
サイバー攻撃とは、インターネットやネットワークを介して、組織や個人の情報システムに対して不正なアクセスや操作を行う行為を指します。近年、企業活動のデジタル化が進む中で、サイバー攻撃の手法はますます巧妙化・多様化しています。このような背景により、情報セキュリティ担当者にとって、サイバー攻撃への理解と対策は極めて重要な課題となっています。この記事ではサイバー攻撃とは?を意味や種類、対策などを解説します。
目次
サイバー攻撃とは
サイバー攻撃とは、ネットワークを通じて情報システムやデータに対して行われる不正な行為の総称です。
攻撃者は、個人情報や機密情報の窃取、システムの破壊、サービスの妨害など、さまざまな目的で攻撃を仕掛けます。これらの攻撃は、企業の信用失墜や経済的損失、法的問題を引き起こす可能性があり、適切な対策が求められます。
サイバー攻撃が起こる背景
サイバー攻撃が増加・多様化している背景には、以下の要因が考えられます。
デジタル化の進展
スマホの浸透やコロナ以降に急速に広まったDXやIT化の潮流で、個人・法人ともにインターネットに接続する機会が増えており、サイバー攻撃者にとって魅力的な標的が増加しています。
攻撃手法の高度化
攻撃者は新たな手法やツールを開発し、従来のセキュリティ対策を回避する能力を高めています。
ダークウェブではDDoS攻撃を代行するサービスやサイバー攻撃の環境をSaaSで提供するRaaS、脆弱性を買い取り、マルウェアの開発とサイバー攻撃は別々に実施する分業制の確立などが既に確認されています。
地政学的背景
21世紀では戦争行為は世界的に批判されるため、戦争は発生せず低強度の紛争が増加しています。
ウクライナ・ロシア戦争ですら、ロシアは「特別軍事作戦」としています。
低強度紛争では放火を交えないサイバー攻撃は、敵国の士気を効率的に下げ、インフラを破壊する最適な戦術の1つであり、ロシアも積極的に活用しています。
サイバー攻撃の目的
サイバー攻撃の目的は以下です。
標的の国家を「弱体化、混乱、あるいは破壊」する目的
戦争の手段の1つとして、サイバー空間での攻防も活発化しています。
例えばウクライナ戦争ではロシアの侵攻前に、ウクライナのインフラ施設や重要な通信施設へサイバー攻撃が行われており、米国はアデン湾で情報収集しているイランのサイバー空間へサイバー攻撃を行なっています。
また直接的なサイバー攻撃だけでなく、対象国家を弱体化させる為のプロパガンダの流布もサイバー攻撃の手段の1つとなり、 以下動画はゼレンスキー 夫人が「ブガッディを購入」したという、ロシアによる偽情報拡散工作で利用された動画です。
動画には生成AIが活用されており、口角の部分が不自然なためディープフェイク動画となります。
その他、中国による台湾への非戦世論形成のための生成AIを利用した、偽情報の配布や 欧州で中国のウィグル自治区のジェノサイドを否定する、TikTok広告などは仮想敵や敵対国の士気低下を狙って利用されます。
金銭的な目的
ランサムウェアやマルウェアを活用して不正アクセスや情報窃取、脅迫を行い金銭を取得したり、
DDoS攻撃を実行し「停止したければ金を払え」という脅迫を行います。
サイバー攻撃の目的では金銭的な目的が多く、以下のようなランサムウェア攻撃グループが日本企業へ犯行声明を発表しています。
ランサムウェア攻撃グループが犯行声明を発表した日本企業
- KADOKAWA社へのサイバー攻撃(攻撃者:BlackSuit ブラックスーツ)
- HOYA社へのサイバー攻撃(攻撃者:Hunters International ハンターズ インターナショナル)
- 篠崎運輸社へのサイバー攻撃(攻撃者:Sarcoma サルコーマ)
- ニデックプレシジョン社へのサイバー攻撃(攻撃者: Everest エベレスト)
- CASIO社へのサイバー攻撃(攻撃者:Underground アンダーグラウンド)
- ZACROS社 (旧:藤森工業株式会社)へのサイバー攻撃(攻撃者:Argonauts アルゴノーツ)
- イセトー社へのサイバー攻撃(攻撃者:8Base エイトベース)
- 原田工業社へのサイバー攻撃(攻撃者:Qilin キリン)
愉快犯的な目的
偽の宗教団体の「恒心教」を名乗る人物の大学の爆破予告メールやグーグルマップの改竄など、
愉快犯的なサイバー攻撃は少数ですが断続的に続いています。
愉快犯的なサイバー攻撃の事例
