警察庁「令和8年警察白書」を全章横断 サイバー犯罪検挙1万5,108件で過去最多、ランサムウェアの被害226件

セキュリティニュース

投稿日時: 更新日時:

警察庁「令和8年警察白書」を全章横断 サイバー犯罪検挙1万5,108件で過去最多、ランサムウェアの被害226件

警察庁の「令和8年警察白書」は、第1部の特集に「深刻化するサイバー空間の脅威と警察の新たなる展開」を掲げ、2025年(令和7年)のサイバー犯罪情勢と、能動的サイバー防御を含む今後の警察の対処体制を大きく取り上げています。

第3章「サイバー空間の安全の確保」によると、2025年のサイバー犯罪の検挙件数は1万5,108件で過去最多となりました。不正アクセス行為の認知件数は7,190件、インターネットバンキングに係る不正送金事犯は4,747件、被害額は約103億9,700万円で過去最高でした。

企業・団体から警察へ報告されたランサムウェア被害は226件で、中小企業が143件と63.3%を占めています。感染経路の有効回答92件ではVPN機器が61件(66.3%)、リモートデスクトップサービスが19件(20.7%)でした。

今回、セキュリティ対策Labでは、特集と第3章だけでなく、目次、トピックス、第1章から第7章、資料編、凡例まで警察庁が公開した各PDFを横断し、企業の情報システム・セキュリティ部門に関係する論点を整理します。

令和8年警察白書・サイバー分野のサマリー

  • 確認済み:令和8年警察白書の特集テーマは「深刻化するサイバー空間の脅威と警察の新たなる展開」です。
  • 確認済み:2025年のサイバー犯罪の検挙件数は1万5,108件で、前年比1,944件(14.8%)増となり過去最多でした。
  • 確認済み:「サイバー事案」の検挙件数は4,154件でした。「サイバー犯罪」とは定義が異なるため、同じ数字として扱うことはできません。
  • 確認済み:不正アクセス行為の認知件数は7,190件。不正アクセス禁止法違反の検挙件数431件のうち、他人のID・パスワードを無断利用する「識別符号窃用型」が399件(92.6%)でした。
  • 確認済み:インターネットバンキングに係る不正送金事犯は4,747件、被害額は約103億9,700万円で過去最高でした。
  • 確認済み:クレジットカード不正利用被害は約510億5,000万円。このうち番号盗用は約475億4,000万円でした。
  • 確認済み:ランサムウェア被害は226件。中小企業が143件(63.3%)、大企業64件(28.3%)、団体等19件(8.4%)でした。
  • 確認済み:恐喝手口を確認できた153件のうち、二重恐喝型は136件(88.9%)。暗号化せずデータを窃取して対価を要求する「ノーウェアランサム」も17件確認されました。
  • 確認済み:感染経路の有効回答92件では、VPN機器が61件(66.3%)、リモートデスクトップサービスが19件(20.7%)でした。
  • 確認済み:白書には、生成AIを悪用して情報窃取プログラムを作成した事件や、不正取得したID・パスワードを使ってeSIMを不正契約した事件も掲載されています。
  • 確認済み:特集では、サイバー特別捜査部によるPhobos・8Baseへの国際共同捜査や、Phobos復号ツールの開発・公開を紹介しています。
  • 確認済み:能動的サイバー防御の「アクセス・無害化措置」に関する規定は2026年10月1日に施行予定で、警察は運用準備を進めています。
  • 確認済み:トピックス、第4章、第6章、第7章、資料編を横断すると、SNS上の犯罪実行者募集、犯罪収益のマネー・ローンダリング、北朝鮮IT労働者、外国による偽情報、警察自身の情報システム統合・CSIRT整備など、サイバー空間と実空間の犯罪が融合していることが読み取れます。
項目 内容
資料 令和8年警察白書
特集 深刻化するサイバー空間の脅威と警察の新たなる展開
主な統計期間 2025年(令和7年)
サイバー犯罪の検挙件数 15,108件、過去最多
サイバー事案の検挙件数 4,154件
不正アクセス行為の認知件数 7,190件
不正アクセス禁止法違反の検挙件数 431件
インターネットバンキング不正送金 4,747件、約103億9,700万円
クレジットカード不正利用 約510億5,000万円
ランサムウェア被害 226件
中小企業のランサム被害 143件(63.3%)
二重恐喝型 手口確認153件中136件(88.9%)
VPN経由の侵入 感染経路回答92件中61件(66.3%)
リモートデスクトップ経由 同19件(20.7%)
ノーウェアランサム 17件
政策面 サイバー特別捜査部、国際共同捜査、能動的サイバー防御、アクセス・無害化措置
関連分野 SNS犯罪、マネロン、偽情報、経済安全保障、警察情報システムの統合・セキュリティ

