中国系APTグループが楽天の請求書を偽装し日本を標的にサイバー攻撃

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中国系APTグループが楽天の請求書を偽装し日本を標的にサイバー攻撃

2026年4月16日、脅威インテリジェンス機関のBreakglass Intelligenceは、中国系APTグループ「Silver Fox」日本語の楽天(Rakuten)請求書を偽装したフィッシングキャンペーンを通じて、日本のユーザーを標的にマルウェア「ValleyRAT(Winos 4.0)」を配布していることを確認したと報告しました。

この攻撃の特徴は、Dell(Waves Audio)の正規の署名付き実行ファイルを使ってマルウェアを実行する「DLLサイドローディング」という巧妙な回避技術の利用にあります。攻撃者はC2(コマンド&コントロール)サーバーをHong Kongに置き、日本語ターゲットに特化したフィッシングコンテンツを使用しており、Breakglass Intelligenceはこの攻撃をSilver Fox APTによるものと帰属確信度95%(HIGH)で断定しています。

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Silver Fox APTとは——日本標的を拡大する中国系脅威アクター

Silver Foxは中国系のAPT(Advanced Persistent Threat)グループで、各セキュリティベンダーにより以下の名称でも追跡されています。

ベンダー 呼称
一般名称 Silver Fox
Trend Micro Void Arachne
Palo Alto Unit 42 CL-STA-0048
中国セキュリティ業界 UTG-Q-1000
Malpedia win.valley_rat

出典:Breakglass Intelligence(2026年4月17日)

Silver Foxはこれまで主に中国語圏のユーザーを標的とし、偽ソフトウェアインストーラーやSEOポイズニングによる感染を得意としていましたが、2025年12月以降、日本・マレーシア・東南アジアへの標的を急速に拡大していることが複数のセキュリティベンダーにより確認されています。今回のキャンペーンはその継続と位置づけられます。

なお、Breakglass Intelligenceでは楽天カードや楽天市場、楽天ペイなどのサービス名に言及されておらず、あくまで楽天の請求書とのみされています。

攻撃の全体像:感染チェーン

Breakglass Intelligenceが再構成した今回の攻撃の感染経路は以下の通りです。

ステップ 内容
① フィッシング誘導 日本語の楽天請求書に見せかけたメール。メール内には正規の rakuten.co.jp のリンクを混在させつつ、悪意あるダウンロードリンクに誘導
② ZIPファイル配布 リンク先(missallanahstarr[.]com)から「Electronic12862330415.zip」を取得させる
③ 実行 ZIPを展開すると、Dell/Waves Audioの正規署名付き実行ファイル「MaxxAudioControl64.exe」が含まれている。ユーザーがこれを実行
④ DLLサイドローディング MaxxAudioControl64.exe が同ディレクトリの「MaxxAudioAPOShell64.dll」(悪意あるDLL)を自動読み込み→暗号化されたペイロードをメモリ内で展開
⑤ C2通信開始 137[.]220[.]153[.]175:886(Hong Kong)に対してカスタムバイナリプロトコルでビーコン通信を開始。攻撃者の遠隔操作下に置かれる

注目すべきは、正規の署名付きDellソフトウェアを経由してマルウェアが実行されるため、署名チェックだけに頼った従来のセキュリティ対策では検出が困難という点です。

DLLサイドローディングの仕組み——なぜ正規ソフトで感染するのか

今回の攻撃の核心技術は「DLLサイドローディング(T1574.002)」です。この手法はWindowsのDLL検索順序(DLL Search Order)の仕様を悪用します。

VerSprite(VS-Labs)の研究によれば、Dell/Waves AudioのMaxxAudioControl64.exeは起動時に同じディレクトリのMaxxAudioAPOShell64.dllを読み込みます。

この際、ExternalModuleというレジストリキーを参照してLoadLibraryAを呼び出すため、攻撃者が悪意あるDLLを同じ名前で同ディレクトリに配置するだけで、正規プログラムが悪意あるコードを実行してしまいます。

Silver Foxはこれまでも複数の正規バイナリをサイドローディングに利用しており、今回のMaxxAudioのほか、SodaMusicLauncher.exe(ByteDance)、WavesSvc64.exe、edr09.exe等の実績があります。

ValleyRAT(Winos 4.0)の特徴

ValleyRATはGh0st RATを基盤とするC++製のプラグイン型RAT(Remote Access Trojan)です。公開されている研究から判明している主な機能は以下の通りです。

