サイバー攻撃とは? 種類・目的・企業への影響と対策を2026年最新データで解説

セキュリティ用語

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サイバー攻撃とは? 意味や種類、対策などを解説

サイバー攻撃という言葉は、便利な一方でかなり幅が広い言葉です。ランサムウェア、フィッシング、不正アクセス、DDoS攻撃、脆弱性悪用、内部不正、ビジネスメール詐欺、国家支援アクターによる諜報活動まで、まとめてサイバー攻撃と呼ばれることがあります。

ただ、情報システム部門の現場から見ると、本当に重要なのは「攻撃の名前」ではありません。どこから入られたのか、何が止まったのか、どの情報が持ち出された可能性があるのか、復旧にどれだけ時間と費用がかかるのか、取引先や顧客にどこまで影響するのか。このあたりを見誤ると、インシデント対応は一気に後手に回ります。

近年の国内事例を見ても、KADOKAWA・ニコニコ動画へのランサムウェア攻撃、アサヒグループホールディングスの大規模な業務停止、アフラック生命保険の不正アクセスによる個人情報漏えい、はてなの特殊詐欺・不正送金事案など、被害の出方はかなり違います。さらに、楽天モバイル、快活CLUB、バンダイチャンネルをめぐる未成年者の不正アクセス事例では、生成AIが攻撃プログラムの作成や改良を助けたと報じられています。海外の公的機関も、AIがフィッシング、偵察、脆弱性探索、データ分析を速くし、攻撃の入口を広げると警告しています。企業の守り方は、もう「入口対策だけ」では足りません。

本記事では、サイバー攻撃の定義、種類、目的、国内外の事例、最新統計、国家支援脅威アクター、AIによって攻撃が簡易化している現実、未成年による不正アクセス事例、そして企業が現実的に取るべき対策を、情報システム部門の実務目線で整理します。

サイバー攻撃とは何かのサマリー

  • サイバー攻撃とは、情報システム、ネットワーク、クラウド、アカウント、人間の判断を悪用し、情報窃取、業務妨害、金銭詐取、社会的混乱などを引き起こす行為です。
  • 2026年時点の企業被害では、ランサムウェア、サプライチェーン攻撃、AIを悪用した詐欺、脆弱性悪用、標的型攻撃、地政学的リスクが同時に問題化しています。
  • 国内では、KADOKAWA、アサヒグループ、アフラック、はてななどの事例から、サイバー攻撃が情報漏えいだけでなく、決算、出荷、顧客対応、社内統制にまで影響することが分かります。
  • 国家支援脅威アクターは、政府機関や防衛産業だけでなく、通信、物流、技術企業、SaaS、研究機関、海外拠点を狙います。有事に備えた足場作り、諜報、制裁回避の資金獲得、影響工作が重なるため、一般企業にも無関係ではありません。
  • サイト内のインテリジェンス関連記事を見ると、Salt Typhoon、ロシアGRU、イラン系アクター、北朝鮮ITワーカー、ClickFixのように、国家支援アクターと犯罪エコシステムの境界が薄くなっています。
  • AIはサイバー攻撃を一気に万能化するというより、偵察、フィッシング文面、脆弱性探索、コード作成、窃取データ分析を速くし、これまで実装力が足りなかった層にも攻撃の入口を広げています。
  • 国内では、楽天モバイル、快活CLUB、バンダイチャンネルをめぐる未成年者の不正アクセス事例で、生成AIを使った攻撃プログラム作成や改良が報じられています。未成年だから被害が小さいわけではなく、数万件から数百万件規模の影響に発展し得ます。
  • 米FBIのIC3レポートでは、2025年のサイバー関連犯罪による米国内報告損失が約210億ドル規模に達し、AI関連の詐欺相談も独立した項目として扱われています。
  • Verizonの2026年版DBIRでは、侵害の31%がソフトウェア脆弱性から始まり、48%にランサムウェアが関与したとされ、脆弱性管理と復旧体制の重要性がさらに高まっています。
  • 企業の対策は、EDRやメールセキュリティだけでは不十分です。資産管理、MFA、バックアップ、委託先管理、ログ監視、送金統制、脆弱性対応、危機広報まで一つの流れで設計する必要があります。
観点 現在の見方 代表的な攻撃・事例 情報システム部門が見るべき点
金銭目的 最も一般的な動機。暗号化、恐喝、送金詐欺、認証情報販売が組み合わさる ランサムウェア、BEC、暗号資産詐取 バックアップ、MFA、送金承認、認証ログ確認
業務停止 情報漏えいより先に業務が止まるケースが多い KADOKAWA、アサヒグループ、医療機関への攻撃 復旧優先順位、代替業務、BCP、広報判断
情報窃取 個人情報、営業秘密、ソースコード、認証情報が二次被害に使われる アフラック、委託先経由の漏えい、クラウド設定不備 データ分類、権限管理、外部共有、委託先監査
サプライチェーン 自社ではなく委託先、SaaS、開発基盤、連携アプリから波及する 委託先経由の個人情報漏えい、OSS汚染 委託先契約、SBOM、SaaS棚卸、連携権限
人間の判断悪用 技術侵入がなくても被害が出る はてなの特殊詐欺・不正送金、フィッシング、ボイスフィッシング 通報文化、承認フロー、電話確認、例外処理の制御
脆弱性悪用 公開後すぐ悪用されるケースが増え、放置期間が短くなっている VPN、ルーター、ファイル転送製品、エッジ機器 KEV確認、外部公開資産棚卸、パッチ優先度
国家・地政学 戦争や外交対立と連動し、重要インフラ、通信、物流、研究機関、民間IT企業が狙われる Salt Typhoon、Volt Typhoon、ロシアGRU、イラン系アクター、北朝鮮LazarusやITワーカー 経済安全保障、重要情報の所在、海外拠点監視、通信機器・委託先の棚卸
AIの悪用 文面、音声、偽動画、偵察、脆弱性探索、攻撃コード作成補助が高速化する AIフィッシング、音声クローン、生成AIで作成・改良された攻撃プログラム、未成年者の不正アクセス事例 本人確認、AI利用ルール、重要操作の追加承認、脆弱性対応の短期化、若年層の倫理教育

サイバー攻撃とは

サイバー攻撃とは、コンピューター、ネットワーク、クラウドサービス、アプリケーション、アカウント、IoT機器などを狙い、情報の窃取、改ざん、破壊、暗号化、業務妨害、金銭詐取などを行う行為です。

