佐賀県警鳥栖警察署は2026年7月27日、鳥栖市内の企業で、社長を名乗る人物から届いたメールをきっかけに、従業員が指定口座へ500万円を振り込み、だまし取られるビジネスメール詐欺が発生したとして注意を呼びかけました。最初のメールでは送金を直接求めず、仕事の連絡用としてSNSグループを作成させ、経理担当者を参加させた後に振り込みを指示する手口です。2026年は同様のニセ社長詐欺が全国で相次いでおり、メールやチャットだけで送金を完結させない業務統制が求められます。
サマリー
- 2026年7月10日、鳥栖市内の企業の従業員へ社長を名乗る人物からメールが届きました
- メールでは仕事の連絡用としてSNSグループを作成するよう指示されました
- グループ作成後、経理担当者を追加するよう求められました
- SNS上で500万円の支払いがあるとして、指定口座への振り込みを指示されました
- 従業員は社長本人からの業務指示だと信じ、500万円を送金しました
- 鳥栖警察署は7月27日、メールやSNSでは容易になりすませるとして注意を呼びかけました
- 攻撃者が企業のメールやSNSアカウントへ不正アクセスしたとの情報は公表されていません
- 2026年には同じ構造のニセ社長詐欺が秋田、山口、和歌山、群馬などで相次いでいます
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発生日 | 2026年7月10日 |
| 公表日 | 2026年7月27日 |
| 被害地域 | 佐賀県鳥栖市 |
| 被害者 | 鳥栖市内にある企業の従業員 |
| 被害金額 | 500万円 |
| 最初の接触手段 | 社長を名乗る人物からのメール |
| 最初の指示 | 仕事の連絡用としてSNSグループを作成 |
| グループ作成後の指示 | 経理担当者をグループへ追加 |
| 送金の口実 | 500万円の支払いがあるとして振り込みを依頼 |
| 事案の分類 | ニセ社長詐欺、CEO詐欺、ビジネスメール詐欺 |
| 捜査・注意喚起 | 佐賀県警鳥栖警察署 |
| 不正アクセスの有無 | 企業のメールやSNSアカウントが侵害されたとの情報は未公表 |
| 同一犯との関連 | 他地域の事案との関係は確認されていない |
| 推奨対策 | 本人への直接確認、複数承認、SNSによる送金指示の禁止 |
社長を名乗るメールからSNSグループを作成
鳥栖警察署によると、2026年7月10日、鳥栖市内にある企業の従業員へ、その会社の社長を名乗る人物からメールが届きました。
メールには、仕事の連絡用としてSNSグループを一つ準備するよう求める内容が記載されていました。最初の段階では送金や銀行口座への言及がなく、通常の業務連絡に見える依頼だったとみられます。
従業員が指示に従ってグループを作成すると、社長を装う人物は経理担当者をグループへ追加するよう指示しました。
グループ内では、これから500万円の支払いがある、相手方の口座情報を送るので振込手続きを進めてほしいなどと伝えられました。従業員側は本物の社長からの指示だと信じ、指定された口座へ500万円を送金しました。
鳥栖警察署は、メールやSNSでは容易になりすましが可能であるため、普段と異なる方法で指示を受けた場合は、同僚、上司、警察へ相談するよう呼びかけています。
警察庁が警告するニセ社長詐欺と同じ流れ
今回の事案は、警察庁が2026年2月に注意喚起した法人向けのニセ社長詐欺と、ほぼ同じ流れです。
警察庁が示した手口では、攻撃者は企業のWebサイトなどで公開されている代表者名やメールアドレスを調べ、経営者になりすまして従業員へメールを送ります。
メールでは、新しいプロジェクトや業務連絡などを理由にSNSグループを作らせ、グループの招待用QRコードを返信させます。送金権限を持つ経理担当者を参加させるよう求める場合もあります。
SNSへ移行した後は、法人の口座残高を尋ねたり、事業資金や取引先への支払いを理由に振り込みを指示したりします。
鳥栖市の事案でも、最初のメールはSNSグループの作成依頼にとどまり、経理担当者を追加した後に送金の話が出ています。これは偶発的なやり取りではなく、メールセキュリティの監視外へ会話を移した後、支払い権限を持つ担当者へ接触するよう設計された手口です。
最初のメールに送金や不正URLがない
従来のフィッシングメールでは、不審なURL、添付ファイル、パスワードの入力要求などが検知の手掛かりになります。
今回のニセ社長詐欺では、最初のメールに不正なリンクや添付ファイルがなく、送金を求める文言もありません。SNSグループを作ってほしいという短い依頼だけであれば、メールセキュリティ製品が危険なメッセージとして判定しにくい可能性があります。
実際の詐欺行為は、従業員が用意したSNSグループへ移行してから始まります。個人所有のスマートフォンや会社の管理外にあるSNSを使用した場合、情報システム部門は会話内容を監視できず、後からログを確認することも難しくなります。
このため、メールのフィルタリングだけでなく、業務で使用できるチャットサービスと、送金指示に使用してよい連絡経路を明確にする必要があります。
企業アカウントの不正アクセスは公表されず
本件について、社長本人のメールアカウントや社内SNSアカウントが不正アクセスを受けたとの情報は公表されていません。
報道および警察の注意喚起では、社長を名乗る人物からメールが届いたと説明されています。攻撃者が表示名だけを社長名にしたのか、フリーメールを使用したのか、類似ドメインを取得したのかは不明です。