機能カテゴリ 詳細
暗号化・難読化 AES-256とXORエンコーディングでコンフィグ・通信を暗号化
C2通信 HTTPSではなくカスタムバイナリプロトコル(TCP)を使用。今回はポート886
永続化 スケジュールタスク・レジストリRUNキー・DLL検索順序ハイジャック
回避 スリープ難読化(メモリ保護サイクル)、VM/サンドボックス検出、AVプロセス終了
アンチ解析 %TEMPにファイルが30件未満の場合に動作停止、VMware/VirtualBoxサービスの列挙
コンフィグ保存先 レジストリキー(HKCU\Software\Console\ 等)

今回のキャンペーンのコンフィグには、中国語で「デフォルト備考(默认备注)」「デフォルトグループ(默认分组)」という未変更の初期設定文字列が含まれており、このRAT管理パネルが中国語圏で開発・流通していることを裏付けています。

インフラ・フィッシングルアーの詳細

偽装ドメインのWHOIS情報に現れる「矛盾」

配信ドメイン「missallanahstarr[.]com」のWHOIS情報には、攻撃者の粗雑さを示す重大な矛盾があります。

登録者住所が「Kyoto, Saitama, JP」と記載されており、京都(Kyoto)と埼玉(Saitama)という異なる都道府県を組み合わせた架空の住所であることが一目瞭然です。また登録メールアドレスに使用された「163.com」は中国の大手メールサービス(NetEase)であり、中国系アクターが登録したことを強く示唆します。

さらに、ドメインは2026年4月15日——キャンペーン開始の前日——に更新されており、攻撃の直前準備の痕跡が明確に残っています。

フィッシングメールの内容

項目 内容
言語 日本語
偽装ブランド 楽天(Rakuten)
請求書番号 GH-58420391
請求金額 12,000円(税込)
偽装日付 2026年4月16日

rakuten.co.jp の正規URLをメール内に含めることで、フィッシングフィルタを回避しつつ受信者に楽天からの正規メールだと誤認させています。

侵害の痕跡(IOC)一覧

以下のIOCはBreakglass Intelligenceの調査報告に基づきます。組織のファイアウォール・EDR・DNSフィルタへの即時登録を推奨します。

ネットワーク系IOC

IOC 種別 用途
137[.]220[.]153[.]175 IPv4 C2サーバー(ポート886)、AS4907 BGPNET PTE. LTD.(香港)
103[.]115[.]56[.]66 IPv4 マルウェア配布サーバー、AS55933 Cloudie Limited(香港)
missallanahstarr[.]com ドメイン ZIPファイル配布
a8.share-dns.com ネームサーバー 配布ドメインのNS
b8.share-dns.net ネームサーバー 配布ドメインのNS

ファイル系IOC

ファイル名 SHA-256
Electronic12862330415.zip f0fc5a9aead0bed9f97e4a007bf712aef4ab95e1abaf6150fee7f51602d57347
MaxxAudioControl64.exe(正規バイナリ悪用) 610d48ae96a2494ebfd760d4ff6647bb95f57fac92f4bc8513329f1337d6c7f2
MaxxAudioAPOShell64.dll(悪意あるDLL) 17d6415df0d336e255df7689ae90039e48fd6e95d43fbbc34d5b4875ea9af47d

エンドポイント系IOC

  • C:\Users\Public\Documents\94a3c123872341ef93a035e8534a1b8a(ペイロードのステージングディレクトリ)
  • MaxxAudioControl64.exe が C:\Program Files\Realtek\Audio\HDA\ 以外のパスから起動
  • TCP 886番ポートへのアウトバウンド通信

MITRE ATT&CK マッピング

タクティクス テクニック ID
初期アクセス フィッシング:スピアフィッシングリンク T1566.002
実行 ユーザー実行:悪意あるファイル T1204.002
永続化 DLL検索順序ハイジャック T1574.001
防御回避 DLLサイドローディング T1574.002
防御回避 正規名称・場所への偽装 T1036.005
防御回避 署名付きバイナリのプロキシ実行 T1218
C2 非標準ポート(886/tcp) T1571

組織・セキュリティチームが取るべき対策

即時:IOCのブロック

以下のIOCを組織のファイアウォール・DNSフィルタ・Proxyに登録し、通信を遮断します。

  • 137[.]220[.]153[.]175(全ポート、特に886/tcp)
  • 103[.]115[.]56[.]66
  • missallanahstarr[.]com(DNS解決をブロック)
  • a8.share-dns.com / b8.share-dns.net(DNSレベルでブロック)

