セキュリティ クリアランス 制度が運用開始-経済安保情報の保護と企業への影響

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セキュリティ クリアランス 制度が運用開始-経済安保情報の保護と企業への影響

2025年5月16日、日本政府は「重要経済安保情報保護活用法」の施行とともに、「セキュリティ・クリアランス」制度の正式運用を開始しました。本制度は、防衛や外交にとどまらず、経済や技術分野においても国家の安全保障に関わる情報をより厳格に保護するための新たな枠組みです。

制度の概要と目的

「セキュリティ・クリアランス」制度では、政府が「重要経済安保情報」として指定した情報について、情報漏えいのリスクがないと国が判断した人物のみに取り扱いを認めます。対象は政府職員だけでなく、民間企業の関係者も含まれます。

制度の目的は、同盟国やパートナー国との間で機密性の高い経済安保情報のやり取りを円滑にし、国際的な安全保障連携を強化することにあります。

なぜ今、制度が必要なのか

主要7カ国(G7)の中で、日本だけが経済分野におけるクリアランス制度を持っていなかったことが、国際連携における課題とされてきました。民間企業からは「資格がないために国際会議や技術連携の場に参加できない」といった実務上の支障も報告されています。

今回の制度導入により、民間を含めた幅広い関係者が安全保障上の重要情報にアクセスできるようになり、より実効性のある経済安全保障政策が可能になると期待されています。

適性評価とプライバシーへの懸念

情報の取り扱いが認められるには、身辺調査を含む「適性評価」を通過する必要があります。調査内容には以下のような項目が含まれます:

  • 家族構成・国籍

  • 犯罪歴や情報漏えいの前歴

  • 精神疾患の通院歴

  • 飲酒の節度

  • 経済状態(借金、自己破産、家賃滞納など)

このように評価範囲が広く、個人のプライバシーに深く関わることから、「過剰な調査ではないか」といった指摘も出ています。

これに対し政府は「本人の同意を前提とし、目的外利用は禁止されている。プライバシーに配慮した運用を行う」と説明しています。

企業への影響と今後の課題

制度の対象には、重要情報を扱う「適合事業者」に指定された企業も含まれます。企業が制度に対応するには、以下のような準備が求められます:

  • 適合事業者としての基準を満たす体制整備

  • 対象社員の適性評価への対応

  • 評価同意を得るための社内説明や配慮

  • 新たな物理・情報セキュリティの導入

これらはコストや手間の増加を伴うことから、特に中小企業には負担となる可能性があります。また、制度が国際的にどこまで通用するのかは不透明であり、海外ビジネスとの連携を前提とする企業にとっては政府の外交的な後押しも重要です。

今後の展望

制度の本格運用によって、日本はようやくG7諸国と同水準の経済安保体制を整えたことになります。今後は制度の透明性、プライバシー保護との両立、そして民間企業が活用しやすい仕組み作りが求められます。

経済安全保障を巡る国際的な緊張が高まる中、日本がどのようにこの制度を活かし、国際連携と産業競争力を両立していくかが問われる局面に入ったと言えるでしょう。

能動的サイバー防御との関係

「セキュリティ・クリアランス」制度と「能動的サイバー防御」は、ともに日本の経済安全保障を支える両輪であり、相互に補完する関係にあります。

能動的サイバー防御は攻撃者のインフラ(C2サーバなど)に対し、民間通信事業者が事前にアクセスを遮断したり、政府が攻撃者の通信を積極的に無力化・監視する手法になります。

適合事業者とは

適合事業者とは、「重要経済安保情報」を政府から提供されることを前提に、その情報管理体制が一定の水準を満たしていると認められた民間企業や団体のことです。これに認定されることで、政府との契約・共同研究・技術協力等の場面で機密性の高い情報へのアクセスが許可されます。

適合事業者の認定要件(想定)

※2025年5月時点では、具体的な政令はまだ未公表ですが、「特定秘密保護法」の制度を参考にすると、以下のような条件が求められると考えられます。

情報管理体制の構築

  • 情報セキュリティポリシーの整備

  • 機密情報の保存・取扱エリアの明確化(物理的・技術的対策)

  • アクセス制御、監視ログの導入

  • 関係者へのセキュリティ研修実施

管理者・取扱者の明確な指定

  • 情報を管理する「管理責任者」の任命

  • 情報を取り扱う「取扱者」の明確化と管理

行政機関との契約締結

  • 提供対象となる情報の種類や提供目的を明記

  • 情報の使用・再提供の制限を明確にした覚書等を締結

従業員に対する適性評価の実施

  • 適合事業者が保有する情報にアクセスする従業員に対し、内閣府の一元的な調査に基づき、各行政機関が「適性評価」を実施

  • 評価に際しては、本人の同意取得が必要(同意拒否を理由とした不当な人事措置は不可)

必要な準備と実務対応

項目 内容
社内体制 情報セキュリティ部門・法務部門・人事部門の連携が不可欠
文書整備 セキュリティポリシー、行動規範、同意取得のための説明文書など
社員教育 情報の取扱ルールや適性評価の目的を社内研修で周知徹底
コスト面 評価申請、セキュリティ機器導入、専用区画の構築などに初期投資が必要

企業が得られるメリット

  • 防衛・宇宙・半導体・量子技術など、政府主導の研究・開発事業への参画が可能

  • 安全保障分野での海外企業との共同開発・契約の機会が拡大

  • G7諸国との情報共有における「信頼性の証明」となる

今後の留意点

  • 制度は2025年5月に運用開始されたばかりであり、今後政令・ガイドラインが順次公開される予定です。

  • 対応のためのコンサルティングや監査支援サービスを提供する事業者も増える見込みです。