TSMC元エンジニア4名に最長10年の実刑-2nm 先端技術の営業秘密漏洩で 東京エレクトロン 子会社に約7億円の罰金

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TSMC元エンジニア4名に最長10年の実刑-2nm 先端技術の営業秘密漏洩で 東京エレクトロン 子会社に約7億円の罰金

2026年4月27日、台湾の知的財産及び商業法院(智慧財産及商業法院)は、台湾積体電路製造(TSMC、NYSE:TSM)の2nm先端製造プロセスに関する営業秘密を窃取・外部流出させたとして、元TSMC社員および関係者の計5名に対して判決を言い渡しました。また、流出先となった東京エレクトロン(TEL:8035.JP)の台湾子会社・東京威力科創(台湾東京威力、以下TEL台湾)に対して罰金1億5,000万台湾ドル(約7億円)を命じました。

本件は台湾の国家安全法(國家安全法)が定める「国家核心関鍵技術(国家の中核的重要技術)」条項が適用された初の重刑判決事例であり、また同条項で法人企業が起訴・有罪とされた初の事例として台湾の技術安全保障の観点から極めて重大な判決となりました。

この記事のサマリー

  • 陳力銘(主犯)に懲役10年。元TSMCの12工場の歩留まり管理エンジニアで、TEL台湾に転職後、かつての同僚を通じてTSMCの機密文書を繰り返し入手しました。
  • 残る3名の元TSMC社員にも有罪判決が下されており、吳秉駿に懲役3年、戈一平に懲役2年、陳韋傑に懲役6年。さらに陳力銘の依頼で文書撮影に協力したTEL台湾社員・盧怡尹に懲役10か月(執行猶予)・罰金100万台湾ドル。
  • TEL台湾に罰金1億5,000万台湾ドル(TSMCへの賠償1億台湾ドル+国庫納付5,000万台湾ドル)。判決確定から1年以内に支払えば、罰金の宣告が3年間猶予される付条件執行猶予が付きました。
  • 窃取の目的はTSMCの2nm先端プロセス向けのエッチング装置の受注獲得。陳力銘がTEL台湾の営業担当としてTSMCの先進製程での供給拡大を図るために機密ファイルを入手・利用していたと認定されました。
  • 判決は不服申し立て(控訴)が可能であり、双方が上訴した場合は高等裁判所での審理に移ります。
  • TSMCは「営業秘密の保護に違反するいかなる行為にもゼロトレランス(完全不寛容)で対応し、最後まで追及する」と声明。TEL台湾は組織的関与・機密情報の流出は否定しています。

事件の全経緯-2025年8月の発覚から2026年4月の判決まで

本件は2025年8月の発覚から約8か月をかけて判決に至りました。本サイトでは各段階を随時報じてきましたので、以下の時系列でご参照ください。

時期 内容 記事リンク
2025年8月上旬 台湾高等検察署がTSMCの2nm技術漏洩疑惑で国家安全関連法に基づく捜査開始。東京エレクトロンへの不正な機密取得の疑いが浮上 東京エレクトロンがTSMCの元技術者から不正に機密情報を取得——ラピダスにも2nm量産に関わる機密情報共有か
2025年8月中旬 東京エレクトロンが9月に台湾当局と協議予定と報道。TEL側は「低級な過失」と弁明 TSMCの半導体2nmプロセス機密情報流出疑惑で東京エレクトロンが9月に協議か
2025年8月中旬 「低級な過失」という弁明の問題点を分析 東京エレクトロンのTSMC機密情報窃取疑惑は低級な過失?——現場猫案件?
2025年8月27日 台湾・高等検察署が元社員陳力銘ら3名を国安法・営業秘密法違反で起訴 台湾政府、TSMC半導体2nmプロセスを東京エレクトロンへ漏洩させた3名を起訴
2025年11月25日 TSMCの元幹部・羅唯仁氏がインテルへ転職——2nm機密の持ち出し疑惑が浮上 TSMCの元幹部、半導体2nmプロセスの機密情報を持ち出しインテルへ転職——インテルは否定
2025年12月4日 東京エレクトロン台湾子会社が起訴された事実を確認——最大約6億円の罰金求刑 東京エレクトロン台湾子会社、TSMC機密情報漏えい巡り起訴——最大約6億円の罰金求刑か
2026年3月2日 TEL台湾元主管・盧怡尹氏が出廷——証拠隠滅の疑いで懲役1年求刑 TSMC 2nmプロセス機密情報漏洩事件で東京エレクトロン元主管が出廷——証拠隠滅の疑いで懲役1年求刑
2026年4月27日 知的財産及び商業法院が判決——陳力銘に懲役10年・TEL台湾に罰金1億5,000万台湾ドル 本記事

事件の経緯-2nm先端技術を狙った産業スパイ

TSMCからTEL台湾へ——転職後も続いた機密取得

主犯の陳力銘は、TSMCの12工場において歩留まり管理エンジニア(良率工程師)として勤務していた人物です。TSMCを離職した後、TSMCの半導体製造装置サプライヤーであるTEL台湾の営業部門に転職しました。

転職後、陳力銘はTEL台湾がTSMCの先進製造プロセス(特に2nmプロセス)におけるエッチング装置(蝕刻機台)の供給先として選定されることを目的に、かつてのTSMC時代の同僚に対してTSMCの機密ファイルの撮影・提供を繰り返し依頼しました。

