社長かたり「チャットグループ作って」、経理担当者が信じ込み5,880万円を不正送金

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社長かたり「チャットグループ作って」、経理担当者が信じ込み5,880万円を不正送金

京都府警中京署は2026年6月19日、京都市中京区の貿易業の会社が、SNS(交流サイト)で同社の男性社長(62)をかたる人物に約6,000万円をだまし取られたと発表しました。

同署は特殊詐欺事件として捜査しています。同署によると2026年6月17日、同社の経理担当者である50代女性のもとにSNSで社長を名乗る人物から「(チャットの)グループを作ってほしい」などと連絡がありました。経理担当者は社長本人と信じてグループを作成し、グループ内でその人物から「支払いの予定があるので、指定した口座にお金を振り込んでほしい」と指示され、同日中に2回に分けて計5,880万円を振り込みました。送金後、経理担当者が社長に電話で報告したところ、詐欺であることが判明したとされています。本記事ではこの事案の手口・同種事案との共通点・企業が取るべき対策を解説します。

サマリー

  • 発表日:2026年6月19日
  • 発表元:京都府警中京署
  • 被害企業:京都市中京区の貿易業の会社
  • 被害額約5,880万円(5,880万円・約6,000万円とも表記)
  • 発生日2026年6月17日
  • 手口の経緯:
    1. SNS上で社長(62)を名乗る人物から経理担当の50代女性へ「チャットグループを作ってほしい」と連絡
    2. 経理担当者は社長本人と信じてグループを作成
    3. 作成されたグループ内で「支払いの予定があるので、指定した口座にお金を振り込んでほしい」と指示
    4. 同日中に2回に分けて計5,880万円を指定口座へ振込
    5. 送金後、経理担当者が社長に電話で報告したところ詐欺と判明
  • 捜査状況:京都府警中京署が特殊詐欺事件として捜査中

手口の分析——「グループ作成」から始まる段階的な信頼構築

なぜ経理担当者は騙されたのか

今回の事案で注目すべきは、攻撃者がいきなり送金を要求せず、まず「チャットグループの作成」を依頼したという段階的な手口です。

  1. 第一段階(信頼の構築):「グループを作ってほしい」という、それ自体は何ら不審に見えない依頼から始める
  2. 第二段階(環境の支配):経理担当者自身が作成したグループであるため、「自分が招いた相手=社長本人」という心理的な確信が強化される
  3. 第三段階(送金指示):構築された信頼関係の中で「支払いの予定があるので」という業務上自然な文脈で送金を指示

この手順は、いきなり見知らぬアカウントから送金を求められるよりも、被害者の警戒心を効果的に下げる設計になっています。経理担当者が自らグループを作成したという行為そのものが、「相手は信頼できる人物だ」という思い込みを補強してしまう構造です。

「2回に分けて」送金させた意図

被害額5,880万円は同日中に2回に分けて振り込まれています。これは以下のような攻撃者側の意図が考えられます。

  • 銀行の不正送金検知システムにおける1回あたりの送金限度額・異常検知の閾値を回避する目的
  • 段階的な要求によって被害者に「指示に従い続ける」流れを作り、途中で疑念を抱かせにくくする心理的効果

発覚のきっかけ——「電話での確認」が機能した

今回の事案で被害が発覚したのは、経理担当者が送金完了後に社長へ電話で報告したことがきっかけでした。これは結果的に「正しい確認行動」であったものの、送金実行前ではなく実行後だったため被害そのものは防げませんでした。

もし送金前の段階で電話確認が行われていれば、被害は未然に防げた可能性が高いと考えられます。この点は、当サイトが過去に報じた同種事案にも共通する重要な教訓です。

同種事案との比較——繰り返される「社長なりすましチャット詐欺」のパターン

今回の京都の事案は、当サイトが継続的に報じてきた一連のCEO詐欺・BEC事案と極めて類似した構造を持っています。

事案 発生時期 被害額 手口の特徴
京都市中京区の貿易会社(今回) 2026年6月17日 5,880万円 SNSでグループ作成→チャット内で送金指示。2回に分割送金
群馬・前橋市の建設設備会社 (既報) 5,000万円 社長の出張中を狙いビジネスチャットで送金指示
関西の物販会社 2026年4月16〜17日 3,000万円(要求は5,500万円) 社内連絡用SNSにチャットグループ作成を指示し送金要求
ベルトラ子会社 (既報) 約5,000万円 フィッシングメールでSNSへ誘導後に送金指示
ジェリービーンズグループ 2026年6月3日 4,500万円 なりすましメールによる送金指示

特に注目すべきは、「関西の物販会社」の事案(2026年4月)と今回の京都の事案が、「社内連絡用SNS/チャットでグループを作成させ、その中で送金指示を行う」という手口の構造において酷似している点です。同一の攻撃グループ、あるいは同様の手口を模倣した別の攻撃者による犯行である可能性が考えられます。

共通する3つの心理的圧力

これらの事案に共通するのは、以下の3つの心理的圧力です。

①緊急性:「支払いの予定がある」という業務上自然な、しかし即座の対応を求める文脈 ②権威性:社長・代表者という組織内で最も高い権限を持つ人物になりすますことで、指示への疑問を抱きにくくする ③環境の支配:被害者自身が作成したチャットグループという「閉じた空間」の中で指示が完結するため、第三者の目が入りにくい


企業が今すぐ実施すべき対策

①コールバック確認の義務化(送金実行前に)

送金指示がチャットやSNS、メールで届いた場合は、実行前に必ず電話など別の通信経路で本人に直接確認する手順を社内ルールとして徹底してください。今回の事案では送金後に電話確認が行われましたが、これを送金実行前のプロセスとして義務化することが被害防止の鍵となります。

②「グループ作成」自体への警戒

経営幹部や役職員を名乗る人物から「グループを作ってほしい」と依頼された場合、それ自体が攻撃の第一段階である可能性を念頭に置いてください。グループ作成を求められた場合も、相手の身元を別経路で確認してから対応する文化を組織内に根付かせることが重要です。

③送金承認の複数人制・二重確認

一定額以上の送金は、単独の判断で実行できない承認フローを設けてください。担当者一人が指示に従うだけで送金が完了してしまう体制は、今回のような詐欺の格好の標的になります。

④SNS・チャットツールアカウントの多要素認証(MFA)導入

攻撃者が正規のアカウントを乗っ取ってメッセージを送った可能性も考慮し、ビジネスチャットおよびSNSアカウントには多要素認証を必ず設定してください。

⑤社員へのBEC教育と疑似訓練

BECは人の判断を騙す攻撃であるため、技術対策だけでは不十分です。「社長から直接連絡が来た」という状況こそ最も警戒すべき場面であるという意識を、定期的な教育訓練を通じて組織全体に根付かせることが不可欠です。


FAQ

Q. この会社の業種・規模はわかっていますか? A. 京都新聞の報道では「京都市中京区の貿易業の会社」とのみ報じられており、社名・具体的な事業規模は公表されていません。

Q. 資金は回収できる見込みはありますか? A. 本記事執筆時点で回収状況に関する報道は確認されていません。京都府警中京署が特殊詐欺事件として捜査を継続しています。

Q. なぜ警察は「特殊詐欺」として扱っているのですか? A. 法人を狙ったBEC型の詐欺であっても、なりすましによる虚偽の指示で金銭を詐取する手口は特殊詐欺の類型として扱われることが一般的です。


参考情報