守秘義務とは、業務や契約などを通じて知った秘密情報を、正当な理由なく第三者へ開示したり、定められた目的以外に利用したりしない義務です。
企業では、雇用契約、秘密保持契約(NDA)、就業規則、業務委託契約などで守秘義務を定めるほか、情報の種類によっては不正競争防止法、個人情報保護法、職種ごとの法令が関係します。
ただし、「社外秘と書いてあればすべて法律上の営業秘密になる」「NDAがなければ情報を持ち出しても問題にならない」という理解は適切ではありません。
不正競争防止法上の営業秘密として保護されるには、秘密として管理されていること、有用な情報であること、公然と知られていないことなどの要件があります。一方、契約上の秘密情報は、営業秘密より広い範囲を対象に設定できます。
情報システム部門やセキュリティ部門では、守秘義務を契約書の条項だけで終わらせず、「誰が、どの情報へ、どの経路からアクセスできるか」を技術的に制御する必要があります。
守秘義務とは
守秘義務は、職務や契約関係などによって知った秘密を、許可なく第三者へ漏らしたり、本人・会社が認めていない目的で利用したりしない義務です。
企業で問題になる行為には、次のようなものがあります。
- 顧客リストを転職先へ持ち出す
- 商談資料を私用メールへ送る
- 設計図やソースコードを私物USBへコピーする
- 取引先から受領したNDA対象資料を別会社へ渡す
- 社内限定資料を個人用クラウドへ保存する
- 顧客情報や社内資料を許可されていない生成AIへ入力する
- APIキーやアクセストークンを個人サーバーへ保存する
守秘義務の対象は「口外しないこと」だけではありません。契約によっては、目的外利用の禁止、複製制限、再委託先への開示条件、契約終了時の返却・削除なども含まれます。
守秘義務は何によって発生するのか
一般企業の従業員について、「すべての業務情報に対する守秘義務」を一つの法律が一律に定めているわけではありません。
企業実務では、複数の根拠が組み合わさります。
| 根拠 | 例 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 法令 | 職種別の守秘義務、不正競争防止法、個人情報保護法上の管理義務など | 職務上の秘密、営業秘密、個人データ |
| 雇用契約 | 従業員との秘密保持条項 | 顧客情報、技術情報、価格、社内資料 |
| NDA | 取引開始前、共同開発、M&A、業務提携 | 当事者間で定義した秘密情報 |
| 業務委託契約 | 委託先・受託先の秘密保持条項 | 顧客データ、仕様書、システム情報 |
| 就業規則・社内規程 | 情報管理規程、端末利用規程 | 社内で指定した機密情報 |
| 不正競争防止法 | 営業秘密の不正取得・使用・開示 | 法律上の要件を満たす営業秘密 |
契約、規程、アクセス制御、秘密情報の管理を組み合わせて保護するのが企業実務です。
守秘義務とNDA・営業秘密・個人情報の違い
守秘義務を理解するときに混同しやすいのが、NDA、営業秘密、個人情報です。
| 用語 | 意味 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 守秘義務 | 秘密を開示・漏えいしたり目的外利用したりしない義務 | 法令・契約・職務などから発生 |
| NDA | 秘密保持について当事者間で定める契約 | 秘密情報の範囲、利用目的、期間などを明文化 |
| 秘密情報 | 契約や社内規程などで秘密として扱う情報 | 営業秘密より広く定義できる |
| 営業秘密 | 不正競争防止法で保護される情報 | 秘密管理性、有用性、非公知性などの要件 |
| 個人情報・個人データ | 個人情報保護法で定義される情報 | 安全管理措置、従業者・委託先の監督が必要 |
「秘密情報」と「営業秘密」は同義ではありません。
契約で「本契約に関連して受領した非公開情報」を広く秘密情報として定義しても、そのすべてが不正競争防止法上の営業秘密になるわけではありません。
逆に、NDAがないからといって、営業秘密の不正取得や不正使用が自由になるわけでもありません。
営業秘密として守るには秘密管理性が問われる
経済産業省は2025年3月に「営業秘密管理指針」を改訂し、不正競争防止法による保護を受けるために必要となる最低限の管理水準を示しています。
企業が営業秘密として保護したい情報については、従業員などが「これは秘密として管理されている」と認識できる状態が必要です。
実務では、次のような管理を組み合わせます。
- 機密区分を設定する
- Confidential、社外秘などの表示を付ける
- 閲覧できる部署・担当者を限定する
- ファイルサーバーやSaaSの権限を必要最小限にする
- 閲覧・ダウンロードログを保存する
- 私物端末や私用クラウドへのコピーを制限する
- 秘密情報の取扱規程を整備する
- 従業員へ教育する
- 退職・異動時に権限を停止する