「サイバー犯罪」1万5,108件と「サイバー事案」4,154件は別の統計

令和8年警察白書では、2025年のサイバー犯罪の検挙件数を1万5,108件としています。前年から1,944件、14.8%増加し、過去最多となりました。

一方、同じ第3章には「サイバー事案」の検挙件数として4,154件という数字も掲載されています。

白書上、「サイバー事案」は、サイバーセキュリティが害されることや情報技術を用いた不正行為によって、生命、身体、財産、公共の安全と秩序を害し、または害するおそれがある事案と定義されています。

これに対して「サイバー犯罪」は、不正アクセス禁止法違反、コンピュータ・電磁的記録対象犯罪、その他犯罪の実行に不可欠な手段として高度情報通信ネットワークを利用する犯罪を含みます。

したがって、「4,154件」と「1万5,108件」は集計範囲が異なり、単純に比較したり合算したりすることはできません。

不正アクセス7,190件、ID・パスワード悪用が検挙の92.6%

2025年の不正アクセス行為の認知件数は7,190件でした。

不正アクセス後に行われた行為では「インターネットバンキングでの不正送金等」が4,747件、66.0%と最多です。

不正アクセス禁止法違反の検挙件数は431件、検挙人員は248人でした。このうち、他人の識別符号、つまりID・パスワードなどを無断で入力する「識別符号窃用型」が399件で、検挙件数の92.6%を占めました。

企業の防御では、脆弱性対策だけでなく、認証情報が盗まれることを前提とした対策が引き続き重要です。

多要素認証、パスワードの使い回し防止、異常ログイン検知、リスクベース認証、特権アカウントの監視などが基本になります。

ネットバンキング不正送金は約104億円で過去最高

2025年のインターネットバンキングに係る不正送金事犯は4,747件でした。

被害額は約103億9,700万円で、警察庁は過去最高としています。背景として、ボイスフィッシングによる法人口座の不正送金被害が急増したことなどを挙げています。

企業では、メールやSMSだけをフィッシング対策の対象とするのではなく、電話で金融機関やサポート担当者を名乗り、認証情報やワンタイムパスワードを聞き出す手口も想定する必要があります。

特に法人口座では、送金権限を一人に集中させないこと、通常と異なる高額送金や送金先変更に再承認を要求すること、金融機関を名乗る電話だけで操作を開始しないことが重要です。

クレジットカード不正利用は約510億円

警察白書は日本クレジット協会の統計を引用し、2025年のクレジットカード不正利用被害総額を約510億5,000万円としています。

このうち番号盗用による被害は約475億4,000万円でした。

警察庁は番号盗用被害の多くについて、クレジットカード会社などを装ったフィッシングによるものと考えられるとしています。

なお、約510億5,000万円は警察への被害届件数を集計したものではなく、日本クレジット協会の統計を白書が引用した数値です。

ランサムウェア被害226件、中小企業が63.3%

2025年に企業・団体から警察へ報告されたランサムウェア被害は226件でした。

上半期116件、下半期110件で、警察庁は「引き続き高い水準で推移している」としています。

規模別では中小企業が143件で63.3%、大企業64件で28.3%、団体等19件で8.4%でした。

中小企業が最も多い一方、大企業にも64件の報告があり、企業規模だけでリスクを判断できない状況です。

セキュリティ対策Labでは、2025年に発生した具体的なランサムウェア事例を「ランサムウェアの事例【2025年】」でも整理しています。

二重恐喝88.9%、暗号化しない「ノーウェアランサム」も17件

恐喝手口を警察が確認できた153件のうち、暗号化とデータ窃取を組み合わせる二重恐喝型は136件で88.9%を占めました。

従来型は17件、11.1%です。

さらに、ネットワークへ侵入してデータを暗号化せず、窃取したデータを材料に金銭を要求する「ノーウェアランサム」も17件確認されています。

この傾向から、ランサムウェア対策をバックアップだけで完結させることは難しくなっています。

バックアップは暗号化被害からの復旧には有効ですが、情報窃取を止めるものではありません。大量ファイルアクセス、異常な圧縮処理、外部ストレージやクラウドへの大量転送など、データ持ち出しの兆候を監視する必要があります。