昔ながらの説明では、サイバー攻撃は「システムの脆弱性を突く攻撃」とされることが多くありました。もちろん、それは今でも間違いではありません。ただ、現場で起きているインシデントを見ると、脆弱性だけが入口ではありません。使い回されたパスワード、退職者アカウント、放置されたVPN、クラウドの設定ミス、委託先の管理不備、経理担当者への電話、ビジネスチャット上の偽指示など、攻撃対象はシステムそのものから人と業務フローに広がっています。

サーバーサイドを見てきた立場で言えば、侵入口はいつも派手とは限りません。古い管理画面にベーシック認証だけが残っている、検証用サーバーが外部に出たままになっている、ログは出ているが誰も見ていない、SaaSの管理者権限が退職者に残っている。こうした地味な穴が、結果として大規模な漏えいや業務停止につながります。

つまり、サイバー攻撃とは「高度なハッキング」だけを意味する言葉ではありません。デジタル化された業務の弱い部分を突き、企業活動に実害を与える行為全体と捉えた方が実務には合っています。

2026年時点でサイバー攻撃を定義し直す

2026年時点のサイバー攻撃は、単に社内ネットワークへ侵入される問題ではなくなっています。クラウド、SaaS、委託先、開発環境、スマートフォン、ID基盤、生成AI、経理フロー、広報対応まで含めた「事業リスク」です。

IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、組織向け脅威の1位がランサム攻撃、2位がサプライチェーンや委託先を狙った攻撃、3位がAIの利用をめぐるサイバーリスク、4位がシステムの脆弱性を悪用した攻撃、5位が機密情報を狙った標的型攻撃です。ここで重要なのは、上位が単一の攻撃手法で並んでいるわけではない点です。ランサムウェアの入口が委託先やVPNであることもあれば、AIで作られたフィッシングメールが認証情報窃取につながることもあります。

このため、サイバー攻撃を「マルウェア」「不正アクセス」「DDoS」といった分類だけで見ると、今の被害構造をつかみにくくなります。実務では、次のように見た方が対応しやすいです。

攻撃者は、まず入口を探します。入口は脆弱性、認証情報、メール、電話、委託先、公開サーバー、SaaS連携などです。侵入後は、権限昇格、横展開、情報探索、データ持ち出し、暗号化、恐喝、資金移動、偽情報拡散のどれかに進みます。最後に被害企業側では、業務停止、情報漏えい、資金流出、行政報告、顧客対応、決算影響、株価・信用低下が発生します。

ここまでを一連の流れとして見ると、サイバー攻撃対策はセキュリティ製品の導入だけでは終わらないことが分かります。

サイバー攻撃が増えている背景

サイバー攻撃が増えている背景には、攻撃者側と企業側の両方の変化があります。

企業側では、クラウド、SaaS、リモートワーク、モバイル端末、API連携、外部委託が当たり前になりました。これは業務効率の面では大きなメリットですが、守るべき範囲は確実に広がります。社内LANの境界だけを守っていればよかった時代と違い、現在はID、端末、クラウド設定、委託先、外部公開資産を継続的に把握しなければなりません。

攻撃者側では、分業化が進んでいます。侵入を担当する初期アクセスブローカー、認証情報を売買する犯罪者、ランサムウェア運営者、交渉担当、資金洗浄担当が分かれています。攻撃者全員が高度な技術者である必要はなく、犯罪サービスを買えば一定水準の攻撃が実行できる構造になっています。

さらにAIの普及で、フィッシング文面、偽の音声、偽の本人確認資料、自然な日本語のメール、標的企業の調査が短時間で作れるようになりました。英国NCSCは、AIが少なくとも2027年までサイバー侵入の一部をより効率的にし、偵察、脆弱性研究、エクスプロイト開発、ソーシャルエンジニアリング、流出データの処理を押し上げると見ています。従来の「日本語が不自然だから見抜ける」という判断基準は、かなり危うくなっています。

もう一つ見落としやすいのが、復旧コストの増大です。以前は、マルウェア感染した端末を初期化して終わるケースもありました。現在は、クラウド認証、SaaS権限、バックアップ、取引先通知、個人情報保護委員会への報告、金融庁・総務省など所管官庁への対応、決算や適時開示まで関係します。攻撃そのものより、攻撃後の処理が企業体力を削るようになっています。

サイバー攻撃の主な目的

サイバー攻撃の目的は一つではありません。金銭目的が最も多い一方で、国家的な情報収集、業務妨害、社会的混乱、政治的主張、単なる嫌がらせもあります。

金銭目的の攻撃では、ランサムウェア、フィッシング、ビジネスメール詐欺、暗号資産詐取が代表的です。企業の業務データを暗号化して身代金を求めるだけでなく、先にデータを盗み、公開をちらつかせて交渉する二重恐喝型が一般化しています。最近では、暗号化せずにデータ窃取と恐喝だけを行う攻撃もあります。

情報窃取目的の攻撃では、設計図、研究データ、顧客情報、認証情報、ソースコード、営業秘密が狙われます。攻撃者にとって、個人情報は単発の売買だけで終わりません。フィッシング、なりすまし、アカウント乗っ取り、特殊詐欺の下準備にも使えます。

業務妨害目的の攻撃では、DDoS攻撃や破壊型マルウェアが使われます。ECサイト、金融機関、自治体、交通、医療、物流、メディアなどは、サービス停止そのものが社会的な影響を持ちます。数時間の停止でも、取引先対応やSNS上の批判、メディア報道に発展します。

国家・地政学目的の攻撃では、重要インフラ、通信、政府、研究機関、防衛産業、エネルギー、港湾、物流が狙われます。米CISAや英国NCSCなどの公的機関は、中国、ロシア、イラン、北朝鮮などの国家支援アクターに関する注意喚起を継続して出しています。国家支援アクターの攻撃は、単独の情報窃取だけでなく、有事に備えた足場作りや影響工作と結びつくことがあります。

サイバー攻撃の主な種類

サイバー攻撃には多くの種類がありますが、企業の実務で特に押さえるべきものを整理します。

ランサムウェアは、データやシステムを暗号化し、復旧と引き換えに金銭を要求する攻撃です。最近は暗号化だけでなく、窃取データの公開をちらつかせる二重恐喝が中心です。攻撃者がリークサイトに掲載する被害組織名やデータ量は、攻撃者側の一方的な主張であり、被害企業の公式発表や第三者調査と切り分けて扱う必要があります。

