外国人の農地取得に関する国籍条項なしという制度的死角と米国、英国との規制の比較

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外国人の農地取得に関する国籍条項なしという制度的死角と米国、英国との規制の比較

農林水産省が公表した最新の調査結果によれば、令和6年(2024年)1月から12月までの1年間に外国法人等によって新たに取得された日本の農地面積は全国で175.3ヘクタール(ha)に達し、近年の調査で過去最高を更新しました。

※例年、前年1年間のデータを翌年の秋頃に集計・公表するスケジュールとなっているため、令和7年(2025年)通期の統計データはまだ公表されていません。

取得者の国籍を分析すると、国内居住外国人個人(377者)のうち最多は中国国籍(102者・27%)で、法人の意思決定を左右する主要株主等となっている外国人(33人)では中国国籍が15人(45%)を占めます。農地法は「耕作するかどうか」を審査基準とし、国籍を問わない設計になっているため、現行制度では在留外国人や日本法人を通じた間接的な農地参入を法的に排除できない構造的死角があります。

一方で米国ジョージア州は2024年に「軍事基地周辺10マイル(約16km)以内の土地取得禁止・敵対5カ国国籍の農地取得禁止」を施行、英国はNSI法で農地を国家安全保障審査の対象として明記しています。

【この記事のサマリー】

  • 令和6年の外国法人等による農地取得:175.3ha(令和5年の90.6haから急増。全農地面積の0.004%、ただし前年比で約2倍)。
  • 純粋な外国法人・海外居住外国人の直接取得は0件。農地法の耕作要件が投機資本を現状では遮断。一方、国内居住外国人(377者・95ha)および国内居住外国人が役員等の国内法人(32社・79ha)が主体
  • 取得者の国籍は中国への偏在が顕著:個人では27%が中国籍、法人の主要株主等では45%が中国籍。
  • 農地法の制度的死角:「耕作用途の適否」のみを審査し国籍条項なし。令和5年の下限面積要件撤廃が参入ハードルをさらに引き下げた。
  • 3つのリスク:①食料主権の浸食(農産物の国外移出)、②防衛施設・重要インフラ周辺の偵察・破壊工作、③種苗・遺伝資源の流出(農業スパイ)。
  • 国際比較で見た日本の制度的遅れ:米国ジョージア州(敵対5カ国排除・基地周辺16km禁止)、英国NSI法(農地を安全保障審査対象に明記)、豪州FIRB(閾値引き下げ・国益審査)と比較し、日本の重要土地等調査法(1km圏内)は機能範囲が極めて限定的。
  • 産経新聞・FNNの世論調査(2025年7月)で「外国人の不動産取得を規制すべき」が77.2%。与野党支持層を問わず多数派。

外国法人等による農地取得の現状——令和6年(2024年)のデータ詳細

取得面積の推移

年度 取得面積(ha) 備考
令和4年(2022年) 154.1ha
令和5年(2023年) 90.6ha 一時減少
令和6年(2024年) 175.3ha 近年で過去最高を更新

全国の総農地面積(約427万ha)に対する比率は約0.004%、1年間に権利が移動する農地面積全体(直近5年平均:74,103ha)に対する比率は0.2%にとどまります。米国における外国法人等の農地所有割合(全体の約2.8%)と比較すれば、現時点の絶対値は依然として限定的な水準です。

しかし経済安全保障の分析において、面積の「量」ではなく「誰が・どこを・どのような目的で」という「質」こそが本質的なリスク指標です。取得が年々累積していく中長期的な影響は決して軽視できません。

※例年、前年1年間のデータを翌年の秋頃に集計・公表するスケジュールとなっているため、令和7年(2025年)通期の統計データはまだ公表されていません。

取得主体の4分類

農林水産省の調査は取得主体を4カテゴリーに分類しています。

分類 定義 令和6年の取得件数・面積
①外国法人または海外居住外国人 設立準拠法が外国の法人、または日本国外に居住地を持つ外国人 0社/0者・0ha
②①が主要株主等・理事等となっている法人 海外資本や個人が実質的な支配権を持つ日本国内の法人 3社・1.3ha
③国内居住外国人 日本国内に居住する外国籍を持つ個人 377者・95ha
④③が主要株主等・理事等となっている法人 国内居住外国人が実質的な支配権を持つ日本国内の法人 32社・79ha

