米中央情報局(CIA)のジョン・ラトクリフ長官が2026年8月25日、ロシア・モスクワを訪問したと、CBS News、Reuters、The Guardian、Washington Postなど米英メディアが相次いで報じました。
米政府は今回の訪問を事前公表しておらず、CIAも訪問目的や会談相手を明らかにしていません。報道によると、米空軍のC-17輸送機がワシントン近郊のJoint Base Andrewsからラトビアのリガを経由してモスクワへ入り、現地では米外交車両とみられる車列も確認されました。
CIA長官によるモスクワ訪問が確認されれば、2021年11月のウィリアム・バーンズ前長官以来となります。前回の訪露は、米情報機関がロシアによるウクライナへの大規模侵攻計画を把握し、バーンズ氏がプーチン大統領と側近に対して「侵攻すれば深刻な結果を招く」と直接警告する目的でした。しかし約4か月後の2022年2月24日、ロシアはウクライナへの全面侵攻を開始しました。
今回のラトクリフ氏の訪露目的は公表されていません。ウクライナ戦争、米露間の拘束者問題、イラン情勢など複数の外交・安全保障案件が背景として報じられていますが、いずれも今回の会談議題として公式確認されたものではありません。
CIA長官のモスクワ訪問のサマリー
- 確認済み:CBS News、Reuters、The Guardianなどは2026年8月25日、CIA長官ジョン・ラトクリフ氏がモスクワを訪問したと関係筋に基づき報じました。
- 確認済み:ラトクリフ氏は2025年1月23日にCIA長官へ就任しており、今回がCIA長官として初めて知られたロシア訪問とみられます。
- 確認済み:米空軍C-17輸送機がJoint Base Andrewsからリガを経由してモスクワへ飛行したことが公開飛行データで確認されています。
- 未公表:CIA、ホワイトハウスは訪問目的、会談相手、具体的な議題を公表していません。
- 報道:米国は訪問前、ウクライナ側に対し一定期間モスクワやサンクトペテルブルクなどへの長距離攻撃を控えるよう求めたとReuters、Guardianなどが報じています。
- 注意点:ウクライナ和平、イラン、拘束者交換などが背景として報じられていますが、今回の公式議題としては確認されていません。
- 確認済み:前回知られているCIA長官のモスクワ訪問は2021年11月のウィリアム・バーンズ氏です。
- 確認済み:バーンズ氏はバイデン大統領の指示で、ロシアのウクライナ侵攻計画について米側の把握内容と、実行時の「深刻な結果」を伝えるため訪露しました。
- 確認済み:バーンズ氏は後に、プーチン氏が計画を否定せず、「侵攻決定はまだ不可逆ではなかったが、明確にその方向へ傾いていた」と振り返っています。
- 確認済み:2022年2月24日、ロシアはウクライナへの全面侵攻を開始しました。
- 確認済み:2022年11月には、バーンズ氏がトルコでロシア対外情報庁(SVR)長官セルゲイ・ナルイシキン氏と会談し、核兵器使用時の重大な結果を警告しています。
- セキュリティ面:英国NCSCとGCHQは2026年、ロシアによるサイバー・ハイブリッド活動が英国や欧州で継続・拡大していると警告しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 訪問日 | 2026年8月25日 |
| 訪問者 | CIA長官 ジョン・ラトクリフ氏 |
| 訪問先 | ロシア・モスクワ |
| 米政府による公式発表 | なし |
| 訪問目的 | 未公表 |
| 会談相手 | 未公表 |
| 移動 | 米空軍C-17がJoint Base Andrews→リガ→モスクワへ飛行 |
| 前回のCIA長官訪露 | 2021年11月、ウィリアム・バーンズ氏 |
| 2021年訪露の目的 | ウクライナ侵攻計画を警告し、実行時の結果を伝達 |
| ロシア全面侵攻 | 2022年2月24日 |
| 2022年の情報機関間協議 | バーンズ氏がトルコでナルイシキンSVR長官と会談、核使用を警告 |
| 現在の関連リスク | ウクライナ戦争、米露関係、イラン情勢、ロシアのサイバー・ハイブリッド活動 |
ラトクリフCIA長官、モスクワへ異例の訪問
CBS Newsは8月25日、複数の関係者の話としてCIAのジョン・ラトクリフ長官がモスクワで会談を行っていると報じました。
Washington Post、Reuters、The Guardianなどもこれに続きました。
公開された飛行追跡データでは、米空軍のC-17A Globemaster IIIがJoint Base Andrewsを出発後、ラトビアのリガを経由し、モスクワのVnukovo空港へ到着しています。
CIA、米国防総省、米空軍は報道各社へのコメントを控えており、ホワイトハウスも訪問目的を公表していません。
そのため現時点では、「CIA長官がモスクワを訪問したと米英メディアが複数の政府関係筋に基づいて報じている」ことと、「訪問目的や会談相手は非公表」という点を分けて扱う必要があります。
米国はウクライナに一時的な対露攻撃停止を要請と報道
今回の訪問を前に、米国がウクライナへ一定期間ロシア北部への長距離攻撃を控えるよう求めたとも報じられています。
Reutersによると、米側はモスクワ、サンクトペテルブルクなどへの攻撃を数日間控えるようウクライナ側へ伝えました。The Guardianも、Trump政権がラトクリフ氏の訪問期間中に長距離攻撃を見合わせるよう求めたと報じています。
