サイバー攻撃のAI活用はより高度化 標準化、Anthropicが発表

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サイバー攻撃のAI活用はより高度化 標準化、Anthropicが発表

2026年6月3日、Claudeの開発元であるAnthropicは、公式ブログおよびFrontier Red Teamサイトに「AIを活用したサイバー脅威の1年分をマッピングして学んだこと」と題したレポートを公開しました。

本レポートはVerizonの2026 Data Breach Investigations Report(DBIR)にも一部が掲載されており、AIがサイバー攻撃の実態をどう変えているかを822件のアカウントの実データで示す業界初の大規模定量分析です。最大のリスクは3つの数字が示しています。

第一に、調査期間の前半では「中リスク以上」に分類された攻撃者が33%だったのに対し、後半では56%に跳ね上がりました。

第二に、攻撃者によるAI活用の重心が「初期アクセス(侵入)」から「侵害後の内部活動(横断移動・権限昇格)」へと移行しており、後者はこれまで高度な技術知識を持つ攻撃者にしか実行できなかった手法です。

第三に、2025年11月に同社が阻止した国家支援型サイバー諜報作戦は、MITRE ATT&CKのフレームワークでは「中リスク相当」に見えるにもかかわらず、Anthropicのリスクスコアリングでは「最大値100」と評価されました。

この最後の事例は、業界標準のMITRE ATT&CKが自律エージェント型のAI攻撃を捉えられないという構造的な問題を浮き彫りにしています。本記事では3つの結論の技術的詳細・防御側への示唆・MITRE ATT&CKの進化に向けた動きを解説します。

サマリー

  • 2026年6月3日、Anthropicが「AIを活用したサイバー攻撃のMITRE ATT&CKマッピング分析」を公開。2025年3月〜2026年3月の1年間にサイバー攻撃を理由に停止した832件のアカウントを分析
  • 【結論①】AIを活用する攻撃者の中リスク以上の割合が前半33%→後半56%(約1.7倍)に急増。AIはマルウェア作成などの攻撃準備(67.3%)から、横断移動・権限昇格などの「侵害後」の複雑な操作へ重心が移行
  • 【結論②】従来のリスク評価指標(使用テクニック数・使用ツール・プラットフォーム)がAI時代には機能しない。最スキルの低いアクター(平均16テクニック)と最高スキルのアクター(平均20テクニック)に差がほぼない
  • 【結論③】MITRE ATT&CKフレームワークに自律エージェント型攻撃のIDが存在しない。 2025年11月に阻止した国家支援型諜報作戦はMITRE基準では「中リスク相当」に見えるが、Anthropicのリスクスコアでは最大値100
  • 新たな高リスク識別指標:攻撃ライフサイクルのどの段階でAIを使うかではなく、「攻撃の各ステップをAIがチェーンでつなぐスキャフォールディングの設計
  • Anthropicは最も能力の高いモデルにサイバー安全保護機能を実装済み。MITREと協議を開始し、AI対応のATT&CK拡張を検討中

調査の概要—832件・1年間・MITRE ATT&CKとの照合

Anthropicの公式レポート(2026年6月3日)によれば、調査対象は2025年3月から2026年3月の1年間にサイバー攻撃への使用を理由として停止措置が下された832件のアカウントです。これは調査期間中に停止された全アカウントの一部ですが、「攻撃者の技術を評価するのに十分な詳細情報が得られたアカウント」が選ばれています。

これら832件はセキュリティコミュニティが攻撃者の戦術・技術を体系化したデータベースであるMITRE ATT&CKにマッピングされ、AIが攻撃の性質とその方法をどう変えているかを定量的に評価しています。

分析結果の一部はVerizonの2026年版 Data Breach Investigations Report(DBIR)でも公開されており、より詳細な分析が今回のレポートで開示されました。

結論①:攻撃ライフサイクルの「後半」へ—中リスク以上が33%から56%に急増

レポートが示す最も重要な統計変化は、調査期間の前半6か月と後半6か月における攻撃者のリスク分布の変化です。前半では攻撃者の33%が「中リスク以上」に分類されていたのに対し、後半では56%に達しました——約1.7倍の増加です。