感染経路の66.3%がVPN、20.7%がリモートデスクトップ

被害企業・団体を対象に感染経路を尋ねたアンケートでは、92件の有効回答がありました。

VPN機器を利用されて侵入された事例は61件、66.3%。リモートデスクトップサービスは19件、20.7%でした。

両者を合わせると80件となり、有効回答の約87%に達します。

警察庁は、テレワークなどで利用される機器の脆弱性や、強度の弱い認証用パスワードなどの情報を利用した侵入が大半を占めるとしています。

ただし、「VPN経由61件」の全てがVPN製品の脆弱性悪用だったという意味ではありません。

脆弱性悪用と認証情報悪用を分けて考え、ファームウェア更新、多要素認証、不要アカウント削除、管理画面のアクセス制御、外部公開状況の棚卸しを並行して進める必要があります。

生成AIを悪用した情報窃取プログラム、eSIM不正契約も掲載

第3章は、生成AIを悪用したサイバー犯罪の具体例も掲載しています。

一つは、高校生の少年が生成AIを悪用して情報窃取プログラムを作成し、インターネットカフェ運営会社へサイバー攻撃を行って業務を妨害した事件です。警視庁は2025年12月、不正アクセス禁止法違反と偽計業務妨害で逮捕したとしています。

別の事例では、SNSを通じて結び付いた14歳から16歳の少年らが、生成AIを悪用して作成したプログラムと、不正取得した他人のID・パスワードを利用してeSIMを不正契約・転売しました。警視庁は2025年1月から2月に3人を逮捕しています。

これらは「AIが自律的に犯罪を行った」事案ではありません。生成AIがプログラム作成などに悪用され、実際の不正アクセスには窃取された認証情報や人間の操作が使われています。

AIの利用部分と、不正アクセスを成立させた技術的要因を分けて評価する必要があります。

IoT機器の無差別探索、不審通信の観測を継続

警察庁はインターネット上にセンサーを設置し、本来通信が届かないはずの機器へ送られてくるパケットを収集しています。

これにより、脆弱なIoT機器を探すため不特定多数のIPアドレスへ送信される探索通信などを観測しています。

インターネットへ直接公開しているルーター、監視カメラ、NAS、IoT機器などでは、初期パスワードの変更、管理画面への接続元制限、不要サービス停止、サポート期限の把握が必要です。

サイバー空間の違法情報対策ではAI検索も活用

第3章では、インターネット上の違法・有害情報への対処も取り上げています。

警察庁はインターネット・ホットラインセンター(IHC)に加え、インターネット上の違法情報等を収集するサイバーパトロールセンター(CPC)を運用しています。

CPCでは、犯罪実行者募集情報などを自動収集し、その該当性を判定するAI検索システムを導入しています。

2025年9月にはIHCの運用ガイドラインを改定し、「違法オンラインギャンブル等関連情報」を違法情報へ追加しました。

白書全体を見ると、サイバー対策はマルウェアや不正アクセスだけでなく、犯罪実行者募集、違法賭博、児童被害、有害情報など、オンライン空間を犯罪インフラとして利用する行為へ広がっています。

トピックスでは「匿名・流動型犯罪グループ」とSNSを重点化

第1部のトピックスⅠは、匿名・流動型犯罪グループを重点テーマとして扱っています。

警察庁は、SNSや求人サイト等を利用して特殊詐欺や強盗などの実行犯を募集し、中核人物は匿名性の高い通信手段を利用して指示を行う構造を説明しています。

2025年には、SNS等で犯罪実行者を募集するグループに対し、捜査員が身分を秘して募集へ応じる「仮装身分捜査」を13件実施しました。その結果、強盗予備1件2人、詐欺未遂3件3人を検挙し、これらを含む7件の被害発生を抑止したとしています。

また、匿名・流動型犯罪グループは、預貯金口座から暗号資産まで多様な金融サービスをマネー・ローンダリングに悪用していると白書は説明しています。

サイバー犯罪と特殊詐欺、闇バイト、マネロンを別々の問題として扱うだけでなく、「認証情報」「通信手段」「口座」「暗号資産」「SNSアカウント」といった犯罪インフラを横断して見る必要があります。

第4章、マネー・ローンダリング事犯は1,792件

第4章「組織犯罪対策」では、2025年のマネー・ローンダリング事犯の検挙事件数を1,792件としています。前年から509件、39.7%増加しました。

前提犯罪別では、詐欺795件、窃盗544件、電子計算機使用詐欺302件が主なものです。

疑わしい取引の年間通知件数は1,019,405件で、都道府県警察の捜査で活用された疑わしい取引情報は608,556件でした。

サイバー空間で得られた犯罪収益は、最終的に銀行口座、暗号資産、不動産などを通じて移転・隠匿される場合があります。

第3章の不正送金と第4章のマネロンを横断して読むと、セキュリティインシデントへの対応だけでなく、資金移動の監視や金融機関との連携までがサイバー犯罪対策の一部になっていることが分かります。