本件はある日突然起きた単独の犯罪ではありません。当サイトでは2025年8月の発覚時点から継続的に報じてきましたが、一連の経緯を振り返ると、TSMCを退職した技術者が転職先企業の利益のためにかつての同僚に接触し続けたというインサイダー脅威の典型的なパターンが浮かび上がります。転職直後の機密情報アクセスリスクについては、TSMCの元幹部がインテルへ転職した事案でも同様の構造が確認されており、半導体業界における人材の流動化とその情報リスクは世界的な課題となっています。

裁判所は、陳力銘が同僚3名(吳秉駿・戈一平・陳韋傑)に対して機密文書の撮影を依頼し、その情報をTEL台湾での営業活動に活用していたと認定しています。

「国家核心関鍵技術」条項の初適用

今回の判決で適用された台湾国家安全法の「国家核心関鍵技術(国家の中核的重要技術)の営業秘密の域外使用」条項は、半導体製造等の台湾の国家安全保障に直結する先端技術を対象としたものです。

同条項は中国への技術流出を主に想定して整備されたものでしたが、本件では流出先が中国企業ではなく日系企業(東京エレクトロングループ)であったにもかかわらず、条項が適用されたことが注目されます。これは台湾が先端半導体技術の保護をどの国の企業に対しても厳格に適用する姿勢を明確に示したものといえます。

また、企業法人として国安法で起訴・有罪となったTEL台湾は、同条項が施行されて以来、法人として起訴された初の事例でもあります。TEL台湾が起訴された経緯については、2025年12月の記事で詳報しています。


各被告の判決詳細

被告名 元の立場 判決
陳力銘 元TSMCエンジニア→TEL台湾営業担当 懲役10年(国安法・営業秘密法違反など5罪)
陳韋傑 元TSMCエンジニア 懲役6年
吳秉駿 元TSMCエンジニア 懲役3年
戈一平 元TSMCエンジニア 懲役2年
盧怡尹 TEL台湾従業員 懲役10か月(執行猶予)・罰金100万台湾ドル
TEL台湾(法人) TSMCの装置サプライヤー 罰金1億5,000万台湾ドル(付条件執行猶予3年)

なお、盧怡尹については2026年3月の公判記事で証拠隠滅の疑いによる求刑内容を詳報しています。


両社の声明

TSMCは「TSMCは、会社の営業秘密の保護に違反し、会社の利益を損なういかなる行為に対しても、常に**ゼロトレランス(零容忍)**の姿勢をもって厳格に対処し、最後まで追及する。また引き続き内部管理と監視の仕組みを強化し、必要に応じて関係執法機関と協力することで、会社の競争優位と事業の安定を確保し、会社のコアな競争力と全従業員の共通の利益を守っていく」と声明しました。

TEL台湾(東京威力科創)・東京エレクトロン株式会社(8035)は2026年4月27日付の適時開示(東証プライム)において以下の通り公式に発表しました。

「Tokyo Electron Taiwan Ltd.が元従業員に対する監督義務を十分果たしていなかったと判決で指摘されたことを厳粛に受け止めており、当社グループの情報管理体制等のさらなる強化等を図ってまいります」

あわせて「捜査および判決において、当社および Tokyo Electron Taiwan Ltd.による組織的な関与や機密情報の外部流出は確認されていないことをあらためてご報告させていただきます」と説明しています。

また「当該顧客(TSMC)との間において協議をおこない、営業秘密および機密情報の保護と共有に関する原則を強化することを合意しています。これらのことから、本件に関する業績への影響はございません」としています。


本件が示す産業安全保障上の意義

本件は技術流出防止という観点からいくつかの重要な示唆を持っています。

転職者を通じたインサイダー脅威のリスクとして、本件では離職後にサプライヤーに転職したエンジニアが、かつての同僚との人間関係を悪用して機密情報を取得しています。退職・転職時の情報セキュリティ対応(競業避止義務の明確化・退職後のアクセス権限の即時廃止・機密情報の持ち出し調査)の重要性を改めて示しています。

法人の監督責任として、TEL台湾は組織的な指示による関与は否定されましたが、裁判所は「受雇人(従業員)が違反行為を行うことを防ぐための監督責任を果たさなかった」として法人を有罪と認定しました。企業がサプライヤー・顧客から機密情報を扱う立場にある場合、従業員の行動に対する監督体制の整備が法的責任の前提となることが示されました。

「国家核心関鍵技術」として半導体プロセス技術が保護される明示的な判例として、今後の同種の訴追・起訴において本件は重要な先例となります。特に2nm以降の先端プロセスに関与するエンジニアへの国安法適用の根拠が確立されました。

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よくある質問(FAQ)

Q. 東京エレクトロン(TEL)本体への影響はありますか? 今回の判決はTELの台湾子会社・TEL台湾(東京威力科創)を対象としており、東京エレクトロン本体(日本法人)への直接の法的処分は確認されていません。TEL台湾は「本件は個別の元従業員による規範違反によるもの」と説明しています。

Q. 今回の判決は確定していますか? 現時点では確定していません。今回の知的財産及び商業法院の判決に対しては、被告側・検察側ともに上訴(控訴)が可能であり、控訴審(台湾高等法院)での審理に移行する可能性があります。

Q. なぜ中国ではなく日本企業への流出でも国安法が適用されたのですか? 台湾の国安法「国家核心関鍵技術」条項は、流出先の国籍を限定していません。半導体等の国家安全保障上の重要技術を国外(域外)で使用する行為そのものが規制対象です。本件は同条項の適用が特定の地政学的競合国に限定されないことを明確にした重要な事例です。


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