズムの容疑で2020年から米国のSDNYに起訴されており、長年にわたり身柄が追及されていました。
作戦はダン・ケイン統合参謀本部議長の指揮の下、海軍・空軍・海兵隊の戦闘機・爆撃機を含む150機の航空機が20の異なる基地・艦船から動員されました。米サイバー軍がカラカス全域に大規模な停電を引き起こして防空網と通信網を無力化し、その支援のもとでデルタフォースと第160特殊作戦航空連隊がヘリコプターでカラカスに強襲降下しました。
キューバ革命軍の激しい抵抗を排除し(キューバ側32名が戦死)、東部標準時の午前3時29分にマドゥロ大統領夫妻の身柄が確保されました。夫妻は直ちに米海軍強襲揚陸艦イオージマ(USS Iwo Jima)へ移送され、その後ニューヨークの連邦法廷へ連行されています。
なお、この作戦は情報漏洩を防ぐために議会への事前通告すら行われませんでした。皮肉なことに、議会をバイパスしてまで守ろうとした最高機密は、作戦の中枢にいた一人の兵士によって、全く別の経路で外部に流出することになります。
情報漏洩の主体ヴァン・ダイク曹長の立場と動機
ヴァン・ダイク曹長は2008年に陸軍に入隊し、2023年以降は曹長(Master Sergeant)の階級でフォートリバティ(旧フォートブラッグ)に駐屯していました。統合特殊作戦コマンド(JSOC)を支援する通信スペシャリストとして、デルタフォースやSEAL Team 6を統括する司令部に直結する極秘作戦の中枢に位置していました。
2025年12月8日頃、同曹長はアブソリュート・リゾルブ作戦の計画・実行プロセスに直接組み込まれました。通信スペシャリストという職務の性質上、作戦の正確なタイミング・動員される部隊規模・攻撃目標・戦争権限法に関する法的権限といった最高機密情報をリアルタイムで把握できる立場にありました。
作戦への参加に際して、彼は軍事作戦に関するいかなる機密情報も開示・利用しないことを誓約する秘密保持契約(NDA)に署名していました。しかし作戦実行が目前に迫った12月下旬、この誓約を破棄し、得られた国家機密を「インサイダー情報」として予測市場で換金するという重大な背信行為に及びました。
不正取引の手口—予測市場ポリマーケットの悪用
ポリマーケット(Polymarket)とは
ポリマーケットは、ユーザーが将来の出来事の発生有無に対して暗号資産で賭けを行うプラットフォームです。各イベント契約は「YES」または「NO」のバイナリーオプション形式で構成され、価格は0ドルから1ドルの間で変動します。暗号資産ウォレットを用いた仮名性の高い取引構造を持つため、「誰が」取引を行っているかを外部から特定することが極めて困難です。米国においてはCFTCの規制により米国居住者へのサービス提供は原則禁止ですが、VPNを利用してジオフェンシングを回避する米国人ユーザーが実態として存在しています。
取引の時系列と不正利益の内訳
2025年12月26日、ヴァン・ダイク曹長は「Burdensome-Mix」というユーザーネームを含む複数の匿名アカウントを開設し、作戦実行前夜の2026年1月2日までのわずか1週間で約13回の賭けを実行しました。
| 予測対象イベント | ポジション | 賭け金 |
|---|---|---|
| マドゥロ大統領が権力から排除されるか | YES | $32,537 |
| 米国がベネズエラに侵攻するか | YES | $1,000 |
| トランプ大統領が戦争権限法を発動するか | YES | $250 |
| 米軍部隊がベネズエラに上陸・駐留するか | YES | $146 |
| 合計投資額 | 約$33,034 |
2026年1月3日午前4時21分、トランプ大統領がTruth Socialで「マドゥロとその妻が捕らえられた」と発表すると同時に、関連するイベント契約はすべてYESが確定しました。約33,000ドルの投資は**約409,881ドル(約41万ドル)**のペイアウトへと跳ね上がりました。
なお、同プラットフォームでは別のユーザーも作戦前日に5,800ドルを投資し、約75,000ドルの利益を得ていたことが確認されており、軍内部または政府高官周辺で機密情報が複数の経路で漏洩していた可能性が指摘されています。
