
物流支援やITオートメーション事業を手がける株式会社関通(東証グロース:9326)は、2025年2月期の決算において、最終赤字に転落したことを明らかにしました。その主因は、2024年9月に発生したランサムウェア被害による業務停止および復旧対応にかかる費用です。
サイバー攻撃の影響と特別損失の内訳
当該ランサムウェア攻撃により、関通は自社サーバーへの不正アクセスを受け、社内外とのネットワークを遮断する事態に発展しました。この影響で、主力の物流サービスに用いていたシステムが停止。取引先企業との入出庫処理が停止または大幅に遅延し、事業全体に甚大な影響が生じました。
また、ITオートメーション事業においても、提供していた倉庫管理システム「クラウドトーマス」「クラウドトーマスPro」の停止が発生。これにより、顧客の業務も一時的に混乱する状況となりました。
この一連の復旧対応と設備の除却、新たなセキュリティ体制の構築にかかった費用は、713百万円(約7.1億円)に上り、特別損失として計上されています。さらに、損害賠償費用として計上された358百万円については保険でカバーされ、同額が特別利益に振り替えられました。
業績への影響:売上増でも営業赤字に
売上高は前期比27.9%増の152億円を記録したものの、営業損失は4,700万円、経常損失は9,200万円を計上。最終損益は8億4,800万円の赤字となりました(前期は4,900万円の黒字)。
特に影響が大きかったのは、売上の95%以上を占める主力の物流サービス事業です。同事業では、ランサムウェアによるシステム停止と復旧対応により、3億2,800万円のセグメント損失を計上。一方で、ITオートメーション事業では、監視体制強化などの対応が奏功し、3.3億円のセグメント利益を確保しました。
今後の見通しと回復への方針
2026年2月期については、復旧対応の完了と新規顧客の獲得見込みを背景に、売上高159億円(前期比4.6%増)、営業利益2.6億円、経常利益2.6億円、最終利益1.8億円への黒字転換を計画しています。
なお、2025年度に開発中だった発注自動化システム「ECOMS」は、サイバー攻撃の影響により中止されることとなりました。
情報システム部門への示唆:被害防止と復旧体制の強化を
今回の事例から、企業の情報システム部門が今後留意すべき点は以下の通りです
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システム停止時の業務継続計画(BCP)の重要性:関通ではネットワーク遮断後に新環境を構築して業務再開にこぎつけたが、混乱は避けられなかった。緊急時の代替システムやリカバリ手順の整備が不可欠。
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セキュリティ投資の定量化と説得力のある社内説明:7億円超に及ぶ復旧費用は、多くの企業にとって重いコスト。事前投資の有効性を示す材料にもなり得る。
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顧客影響を伴うサービス停止リスクの管理:システム停止が自社だけでなく顧客にも及ぶ場合、損害賠償などのリスクも発生するため、契約・保険の見直しも重要。
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インシデント後の情報開示と説明責任:関通は決算短信や補足説明で詳細な説明を行っており、信頼回復に努めている点は参考になる。