最も注目すべきは、純粋な「外国法人(海外企業)」や「海外居住外国人」による直接的な農地取得が0件・0haであった点です。

後述する農地法の耕作要件が、純粋な投機目的の海外マネーを現段階では有効に遮断していることを示しています。実質的な取得の大部分は「国内居住外国人」および「国内居住外国人が役員等に就任している国内法人」によるものです。

カテゴリー②の3件の内訳として、茨城県行方市(0.9ha・中国国籍海外居住外国人の議決権12.0%)、山梨県甲州市(0.2ha・中国国籍海外居住外国人の議決権30.0%)、愛媛県西条市(0.2ha・外国法人の議決権49.0%)が確認されています。

取得者の国籍別内訳

農地を個人として取得した国内居住外国人377者の国籍別内訳は以下の通りです。

順位 国籍・地域 取得者数(人) 構成比
1 中国 102 27%
2 韓国 42 11%
3 ブラジル 42 11%
4 米国 27 7%
5 ベトナム 24 6%
6 スリランカ 15 4%
7 フランス 11 3%
8 パキスタン 10 3%
その他(34か国・地域) 104 28%

法人の意思決定を左右する主要株主等となっている国内居住外国人(33人)では中国国籍が15人(45%)、韓国国籍が9人(27%)。理事等となっている国内居住外国人(40人)でも中国国籍が19人(48%)とほぼ半数を占め、中国国籍への顕著な偏在が確認されます。

農地法の構造的死角—なぜ外国人は農地を取得できるのか

「用途規制」の原則と国籍条項の不在

農地法第3条は農地の権利移動に農業委員会の許可を義務付けています。許可の中核要件は以下の2点です。

全部効率利用要件:取得するすべての農地を効率的に利用して耕作を行うこと。 農作業常時従事要件:取得者(個人の場合は本人または世帯員)が農作業に常時従事すること。

この設計により「純粋な投資目的での農地取得」は法的に不可能な仕組みになっています。純粋な海外投資ファンドや外国法人が0件・0haである理由は、彼らが自らトラクターを運転して農作業に常時従事することが物理的に不可能だからです。

しかし、農地法には現代の経済安全保障という観点から見ると決定的な盲点があります。農地法はどこまでも「取得者が農地を適正に耕作するかどうか」という用途・行為に着目した法律であり、取得者の国籍を問う条項が一切存在しないのです。

したがって、日本に合法的な在留資格を持って居住する外国人が農業委員会の厳正な審査を通過さえすれば、日本人と全く同等の権利として農地を取得することができます。外国資本が過半数を出資する企業でも、農地所有適格法人の要件を満たすガバナンス設計を行えば、法人名義で農地を取得できます。

下限面積要件の撤廃がもたらした副次的影響

令和5年(2023年)の農地法改正で、新規農地取得に必要な「下限面積要件(原則50アール以上)」が撤廃されました。担い手不足と耕作放棄地の増加という深刻な国内事情に対応するための規制緩和措置でしたが、この改正は同時に、日本国内に居住する外国人が「極めて小規模な農地から、低資金で段階的に農業参入を開始すること」を著しく容易にするという副次的効果を生み出しています。令和6年の国内居住外国人個人の取得者数(377者)が増加している背景の一つと考えられます。

3つの経済安全保障上のリスク

リスク①:食料主権の浸食

外国資本によって集約された農地で生産された農産物が日本の国内市場には供給されず、資本の母国へと全量輸出される事態が生じた場合、それは統計上は「農業生産額の増加」や「輸出額の拡大」として記録されるかもしれません。しかし実態としては「日本の領土・水資源・土壌を用いた、外国のための専用食料供給基地化」を意味します。

世界的な異常気象による凶作やパンデミック、大国間紛争による海上輸送レーンの封鎖等によってグローバルな食料危機が発生した有事においては、自国の主権が及ぶ領土内にありながらそこから生み出されるカロリーのコントロール権が他国政府の強い影響下にある企業に握られている状況は、致命的な脆弱性となります。

リスク②:防衛施設・重要インフラ周辺の安全保障リスク

一見完全に合法的な農業法人の活動が、現代のハイブリッド戦においては以下のような敵対的活動の隠れ蓑として利用される危険性があります。

電波情報収集(SIGINT)の拠点化として、農地内の施設や通信設備を偽装して、隣接する基地から発信される機微な軍事通信や航空機誘導電波の継続的な傍受・解析を行います。