隠蔽工作とデジタル・フォレンジックによる追跡
作戦成功の当日(1月3日)、ヴァン・ダイク曹長は収益の大部分を海外の仮想通貨ボルトへ送金し、新たにオンライン証券口座を開設して資金の移動を図りました。1月6日にはポリマーケット運営側に「メールアドレスへのアクセスを失った」と虚偽申告し、取引履歴とアカウントの削除を要求、さらに連絡先メールアドレスを偽名で作成した別アドレスに変更する隠蔽工作を行いました。
しかし決定的な過ちがありました。アカウントの初期登録の際に個人の電子メールアドレスをそのまま使用していたため、この「デジタルの足跡」が決定的な証拠となりました。ポリマーケット側も「政府の機密情報を取引に利用しているユーザーを特定した」として司法省に自発的に照会し、身元の特定と逮捕へと至りました。
連邦起訴の内容——商品取引所法の前例なき適用
2026年4月23日、SDNYにおいて以下の5罪状による起訴状が封緘解除されました。
| 罪名 | 根拠法・内容 | 法定最高刑 |
|---|---|---|
| 商品詐欺(3件) | 商品取引所法(CEA)。予測市場のイベント契約を「商品」、軍事機密を「重要な非公開情報」として市場操作・詐欺と認定 | 各件最大10年 |
| 電信詐欺 | インターネット等の通信インフラを利用した詐欺的な金銭取得 | 最大20年 |
| 違法な金銭取引 | 違法収益を海外の仮想通貨ボルトや証券口座を通じて意図的に洗浄 | 最大10年 |
| 政府機密情報の私的利用 | 職務上のアクセス権で得た国家機密を自己の経済的利益のために不法に流用 | — |
| 非公開の政府情報の窃盗 | 米国政府の財産である非公開作戦情報を本来の目的外で利用し経済的価値に変換 | — |
| 合計 | 最大40年 |
本件最大の法的革新は、商品取引所法(CEA)の「商品詐欺」条項を軍事機密の漏洩事案に適用した点です。従来のインサイダー取引摘発は企業の内部情報を利用した株式取引(SEC管轄)が主でしたが、検察当局は予測市場のイベント契約を規制対象の「商品」と位置づけ、軍事作戦のタイミングという国家機密を「重要な非公開情報(Material nonpublic information)」として扱いました。これにより新興のDeFiプラットフォームが国家安全保障上の脅威となった場合の強力な法的対抗手段が確立されました。
政府・法執行機関の反応と立法の動き
SDNYのジェイ・クレイトン連邦検事は「予測市場は、不正に流用された機密情報を私的利益のために利用する隠れ家ではない。これは明確な『インサイダー取引』であり、連邦法の下で完全に違法である」と述べています。FBIのカッシュ・パテル長官も「セキュリティクリアランス保持者はいかなる立場であれ必ず責任を問われる」と厳しく警告しました。
一方、トランプ大統領は「残念ながら全世界が一種のカジノになってしまった。私は概念的にも好きではないが、それが現実だ(it is what it is)」と静観する姿勢を示しました。トランプ大統領の息子であるドナルド・トランプ・ジュニア氏が米国で合法的に運営される予測市場「カルシ(Kalshi)」の戦略的アドバイザーに就任しているという背景もあり、政権トップは新興プラットフォームを完全には否定できない立場にあります。
立法の動きとして、2026年1月9日に民主党のリッチー・トーレス下院議員が「2026年金融予測市場における公的誠実性法案(Public Integrity in Financial Prediction Markets Act of 2026)」を提出。連邦公職者・政治任用者・行政府職員・議会スタッフが非公開情報を利用した予測市場での取引を犯罪として明確に禁止するものです。予測市場業界のカルシCEOも公の支持を表明しており、オフショア市場に対する規制強化の機運が高まっています。また起訴報道と同日、ホワイトハウスは全機関に対して政府職員が非公開情報を利用した予測市場取引を行うことを禁止する警告を改めて発出しました。
セキュリティ担当者・情報管理責任者へのポイント
本件が示す最も重大な教訓は、「第三者との接触を一切必要とせず、自己完結型の金融取引によって国家機密を莫大な富に変換できる」という新たなインサイダー脅威のパラダイムが確立されたことです。
