ClaudeがWAGO PLC向け脆弱性(CVE-2021-31886)を別機種へ移植 Forescoutが実機検証

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ClaudeがWAGO PLC向け脆弱性(CVE-2021-31886)を別機種へ移植 Forescoutが実機検証

Forescout ResearchのVedere Labsは2026年9月1日、AnthropicのClaudeを利用し、WAGO製PLC向けの既知のリモートコード実行(RCE)脆弱性を別機種へ移植する実験結果を公表しました。

対象となったのは、2021年に公表されたCVE-2021-31886です。Nucleus RTOSのFTPサーバーに存在する認証前のスタックベース・バッファオーバーフローで、Siemens ProductCERTはCVSS v3.1を9.8(Critical)と評価しています。

Vedere Labsは過去の研究でWAGO 750-852向けのRCEエクスプロイトを開発していました。今回の実験では、その既存エクスプロイトをWAGO 750-831(ファームウェアV01.04.16)へ移植できるかをClaude Codeで検証しました。

Claudeには既存のエクスプロイト、対象機器のファームウェア、リバースエンジニアリングツール、実機へのアクセスが与えられました。最終的に、認証なしで研究者が指定したARMコードをPLC上で実行することに成功しています。

ただし、Claudeが自律的にゼロデイを発見し、単独でエクスプロイトを完成させたわけではありません。研究者による継続的な誘導、誤った分析の修正、追加の逆アセンブル情報の提供が必要でした。最終的なRCE開発段階は8時間32分に及び、API利用料は535.74ドルでした。

さらに、RCE成立後にコマンド&コントロール(C2)機能へ拡張する追加実験では、AIが生成した処理によってPLCのフラッシュ領域へ誤った書き込みが行われ、実験機が起動不能になりました。

今回の研究は実際のサイバー攻撃を確認したものではなく、管理された研究環境でAIによるOTエクスプロイト開発支援の能力と限界を評価したものです。

ClaudeによるWAGO PLCエクスプロイト移植実験のサマリー

  • Forescout Research / Vedere Labsは2026年9月1日、Claudeを使ったPLCエクスプロイト移植実験を公表しました。
  • 対象脆弱性はCVE-2021-31886です。
  • CVE-2021-31886はNucleus RTOSのFTPサーバーに存在する認証前RCEにつながる脆弱性です。
  • Siemens ProductCERTのCVSS v3.1評価は9.8(Critical)です。
  • Vedere Labsは既存のWAGO 750-852向けRCEをWAGO 750-831へ移植しました。
  • 移植対象の750-831はファームウェアV01.04.16でした。
  • Claude Codeはファームウェア解析、実機検証、エクスプロイト調整を支援しました。
  • 最終的に認証なしでARMコードを実行できることを実機で確認しました。
  • AIのみで自律的に完成したわけではなく、研究者の継続的な誘導が必要でした。
  • 最終RCE開発段階は8時間32分でした。
  • API利用料は535.74ドルでした。
  • RCE成立後は短時間で複数のネットワーク通信ペイロードを生成できたとしています。
  • C2機能への拡張実験では、AIが生成した処理によってPLCが起動不能になりました。
  • 今回の研究は実攻撃の確認ではありません。
  • CVE-2021-31886は2021年公表の既知脆弱性であり、新たなゼロデイではありません。
  • CERT@VDEは複数の旧型WAGO PLC/フィールドバスカプラが影響を受けるとしています。
  • 一部対象機種には更新版がなく、FTPの無効化やTCP/21遮断、ネットワーク分離などが推奨されています。
  • 9月3日時点でCVE-2021-31886のCISA KEV掲載は確認できませんでした。
項目 内容
公表日 2026年9月1日
研究機関 Forescout Research / Vedere Labs
使用AI Anthropic Claude Code
対象脆弱性 CVE-2021-31886
脆弱性種別 認証前スタックベース・バッファオーバーフロー
CVSS v3.1 9.8(Critical)
元の対象機種 WAGO 750-852
移植先 WAGO 750-831
移植先ファームウェア V01.04.16
結果 認証前RCEを実機で確認
AIの自律性 完全自律ではなく、研究者の継続的な支援が必要
最終RCE開発時間 8時間32分
API利用料 535.74ドル
追加実験 C2化の試行で実験PLCが起動不能
実攻撃 確認された事案ではない
CISA KEV 9月3日時点で掲載確認できず

CVE-2021-31886は2021年公表の既知脆弱性

今回の研究で使われたCVE-2021-31886は、新たに発見された脆弱性ではありません。

Forescoutが2021年に公表した「NUCLEUS:13」の一つで、Nucleus RTOSのネットワークコンポーネントに含まれるFTPサーバーの入力検証不備に起因します。

Siemens ProductCERTによると、FTPサーバーが認証前に受け取るユーザー情報の長さを適切に検証せず、スタックベースのバッファオーバーフローにつながる可能性があります。