物理的偵察と監視として、農業用ドローンを用いた空撮による基地内部の監視や、部隊の出動状況・物資搬入出・人員移動の観察を行います。

破壊工作の準備として、重要インフラに対する物理的な破壊工作のための特殊部隊や工作員の潜伏拠点、あるいは武器・通信機器・爆発物の秘匿場所としての利用が考えられます。

農林水産省も「安全保障上重要な施設の周辺等で外国法人等が取得した農地に関しては、重要土地等調査法に基づく調査等と連携しながら適切に対処していく」との方針を打ち出しています。しかし現行の重要土地等調査法は対象区域が「約1キロメートル以内」と極めて限定的であり、ドローンの飛行距離や電波の傍受能力が飛躍的に向上している現代では、その有効性には多くの専門家が疑問を呈しています。

リスク③:種苗・遺伝資源の流出(農業スパイ)

日本が長年の品種改良で生み出してきたシャインマスカット・高級イチゴ・和牛の精液等の遺伝資源は、諸外国にとって極めて価値の高い知的財産です。外国資本が農地を取得し自国から派遣した農業技術者・労働者を配置することで、最先端の栽培ノウハウや種苗そのものが「農業活動」という合法的な外形を保ちながら母国へ持ち出されるルートが形成されます。農地の外資取得は、種苗法違反等の知的財産侵害を現場レベルで組織的かつ隠蔽しやすく実行できる空間的プラットフォームを提供してしまうという点で深刻なリスクを内包しています。

国際比較—各国っでゃ外資系農地取得を規制している

米国:州レベルでの「敵対国排除」立法ラッシュ

米国では連邦レベルで農業外国人投資開示法(AFIDA・1978年)によるUSDAへの報告義務と、対米外国投資委員会(CFIUS)による重要インフラ周辺の外国投資のブロック権限が存在します。

近年特筆すべきは、米中対立の激化を背景とした各州による直接的な禁止立法の急増です。2023年だけで全米15の州において外国直接投資(FDI)による不動産取得に対する制限法が成立しました。

その最も象徴的な事例が2024年7月施行のジョージア州SB 420です。

対象国籍の特定として、連邦規則集(CFR)第15編7.4条で「敵対者」に指定された5カ国(中国・キューバ・イラン・北朝鮮・ロシア)の企業・事業体および国民(非居住外国人)を規制対象とします。

実質的支配の追及として、米国内に所在する企業であっても、上記敵対国の法人がその所有権の25%以上を保有している場合は実質的に敵対国資本とみなされます。

農業活動の全面禁止として、農作物・木材・家畜・酪農製品等の生産に使用可能な「農地」の取得が間接・直接を問わず完全に禁止されます。

広大な防衛バッファーゾーンとして、すべての軍事基地・施設・空港の「半径10マイル(約16キロメートル)以内」にある土地の取得も厳格に禁止されています。日本の「約1キロメートル」とは比較にならない広範な緩衝地帯です。

ブライアン・ケンプ知事は「食糧供給のように生存に不可欠なものを外国の敵対勢力に支配させるわけにはいかない」と宣言しています。

英国:NSI法による農地への安全保障スクリーニング

英国は2022年1月施行の国家安全保障・投資法(NSI Act)により外資規制のパラダイムを転換しました。施行後12ヶ月間だけで800件以上の事前通知が行われています。

この法律の画期的な点は、軍事・防衛産業やハイテク分野だけでなく、「農地(Agricultural Land)」を明確に安全保障上の懸念領域として位置づけていることです。農地が監視対象とされる理由として、機微施設への「近接性(Proximity to sensitive facilities)」・「食料安全保障(Food security)」・「バイオセキュリティ(Bio-security)」の3点が明記されています。

特に優れた制度設計として、投資ビークルの背後に隠された「リミテッド・パートナー(有限責任組合員)」の真の身元の即時開示を法執行権限で厳しく求める仕組みがあります。現時点で36件の「緩和合意(Mitigation agreements)」が結ばれ、32件が継続的な国家によるモニタリング下に置かれています。