過去の機密漏洩事案(例:コーベイン・シュルツ陸軍情報分析官による香港への情報売却)はいずれも外国諜報機関との接触や金銭授受という伝統的なスパイの手口を用いていました。しかし本件では、スマートフォン一台でアクセス可能な海外の予測市場プラットフォームを通じて、数日で数十万ドルを稼げるという誘惑が、最高機密クリアランスを持つ特殊部隊要員をも取り込みました。
企業・組織の情報セキュリティにとっての示唆は、権限を持つ内部者が「技術的には正当なアクセス」を行いながら、その情報を外部の金融システムで換金するという行為を、従来の不正アクセス検知やDLPツールで捕捉することが極めて困難な点にあります。職員の金融取引(特に暗号資産・予測市場への関与)を行動監視の対象に含める「インサイダー脅威プログラム(Insider Threat Program)」の整備が急務となっています。
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よくある質問(FAQ)
Q. ポリマーケット(Polymarket)とはどのようなサービスですか? 将来の出来事の発生有無に対して暗号資産で賭けを行うオンライン予測市場です。イベント契約は「YES/NO」のバイナリーオプション形式で取引されます。米国居住者へのサービス提供はCFTCの規制により原則禁止ですが、VPN等を使用して利用するユーザーが実態として存在しています。
Q. なぜ通常の証券インサイダー取引ではなく「商品詐欺」で起訴されたのですか? 予測市場のイベント契約は株式ではなく「商品(Commodity)」に分類されるためです。SDNYはCFTCが管轄する商品取引所法(CEA)を適用し、軍事機密を「重要な非公開情報」として扱うことでインサイダー取引と法的に同等の犯罪として立件しました。これは前例のない法的アプローチです。
Q. 作戦の機密が漏洩したことで実際に被害はありましたか? 今回の機密漏洩が作戦の遂行自体に影響を与えたかは公表されていません。しかし司法省・FBIは、このような情報の流出が作戦の奇襲性を損ない、複数の兵士の生命を直接的な危険に晒す可能性があったと強調しています。
Q. ポリマーケット側はなぜ司法省に照会したのですか? インターネット上のデータ分析者や金融監視団体が、重大な出来事の直前に巨額の賭けが行われたという事実を特定し、メディアが大々的に報じたためです。ポリマーケット側は「政府の機密情報を取引に利用しているユーザーを特定した」として自発的に司法省へ照会しました。
Q. 日本企業やセキュリティ担当者にとってどのような示唆がありますか? 内部の機密情報や非公開情報にアクセスできる権限を持つ従業員が、合法的なプラットフォームを通じてその情報を換金できるという「インサイダー脅威の新形態」を示しています。暗号資産取引・予測市場・オンライン賭博などへの従業員の関与をインサイダー脅威プログラムの監視対象に含めることが重要になっています。
参考情報
- U.S. Soldier Charged With Using Classified Information To Profit From Prediction Market Bets(米司法省、2026年4月23日)
- US soldier charged with using classified intel to win more than $400,000 on Polymarket(CBS News)
- U.S. soldier charged with using Polymarket to bet on Nicolas Maduro abduction(Al Jazeera)
- In Response to Suspicious Polymarket Trade, Rep. Torres Introduces Legislation(Ritchie Torres議員事務所、2026年1月9日)
- 2026 United States intervention in Venezuela(Wikipedia英語版)