送信元メールアドレスや、使用されたSNSの名称も明らかにされていません。
したがって、本件を企業システムへのサイバー攻撃やアカウント乗っ取りと断定することはできません。公開情報で確認できる範囲では、経営者の氏名と権限を悪用して従業員をだますソーシャルエンジニアリング型の詐欺です。
一方、BECでは正規メールアカウントの侵害が使われる場合もあります。送信元の表示名だけでなく、実際のメールアドレス、Reply-To、メールヘッダー、過去の会話履歴とのつながりを確認する必要があります。
2026年に全国で同じ手口の被害が相次ぐ
2026年は、社長や代表者を名乗るメールからSNSグループへ誘導し、経理担当者へ送金を指示する被害が全国で相次いでいます。
国内6,000法人超を標的にしたCEO詐欺の調査では、2025年12月以降、日本国内の法人を狙うメールが急増し、2026年2月までに少なくとも6,000を超える法人ドメインが標的になったことを取り上げています。
群馬県前橋市の建設設備会社の事案では、社長が出張中である状況を悪用し、ビジネスチャット上の指示で5,000万円が送金されました。
関西の物販会社で発生した事案では、社内連絡用SNSで社長を名乗る人物がグループ作成を指示し、経理担当者が3,000万円を振り込みました。
和歌山市の企業が3,800万円をだまし取られた事案でも、社長を名乗るメールからSNSグループを作成させ、経理担当者を追加した後、複数口座への送金を求めています。
秋田県内で5日間に2件続いた社長なりすまし詐欺では、3,000万円と120万円の被害が発生しました。
山口県内の法人が500万円をだまし取られた事案でも、社長を装うメール、SNSグループの作成、送金指示という同じ手順が使われています。
これらの事案は手口が似ていますが、同じ攻撃者や犯罪グループが関与していることは確認されていません。共通しているのは、企業Webサイトなどから得られる代表者名と、社内の上下関係を利用している点です。
国内の被害状況については、ビジネスメール詐欺となりすましチャットによる不正送金被害のまとめでも継続的に整理しています。
なぜ経理担当者をグループへ追加させるのか
攻撃者が最初に接触した従業員へ直接送金を求めず、経理担当者をグループへ追加させるのは、実際に資金を動かせる人物へ到達するためです。
社内の経理担当者名や連絡先が公開されていなくても、従業員自身にグループを作らせれば、攻撃者は組織内部の担当者へ接触できます。
グループを作成した従業員が先に社長を名乗る人物の指示を受け入れているため、後から参加した経理担当者も、社内で確認済みの依頼だと誤認する可能性があります。
複数人が同じチャットへ参加することは、必ずしも複数承認になりません。グループ内の全員が同じ偽の前提を共有している場合、相互確認が機能しないためです。
送金の承認者は、依頼が届いたチャットとは別の連絡経路で、社長本人や正式な決裁者へ確認する必要があります。
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社長の指示を確認しにくい組織風土も狙われる
ニセ社長詐欺では、社長や役員の権威が攻撃手段として利用されます。
従業員が普段から経営者へ質問しにくい組織では、不自然な指示を受けても確認をためらう可能性があります。取引先への支払い、機密プロジェクト、急な決裁などを理由にされると、通常の承認手続きを省略しやすくなります。
対策として、経営者自身が「自分からの指示であっても、通常と異なる送金は必ず確認する」と全社へ明示する必要があります。
本人確認を行った従業員を、業務を遅らせたとして非難しない方針も重要です。確認する行動が評価される組織でなければ、制度を作っても現場では機能しません。
情報システム部門への示唆
情報システム部門は、メールセキュリティの設定だけでなく、財務・経理部門の送金手続きまで含めて対策を設計する必要があります。
社長、役員、取引先を名乗るメールやチャットで送金を求められた場合は、金額にかかわらず、既知の電話番号へのコールバックまたは対面で確認するルールを設けてください。受信したメッセージに書かれた電話番号や、新しく指定された連絡先は本人確認に使用しません。
振込先口座の新規登録、口座変更、一定額以上の送金には、依頼者、承認者、実行者を分けた複数承認を必須にします。経営者の緊急指示を理由に承認を省略できる例外を残すと、攻撃者に悪用されます。
業務で利用するSNSやチャットツールを指定し、私用LINEなど管理外のサービスで送金、口座残高、認証情報を扱わない方針を定めます。経営者が普段から個人用SNSで業務指示を出している場合は、その運用自体を見直す必要があります。
メール面では、SPF、DKIM、DMARCを導入し、自社ドメインのなりすましを防止します。ただし、攻撃者がフリーメールを使って表示名だけを社長名にする場合、DMARCだけでは遮断できません。外部メールの警告表示や、役員名と同じ表示名を使う社外メールの検知も組み合わせます。
インシデント発生時に備え、メールの完全なヘッダー、SNSの会話履歴、相手のアカウント情報、振込先口座、送金日時、承認記録を保全する手順を用意してください。
送金後に詐欺へ気付いた場合は、直ちに金融機関へ連絡し、組戻しや送金先口座の凍結を依頼するとともに、警察へ相談します。時間の経過とともに資金回収が難しくなるため、社内調査の完了を待たずに連絡することが重要です。