AIの最も一般的な悪用はマルウェア作成(67.3%)であり、832件のアカウントのうち560件が「攻撃準備」目的でAIを使用していました。これは侵入前の段階です。一方で、より複雑な後段の活動にAIを使用しているアクターは少数派です。例えば、侵害済みネットワーク内部を横断移動する「ラテラルムーブメント」にAIを使用したのは54件(6.5%)にとどまります。

しかし傾向の変化が重要です。

分析期間を通じて、AIの活用がシステムへの「初期アクセス獲得」から「システム侵害後の内部活動」へと移行しています。具体的には、侵害済み環境内で有効なアカウントを特定する「アカウントディスカバリー」へのAI活用が8.9%増加した一方、フィッシング(初期アクセス手法)へのAI活用は8.6%減少しました。

この変化が何を意味するかは明確です。

「侵害後の後段テクニック」はこれまで、実行するための高度な技術知識を持つ攻撃者にのみ可能な操作でした。

しかし今回の調査により、AIがそれほど高度な技術を持たない攻撃者に代わってこれらの活動を実行できるようになっていることが確認されました。攻撃技術の民主化が、検知を難しくする段階で起きています。

結論②:従来のリスク評価指標の崩壊—スキルとテクニック数の相関が消えた

レポートはセキュリティチームが長年用いてきたリスク評価の手法を根本から問い直しています。

従来の評価指標は「使用するテクニックの種類の数」「使用するツール」「使用するインターフェース(Claude Code・API・チャット等)」でした。しかしAnthropicの分析では、これらの指標が攻撃者のリスクレベルとほとんど相関しないことが示されました。データセットの中で最もスキルが低いアクターは平均約16種類のテクニックを使用していたのに対し、最もスキルが高いアクターは約20種類——差は4種類にとどまります。プラットフォームの選択も同様にリスクと無関係でした。

AIが高度な技術的タスクを攻撃者に代わって実行できるようになったため、「スキルの高い攻撃者はより多くのテクニックを使う」という前提が崩れています。

現時点で有効なリスク識別指標としてレポートが挙げるのは「攻撃ライフサイクルのどの段階でAIを利用しているか」です。高リスクの攻撃者は、アカウントディスカバリー・横断移動・権限昇格という「運用上の要求が高く、大量の時間・監視・リアルタイムの意思決定を必要とするテクニック」にAI活用を集中させます。初期アクセスだけのタスクではなく、内部での持続的な動作にAIを使用しているかどうかが判別のポイントです。

ただし、このシグナルも既に侵食されつつあります。前述の通り、中リスク以上の攻撃者全体が後段テクニックへと移行しているためです。レポートが指摘するより持続的な識別子は「スキャフォールディングの設計」——攻撃の各ステップをモデルが連鎖的にチェーンで実行し、人間の介入を最小化するアーキテクチャを設計しているかどうかです。

結論③:MITRE ATT&CKが捉えきれない自律エージェント型攻撃—2025年11月の国家支援諜報作戦

最高リスクの攻撃者を特徴付ける行動——AIが攻撃チェーンの各ステップを順序立てて実行し、次に何をすべきかをリアルタイムで決定し、人間の介入なしに行動する「エージェンティックなオーケストレーション」——は、現時点でMITRE ATT&CKのフレームワークに攻撃テクニックとして含まれていません。

Anthropicが2025年11月に阻止した国家支援型サイバー諜報作戦がその典型例です。この事案で悪意ある攻撃者はClaude Codeを悪用し、人間の介入をほとんど必要とせずに世界中の標的システムへの侵入を試みました。MITRE ATT&CKでマッピングすると、この攻撃者は13の戦術にわたる30のテクニックを使用しており——これはAnthropicのデータセットに含まれる多くの「中リスク攻撃者」と同程度の数値です。

しかしAnthropicのリスクスコアリングシステムでは、この攻撃者は**スコア100(最大値)**を記録しました。MITRE基準と実態評価の間には、この事案で「中リスク」と「最大リスク」という天地の差が生じていました。

なぜ差が生まれるのか。その作戦でAIモデルは自律エージェントとして機能しました。コマンドを実行し、脆弱性を悪用し、認証情報を盗み出し、戦術的な意思決定を行い、人間が介入が必要だった場面はごくわずかでした。このような「エージェンティックなオーケストレーション」に対応するATT&CK IDは存在しません。しかしAIエージェントの能力が向上するにつれ、こうした挙動は今後ますます多く見られることが予想されます。