侵害の事後ハンティング

  • ネットフロー・Proxyログで 137.220.153.175:886 への通信の有無を検索する
  • EDRテレメトリで MaxxAudioControl64.exe  C:\Program Files\Realtek\Audio\HDA\ 以外から実行された記録を検索する
  • エンドポイントで C:\Users\Public\Documents\94a3c123872341ef93a035e8534a1b8a ディレクトリの存在を確認する
  • ファイルハッシュをEDRで照合する(特に悪意あるDLL: 17d6415df0d336e255df7689ae90039e48fd6e95d43fbbc34d5b4875ea9af47d

メールゲートウェイ・フィッシング対策

  • 日本語の楽天請求書を偽装したメールのルールを設定する(件名・本文キーワード + 外部ドメインリンクの組み合わせをフラグ)
  • 添付ファイルおよびメール内リンクのサンドボックス解析(ZIPを含む)を有効化する
  • DMARC・DKIM・SPFの確認を強制する

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エンドポイント・アプリケーション制御

  • Application Control(アプリケーション制御)ポリシーで、C:\Program Files\ 以外から実行される署名付きバイナリへのアラートを設定する
  • DLLのサイドローディングに対応したEDR製品の「プロセスインジェクション検出」ルールを有効化する
  • PowerShell・WMI・スクリプトエンジンのログを有効化しSIEMに転送する

JPCERT/CCへの報告

Breakglass IntelligenceはJPCERT/CCへの報告を優先度HIGHと判定しています。自組織内でこのキャンペーンの被害を確認した場合は、JPCERT/CCのインシデント報告窓口に報告することを強く推奨します。これにより業界全体での早期警戒が可能になります。

個人ユーザーが取るべき対策

今回の攻撃は楽天という日常的に利用するサービスを騙っており、「日本語の請求書メール」という自然な形で届くため、特に注意が必要です。

メール受信時の確認習慣

  • 「支払いが必要」「請求書あり」などのメールはまず楽天の公式アプリ・サイトに自分でログインして確認する。メール内のリンクをクリックしない
  • 差出人のメールアドレスが rakuten.co.jp ドメインであっても、本文中のリンク先URLを確認する(正規リンクに見せかけた別ドメインへのリンクが含まれることがある)
  • 心当たりのない請求書が届いた場合は楽天カスタマーサポートに直接電話・チャットで問い合わせる

ファイル実行時の注意

  • メールから受け取ったZIPファイルを開かない。請求書のはずなのにZIPやEXEが添付されている場合は詐欺の可能性が高い
  • ZIPを展開して現れた .exe ファイルは絶対に実行しない
  • 正規のDell製ソフトウェアに見えても、メール経由で受け取ったものはインストールしない

OS・セキュリティソフトの設定

  • Windows Defenderを常時有効化し、最新の定義ファイルに更新しておく
  • Windowsの「ファイルの拡張子を表示する」設定をオンにし、.exeや.dllが隠れていないか確認できるようにする
  • メールクライアント(OutlookやThunderbirdなど)の「外部リンクを自動的にプレビューしない」設定を有効にする

よくある質問(FAQ)

Silver Fox APTとはどのような攻撃グループですか?

Silver Foxは中国系のAPT(高度持続的脅威)グループで、Trend MicroはVoid Arachne、Palo Alto Unit 42はCL-STA-0048とも呼びます。ValleyRAT(Winos 4.0)と呼ばれるGh0st RATの派生マルウェアを主要ツールとして使用し、DLLサイドローディングやSEOポイズニングを多用します。2025年12月以降、日本・マレーシア・東南アジアへの標的を拡大していることが複数のベンダーにより報告されています。

ValleyRAT(Winos 4.0)に感染するとどうなりますか?

ValleyRATはC++で実装されたプラグイン型のRAT(遠隔操作ツール)です。感染すると攻撃者がパソコンを遠隔操作できる状態になり、ファイル・キーストローク・スクリーンショットの窃取、さらなるマルウェアのダウンロード実行が可能になります。AES-256暗号化とXOR難読化で通信を隠蔽し、VMやサンドボックス環境の検出機能も持ちます。スケジュールタスクやレジストリRUNキーで永続化されるため、削除が困難です。

DLLサイドローディングとは何ですか?今回の攻撃でどう使われましたか?

DLLサイドローディングとは、正規の署名付き実行ファイルが起動時に読み込むDLLを悪意あるファイルに差し替える攻撃手法です。今回はDell/Waves Audioの正規ソフトウェアMaxxAudioControl64.exeが同じディレクトリのMaxxAudioAPOShell64.dllを自動で読み込む仕組みを悪用。ZIPに正規EXEと悪意あるDLLが一緒に格納されており、ユーザーがEXEを実行すると悪意あるDLLが読み込まれてValleyRATの感染が完了します。


出典・参考資料

一次ソース(本記事の主要情報源)

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