NDAへ署名させるだけで、技術情報や顧客情報が自動的に営業秘密として保護されるわけではありません。
守秘義務は退職後も続くのか
退職しただけで、すべての秘密保持義務が自動的に消えるとは限りません。
雇用契約や秘密保持誓約書で、退職後も一定の秘密情報について秘密保持義務を負うことを定めている場合があります。不正競争防止法上の営業秘密についても、退職後であれば自由に取得・使用・開示できるわけではありません。
一方、退職者が仕事を通じて一般的に身につけた技能、経験、知識まで無制限に秘密として扱えるわけでもありません。
退職後の条項では、秘密情報の範囲、禁止する利用・開示、存続期間、公開情報や既保有情報の扱いを具体化します。
守秘義務に違反するとどうなるのか
結果は、情報の種類、契約内容、行為、適用法によって異なります。
想定される責任には次があります。
- 就業規則に基づく懲戒
- 契約違反に基づく損害賠償
- 秘密情報の使用・開示の差止め
- 営業秘密侵害に関する民事責任
- 不正競争防止法等に該当する場合の刑事責任
- 個人情報漏えいに伴う監督機関への報告・本人通知
- 取引先との契約違反
すべての情報漏えいが刑事事件になるわけではなく、会社が「機密」と呼んでいることだけで営業秘密侵害が成立するわけでもありません。
海外では「契約+合理的な保護措置」で秘密を守る
WIPOは営業秘密管理のガイドで、NDAや秘密保持条項を契約上の保護措置として位置付けています。
同時に、NDAだけでなく、アクセス制御、文書の秘密表示、監視、従業員教育などの組み合わせが必要としています。
英国政府も、営業秘密として保護されるためには、情報が秘密で商業的価値を持ち、秘密を維持するための合理的な措置が講じられていることが条件になると説明しています。
つまり、国内外に共通する考え方は「契約書があるか」だけではなく、「実際に秘密として扱っていたか」です。
セキュリティ対策Lab掲載事例から見る守秘義務の3つの破綻パターン
セキュリティ対策Labで扱ったインシデントを横断すると、守秘義務違反や秘密情報漏えいは、少なくとも以下3つの経路に分けられます。
| パターン | 事例 | 管理上の論点 |
|---|---|---|
| 意図的な持ち出し | 富士通Japan元社員、設計データ持ち出し、アクサ生命 | 最小権限、DLP、退職前後の監視、私用メール・媒体制御 |
| 業務情報の私物環境への移動 | CAMPFIREのGitHub PAT流出 | 個人環境の利用制限、秘密情報の保存場所、シークレット管理 |
| 正規権限のまま大量取得 | Kaizen Tech Agent | ダウンロード監視、職務と権限の整合、退職時の権限停止 |
ここから分かるのは、守秘義務の誓約そのものよりも「違反しやすい経路を減らす」ことが管理上の中心になる点です。
守秘義務違反・秘密情報漏えいの事例
富士通Japan元社員、商談資料など26点を私用メールへ送信した疑い
2026年5月、富士通Japanの元社員が不正競争防止法違反の疑いで逮捕されました。
逮捕容疑は、在職中に富士通が営業秘密として管理していたファイルデータ26点をコピーし、私用メールへ送信したというものです。
関連記事:富士通の子会社 富士通Japan 元社員が営業秘密の持ち出しで逮捕
設計データ約30万件を私物HDDへ複製
2026年2月には、元勤務先のサーバーから機械の設計図面などを私物HDDへ複製した疑いで、元社員が逮捕された事例が報じられました。
関連記事:営業秘密や多数の情報持ち出した元社員を逮捕、設計データ30万件を複製
CAMPFIRE、GitHub認証情報を個人開発サーバーへ保存
CAMPFIREが2026年6月に公表した調査結果では、従業員がGitHubのPersonal Access Tokenを個人開発用サーバーへアップロードし、第三者に不正利用されたことが攻撃の起点になりました。
関連記事:CAMPFIREの不正アクセス、従業員がGitHubの認証情報を個人開発サーバーへアップ
情報システム部門が確認したい守秘義務の実装
守秘義務を運用へ落とすときは、次を確認します。
- 秘密情報を分類しているか
- 保管場所を限定しているか
- 私物端末、個人クラウド、私用メールへの移動を制限しているか
- 閲覧・コピー・ダウンロードをログで追えるか
- 特権・大量取得のアラートを設けているか
- 委託先へ渡す情報を必要最小限にしているか
- 退職・異動時にアカウントと共有リンクを停止しているか
- 返却・削除確認を行っているか
- 認証情報やAPIキーを秘密情報として管理しているか
- 生成AIへ入力してよい情報と禁止情報を決めているか
守秘義務は「人に守らせるルール」であり、アクセス制御やDLPは「違反経路を狭める技術」です。両方を組み合わせることで、契約とシステム運用がつながります。
関連記事:情報漏洩対策とは?企業が実施すべき原因別の予防策と発生時の対応