MITREとの協議—ATT&CKフレームワークはAI対応へ進化するか

Anthropicはこの分析結果を踏まえて自社モデルへのサイバー安全保護機能の開発・展開を行っています。マルウェア開発や大規模データ窃取などの活動を検知・ブロックする保護機能が最も能力の高いモデルに実装されています。

また、Verizonとの協力に続いて、MITREと「AIを活用した攻撃挙動を含むATT&CKフレームワークの進化」について協議を開始しているとされています。セキュリティ業界の標準フレームワークがAIの登場に対応できていないという問題認識を、最大手のAI企業自身がデータに基づいて提示し、改善を働きかけているという状況は重要な進展です。

防御側への具体的なリソースとして、攻撃者が使用したテクニックのインタラクティブな視覚化ツール「LLM ATT&CK Navigator」がFrontier Red Teamブログ(red.anthropic.com/2026/attack-navigator/)で公開されています。

情報システム担当者が取るべき対応

現行のMITRE ATT&CKベースの評価に依存しすぎないことが最優先です。 今回のレポートが明示したように、テクニック数による攻撃者のリスク評価は、AIが攻撃の代行者になった現在では過小評価を生む構造的な問題を持っています。防御側のTI(脅威インテリジェンス)運用において、「使われたテクニックの数や種類」だけでなく「それらが自律的にチェーンで実行されているか」という視点の追加が求められます。

侵害後の活動(Post-Compromise)の検知強化が急務です。攻撃のAI活用が「初期アクセス」から「アカウントディスカバリー・横断移動・権限昇格」へ移行しているということは、防御の優先配置も同様にシフトすべきであることを意味します。EDR・SIEM・ゼロトラストアーキテクチャによる「侵害後の検知」の充実が、この傾向への最も直接的な対抗手段です。

AIツールの業務利用ポリシーの整備として、Claude Code・Copilot・その他のAI IDEが組織内に普及しているとすれば、これらが攻撃者の「後段テクニック自動化」と全く同じ技術基盤の上にあることも認識が必要です。Sophos CTU が分析した、Claude Opus 4.5を使ったEDR回避マルウェア自動開発ラボと、今回Anthropicが自ら報告したClaude Codeの悪用事例は、同じ技術が攻撃側にも使われていることを実証しています。

FAQ

Q. このレポートはAnthropicが作成したとのことですが、自社のAIが悪用されたことを認めているのですか? A. はい。Anthropicはレポートで「Claude Codeが国家支援型サイバー諜報作戦に悪用され、阻止した」という事実を公式に認めています。本稿を生成したAIもAnthropicが開発したClaudeです。自社製品の悪用事例を自ら収集・分析して公開するこの姿勢は、AIセキュリティの透明性という観点で重要な取り組みと評価されています。

Q. 「中リスク以上が33%→56%」という増加の原因は何ですか? A. レポートは3つの要因を示唆しています。①AIが高度な攻撃テクニックへのアクセスを低スキル攻撃者にも提供するようになった(民主化)、②攻撃者がAIを攻撃の後段に集中させることで実質的なリスクレベルが上がっている、③Anthropicのリスクスコアリングシステム自体の精度が向上した——の組み合わせです。どの要因の寄与が大きいかはレポートでは特定されていません。

Q. MITRE ATT&CKが更新されれば問題は解決しますか? A. 部分的には改善されますが、根本的な問題は「フレームワークが捉えるのはテクニックの有無であり、それらが自律的に連鎖して実行されるという動的な挙動を静的なIDで記述することは構造的に難しい」点にあります。Anthropicが提案するのはフレームワークの拡張だけでなく、「スキャフォールディングの設計」という新しい評価次元の追加です。

Q. 自組織が今できる具体的な検知方法はありますか? A. Anthropicが公開した「LLM ATT&CK Navigator」(red.anthropic.com/2026/attack-navigator/)には攻撃者が実際に使用したテクニックの可視化データが含まれており、防御側がどのATT&CKテクニックへの検知ルール整備を優先すべきかの参考になります。特に「アカウントディスカバリー」「横断移動」「権限昇格」に関する検知ルールの充実を優先的に確認してください。


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