成功した場合、DoSだけでなくリモートコード実行につながる可能性があります。

CVSS v3.1は9.8で、

  • ネットワーク経由
  • 低い攻撃複雑度
  • 認証不要
  • ユーザー操作不要

と評価されています。

今回の記事では具体的な攻撃パケットやエクスプロイトコード、再現手順は扱いません。

WAGO 750-852向けの既存RCEを750-831へ移植

Vedere Labsは過去のNUCLEUS:13研究で、WAGO 750-852に対するCVE-2021-31886のRCEエクスプロイトをすでに開発していました。

今回の実験では、同じ脆弱性を持つとされる別機種のWAGO 750-831へ、既存のエクスプロイトをどこまでAIで移植できるかを検証しました。

移植先はWAGO 750-831、ファームウェアV01.04.16です。

研究者はClaude Codeに対し、

  • 既存の750-852向けエクスプロイト
  • 750-831のファームウェア
  • リバースエンジニアリング環境
  • 物理的な750-831

を提供し「既知の脆弱性」と「既に動作する別機種向けエクスプロイト」を出発点に、機種固有の差異を解析して移植する実験でした。

Claudeは脆弱性の存在確認から実機解析まで実施

Forescoutによると、Claude Codeはまず、対象PLC上に同じ脆弱性が存在するかを確認しました。

その際、実機へのネットワークアクセスとファームウェアの静的解析を組み合わせています。

ClaudeはファームウェアのOS、CPUアーキテクチャ、メモリ配置などを解析し、既存の750-852向けエクスプロイトを750-831へ適合させるために必要な情報を探しました。

一方、作業は一度で成功したわけではありません。

誤った関数を追跡したり、成立しないエクスプロイトを生成したりする場面もあり、研究者が方向を修正し、追加の逆アセンブル情報を与える必要がありました。

最終RCE開発に8時間32分、API利用料535.74ドル

Forescoutは、最終的なRCE開発段階について具体的な時間とコストを公開しています。

最終セッションは8時間32分で、API利用料は535.74ドルでした。

研究全体は複数日にまたがっています。

Forescout自身も、今回の結果について「人間の研究者がAIなしで作業した方が、より短時間かつ低コストで、実験機を壊さずに済んだ可能性がある」と指摘しています。

つまり、現段階ではAIによるOTエクスプロイト開発が常に人間より効率的とは言えません。

一方、今後モデル性能が向上し、人間による誘導量が減れば、同種の機器へ既存エクスプロイトを移植するコストが下がる可能性があります。

RCE成立後はペイロード生成が急速に進んだ

実験で注目されるのは、最初のRCE成立までには長時間を要した一方、一度コード実行の条件を確立すると、その後の処理生成が短時間で進んだ点です。

Forescoutによると、ClaudeはRCE成立後、PLCから外部へネットワーク通信を発生させる複数の検証用ペイロードを短時間で作成しました。

これは、最も難しいのが機種固有のメモリ構造や実行条件を理解する工程であり、一度その壁を越えると、後続の機能追加をAIが高速化できる可能性を示しています。

ただし、今回確認されたのは研究用の限定的なコード実行と通信です。

PLCの制御ロジック変更、製造設備の操作、安全機能の無効化などが実証されたわけではありません。

C2化の試行で実験用PLCが起動不能に

研究チームはRCE成立後、より高度なC2機能へ拡張できるかも検証しました。

この追加実験では、Claudeが生成した処理がPLCのフラッシュメモリ領域へ書き込みを行い、実験機が起動不能になりました。

この結果は、AIをOTやサイバーフィジカルシステムへ直接接続する際の別の問題を示しています。

ITシステムでは誤った処理がサービス停止やデータ破損につながる一方、PLCでは物理機器自体の停止や設備運転への影響につながる可能性があります。

Forescoutは、AIが攻撃者として自律的にPLCを狙うシナリオだけでなく、正規に利用されるAIエージェントが誤った操作を行うリスクも重要だと指摘しています。

CERT@VDEは複数のWAGO旧型機器を影響対象に

CERT@VDEのWAGO向けアドバイザリVDE-2021-050では、Nucleus RTOSを利用する複数のPLCとフィールドバスカプラがNUCLEUS:13の影響を受けるとしています。

CVE-2021-31886を含む複数脆弱性の影響対象として挙げられている主な機種は次のとおりです。

WAGO製品 影響バージョン
750-331 FW16以下
750-352/xxx-xxx FW16以下
750-829 FW16以下
750-831/000-00x FW14以下
750-852 FW16以下
750-880/0xx-xxx FW16以下
750-881 FW16以下
750-882 FW16以下
750-885/0xx-xxx FW16以下
750-889 FW16以下

今回Forescoutが実験した750-831は、この影響対象に含まれます。

ただし、CERT@VDEの一覧にはNUCLEUS:13の複数CVEが含まれているため、全製品がすべて同じ脆弱性条件を持つわけではありません。

一部WAGO製品では更新版なし、FTP遮断が重要

CERT@VDEのアドバイザリでは、Nucleus V1 RTOSを利用する対象製品について更新版が提供されていないものがあります。

その場合の緩和策として、

  • FTPを無効化する
  • TCP/21へのアクセスを遮断する
  • 信頼できるネットワークからのみアクセスさせる
  • OTネットワークを分離する
  • 不要な外部接続を許可しない
  • PLCへの異常通信を監視する

