米下院国土安全保障委員会、生成AIとエージェントAIのテロ利用 実態の調査を要請

インテリジェンス

投稿日時: 更新日時:

米下院国土安全保障委員会の対テロ・情報小委員会(Subcommittee on Counterterrorism and Intelligence)は2026年3月17日、米国政府説明責任局(GAO)に対し、生成AI(GenAI)および自律型エージェントAI(AAI)がテロリストや不法行為者によって悪用されている実態と、連邦政府の対応状況についての調査を正式に要請しました。

要請書に署名したのは同小委員会のオーガスト・プルーガー委員長(共和党・テキサス州)で、GAO長官代行のオライス・ウィリアムズ・ブラウン氏宛てに送付されました。

【30秒でわかる本記事の概要】

  • 米議会が、テロリストによる「生成AI」および自律型の「エージェントAI」悪用についてGAOへ実態調査を要請。

  • 偽情報の大量生成や自動攻撃など、AIによる脅威は連邦政府の対応能力を上回る危険性がある。

  • 日本でも中国による「沖縄独立工作」や「選挙直後のフェイク動画」など、生成AIを用いた認知戦がすでに発生している。

背景:急速に進化するAIがテロの脅威を変容させている

要請書はまず、AIが米国民の日常生活に浸透するにつれて、悪意ある行為者がこれを利用しようとする動きも加速していると警鐘を鳴らしています。

特に注目されているのが以下の2つの技術です。

生成AI(GenAI): 過激派やテロリストが、プロパガンダ・偽情報・過激思想への勧誘コンテンツを低コストかつ機械的なスピードで大量生成することを可能にします。これにより、過激化・情報操作・オンライン影響工作への参入障壁が大幅に低下するとされています。

エージェントAI(AAI): 単なるコンテンツ生成にとどまらず、タスクを自律的に計画・適応・実行する能力を持ちます。これにより、テロ関連活動が人間の監視をほとんど必要とせずに持続・拡大・リアルタイム調整できるようになると懸念されています。

要請書は、こうした技術の悪用が「速度・規模・適応性」の面で連邦政府の検知・対応・抑止能力を大きく上回る可能性があると指摘しています。一方で、これらAI活用型脅威に対抗するための課題の性質と範囲は、現時点では十分に理解されていないとも述べています。

GAOへの3つの調査要請事項

同小委員会がGAOに求めた調査項目は以下の3点です。

① テロリストの能力への影響 過激派や不法行為者によるAI利用が、テロ活動の遂行能力をどのように変化させているか。

② 連邦機関の対応への影響 過激派や不法行為者によるAI利用が、連邦法執行機関および情報機関によるテロ抑止・防止活動をどのように変化させているか。

③ テクノロジー企業との連携 連邦法執行機関および情報機関が、テロ目的でのAI利用を検知・妨害・制限するために、テクノロジー企業とどのように連携しているか。

背景にある安全保障上の危機感

今回の要請は、AIを悪用したテロや過激主義への懸念が米議会レベルでも高まっていることを示す動きとして注目されます。

生成AIの普及により、高度な技術知識を持たない個人でも説得力のある偽情報やプロパガンダ動画を大量作成できるようになっています。さらにエージェントAIの登場により、人間の指示を最小限に自動で攻撃計画を立案・実行するシステムの構築が現実的な脅威として浮上しています。

要請書は、内部脅威(インサイダー)や悪意あるサイバー行為者を含む幅広い不法行為者がこれらの技術を活用しようとすることは「不可避」であると断言しており、連邦政府として早急に実態を把握し、対策を整備する必要性を強調しています。

生成AIプロパガンダによる認知戦:日本をめぐる実例

GAO調査の要請が示す懸念は、すでに日本周辺でも具体的な事例として現れています。以下に、生成AIを活用した国家レベルの認知戦の実例を2つ紹介します。

事例①:中国国営メディアCGTNによる「琉球独立」ナラティブ工作

中国の国営英語放送局CGTN(中国グローバルテレビジョンネットワーク)は、約11分間の番組『琉球の悲劇(THE UNDETERMINED STATUS OF RYUKYU)』を制作・配信しました。