・Apex Legendsでチート付与のハッキング事件
・AV購入履歴をネットに暴露
・恒心教所属者による大学爆破予告やFAX大量送付
政治的・社会的目的
原発再稼働やジェノサイドなどの抗議を目的としたサイバー攻撃もあります。
有名な団体でいうと「アノニマス」や「キルネット」となります。
サイバー攻撃の種類
サイバー攻撃にはさまざまな種類があり、企業はこれらの手法を理解し、適切な対策を講じる必要があります。
- マルウェア(Malware:悪意のあるソフトウェア)攻撃:ウイルス、ワーム、トロイの木馬などを用いて、システムに侵入し情報を窃取・破壊する。
- フィッシング詐欺(Phishing:なりすましによる情報搾取):企業や金融機関を装ったメールやウェブサイトを通じて、ユーザーの認証情報を騙し取る。
- ランサムウェア(Ransomware:身代金要求型ウイルス)攻撃:データを暗号化し、復旧のための身代金を要求する。
- DDoS(Distributed Denial of Service:分散型サービス拒否)攻撃:大量のトラフィックをサーバーに送り込み、システムのサービスを停止させる。
- SQLインジェクション(SQL Injection:データベース攻撃):ウェブアプリケーションの脆弱性を突き、データベースから情報を不正に取得・改ざんする。
- ゼロデイ攻撃(Zero-day Attack:未発見の脆弱性を突く攻撃):まだ修正されていないソフトウェアの脆弱性を狙い、システムに侵入する。
日本企業におけるサイバー攻撃の事例
日本国内でも、多くの企業がサイバー攻撃の被害を受けています。以下に代表的なサイバー攻撃の事例を紹介します。
積水ハウス株式会社(2024年5月)
同社が運営する会員制サイト「積水ハウス Net オーナーズクラブ」がSQLインジェクション攻撃を受け、約83万人分の個人情報が漏洩した可能性があると発表しました。攻撃は、運用停止から10年以上経過したページを経由して行われており、古いウェブページの管理の重要性が浮き彫りとなりました。
名古屋港統一ターミナルシステム(NUTS)(2023年7月)
同システムがランサムウェア攻撃を受け、約2日半にわたりコンテナの搬出入が停止しました。この影響で、港周辺ではトレーラーの行列が発生し、物流に大きな支障をきたしました。
トヨタ自動車株式会社(2023年5月)
同社のクラウド環境の設定ミスが原因で、約215万人の顧客情報がデータ漏洩しました。クラウド環境の適切な設定と継続的な監視の重要性が浮き彫りになりました。
株式会社KADOKAWA(2024年6月)
同社が運営する「ニコニコ動画」などのサービスが、ロシア系ハッカーグループ「BlackSuit」によるランサムウェア攻撃を受け、約25万件のユーザー情報が漏洩しました。サービスは約2ヶ月間停止し、企業の信頼性に大きな影響を与えました。
エーザイ株式会社(2023年6月)
同社の複数のサーバーがランサムウェア攻撃を受け、データが暗号化される被害が発生しました。直ちに外部専門家と協力し、全社対策本部を立ち上げて対応を進めました。
日本コンクリート工業株式会社(2023年5月)
ファイアウォールのVPN(仮想プライベートネットワーク)機能の既知の脆弱性を突かれ、不正アクセス(リモートアクセスの脆弱性を悪用した攻撃)を受けました。攻撃者はネットワークに侵入し、ランサムウェアを展開して情報資産を暗号化しましたが、個人情報や機密情報の漏洩は確認されませんでした。
これらの事例から、サイバー攻撃は多様な手法で行われ、企業の規模や業種を問わず被害が及ぶことがわかります。特に、ランサムウェア攻撃や不正アクセスによる情報漏洩が顕著であり、企業はこれらの脅威に対する対策を強化する必要があります。
サイバー攻撃による企業への影響
上記の事例のように、企業に与えるインパクトは多岐にわたり、金銭的損失だけでなく、企業の信用や事業継続性にも大きな影響を及ぼします。主な影響を5つ挙げます。
金銭的損失
サイバー攻撃による被害の中でも、企業にとって直接的な打撃となるのが金銭的損失です。攻撃の種類によって、以下のような損害が発生します。
- ランサムウェア攻撃による金銭的要求企業のデータが暗号化され、復旧のために高額な身代金を要求される。
- 業務停止による収益損失
システムが攻撃されることで、製造・販売・物流などの業務が停止し、売上減少につながる。 - 復旧コストによる損失