フィッシングは、実在する企業やサービスを装い、ID、パスワード、認証コード、クレジットカード情報などを入力させる攻撃です。メールだけでなく、SMS、SNS、広告、検索結果、電話、チャットに広がっています。MFAを入れていても、AiTM攻撃でセッションを奪われるケースがあり、フィッシング耐性のある認証方式が重要になっています。

ビジネスメール詐欺、いわゆるBECは、取引先や経営幹部になりすまして送金や機密情報提供を指示する攻撃です。米FBIのIC3では、BECを、送金業務に関わる企業や個人を狙い、メールアカウントだけでなく電話番号や仮想会議アプリなども悪用して不正送金を行う詐欺と整理しています。実務上は、技術的な侵入がなくても被害が成立する点が厄介です。

標的型攻撃は、特定の企業、政府機関、研究機関を狙って継続的に侵入を試みる攻撃です。防衛、先端技術、製薬、半導体、通信、エネルギーなどでは、単なる犯罪ではなく経済安全保障上の問題になります。セキュリティ対策Labの既報「標的型攻撃とは?仕組みや手口、事例を解説 – セキュリティ対策Lab」でも、APTや国家関与の可能性を含めた脅威として整理しています。

国家支援型攻撃は、標的型攻撃の中でも特に目的が読みづらい領域です。窃取された情報がすぐに金銭化されるとは限らず、数年後の外交交渉、制裁回避、軍事計画、サプライチェーン把握、世論工作に使われることがあります。ログ上は普通の認証情報の悪用や古い脆弱性の悪用に見えても、背後の目的が金銭目的の犯罪とはまったく違う場合があります。ここを見落とすと、侵害範囲の見積もりが甘くなります。

脆弱性悪用は、ソフトウェアや機器の欠陥を突く攻撃です。VPN、ファイル転送製品、ルーター、Webアプリ、CMS、エッジ機器は特に狙われやすい領域です。CISAのKnown Exploited Vulnerabilities Catalogは、実際に悪用が確認された脆弱性を管理するための重要な情報源であり、CVSSスコアだけでなく悪用実績を見て優先順位を決める必要があります。

DDoS攻撃は、大量の通信を送りつけてサービスを停止させる攻撃です。政治的主張や戦争・外交対立と連動して行われることもあり、近年はハクティビスト集団による攻撃の代表的な手法になっています。EC、金融、自治体、メディアは特に注意が必要です。

サプライチェーン攻撃は、委託先、取引先、SaaS、OSS、開発環境、保守業者を経由して被害が広がる攻撃です。自社のセキュリティが一定水準でも、連携先のアカウントやシステムが弱ければ、そこが入口になります。IPAの10大脅威でも、サプライチェーンや委託先を狙った攻撃は組織向け脅威の上位に位置付けられています。

国内事例から見るサイバー攻撃の被害

国内の過去事例を見ると、サイバー攻撃の被害は「情報漏えい」「システム停止」「金銭被害」「決算影響」の四つに分けて考えると理解しやすくなります。

KADOKAWA・ニコニコ動画への攻撃は、国内でサイバー攻撃が経営とサービス運営にどこまで影響するかを示した象徴的な事例です。セキュリティ対策Labの既報「ニコニコ動画やKADOKAWAへのサイバー攻撃のまとめ – セキュリティ対策Lab」では、2024年6月8日未明から複数サービスが利用できなくなり、ランサムウェアを含む大規模なサイバー攻撃であったことが整理されています。KADOKAWAの公式決算資料でも、国内紙書籍におけるサイバー攻撃影響や、サイバー攻撃に係る特別損失が発生したことが説明されています。これは、サイバー攻撃が情報システム部門だけでなく、出版、配信、教育、顧客対応、財務に波及することを示しています。

アサヒグループホールディングスの事例は、製造・物流・受注業務が止まる怖さを見せました。セキュリティ対策Labの既報「アサヒ グループホールディングス、2025年12月期決算を発表-純利益37%減、サイバー攻撃の影響は370億円弱 – セキュリティ対策Lab」では、2025年9月に発生したサイバー攻撃が受注・出荷・コールセンター業務に影響し、決算にまで波及した経緯が整理されています。ランサムウェアグループQilinによる犯行主張は攻撃者側の一方的な主張として扱う必要がありますが、業務停止と財務影響が現実に大きかった点は重く見なければなりません。

アフラック生命保険の事例は、大量の個人情報が漏えいした後の二次被害リスクを考えるうえで重要です。セキュリティ対策Labの既報「アフラック 生命保険、不正アクセスで約438万人の顧客の個人情報漏洩-約23万人は保険料振替口座情報も対象 – セキュリティ対策Lab」では、契約者専用サイト等への不正アクセスにより、大規模な顧客情報漏えいが公表された経緯を扱っています。保険会社の情報は、氏名や連絡先だけでなく、契約内容や口座情報と結びつきやすいため、単なる迷惑メールの増加では済みません。今後のフィッシング、なりすまし、電話詐欺の精度を高める材料になり得ます。

はてなの特殊詐欺・不正送金事案は、サイバー攻撃を「システム侵入」とだけ見ていると見落とすタイプの被害です。セキュリティ対策Labの既報「はてな、BEC詐欺による不正送金 被害で最大損失額1,179百万円 確定—当期純損失767百万円へ転落 – セキュリティ対策Lab」では、システムへの不正侵入ではなく、人が巧妙にだまされて送金操作を実行した点が本質として整理されています。警察関係者などを名乗る電話を起点にしたボイスフィッシング型の特殊詐欺として見れば、経理部門もサイバー攻撃の標的であることが分かります。

楽天モバイルをめぐる不正アクセス事例は、AIによって若年層でも攻撃の実装に近づけてしまう現実を示しました。セキュリティ対策Labの既報「生成AIを悪用して楽天モバイルへ不正アクセスをした中高生 3人を逮捕 – セキュリティ対策Lab」では、中高生が流出したID・パスワードを利用し、生成AIで作成したプログラムを用いて不正ログインを繰り返したと報じられた経緯を扱っています。楽天モバイルの公式公表でも、2025年2月に社外で取得されたID・パスワードを用いた不正アクセスにより、対象顧客の情報が不正アクセス者から閲覧可能になった事象が説明されています。これは、高度な侵入技術よりも、認証情報の流通、アカウント保護、契約審査、自動化検知が問題の中心になる事例です。

