
CAD(Computer-Aided Design)は、建築、製造、エンジニアリングといった分野で不可欠なツールです。
しかし、その重要性ゆえにサイバー攻撃の標的となるケースも増えており、企業や設計者にとってセキュリティ対策は避けて通れない課題となっています。CADデータには設計情報や知的財産が含まれており、不正アクセスや情報漏えいが発生すると、競争力の低下や品質・安全性の問題を引き起こす可能性があります。本記事では、過去に発生したCADの脆弱性事例を振り返り、そこから学ぶべきセキュリティ対策について詳しく解説します。
目次
CADとは
CADとは「Computer Aided Design」の略称です。コンピューターを使って図面の作成を行うためのツールで、建築や製造業界などの設計を必要とする業界の多くで利用されています。
たとえば建築業界では、建物の平面図や立体的なモデルの作成にCADを使います。従来は、手書きで設計図を作成していたため、書くときだけではなく修正にも時間がかかっていました。しかし、CADを使うことでこれらの作業が効率化されました。さらに、設計図面などがデータ化されたことによって、管理や共有がしやすくなりました。
参照:CADとは?機能やメリット、導入時のポイントをわかりやすく解説|株式会社アルファコックス
なぜCADのセキュリティ対策が重要なのか
近年、CADデータは情報漏えいのリスクが高まっています。例えば、企業が設計した新製品のデータが流出すれば、競合他社による不正使用や模倣品の製造につながる可能性があります。また、サイバー攻撃者がCADファイルを改ざんすることで、製造プロセスに意図的なミスを仕込み、品質不良や事故を引き起こすといったリスクも無視できません。
さらに、ランサムウェアによる被害も深刻化しています。近年では、設計データを暗号化し、復元のために身代金を要求するケースが増加しています。フィッシング攻撃を通じてCADシステムに不正侵入し、バックドアを設置するマルウェアも確認されており、CAD環境のセキュリティ強化は急務といえます。
過去に発生したCADの脆弱性事例
AutoCADを狙ったマルウェア「ACAD/Medre.A」
2012年に発見された「ACAD/Medre.A」は、AutoCADの設計データを中国のサーバーに送信するマルウェアでした。このマルウェアは、感染したシステムから.dwgファイルを外部へ流出させ、企業の知的財産に深刻な影響を及ぼしました。メールの添付ファイルやUSBメモリ経由で拡散し、感染が広がる仕組みとなっていました。この事例から学ぶべき点は、AutoCADのマクロ機能を無効化し、未知のファイルを開く際の慎重な対応が不可欠であるということです。また、ネットワークの監視を強化し、不審な通信を検知する仕組みを導入することも有効な対策となります。
SolidWorksの認証回避脆弱性
2021年には、SolidWorksにおいて認証回避の脆弱性が発見されました。この脆弱性を悪用すると、攻撃者がリモートアクセスを行い、設計データを窃取する可能性がありました。問題の本質は、ユーザーが気づかないうちに外部からの侵入を許してしまう点にあります。この種の攻撃に対しては、ソフトウェアの最新パッチを適用し、セキュリティホールを早期に修正することが極めて重要です。また、多要素認証(MFA)を導入することで、不正アクセスを防ぐことができます。
AutoCADのLISPマクロを悪用した攻撃
2023年には、AutoCADのスクリプト機能であるLISPを悪用した攻撃が報告されました。この攻撃は、ユーザーが不正なLISPスクリプトを開くことで、PCがマルウェアに感染し、CADデータが外部に流出するというものでした。攻撃者は、AutoCADの正規ファイルを偽装してユーザーに開かせ、リモートアクセスツールを埋め込む手法を採用していました。これに対する防御策としては、AutoCADのマクロ実行を制限するポリシーを適用し、未知のLISPスクリプトは実行しないようにすることが求められます。
効果的なセキュリティ対策
まず、ソフトウェアの最新パッチを適用し、脆弱性を修正することが基本となります。特にAutoCADやSolidWorksなどの主要なCADソフトウェアは、定期的なアップデートが提供されており、これを怠るとゼロデイ攻撃の標的となるリスクが高まります。また、多要素認証(MFA)の導入によって、不正ログインを防ぐことができます。アクセス制御を強化し、VPN経由のリモートアクセスに対してはゼロトラストモデルを適用することも有効です。
データの保護に関しては、設計データを暗号化することで、万が一流出した場合でも不正利用を防ぐことが可能になります。AES-256といった強力な暗号方式を採用し、クラウドストレージを利用する場合はエンドツーエンド暗号化を適用することが望ましいでしょう。さらに、アクセスログを監視し、不審な動きをリアルタイムで検知するSIEM(セキュリティ情報イベント管理)ツールの導入も推奨されます。
ランサムウェア対策としては、定期的なバックアップを実施し、オフライン環境に保存することで、被害を最小限に抑えることができます。バックアップデータのリストアテストも定期的に行い、復元可能な状態を維持することが重要です。加えて、エンドポイント保護ソリューション(EDR)を導入し、不審なファイルの動きを検出して迅速に対処する仕組みを構築することが求められます。
まとめ
CADシステムは、企業の知的財産を守る上で非常に重要なツールですが、サイバー攻撃のリスクに常にさらされています。過去のAutoCADやSolidWorksに関する脆弱性事例を踏まえると、適切なセキュリティ対策を講じることが不可欠であることがわかります。特に、最新のセキュリティパッチの適用、多要素認証の導入、データの暗号化、マクロの実行制御、アクセスログの監視などを徹底することが重要です。
また、ランサムウェアなどの脅威から設計データを守るためには、バックアップの強化やEDRの導入も欠かせません。これらの対策を講じることで、企業は貴重なCADデータを保護し、安全な業務運用を維持することができます。今後も、CADのセキュリティ対策は進化し続ける必要があり、常に最新の脅威動向を把握しながら、適切な防御策を講じることが求められます。