攻撃を受けた後、システムの復旧やデータの復元、セキュリティ対策の強化に多額の費用がかかる。
企業の信用失墜
サイバー攻撃による情報漏洩やサービス停止は、企業の信頼性に大きなダメージを与えます。
- 顧客の個人情報漏洩
顧客データが流出すると、企業の信頼が大きく損なわれ、顧客離れが発生する。 - 企業ブランドの毀損
企業がサイバー攻撃を受けたことが公になると、ブランドイメージが低下し、市場での競争力が弱まる。特に金融機関やEC(電子商取引)事業者など、セキュリティの信頼性が重要視される業界では、信用失墜が顧客離れに直結します。 - 株価の下落
情報漏洩やシステム停止が発生すると、投資家の信頼も低下し、株価が大きく下落する可能性がある。
法的・規制上の問題
サイバー攻撃による情報漏洩やデータ改ざんは、企業が法的責任を問われる可能性があります。
- 個人情報保護法・GDPR(General Data Protection Regulation:EU一般データ保護規則)等の法令違反
日本では、個人情報保護法により、顧客データの適切な管理が義務付けられています。EU圏内で事業を展開する企業はGDPRに準拠しなければならず、違反した場合、多額の罰金が科される可能性があります。 - 訴訟リスクの増大
顧客情報が流出した場合、被害者が企業に対して集団訴訟を起こす可能性がある。 - 監査対応の負担増加
金融業界や医療業界では、データ保護に関する厳格な規制があり、監査対応の負担が増大する可能性がある。
業務の混乱と生産性の低下
サイバー攻撃を受けると、業務が一時的または長期的に停止し、生産性が著しく低下します。
- システムダウンによる業務停止
例えば、ランサムウェア攻撃を受けた場合、社内の業務システムが完全に使えなくなることがあります。 - 社内リソースの逼迫
サイバー攻撃の対応に多くの人的リソースを割かれることで、本来の業務が滞り、生産性が低下します。特にIT部門にかかる負担が大きく、通常業務が疎かになるリスクがあります。 - 長期的な影響
システム復旧後も、社内の業務プロセスが元通りに戻るまで時間がかかるため、長期間にわたって企業の生産性が低下する可能性があります。
取引先やサプライチェーンへの影響
サイバー攻撃は自社だけでなく、サプライチェーン全体に影響を及ぼす可能性があります。
- 取引先の業務に支障をきたす
企業が攻撃を受けてシステムダウンすると、取引先とのデータ連携ができず、事業全体に影響を与えることがあります。 - サプライチェーン全体のリスク増大
サプライチェーンのどこか一箇所が攻撃されると、他の関連企業にも被害が及ぶ可能性がある。これは「サプライチェーン攻撃(Supply Chain Attack)」と呼ばれ、特に大企業が標的にされることが多い。
このようにサイバー攻撃は、企業に対して金銭的損失、信用失墜、法的リスク、業務停止、サプライチェーンへの影響など、深刻な影響をもたらします。特に近年は、ランサムウェアや情報漏洩を目的とした攻撃が増加しており、企業は常にリスクを意識しながらセキュリティ対策を強化する必要があります。
サイバー攻撃への対策
サイバー攻撃を防ぐためには、包括的な対策が必要です。特に、企業が標的とされるケースが増えているため、技術的な防御策だけでなく、組織全体での取り組みが求められます。以下に代表的な対策を上げます。
技術的対策
セキュリティソフトの導入と更新
マルウェア(悪意のあるソフトウェア)やランサムウェア(身代金要求型ウイルス)などの脅威に対抗するために、最新のウイルス対策ソフトウェアやエンドポイント保護ソリューションを導入し、常に最新の状態に保つことが重要です。
パスワードの強化と多要素認証(MFA:Multi-Factor Authentication)の導入
強力なパスワードの設定に加え、ワンタイムパスワード(OTP:One Time Password)や生体認証を活用した多要素認証を導入することで、不正アクセスのリスクを軽減できます。
定期的なデータバックアップ
ランサムウェア攻撃の被害を最小限に抑えるために、重要なデータを定期的にバックアップし、オフラインまたはクラウド上に安全に保管することが不可欠です。
アクセス権限の適切な管理
社内ネットワークやデータベースに対するアクセス権限を最小限に制限し、不要な権限を削減することで、内部からの情報漏洩や不正アクセスのリスクを低減できます。