第6章、北朝鮮IT労働者と外国による偽情報を扱う

第6章「公安の維持と災害対策」では、北朝鮮IT労働者や外国による偽情報など、安全保障とデジタル領域の接点を扱っています。

白書は、北朝鮮IT労働者が日本人になりすまし、オンラインプラットフォームを使って業務を受注し、収入を得る事例を確認しているとしています。

国内では、北朝鮮IT労働者とみられる人物に運転免許証画像を提供し、クラウドソーシングサービス上で不正なアカウント登録を幇助したとして、2025年4月に会社員の男ら2人を検挙した事例を掲載しています。

また、外国による偽情報について、生成AI技術の進展に伴い、外国による偽情報拡散を含む影響工作の脅威が増すことへの懸念を示しています。

2025年9月には政府の対応体制を強化し、警察も関係機関と連携して情報収集・分析を進めるとしています。

企業にとっても、偽の採用候補者、業務委託者、外部エンジニア、取引先アカウントなどを通じたリスクは、従来の境界型セキュリティとは異なる確認が必要です。

サイバー特別捜査部、Phobos・8Baseの国際共同捜査を紹介

特集では、サイバー特別捜査部の設置から現在までの取り組みを整理しています。

警察庁は2022年4月にサイバー警察局を設置し、関東管区警察局にサイバー特別捜査隊を設置しました。2024年4月には、同隊をサイバー特別捜査部へ発展的に改組しています。

白書は、ランサムウェア攻撃グループ「Phobos」と「8Base」に関する国際共同捜査も紹介しています。

サイバー特別捜査部は、暗号資産の移転先分析から8Baseの運営者特定につながる情報を関係国へ提供しました。

また、米国が押収した被疑者パソコン等のデータを分析し、Phobosで暗号化されたデータを復号するツールを開発。2025年7月に警察庁ウェブサイトで公開しました。

警察は今後も外国捜査機関との共同捜査、犯罪インフラの閉鎖、パブリック・アトリビューションなどを進める方針です。

2026年10月1日から「アクセス・無害化措置」

令和8年警察白書の特集で政策面の中心となるのが、能動的サイバー防御です。

2025年5月に成立したサイバー対処能力強化法と関連整備法を踏まえ、改正警察官職務執行法には「アクセス・無害化措置」の規定が設けられました。

白書によると、必要な知識・能力を持つ警察官を「サイバー危害防止措置執行官」として指名し、原則としてサイバー通信情報監理委員会の事前承認など所定の手続きを経て、攻撃サーバー等へアクセスします。

具体的な措置として、不正プログラムの消去、攻撃者が利用するアカウントの削除などが例示されています。

国外の攻撃サーバー等が対象となる場合には、国際法上許容される範囲で実施するため外務大臣との事前協議も制度に組み込まれています。

現に攻撃を受けており、事前承認を得る時間がないと認められる特段の事情では、事前承認なしで実施できる規定もあります。その場合も、実施後速やかに委員会へ通知し確認を受けます。

白書の注記では、アクセス・無害化措置に関する規定は2026年10月1日に施行されます。

セキュリティ対策Labでは、制度の施行スケジュールについて「能動的サイバー防御、制度設計から実装段階へ 2026年10月1日に無害化措置開始」でも整理しています。

資料編、2025年にサイバー人材・研究・重大事案対応の組織を新設

資料編では、2025年4月1日に実施されたサイバー関連の組織改正を一覧化しています。

警察大学校には、サイバー部門の教育を一元的に統括する「サイバー警察教養部」と、深刻化するサイバー脅威への対処研究を担う「サイバーセキュリティ対策研究センター」が新設されました。

警察大学校附属警察情報通信学校には、都道府県警察での先端技術導入を促進する「先端技術教養部」を設置しています。

関東管区警察局サイバー特別捜査部には、重大サイバー事案の発生予防と被害拡大防止を担う「特別対処課」が設置されました。

白書の政策記述だけでなく、実際の組織改正として教育、研究、捜査、被害拡大防止の体制が拡張されていることが確認できます。

警察自身も情報システムを統合、内部ネットワーク分離とCSIRTを運用

トピックスⅣは「警察における情報システムの合理化・高度化に向けた取組」を扱っています。

警察庁は2021年4月から「警察共通基盤」の運用を開始し、警察庁と各都道府県警察のシステムを段階的に集約・統合しています。

2025年12月には警察行政手続オンライン化システムの運用を開始し、警察が所管する約600手続を24時間365日オンラインで申請できるようにしました。

一方、第7章では警察自身の情報セキュリティ対策として、警察内部ネットワークと外部ネットワークの分離、外部記録媒体の利用制限、警察情報セキュリティポリシーの整備を挙げています。