快活CLUBの事例も同じ流れで見た方がよいです。セキュリティ対策Labの既報「生成AIを悪用して快活CLUBに不正アクセスした高2男子が再逮捕 – セキュリティ対策Lab」では、警視庁が高校生の少年について、生成AIを使って自作プログラムを改良し、公式アプリのサーバーへ不正アクセスしたとみて調べていることを整理しています。会員情報約729万件の漏えい可能性が報じられた文脈で見ると、未成年者の「腕試し」や承認欲求が、企業側には大規模な個人情報リスクとして跳ね返ることが分かります。

バンダイチャンネルの事例では、影響の出方がさらに分かりやすく出ました。セキュリティ対策Labの既報「バンダイチャンネルへ不正アクセスした当時中学生の少年を逮捕-生成AIで自作のプログラムを完成させる – セキュリティ対策Lab」では、警視庁が高校1年の男子生徒を偽計業務妨害容疑で逮捕し、対話型生成AIを使って自作したプログラムにより、多数の会員アカウントを退会処理させたとみられる経緯を取り上げています。この事例は、情報漏えいの有無だけでなく、アカウント状態を勝手に変更されること自体がサービス停止、顧客対応、復旧作業につながることを示しています。

これらの事例に共通しているのは、攻撃の入口が違っても、最後は事業継続と信用の問題になることです。情報システム部門は、端末を守るだけでなく、事業部門、経理、法務、広報、経営層と同じ絵を見ておく必要があります。

海外の公的統計が示すサイバー攻撃の現実

海外の公的統計や調査を見ると、サイバー攻撃は一部の大企業だけの問題ではありません。

米FBIの2025年IC3レポートでは、サイバー関連犯罪による米国内の報告損失が約210億ドル規模に達し、苦情件数は100万件を超えました。フィッシング・なりすまし、恐喝、投資詐欺が多く報告され、AI関連の項目では、偽のSNSプロフィール、音声クローン、偽の身分証、著名人や家族を装う動画などが使われていると説明されています。これは、サイバー攻撃が技術侵入だけでなく、詐欺・なりすまし・心理操作と一体化していることを示しています。

Verizonの2026年版Data Breach Investigations Reportでは、侵害の31%がソフトウェア脆弱性から始まり、48%にランサムウェアが関与したとされています。個人的に注目すべきだと思うのは、脆弱性悪用が盗まれた認証情報を上回る入口として扱われている点です。ここ数年、MFA導入やID管理の重要性が強調されてきましたが、それだけでは足りません。外部公開資産の棚卸、パッチ適用、保守切れ製品の排除が、改めて前面に出ています。

EUのENISA Threat Landscape 2025では、2024年7月から2025年6月までの4,875件のインシデントを分析し、脅威グループがツールや手法を再利用し、新しい攻撃モデルを導入し、脆弱性を悪用しながらEUのデジタルインフラを狙っていると説明しています。欧州では、DDoS攻撃やハクティビスト活動、国家連動型の攻撃も大きなテーマです。

米CISAは、Known Exploited Vulnerabilities Catalogを、実際に悪用された脆弱性を管理するための情報源として維持しています。これは、すべての脆弱性を同じ優先度で見るのではなく、「すでに攻撃で使われているもの」から潰すという考え方です。現場ではCVSSの高低だけで判断しがちですが、攻撃者が今使っているかどうかを見ないと、限られた人員で守る優先順位を間違えます。

英国NCSCのAnnual Review 2025でも、敵対的な国家、サイバー犯罪者、AIサイバー能力の拡散、攻撃面の拡大が課題として扱われています。海外の公的機関のメッセージはかなり一貫しています。サイバー攻撃は技術部門だけの問題ではなく、国家安全保障、経済安全保障、社会インフラ、企業統治の問題になっています。

国家支援脅威アクターの事例

サイバー攻撃を企業リスクとして見るとき、国家支援脅威アクターを特別扱いしすぎるのも、逆に無視するのも危険です。特別扱いしすぎると「うちは防衛産業ではないから関係ない」という話になりがちです。無視すると、通信機器、海外拠点、委託先、研究情報、経営メール、物流情報のように、国家が本当に欲しがる情報を見落とします。

米国家情報長官室の2026年版年次脅威評価では、中国、ロシア、イラン、北朝鮮、非国家ランサムウェアグループが、米政府・民間企業・重要インフラのネットワーク侵害を通じて、情報収集、将来の妨害オプションの確保、金銭獲得を狙い続けると整理されています。この表現は、かなり重要です。国家支援アクターの目的は、今日データを盗んで明日売ることだけではありません。有事や外交対立が起きたときに使える経路を、平時から作っておくという考え方が含まれます。

中国系アクターでは、Salt TyphoonとVolt Typhoonの扱いが象徴的です。Salt Typhoonについては、米NSA、CISA、FBI、日本の関係機関などが、中国政府支援のAPTが通信事業者やネットワークサービス事業者のルーター、バックボーン、エッジ機器を狙って長期的に侵害していたとして共同注意喚起を出しています。セキュリティ対策Labの既報「米国や日本、中国の国家支援 サイバー攻撃 集団 ソルト・タイフーンの注意喚起」でも整理した通り、ポイントはゼロデイの派手さではなく、既知脆弱性、古いネットワーク機器、設定不備、信頼接続を使って通信インフラの中に入り込む点にあります。

Volt Typhoonも同じ流れで見た方がよいです。米国などの公的機関は、Volt TyphoonがLiving off the Land、つまり正規の管理ツールやOS標準機能を使って検知を避け、重要インフラ環境に事前配置されていたと説明しています。マルウェアファイルを検知するだけの防御では見つけにくく、管理者操作との違いをログから見抜く必要があります。通信、エネルギー、水道、交通のような重要インフラだけでなく、その保守業者や部品・ソフトウェア供給企業も、同じ攻撃経路に含まれます。

ロシア系アクターでは、ウクライナ戦争と連動した標的化が分かりやすい事例です。2025年、NSA、CISA、FBIなどは、ロシア軍参謀本部情報総局、いわゆるGRUの部隊26165が、ウクライナ支援に関わる西側の政府組織、物流企業、輸送サービス、技術企業を標的にしていたとして共同注意喚起を出しました。ここで狙われたのは、前線の軍事ネットワークだけではありません。支援物資の移動、技術提供、輸送、契約、調整に関わる民間企業です。