システムの定期的な更新(パッチ適用)
ソフトウェアやOS(オペレーティングシステム)の脆弱性を狙った攻撃を防ぐために、セキュリティパッチやアップデートを適用し、常に最新の状態を維持することが求められます。
ネットワーク監視の強化(SIEM:Security Information and Event Managementの活用)
SIEM(セキュリティ情報およびイベント管理)ツールを活用し、不審なアクセスや異常なネットワークトラフィックをリアルタイムで監視することで、サイバー攻撃の早期発見と対応が可能となります。
組織的対策
- セキュリティポリシー(情報セキュリティ方針)の策定と実施
- 組織全体で情報セキュリティに関するルールを明確にし、従業員が遵守すべきガイドラインを策定することが重要です。
- 従業員教育の強化
- フィッシング詐欺(なりすましによる情報搾取)やソーシャルエンジニアリング(心理的な手口で情報を詐取する攻撃)に対する意識を高めるため、定期的なセキュリティ研修を実施し、疑似攻撃を通じた実践的なトレーニングを行うことが効果的です。
- インシデント対応計画(CSIRP:Computer Security Incident Response Plan)の策定
- サイバー攻撃が発生した場合の対応手順を事前に定め、迅速な対応ができるようにすることが必要です。具体的には、インシデントの発生時に誰がどのような対応を行うかを明確にし、シミュレーション訓練を実施することが推奨されます。
- 外部専門家の活用(セキュリティコンサルタントやマネージドセキュリティサービス(MSSP)の導入)
- 自社だけでの対応が困難な場合、外部のセキュリティ専門家やMSSP(Managed Security Service Provider:管理型セキュリティサービス提供者)を活用し、セキュリティ対策の強化を図ることが有効です。
どのようにサイバー攻撃の対策を進めるか
サイバー攻撃対策を効果的に進めるためには、計画的かつ段階的なアプローチが必要です。
リスクアセスメントの実施
まず、自社の情報資産や業務プロセスを分析し、どの部分が最も攻撃の標的になりやすいかを特定します。リスクアセスメント(脅威評価)では、以下の点を重点的に調査します。
- 重要なデータやシステムの特定
- 既存のセキュリティ対策の評価
- 外部からの脅威(ハッキング、マルウェア攻撃)の分析
- 内部のリスク(従業員の誤操作や内部犯行)の評価
対策の優先順位付け
リスクアセスメントの結果に基づき、影響度や発生可能性を考慮して対策の優先順位を設定します。たとえば、以下のような優先順位で対策を実施することが推奨されます。
- 最優先対策(短期間で実施すべきもの)
- 既知の脆弱性の修正(ソフトウェアアップデート)
- 多要素認証(MFA)の導入
- バックアップ体制の強化
- 重要対策(中期的に強化すべきもの)
- 社内ネットワークのアクセス管理の見直し
- セキュリティ研修の実施
- SOC(セキュリティオペレーションセンター)の活用
- 長期対策(戦略的に取り組むべきもの)
- ゼロトラストセキュリティ(Zero Trust Security)の導入
- AI(人工知能)を活用した異常検知システムの構築
- クラウド環境のセキュリティ監査の強化
外部のセキュリティ専門家との連携
自社内だけでの対応には限界があるため、セキュリティコンサルタントやMSSP(管理型セキュリティサービス提供者)と連携し、最新の脅威に対する防御策を強化することが有効です。
インシデント対応計画の策定
サイバー攻撃が発生した場合に備え、事前に対応計画を策定し、迅速な復旧手順を定めます。具体的には、以下の点を明確にする必要があります。
- 初動対応:攻撃の種類を特定し、影響範囲を迅速に把握する。
- エスカレーション(報告プロセス):経営層や法務部門への報告手順を明確化する。
- 復旧手順:事前にバックアップを用意し、システムを迅速に復旧する体制を整える。
まとめ
サイバー攻撃は日々進化しており、完全に防ぐことは困難ですが、適切な対策を講じることでリスクを低減し、被害を最小限に抑えることが可能です。企業の情報セキュリティ担当者は、最新の脅威情報を把握しながら、計画的かつ継続的な対策を実施することが求められます。特に、技術的対策と組織的対策を両輪として進めることで、サイバー攻撃のリスクを効果的に管理することができます。