警察庁と全都道府県警察にはCSIRTを設置し、情報セキュリティインシデント発生時の情報集約、分析、被害拡大防止に備えています。

情報システムの統合・オンライン化を進めながら、ネットワーク分離やインシデント対応体制を整備している点は、企業のDXとセキュリティを同時に進める上でも参考になります。

AIは「犯罪側」と「防御・捜査側」の双方で利用

白書全体を横断すると、AIは二つの側面で登場します。

犯罪側では、生成AIを悪用した情報窃取プログラム作成やeSIM不正契約、外国による偽情報拡散への懸念が示されています。

一方、警察側でも犯罪実行者募集情報を探すAI検索システム、AIとデジタル・フォレンジックに関する国際会議、警察力強化のためのAI活用が取り上げられています。

第7章では、警察庁がAIや小型無人機など先端技術を導入する際、事前に実証実験を行い、効果や活用方法を検証・評価するとしています。

企業にとっても、AIを「脅威」か「防御ツール」の一方だけで捉えるのではなく、攻撃面と運用面の双方からリスク管理する必要があります。

全章を横断するとサイバーは「第3章だけの問題」ではない

令和8年警察白書を全PDFで確認すると、サイバーセキュリティ関連の中心は特集と第3章ですが、他の章にも関連する論点があります。

PDF サイバーセキュリティとの関係
目次 特集、サイバー特別捜査部、能動的サイバー防御、第3章の構成を確認
特集 サイバー特別捜査部、国際共同捜査、復号ツール、能動的サイバー防御、アクセス・無害化
トピックス 匿名・流動型犯罪グループ、SNS犯罪実行者募集、マネロン、警察情報システムの統合
第1章 警察庁・都道府県警察の組織とサイバー特別捜査部の位置付け
第2章 オンライン上の犯罪、サイバーパトロール、違法オンラインギャンブル等
第3章 サイバー犯罪、不正アクセス、不正送金、カード不正、ランサムウェア、IoT探索、対処施策
第4章 マネー・ローンダリング、疑わしい取引、電子計算機使用詐欺など犯罪収益対策
第5章 交通安全・交通行政が中心。今回のサイバー統計の直接的な根拠とはしていません
第6章 北朝鮮IT労働者、外国による偽情報、経済安全保障、サイバーを含む安全保障領域
第7章 警察情報通信基盤、情報管理、CSIRT、AI等先端技術の導入
資料編 サイバー警察教養部、サイバーセキュリティ対策研究センター、特別対処課などの組織改正
凡例 白書内の用語・統計上の定義を確認。新たなサイバー被害統計の掲載はありません

この構成から、警察庁がサイバー空間を「IT部門だけの専門領域」ではなく、金融犯罪、組織犯罪、経済安全保障、偽情報、犯罪収益、警察自身の情報システムまで横断する治安課題として扱っていることが分かります。

情報システム部門への示唆

企業が令和8年警察白書から優先的に確認すべきポイントは、インターネット境界、認証、データ持ち出し、資金移動、インシデント通報の5点です。

第一に、ランサムウェア感染経路ではVPN機器とリモートデスクトップが約87%を占めました。VPN、ファイアウォール、リモートアクセス製品を資産台帳で管理し、サポート期限、ファームウェア、管理画面の公開状態、MFAの適用状況を確認する必要があります。

第二に、不正アクセス禁止法違反の検挙では識別符号窃用型が92.6%でした。脆弱性対策だけでなく、ID・パスワードが窃取されることを前提にした多要素認証、条件付きアクセス、異常ログイン検知が重要です。

第三に、二重恐喝が88.9%、ノーウェアランサムが17件確認されたことから、バックアップだけでは不十分です。外部への大量転送や通常と異なるクラウド利用、重要データへの一括アクセスなどを監視し、データ窃取を検知できるようにする必要があります。

第四に、ボイスフィッシングによる法人口座被害が増えています。財務部門・経理部門と連携し、金融機関を名乗る電話、送金先変更、高額送金、認証コード要求などを含む手順を見直す必要があります。

第五に、白書は国際共同捜査や犯罪インフラ対処を重視しています。インシデント発生時には、社内で完全な原因究明が終わるまで待つのではなく、ログや通信記録を保全し、警察や関係機関へ早期に相談・通報できる体制を平時から決めておくことが重要です。

セキュリティ対策Labでは、2025年の警察庁サイバー脅威情勢について「令和7年(2025年)のサイバー脅威情勢、何が深刻化したのか」でも整理しています。

出典