イラン系アクターでは、重要インフラへの認証情報攻撃と、イスラエル・米国・周辺国を意識した影響工作が並行します。NSA、FBI、CISAなどは、イラン系アクターがブルートフォースやパスワードスプレーで医療、公的機関、IT、エネルギーなどの重要セクターへアクセスしていたと注意喚起しています。さらにIRGC関連とされるCyberAv3ngersについては、PLCなど産業制御系機器への侵害が米国水道施設を含む複数セクターで確認されています。セキュリティ対策Labの既報「国家とハッカー/ランサムウェア グループの結託-ロシア・中国・イランによるサイバーグレーゾーン戦略と日本企業への示唆」で扱ったように、イランのサイバー活動は国家直轄部隊だけで完結せず、民間ハッカー、代理勢力、信条に基づくハクティビストが重なる形で見た方が現実に近いです。

北朝鮮系アクターは、諜報と金銭獲得が強く結びついています。国連安保理の専門家パネルが北朝鮮による暗号資産関連企業への攻撃を調査してきたことは、セキュリティ対策Labの既報「北朝鮮が58件のサイバー攻撃で約30億ドルを巻き上げたと国連委員会が発表」でも取り上げました。米FBIも、北朝鮮ITワーカーが米国企業などに入り込み、収益獲得や機密情報へのアクセスに使われるリスクを繰り返し警告しています。Web3、暗号資産、ゲーム、SaaS、受託開発、フリーランス採用を行う企業では、これは他人事ではありません。

ここで大事なのは、国家支援アクターの攻撃を「高度なゼロデイ攻撃」とだけ考えないことです。実際には、古いルーター、VPN、パスワード再利用、委託先アカウント、メール転送ルール、クラウド権限、求人応募、GitHub、個人用メール、メッセージアプリのバックアップなど、現場でよくある弱点が使われます。高度なのは侵入方法そのものではなく、標的選定、長期潜伏、目的の一貫性、情報の使い道です。

戦争時のサイバー空間で民間企業が狙われる理由

戦争時のサイバー攻撃は、相手国の政府機関だけを狙うわけではありません。むしろ現代の戦争では、通信、物流、クラウド、衛星、金融、報道、エネルギー、医療、港湾、保険、ソフトウェア開発会社のような民間企業が、国家の継戦能力や社会の維持に直結します。サイバー空間では、この境界がかなり曖昧です。

ロシアによるウクライナ侵攻以降、ウクライナ支援に関わる物流・技術企業が狙われたことは、その典型です。攻撃者にとって、軍のネットワークへ直接入るよりも、物資輸送の調整、契約、配送、保守、支援システムに関わる民間企業を侵害する方が現実的な場合があります。メールを盗めば、どの企業が何を運んでいるか分かります。認証情報を盗めば、支援ルートや連絡網が見えます。カメラやルーターを奪えば、周辺情報を取れる可能性もあります。

中東でも同じ構図があります。イスラエルとイランの緊張が高まると、政府機関や軍だけでなく、医療、交通、法律事務所、会計事務所、中小企業が標的になり得ます。セキュリティ対策Labのインテリジェンス記事で扱った通り、戦時のサイバー活動は、破壊、諜報、威嚇、宣伝、報復の境界がはっきりしません。表向きはハクティビストのDDoS攻撃に見えても、背後に国家の黙認や誘導がある場合もあります。

日本企業にとっての問題は、日本が直接の戦場でなくても、サプライチェーン上の役割によって標的に入る点です。台湾有事、朝鮮半島情勢、中東情勢、ウクライナ支援、対中規制、半導体輸出管理、海底ケーブル、クラウド基盤、防衛装備品、港湾物流。このどれかに関わる企業は、規模に関係なく、国家支援アクターの情報収集対象になり得ます。

この視点で見ると、サイバー攻撃対策は、EDRやメール訓練だけでは足りません。どの事業、どの顧客、どの国、どの技術、どの取引先が地政学リスクに接続しているのかを、経営企画、法務、輸出管理、調達、情報システム部門で共有する必要があります。サイバー攻撃をセキュリティ部門の問題に閉じ込めるほど、国家支援アクターの標的選定を読み誤ります。

インテリジェンス記事から見える補助線

セキュリティ対策Labのインテリジェンスカテゴリーを横断して見ると、サイバー攻撃を理解するうえで三つの補助線が見えます。

一つ目は、国家と犯罪グループの距離が近づいていることです。国家が自国のサイバー部隊だけで攻撃するとは限りません。ランサムウェアグループ、民間ハッカー、犯罪インフラ、PhaaS、初期アクセスブローカー、暗号資産ロンダリングが、国家目的の活動と接続する場面があります。これは「国家がすべてを命令している」という単純な話ではなく、黙認、利用、便乗、委託、利害の一致が混ざるグレーゾーンです。

二つ目は、通信機器とエッジ機器がインテリジェンス資産になっていることです。セキュリティ対策Labの「なぜ企業や公的機関は中国 製 Webカメラやルーターなどの通信機器を排除する必要があるのか」や「CISAがサポート 終了 済みのルーターやファイアウォールを排除する指令」で扱った論点は、単なる機器更新の話ではありません。古いルーター、監視カメラ、VPN装置、ファイアウォールは、攻撃者から見ると長期潜伏と横展開の足場になります。

三つ目は、犯罪者が使い始めた手法が国家支援アクターへ流れることです。既報「国家支援 ハッカーがサイバー攻撃に「ClickFix」を採用-新たなソーシャルエンジニアリング 手法の解説」で取り上げたClickFixは、利用者自身にコマンドを実行させる手口です。これはマルウェア検知をすり抜ける技術というより、人間の操作を攻撃チェーンに組み込む発想です。国家支援アクターがこうした手法を取り入れると、外交官、研究者、記者、開発者、経理担当者が、自然なやり取りの中で侵害の入口にされます。

インテリジェンス記事から得られる一番の教訓は、サイバー攻撃を技術だけで分類しない方がよいということです。同じフィッシングでも、犯罪者がクレジットカードを盗む攻撃と、国家支援アクターが外交文書を狙う攻撃では、調査範囲も報告先も再発防止策も変わります。同じルーターの脆弱性悪用でも、ボット化してDDoSに使う攻撃と、通信事業者ネットワークに長期潜伏する攻撃では、見るべきログも違います。