これは、米政府が高官訪露中の安全確保を優先した措置とみられます。
ただし、米政府が要請内容を公式発表したわけではなく、ウクライナ側がどの範囲まで要請に応じたかも公表されていません。
訪問目的は不明、ウクライナ・イラン・拘束者問題が背景
現在の米露間には複数の懸案があります。
米国が仲介してきたウクライナ戦争の和平協議は停滞しており、ロシアによるウクライナへのミサイル・ドローン攻撃と、ウクライナによるロシア領内への長距離攻撃が続いています。
また、ロシアとイランは軍事・経済面で緊密な関係を維持しており、米国とイランをめぐる対立も米露協議の背景として指摘されています。
CIAは過去に米露間の拘束者交換にも関与してきました。ラトクリフ氏自身も、ロシアに拘束されていた米国人の解放交渉に関与したことをCIA公式サイトが紹介しています。
ただし、今回の訪問が、
- ウクライナ和平交渉
- イラン情勢
- 米露間の拘束者交換
- ロシアへの警告
のどれを主要目的としていたかは確認できません。
前回2021年、バーンズCIA長官は「侵攻計画」を警告するため訪露
今回の訪問が注目される最大の理由の一つが、前回のCIA長官によるモスクワ訪問です。
2021年秋、米情報機関と英国MI6はロシア軍の動きから、ウクライナへの大規模侵攻計画を強く疑う情報を収集していました。
当時のCIA長官ウィリアム・バーンズ氏は、バイデン大統領の指示で2021年11月初旬にモスクワを訪問しました。
米国務省は同年12月、バーンズ氏の訪露について、ロシアに対して米国側の懸念、外交プロセスへの意思、軍事行動へ進んだ場合の「深刻な結果」を伝えるためだったと説明しています。
バーンズ氏自身も2022年のAspen Security Forumで、米情報機関が2021年10月ごろから「プーチン大統領による大規模侵攻の詳細な計画」を把握し始め、バイデン大統領からモスクワで懸念と結果を伝えるよう指示されたと振り返っています。
プーチン氏は侵攻計画を否定せず、バーンズ氏は「さらに懸念が強まった」
バーンズ氏は2021年訪露時の感触について、後にかなり踏み込んで説明しています。
CIAが公開した講演記録によると、バーンズ氏はプーチン氏と側近に対し、米国が把握していた侵攻計画を示しました。
バーンズ氏は、プーチン氏は計画そのものを否定しようとしなかったと説明しています。
また、帰国時の印象について、不可逆的な決断にはまだ至っていないと感じたものの、その方向へ強く傾いていたと述べています。
別のCIA講演でも、バーンズ氏はモスクワから「行く前よりさらに懸念を強めて帰った」としています。
英国The Guardianが2026年2月に掲載した米英情報活動の検証記事でも、バーンズ氏はモスクワでプーチン氏へ米国の分析を伝えましたが、プーチン氏は自身の主張を繰り返し、米側の警告に動かされなかったと報じています。
米英情報機関は侵攻を事前に警告、欧州では懐疑論も
2021年秋から2022年初頭にかけて、米CIAと英MI6はロシアによる全面侵攻の可能性を早い段階から共有していました。
Guardianの検証によると、CIAとMI6は2021年10月末にはウクライナ側へ警戒情報を伝え、バーンズ氏のモスクワ訪問後には米当局者がキーウへ入り、ロシアの侵攻計画に関する情報を説明しました。
同年11月中旬には、米国家情報長官アヴリル・ヘインズ氏がNATO加盟国の情報機関トップへ侵攻の可能性を説明し、MI6のリチャード・ムーア長官も米側の評価を支持しました。
一方、一部の欧州当局者やウクライナ側には「本当に全面侵攻まで踏み切るのか」という懐疑論も残っていました。
米英情報機関はその後、ロシア軍の部隊配置や想定される偽旗作戦など、一部の機密情報を異例の形で公開しました。
約4か月後、2022年2月24日に全面侵攻
バーンズ氏のモスクワ訪問から約4か月後の2022年2月24日、ロシアはウクライナへの全面侵攻を開始しました。
米国務省は後に、侵攻1週間前の2月17日に国連安全保障理事会でロシアの侵攻計画を警告し、7日後に実際の全面侵攻が始まったと振り返っています。
英国The Guardianも侵攻当日、米英情報機関が数か月前から出していた警告が現実になったと報じました。
2021年のCIA長官訪露は、戦争を止めることには成功しませんでした。
一方で、米英情報機関がロシアの軍事行動をかなり早い段階で把握していたこと、そしてCIA長官という情報機関トップを直接モスクワへ送り込むほど米政府が危機を深刻に捉えていたことを示す出来事となりました。
2022年には「核使用」を警告するため再び情報機関ルートを利用
ロシアの全面侵攻後も、米露の情報機関トップによる直接対話は完全には途絶えませんでした。
2022年11月、バーンズ氏はトルコ・アンカラでロシア対外情報庁(SVR)のセルゲイ・ナルイシキン長官と会談しました。
米国務省は、バーンズ氏がロシアによる核兵器使用の「結果」と、戦略的安定性を損なうエスカレーションの危険性について警告したと説明しています。
米政府は当時、この会談について和平交渉ではなく、核リスクを管理するための情報機関間の連絡だったと明確にしました。
CIA長官が敵対国との機密性の高いメッセージ伝達役を担うのは、2021年のモスクワ訪問だけではありません。
今回の訪露を「ロシアへの警告」と断定できない
2021年のバーンズ氏訪露には、後に米政府とCIA自身が「侵攻を警告する目的だった」と明確に説明しています。