オーストラリア・カナダ:国益審査と閾値の引き下げ

オーストラリアは外国投資審査委員会(FIRB)を通じた包括的な外資規制を実施しており、2015年の法改正で農地に対する審査基準額(閾値)が大幅に引き下げられ、比較的小規模な農地取得でも審査の網にかかる制度になっています。財務大臣は「オーストラリアの国益(National Interest)」に反すると判断した場合、禁止や条件付与を行う強力な権限を持ちます。2016年の改正では民事・刑事上の強力な制裁(Sanctions)も導入されています。

カナダでも1985年のカナダ投資法(2009年改正)で閣僚による国家安全保障審査権限が明文化されています。

EU・その他:より深い国家介入の事例

フランスはSAFER(農地・農村整備会社)を通じて農地の権利移動に強力に介入し、外国資本による買収をコントロールしてきた歴史を持ちます。

エジプトでは1963年法律第15号により、ナイル川流域やデルタ地帯等の「伝統的な農地」における外国人(自然人・法人を問わず)の所有権取得を完全に禁止しています。

ラトビアでは「4,000ha以上の農地を所有する企業」が防衛装備品やデュアルユース技術の開発・製造に関与しようとする場合、国防省からの特別なライセンス取得や戦略的パートナーシップ協定の締結が義務付けられています。「広大な農地を所有する巨大企業は、それ自体が国家防衛上の重大なプレイヤーである」という高度な安全保障認識に基づく立法です。

国・地域 規制の特徴 バッファーゾーン
米国(ジョージア州) 敵対5カ国の農地取得禁止・実質支配25%以上も対象 軍事基地周辺10マイル(約16km)禁止
英国 NSI法で農地を安全保障審査対象に明記。緩和合意でのモニタリング 機微施設への近接性を考慮
豪州 農地の審査閾値を引き下げ。国益審査に基づく禁止・条件付与 国益審査で包括的に判断
フランス SAFER経由での農地権利移動への強力介入 EU枠組み内での安全保障例外
エジプト 伝統的農地の外国人所有を完全禁止 全面禁止
日本 農地法の耕作要件(国籍条項なし)。重要土地等調査法 約1キロメートル以内のみ

国民世論と政治的背景

2025年7月に産経新聞社・FNNが実施した合同世論調査では、外国人による不動産取得について「規制すべきだ」と回答した層が77.2%に達し、「規制すべきでない」の17.0%を大きく上回りました。参政党支持層(92.6%)・自民党支持層(72.6%)・立憲民主党支持層(74.7%)いずれも規制強化を多数派が支持しており、与野党・政治的イデオロギーの垣根を越えた国民的な危機意識の共有が示されています。

政策的展望—多層的防衛網の構築に向けて

日本が経済安全保障の観点から国土を守り抜くために今後求められる施策として以下が挙げられます。

実質的支配者(Beneficial Owner)の可視化として、英国の制度に倣い、農業法人や不動産取得ファンドの背後に存在する最終的な資本投下者(リミテッド・パートナー等)や外国政府との紐帯を厳格に特定する制度の導入が急務です。農業委員会という地方行政機関の裁量に委ねるだけでなく、情報機関や経済安全保障担当省庁が恒常的にトラッキング・監査できる一元的なデータベースの構築が必要です。

安全保障バッファーゾーンの大幅な再定義として、米国州法を参考に現行の重要土地等調査法の対象区域を抜本的に拡張し、該当エリア内の農地・森林の権利移動に対して強力な事前承認制度(FDIスクリーニング)と違反時の民事・刑事制裁を導入することが不可欠です。

「国益審査」メカニズムの戦略的導入として、WTO/GATS等の国際的制約をクリアしつつ、オーストラリアのFIRBのような「国益ベースの審査(National Interest Test)」の枠組みを法制化し、食料安全保障の根幹を揺るがす取引や技術・遺伝資源の流出リスクが高いと判断された取引に対して、政府が直接ブロックまたは英国型の「緩和合意(Mitigation agreements)」の条件付き承認を下せる権限を付与することが求められます。

ひとたび土地の所有権が第三国資本に移転してしまえば、日本の法制度下ではそれを強制的に剥奪・収用することは憲法が保障する財産権の保護の観点から極めて困難です。「面積の少なさ」に安堵して思考停止に陥るのではなく、「取得の質と背後にある潜在的意図」を冷徹に見極めるための精緻なスクリーニングの網を早急に張り巡らせることが、国家主権を保全し将来の不確実性に対する最大の抑止力となります。


参考情報