AI時代のサイバー攻撃

AIは防御側にも攻撃側にも使われます。ここを一方的に怖がる必要はありませんが、現場の見方は変えるべきです。

防御側では、ログ分析、脆弱性検出、マルウェア解析、メール分類、SOC運用の補助、コードレビューなどにAIが使われ始めています。大量のアラートを人間だけで見るのは限界があり、AIが一次整理を担う流れは自然です。米国DARPAのAI Cyber Challengeや、OpenAI、Google、Anthropicなどの研究開発を見ても、AIを脆弱性発見や修正支援に使う動きは本格化しています。ここだけ見れば、AIは防御側にとって大きな武器です。

問題は、攻撃側も同じように使うことです。英国NCSCは2024年の評価で、AIがサイバー攻撃の量を増やし、影響を高める可能性が極めて高いとし、特に偵察、ソーシャルエンジニアリング、フィッシング、パスワード攻撃、流出データ分析に効くと評価しました。2025年の評価では、2027年までにAIがサイバー侵入の一部をより効率的にし、脆弱性研究やエクスプロイト開発、既知脆弱性の悪用を速めるとしています。これは「AIが完全自動で高度な攻撃を全部やる」という話ではありません。むしろ、既存の攻撃工程の面倒な部分が短くなり、試行回数が増えるという話です。

ここは、サーバーやネットワークを見てきた人間ほど危機感を持つところだと思います。脆弱性そのものは昔からあります。ただ、攻撃者が外部公開資産を探し、バージョンを推測し、攻撃対象を絞り込むまでの時間が短くなると、パッチ適用の猶予が削られます。以前は「月例パッチの後で様子を見てから」と言えたものが、VPN、ファイアウォール、ファイル転送製品、管理画面の脆弱性では通用しづらくなっています。AIで偵察が速くなるということは、情シス側の棚卸しの遅れがそのまま攻撃者の優位になるということです。

OpenAIは、国家関連アクターによるAI悪用の調査で、中国関連、イラン関連、北朝鮮関連、ロシア関連のアクターが、企業調査、セキュリティツール調査、コードのデバッグ、スクリプト生成、フィッシング向け文面作成にAIを使おうとしていたと説明しています。2025年の悪用対策レポートでも、脅威アクターがAIでまったく新しい攻撃を得たというより、従来の手口にAIを継ぎ足して速く動こうとしている、という見方が示されています。Anthropicも、AIの悪用事例として、北朝鮮の不正就労スキーム、恐喝、基礎的なコーディング能力しかない人物によるランサムウェア作成支援などを報告しています。

この変化は、国家支援アクターだけの話ではありません。国内の未成年者による不正アクセス事例を見ると、AIが「実装力の不足」を埋める方向に働いています。楽天モバイルの事例では、流出ID・パスワードを使った不正ログインと、生成AIで作成したプログラムによる自動化が報じられました。快活CLUBの事例では、生成AIで自作プログラムを改良した疑いが報じられました。バンダイチャンネルの事例では、当時中学生だった少年が生成AIで攻撃プログラムを完成させ、多数の会員アカウントの退会処理につながったとされています。

ここで誤解してはいけないのは、AIだけが原因ではないことです。流出認証情報が大量に売買されていること、パスワード使い回しが残っていること、MFAやパスキーが徹底されていないこと、異常なログインや大量処理を止める仕組みが弱いこと、アプリやAPIの権限設計に甘さがあること。これらが揃ったところにAIが入ると、攻撃のテンポが上がります。つまり、AIは火種ではなく、火の回りを速くする風に近い存在です。

企業側の対策も、AI検知ツールを入れれば終わりではありません。AIで作られた自然な詐欺メールを従業員が見分けるのは難しいため、送金承認、本人確認、管理者権限の付与、SaaS連携の承認、大量退会・大量変更・大量発行のような重要操作に、人間以外の制御を入れることが重要です。たとえば、通常と異なるIPや端末からのログイン後に大量処理が発生したら止める、ID・パスワードだけで契約や発行を完了させない、短時間に連続するAPI操作を制限する、重要操作には再認証やリスクベース認証を求める、といった設計です。

国際的な警告も、結論はこの方向に近づいています。英国NCSCは、AIで攻撃が進化しても多くの被害は基本的なサイバー衛生の弱さから始まると見ています。EuropolのIOCTA 2026も、暗号化、プロキシ、AIがサイバー犯罪を拡張しているとし、犯罪者がデータを盗み、売り、再利用する循環を強めていると説明しています。日本でも国家サイバー統括室などが、AI性能の高度化を踏まえたサイバーセキュリティ対策強化、いわゆるProject YATA-Shieldを取りまとめ、重要インフラ事業者やソフトウェアベンダに対して、基本対策、多層防御、脆弱性対応、インシデント時の備えを求めています。

AI時代のサイバー攻撃対策は、「AI対AI」の派手な話だけではありません。むしろ現場では、外部公開資産を漏らさない、既知脆弱性を短期間で潰す、認証を強くする、大量処理を止める、ログを横断して見る、若年層や委託先も含めた倫理教育を行う、といった地味な対策が効きます。AIで攻撃が簡単になる時代ほど、基本対策を自動化し、例外運用を減らし、検知から止血までの時間を短くする必要があります。

過去事例から見える独自の読み解き

セキュリティ対策Labの過去記事を横に並べると、近年のサイバー攻撃にはいくつかの共通点が見えます。

一つ目は、攻撃者が「最も守られている本丸」ではなく「周辺」を狙っていることです。委託先、連携アプリ、GitHub、SaaS、VPN、保守用アカウント、経理担当者、サポート窓口などです。これは、ネットワーク設計でいうところの境界が崩れている状態に近いです。社内と社外の境目が薄くなった分、資産台帳や権限台帳の精度がそのまま防御力になります。

二つ目は、被害の中心が「情報漏えい」から「業務停止と信用毀損」に広がっていることです。KADOKAWAやアサヒのように、サイバー攻撃がサービス停止、出荷停止、決算延期、特別損失につながると、情報システム部門だけで片付けられる話ではありません。経営会議で扱うべきリスクです。

三つ目は、攻撃者の一方的な主張と企業公式発表を分けて読む必要があることです。ランサムウェアグループがリークサイトに掲載する情報は、交渉や威圧のために誇張される場合があります。一方で、企業発表は調査中のため限定的な表現になる場合があります。どちらか一方だけを見ると判断を誤ります。セキュリティ対策Labのランサムウェア関連記事では、攻撃者側の主張を確定事実として扱わず、公式発表やサンプルデータの有無と切り分ける方針を取っています。