表向きは沖縄の歴史を振り返るドキュメンタリーの体裁をとっていますが、その実態は「沖縄県民は日本政府や自衛隊から迫害されている先住民である」という架空のナラティブを国際社会に向けて発信する高度なプロパガンダです。番組の終盤では、日本政府による正当な南西諸島防衛強化を「地元先住民に対する差別と迫害の強化」へとすり替え、「日本政府・自衛隊=抑圧者」「沖縄県民=無力な被害者」という二項対立の図式を意図的に作り出しています。

さらに2025年10月の国連会議の映像を挿入し、中国国連次席大使が日本に対して「沖縄人への差別をなくすよう」呼びかけるシーンを強調することで、日本の安全保障政策を「国際的な人権侵害問題」として枠組み化しています。これはロシアがウクライナ侵攻前にドンバス地方のロシア系住民への「迫害」を喧伝し、介入の口実を作った手口と構造的に一致しており、将来的な台湾有事や南西諸島有事に備えた「介入の大義名分」を平時から認知領域に形成しようとする動きと分析されています。

関連:中国が描く沖縄独立のシナリオ ウクライナ侵攻と同じ大義名分が沖縄に向けられている

事例②:中国人民解放軍公式アカウントによる生成AI動画—2026年衆院選への即応工作

2026年2月の衆議院選挙で自由民主党が単独300議席超えという歴史的大勝を収めた直後、中国人民解放軍(PLA)の公式広報Xアカウント「ChinaMilBugle」が、選挙結果を「軍国主義の復活」と結びつける動画を即座に投稿しました。

この動画の特筆すべき点は、冒頭から「AI generated(生成AIによる制作)」と明記されていたことです。これはプラットフォームの凍結リスク回避と同時に、AI特有の「不気味の谷」的映像(6本指、歪んだ看板など)をあえてミーム的に活用し若年層への拡散を狙った戦略的な判断とみられています。動画にはSoraやRunway Gen-3といった動画生成AIの特徴的なモーフィング効果が使われ、楽曲もSunoやUdioを用いたJ-Rockを意識したアニソン調の曲調が採用されていました。

選挙結果の判明からわずかな時間で動画が投稿された背景には、複数の選挙シナリオ別コンテンツをあらかじめ生成AIで準備していた可能性が指摘されています。これはまさにGAO調査要請が指摘する「低コスト・高頻度・リアルタイム適応」型の認知戦の実験的展開です。

関連:2026 衆院選の自民・高市内閣 大勝と中国の焦り-生成AI動画に見るプロパガンダの構造

現時点で生成AIプロパガンダの効果と限界

OpenAIのレポートをはじめとする複数の脅威インテリジェンス分析によると、現時点でこうしたAI製プロパガンダは「量は稼げても質が伴わず」、影響力スケールで最低ランクに留まる傾向があります。主な理由として以下の3点が挙げられています。

  • 「不気味の谷」による違和感(リップシンクのズレ・背景の歪みが視聴者の没入を阻害する)
  • スパムとしての自動認識(大量生成ゆえに情報ではなくノイズとしてフィルタリングされる)
  • 人間らしい対話の欠如(Bot同士のエコーチェンバーに閉じてしまい一般層への波及が起きない)

という点です。

ただし、生成AI・エージェントAI技術は急速に進歩しており、こうした技術的限界が短期間で克服される可能性は否定できません。GAO調査の要請が示すように、現時点で実態を正確に把握し対策の枠組みを構築しておくことが、連邦政府にとって急務となっています。

今後の見通し

GAOによる調査結果は、連邦法執行・情報機関(FBI・DHS・CIAなど)のAI対テロ戦略の見直しや、テクノロジー企業との官民連携の枠組み強化につながる可能性があります。また、AIのテロ利用規制に関する立法論議を加速させる契機となることも予想されます。