これに対し、2026年8月25日のラトクリフ氏訪問は、現時点で目的そのものが公表されていません。
そのため、「今回もロシアへの最後通告だった」「新たな軍事行動を警告するためだった」「ウクライナ停戦交渉だった」などと断定する根拠はありません。
2021年の前例からCIA長官が重要な戦略メッセージを直接伝える役割を担う可能性はありますが、それは現在の公開情報から導ける推測にとどまります。
2026年、英国はロシアのサイバー・ハイブリッド活動拡大を警告
今回の訪露をセキュリティ面から見る場合、軍事衝突だけでなく、ロシアによるサイバー・ハイブリッド活動も重要な背景です。
英国NCSCのCEOは2026年のCYBERUK講演で、ロシアがウクライナ戦争で得たサイバー戦術を戦場外へ展開し、英国や欧州の資産を継続的に標的にしていると警告しました。
GCHQも2026年の年次講演で、ロシアが「平時と戦時の間のグレーゾーン」で、海底インフラからサイバー空間まで日常的なハイブリッド活動を拡大していると説明しています。
英国政府は7月、ロシアGRUの複数部隊がサイバー攻撃、情報工作、破壊工作などを組み合わせて英国や同盟国を狙っているとして、詳細な脅威プロファイルも更新しました。
CBS Newsも今回のラトクリフ氏訪露について、最近の米情報評価では、プーチン氏がNATO加盟国に対するハイブリッド作戦など、通常戦争に至らない挑発行動へより踏み込む可能性があると報じています。
ただし、この評価が今回のモスクワ会談の直接テーマだったかどうかは確認されていません。
セキュリティ対策Labでは、ロシアFSBによるネットワーク機器を悪用した重要インフラへのサイバー活動について「米英加豪など18機関、ロシアによるルーターを悪用した重要インフラへのサイバー攻撃を警告」でも取り上げています。
情報システム・セキュリティ部門への示唆
CIA長官のモスクワ訪問自体が企業のサイバーインシデントを意味するわけではありません。
一方、米露間の緊張が軍事、外交、情報戦、サイバー空間へ同時に波及する構造は、2022年のウクライナ侵攻前後から繰り返し確認されています。
特に英国NCSCやGCHQは、ロシアの国家機関や国家連携アクターが重要インフラ、政府、通信、サプライチェーン、ネットワーク機器を継続的に狙っていると警告しています。
日本企業でも、欧米の政府・防衛・エネルギー企業との取引、ウクライナ支援、制裁対象製品を含む輸出管理などに関係する場合、地政学上の緊張変化を自社の脅威インテリジェンスへ反映する必要があります。
VPN、ルーター、ファイアウォールなどインターネット境界機器のパッチ適用、管理画面の公開制限、MFA、異常認証監視、サプライチェーンの依存関係確認を継続し、国家間の緊張が高まった場合に監視レベルを引き上げられる運用を準備しておくことが重要です。
出典
- CIA Director John Ratcliffe on secret trip in Russia – CBS News
- US spy chief visits Russia for meetings, media reports – Reuters
- CIA director John Ratcliffe reportedly on Moscow visit – The Guardian
- CIA director in Moscow for rare, unannounced trip – The Washington Post
- Director of the CIA – Central Intelligence Agency
- Secretary Antony J. Blinken at a Press Availability at the NATO Ministerial – U.S. Department of State
- Aspen Security Forum Fireside Chat with CIA Director William Burns – Central Intelligence Agency
- DCIA William Burns Remarks – Ditchley 59th Annual Lecture – Central Intelligence Agency
- A war foretold: how the CIA and MI6 got hold of Putin’s Ukraine plans – The Guardian
- US and UK intelligence warnings vindicated by Russian invasion – The Guardian
- Department Press Briefing – November 15, 2022 – U.S. Department of State
- NCSC CEO keynote speech, CYBERUK 2026 – UK National Cyber Security Centre
- GCHQ Annual Lecture 2026 – GCHQ
- Profile: GRU cyber and hybrid threat operations – GOV.UK
- 米英加豪など18機関、ロシアによるルーターを悪用した重要インフラへのサイバー攻撃を警告 – セキュリティ対策Lab