四つ目は、資金被害と情報漏えいがつながり始めていることです。アフラックのような大規模情報漏えいは、後日のフィッシングや電話詐欺に使われる可能性があります。はてなのような不正送金事案では、最初の接触が電話やチャットであっても、背景には組織情報や役職、承認フローの把握がある可能性があります。情報漏えいと詐欺被害は別々の問題ではなく、同じ犯罪エコシステムの中でつながっています。

五つ目は、対策の中心が「防ぐ」から「止める、広げない、戻す」に移っていることです。もちろん侵入を防ぐことは大切です。しかし、すべてを防げる前提で設計すると、侵入後に弱くなります。管理者権限の分離、バックアップの隔離、ログの保全、緊急時の連絡網、外部専門家との契約、広報文の雛形、顧客通知の手順まで整えておく必要があります。

六つ目は、国家支援アクターの事例を国内企業のリスクに翻訳する必要があることです。Salt Typhoonの記事を通信キャリアだけの話として読むと、読み取りが浅くなります。ロシアGRUの物流・技術企業標的化をウクライナ支援企業だけの話として読むのも同じです。日本企業が海外拠点、クラウド、SaaS、物流、研究開発、半導体、防衛、医療、通信に関わる限り、国家支援アクターの標的選定に入る可能性があります。

七つ目は、インテリジェンス情報を日々の運用へ落とす役割が必要になることです。国家支援アクターの記事を読んでも、現場の設定変更に落ちないなら意味がありません。たとえば、Salt Typhoonならネットワーク機器の棚卸と管理経路の分離、ClickFixならPowerShell実行制御と利用者教育、北朝鮮ITワーカーなら採用・委託時の本人確認と開発環境への権限設計、ロシアGRUなら海外拠点と物流・メール環境の監視強化、という形で翻訳します。

八つ目は、AI悪用を「高度な攻撃者だけの問題」と見ないことです。セキュリティ対策Labのバンダイチャンネル、楽天モバイル、快活CLUBの既報を並べると、未成年者が生成AIを使って攻撃プログラムを作成・改良したとされる事例が続いています。これらは国家支援アクターのような高度な作戦ではありません。それでも、企業側には大量退会、情報漏えい可能性、契約不正、顧客対応、行政対応が発生します。つまり、AIによる攻撃簡易化は、標的型攻撃やランサムウェアだけでなく、身近なWebサービス、会員基盤、モバイル契約、API設計にも直撃します。

サイバー攻撃を受けたときの初動

サイバー攻撃を受けた可能性があるとき、最初にやるべきことは「原因を完全に突き止めること」ではありません。被害拡大を止め、証拠を消さず、関係者の動きを揃えることです。

不審な通信、暗号化、管理者アカウントの異常ログイン、見覚えのない転送ルール、EDRアラート、顧客からの不審メール報告が出た場合、対象端末やサーバーをむやみに再起動しない方がよい場面があります。メモリ上の情報やログが消えることがあるためです。一方で、ランサムウェアが広がっている場合はネットワーク隔離を急ぐ必要があります。この判断は難しいため、あらかじめインシデント対応手順を作り、誰が判断するか決めておくべきです。

初動で混乱しやすいのは、情報の出し方です。社内には「何が起きているか」「何をしてはいけないか」「誰に報告するか」を短く伝える必要があります。外部には、事実確認前に断定しすぎないことが大切です。攻撃者名、漏えい件数、原因、復旧時期を早く言い切ってしまうと、後で訂正が難しくなります。

個人情報漏えいの可能性がある場合は、個人情報保護委員会への報告要否を確認します。金融、通信、医療、教育、自治体、上場企業では、所管官庁や証券取引所、取引先への報告も関係します。法務、広報、経営層を早い段階で巻き込まないと、技術対応は進んでも対外対応が遅れます。

サイバー攻撃への対策

サイバー攻撃対策は、単体の製品導入ではなく、重ね合わせで考える必要があります。現場で効果が出やすい順に整理します。

資産管理は、最初にやるべき対策です。外部公開サーバー、VPN、ルーター、クラウドアカウント、SaaS、管理者アカウント、委託先接続、APIキー、GitHubリポジトリ、検証環境を棚卸しします。守る対象が分からなければ、脆弱性管理も監視も成り立ちません。

認証強化では、管理者アカウント、メール、VPN、クラウド、SaaSにMFAを必ず適用します。ただし、SMSやプッシュ承認だけに頼ると、フィッシングやAiTM攻撃に弱い場合があります。重要アカウントから、FIDO2セキュリティキー、パスキー、証明書ベース認証など、フィッシング耐性のある方式へ移行する計画を立てるべきです。

脆弱性管理では、CVSSだけでなく、悪用実績、外部公開有無、認証不要で悪用可能か、攻撃コードの流通有無、業務重要度を合わせて優先順位を決めます。CISA KEV、JPCERT/CC、JVN、IPA、ベンダー公式情報を定期的に確認し、VPNやエッジ機器は特に短い期限で対応します。AIによる偵察や既知脆弱性探索が速くなる前提では、月次だけでなく、外部公開資産については緊急度の高い脆弱性を日次に近い頻度で確認する運用も検討すべきです。

バックアップは、存在するだけでは足りません。ランサムウェアに同時に暗号化されない場所に保存し、復元テストを行い、業務システムごとの復旧時間を把握します。バックアップから戻せると思っていたが、実際には認証基盤やDNS、SaaS連携が戻らず業務が再開できない、ということは十分に起こります。

メール・Web対策では、SPF、DKIM、DMARC、URLフィルタリング、添付ファイル検査、サンドボックス、なりすましドメイン監視を組み合わせます。ただし、完全に止めることはできません。従業員が不審なメールを報告しやすいボタンや窓口を用意し、報告した人を責めない文化が必要です。

ログ監視では、EDR、SIEM、IDログ、クラウド監査ログ、メール監査ログ、VPNログをつなげて見ます。攻撃者は一つのログだけでは目立たないように動くため、メールログでは見えない不審なOAuth許可、VPNログでは見えないSaaS内の権限変更などを横断的に追う必要があります。未成年者による不正アクセス事例のように、攻撃者の肩書や年齢と被害規模は比例しません。短時間の大量ログイン、大量API実行、大量退会、大量契約、大量プロフィール変更など、サービスの仕様を悪用した異常操作を検知・停止できるかを確認します。