といった対策が重要になります。

特に今回のCVE-2021-31886は認証前に到達可能なFTP処理に存在するため、認証パスワードの強化だけでは対策になりません。

脆弱なFTPサービスそのものへ到達させないことが重要です。

Nucleus側では修正版が存在

CVE-2021-31886はWAGOだけの問題ではありません。

脆弱性はSiemensのNucleus RTOSに含まれるNucleus NETのFTPサーバーに存在します。

Siemens ProductCERTは、Nucleus ReadyStart V3について、CVE-2021-31886はV2013.08.1以降で修正済みとしています。

一方、古いNucleus NETやNucleus Source Codeを組み込んだ製品では、最終製品メーカー側でアップデートが提供されなければ利用者が直接修正できない場合があります。

これはOT・IoT機器で繰り返し問題になる「組み込みコンポーネントの脆弱性」です。

OSやTCP/IPスタックに修正版が存在しても、最終製品のファームウェアへ反映されなければ、現場では古い脆弱コンポーネントが長期間残り続けます。

実攻撃で悪用された事例ではない

今回のForescoutの公表は、攻撃者がWAGO PLCを実際に侵害した事案ではありません。

管理された研究環境で、研究者自身が所有するPLCに対して実施した検証です。

また、Forescoutの9月1日付研究は、CVE-2021-31886が現在実際の攻撃で悪用されていると報告したものでもありません。

9月3日時点で、CVE-2021-31886のCISA Known Exploited Vulnerabilities Catalogへの掲載も確認できませんでした。

したがって、

「Claudeを使ったWAGO PLC攻撃が実際に発生した」

「AIが重要インフラを自律攻撃した」

と表現することはできません。

今回確認されたのは、AIを利用して既知のOTエクスプロイトを別機種へ移植できたという研究成果です。

AIがOT攻撃の「横展開コスト」を下げる可能性

今回の研究で重要なのは、AIが新しい脆弱性を発見したことではなく、「ある機種で動くエクスプロイトを似た別機種へ適応させる」作業を支援できた点です。

OT機器では、

  • CPUアーキテクチャ
  • ファームウェア
  • メモリ配置
  • コンパイラ
  • RTOS
  • 実装差

によって、同じ脆弱性でもエクスプロイトをそのまま流用できない場合があります。

従来、この作業には専門的なリバースエンジニアリング能力が必要でした。

今回の実験ではまだ専門家が必要でしたが、AIが解析の一部を担うことで、将来的に機種ごとの移植コストが下がる可能性があります。

これは「公開PoCがないから安全」「同じCVEでも自社機種向けエクスプロイトがないから優先度を下げる」といった判断が、今後さらに危険になる可能性を示しています。

セキュリティ対策Labで扱ったPLCへの実攻撃

セキュリティ対策Labでは、2026年7月に米政府機関が更新した、インターネット公開PLCを狙うイラン系APTの共同アドバイザリについても取り上げています。

イラン系APTが米重要インフラへサイバー攻撃、正規エンジニアリングツールで制御ロジックを改変

この事案では、攻撃者が正規のPLCエンジニアリングツールを利用し、米国の上下水道やエネルギー分野などを標的としていました。

今回のForescout研究とは直接の関連はありませんが、PLCがすでに現実の攻撃対象になっていることを示しています。

また、AIを攻撃側・防御側の双方から整理した記事として、セキュリティ対策Labでは以下も公開しています。

AIセキュリティとは?生成AI・AIシステムのリスクと企業のセキュリティ対策を解説

今回の研究は、「AIが攻撃者を完全自動化する」という段階ではない一方、従来は専門家しかできなかった解析作業の一部をAIが補助し始めている具体例と位置付けられます。

OT・情報システム部門への示唆

今回の研究を受けて、企業が最初に行うべきことは「AI攻撃対策製品を導入すること」ではありません。

まず、自社OTネットワーク内に影響対象となるWAGO機器やNucleusベースの機器が存在しないかを確認する必要があります。

特に、

  • WAGO 750シリーズの型番・ファームウェア棚卸し
  • FTPサービス利用状況
  • TCP/21への到達可能性
  • ITネットワークからOTへの通信経路
  • インターネットからPLCへの直接アクセス
  • ベンダー保守回線
  • VPN・リモートアクセス経路

を確認すべきです。

更新版が存在しない機器では、脆弱性を「パッチできないリスク」として管理し、ネットワーク制御で補完する必要があります。

また、PLCやRTUなどのOT機器に対する脆弱性対応では、CVSSだけではなく、

  • 実際のネットワーク到達性
  • 対象機器が制御する物理プロセス
  • 停止時の安全影響
  • 冗長化の有無
  • 更新できるか
  • エクスプロイトの存在
  • AIによる移植可能性

まで含めて優先順位を決める必要があります。

今回の研究は、AIによって直ちにOT攻撃が完全自動化されたことを示すものではありません。

一方で、「機種固有でエクスプロイト開発が難しいから悪用可能性は低い」という従来の前提は、今後見直す必要があります。

出典