送金統制では、情報システム部門だけでなく経理・財務と連携します。高額送金、口座変更、緊急送金、海外送金、役員指示、警察・弁護士・金融機関を名乗る連絡は、必ず別経路で確認するルールを作ります。ここは技術対策ではなく業務統制ですが、被害額を考えると非常に重要です。

委託先管理では、契約書にセキュリティ要件、事故時の報告期限、ログ保全、再委託条件、脆弱性対応、アクセス権限、データ返却・削除を入れます。SaaSや外部ツールについても、誰が管理者か、どのデータへアクセスできるか、退職・異動時に権限が消えるかを確認します。

よくある質問

Q. サイバー攻撃と不正アクセスは同じですか?

A. 同じではありません。不正アクセスはサイバー攻撃の一部です。サイバー攻撃には、不正アクセスのほか、ランサムウェア、DDoS攻撃、フィッシング、BEC、脆弱性悪用、内部不正、情報戦などが含まれます。詳しくは「不正アクセスとは-定義・件数・手口・目的・防止策を専門家が解説 – セキュリティ対策Lab」も参考になります。

Q. 中小企業でも国家支援アクターに狙われますか?

A. 直接の最終標的ではなくても、取引先、委託先、踏み台として狙われることがあります。特に製造、防衛、半導体、医療、研究、通信、物流、エネルギーに関わる企業は、規模だけで安全とは言えません。経済安全保障の観点では、自社がどのサプライチェーンに組み込まれているかを見る必要があります。

Q. MFAを入れればフィッシング被害は防げますか?

A. 被害を大きく減らす効果はありますが、万能ではありません。SMS、TOTP、プッシュ承認は、攻撃者にリアルタイムで入力させられたり、セッションを盗まれたりすることがあります。重要アカウントでは、フィッシング耐性のあるMFAへ段階的に移行する方が安全です。

Q. ランサムウェア対策で最も重要なものは何ですか?

A. 一つだけ選ぶなら、復元可能なバックアップです。ただし、バックアップだけでも足りません。侵入経路を塞ぐMFAと脆弱性管理、被害拡大を抑える権限分離、検知するログ監視、復旧判断をするインシデント対応体制がセットで必要です。

Q. サイバー保険に入れば十分ですか?

A. 十分ではありません。サイバー保険は費用負担を軽減する手段ですが、業務停止、顧客信用、行政対応、復旧遅延を直接解決するものではありません。保険加入時に求められるセキュリティ要件を、自社の最低基準として活用するのが現実的です。

Q. AIによってサイバー攻撃は本当に簡単になっていますか?

A. 完全自動で高度な攻撃が誰でもできる、という意味ではありません。一方で、偵察、フィッシング文面、コード作成、脆弱性探索、流出データの整理は明らかに速くなっています。国内でも、未成年者が生成AIで攻撃プログラムを作成・改良したとされる不正アクセス事例が報じられており、実装力の不足をAIが補う場面は現実に出ています。企業側は、AIそのものを恐れるより、認証、権限、大量操作検知、脆弱性対応の遅れを潰す方が効果的です。

情報システム部門への示唆

情報システム部門が今すぐ見直すべきことは、最新の攻撃名を覚えることではありません。自社の弱い場所を、攻撃者の目線で並べ直すことです。

外部公開資産の棚卸しは、すぐに着手すべきです。VPN、リモートデスクトップ、ファイル転送製品、古いCMS、検証環境、クラウドストレージ、管理画面、APIエンドポイントを洗い出します。台帳にない資産は、監視にもパッチにも載りません。

管理者アカウントと重要SaaSのMFAは、例外をなくす方向で進めます。経営層、情シス、経理、広報、人事、開発管理者は優先度が高いです。退職者アカウント、共有アカウント、外部委託先アカウントも棚卸しします。

バックアップは、復元テストまで行います。バックアップが存在することと、業務が戻ることは別です。ランサムウェアを想定し、認証基盤、ファイルサーバー、基幹システム、メール、DNS、クラウド設定をどう戻すか確認します。

経理・法務・広報と合同で、送金詐欺と情報漏えいの訓練を実施します。はてなの事例のように、システム侵入がなくても巨額の被害は起きます。高額送金や口座変更の確認手順は、セキュリティ教育よりも強い防御になります。

委託先とSaaSの管理も見直します。サプライチェーン攻撃は、自社だけで完結しません。契約、権限、ログ、再委託、事故時連絡、データ削除を確認し、重要委託先とは机上演習まで行うべきです。

国家支援アクターの観点では、海外拠点、研究開発部門、経営メール、通信機器、クラウド管理者、委託開発先を別枠で見直します。重要情報を扱う部署では、個人メールや私用チャットでの業務連絡を禁止するだけでなく、例外が起きる業務実態も確認します。禁止していても現場が使っているなら、そこが侵入口になります。

ネットワーク機器は、端末より後回しにされがちですが、国家支援アクターの事例ではむしろ主戦場になっています。ルーター、ファイアウォール、VPN、監視カメラ、ロードバランサー、メールゲートウェイ、リモート管理装置について、サポート期限、管理画面の公開状態、管理者認証、設定バックアップ、ログ保存期間を確認します。

地政学リスクに関わる事業を持つ企業では、経営企画、法務、輸出管理、調達、情報システム部門が同じ地図を見る必要があります。どの国の顧客、どの技術、どの取引先、どの物流経路が狙われ得るのかを整理しないまま、セキュリティ製品だけを増やしても、国家支援アクターの標的選定には追いつきません。

AIによる攻撃簡易化については、社内AI利用ルールだけでは足りません。外部公開資産の棚卸しをAI時代の前提で短期化し、既知脆弱性の修正期限を見直し、ログ監視では大量ログインや大量API操作を重点的に見る必要があります。若年層や個人がAIを使って攻撃を成立させる事例が出ている以上、攻撃者像を「高度な犯罪組織」だけに固定しない方が安全です。サービス側では、無料会員基盤やキャンペーンサイトであっても、契約、退会、メールアドレス変更、パスワード再設定、eSIM発行、ポイント移転のような操作を重要処理として扱い、リスクベース認証やレート制限を入れるべきです。

最後に、サイバー攻撃を情報システム部門だけの責任にしないことが重要です。実際の被害は、顧客対応、出荷、決算、株主、行政、取引先に広がります。情シスは技術対応の中心ですが、インシデント対応の責任は会社全体で持つものです。経営層がこの前提を理解しているかどうかで、被害時の動きは大きく変わります。

出典