2026年6月29日、中国商務部(MOFCOM)は「2026年第27号公告」および「2026年第28号公告」を発出し、デュアルユース品目の対日輸出管理規制を大幅に強化する措置を即日発効させました。第27号公告により日本の20の企業・研究機関が事実上の全面禁輸対象となる「輸出管制管控名単(管理リスト)」に、第28号公告により別の20社が厳格な個別審査の対象となる「関注名単(監視リスト)」にそれぞれ追加指定されています。
本年2月24日の第1弾措置(三菱造船・SUBARU・防衛大学校・JAXAなど各20社)と合算すると、管理リスト・監視リスト合計で計80組織へと倍増しました。
管理リスト(第27号)対象の取引については現在進行中の関連取引・契約の履行も直ちに停止が義務づけられており、域外適用条項により中国国外の第三者による対象組織への転売・提供・再輸出も法的に禁止されています。木原稔官房長官は「決して許容できず、極めて遺憾」と強く批判し、外交ルートを通じて即時撤回を要求しています。
サマリー
- 2026年6月29日、中国商務部が第27号公告(管理リスト20社追加)・第28号公告(監視リスト20社追加)を同日発効させ、第1弾(2月24日)と合算した累計は計80組織(各リスト40社)に拡大した。防衛研究所・陸上/艦艇/航空装備研究所・三菱グループ各社・日本飛行機等が管理リスト、テラドローン・ACSL・三菱原子燃料・日本原燃・コマツ・OKI等が監視リストに追加
- 第27号(管理リスト)対象取引は即時停止義務あり。域外適用条項により中国国外の第三者が中国原産デュアルユース品目を管理リスト掲載組織へ移転・提供することも違法となる。第28号(監視リスト)は即時停止ではなく全取引での個別許可申請義務が課される
- 中国の真の戦略意図は三層——①高市首相の「台湾有事=存立危機事態」答弁への直接報復、②富士電機社員拘束事件を口実とした民間インフラ企業への監視リスト拡大、③米国主導の半導体輸出規制網に対する非対称反撃として日本の「中間処理拠点」機能を標的化
- 規制対象は中国のデュアルユース管理リスト上の品目に該当するもの全般。報道ではジスプロシウム・イットリウム・サマリウム等の希土類、ガリウム・ゲルマニウム・アンチモン・タングステン等の戦略鉱物が例示されている。中国は世界の精製・分離の70〜80%を掌握しており、EV・半導体・防衛装備品の製造コストと開発スケジュールに直接波及し得る
- 監視リスト(第28号)への指定は「コンプライアンスの兵器化」——個別許可(Individual License)の義務化、リスク評価報告書・誓約書の提出、通常の法定審査期限の適用外という構造により、事実上の輸入停止措置を合法的な手続きに見せかけて長期化できる仕組み
- 木原官房長官は即時撤回を要求。経済産業省は重要物資の国内備蓄拡充と代替供給網の確保が焦点となる見通し。米CSIS・台湾CIER・韓国KIEPは中国の輸出管理の兵器化・重要鉱物依存リスクについて継続的に分析を公表しており、今回の措置もその文脈で評価されている
| 区分 | 主な追加組織(第2弾・6月29日) | 措置内容 |
|---|---|---|
| 管理リスト(20社追加・計40社) | 防衛研究所・陸上/艦艇/航空装備研究所・三菱電機防衛宇宙技術・三菱プレシジョン・三菱重工海洋技術・日鋼特機・日本飛行機・青木精密工業 ほか | デュアルユース品目の輸出ライセンス実質不交付。域外適用あり |
| 監視リスト(20社追加・計40社) | テラドローン・ACSL・三菱原子燃料・日本原燃・富士通ネットワークソリューションズ・日立アドバンストシステムズ・コマツ産機・コマツNTC・OKI・豊和工業・藤倉航装 ほか | 全取引に個別許可申請義務。リスク評価報告書・誓約書提出必須。通常の法定審査期限の適用外 |
目次
第27号・第28号公告の全容—管理リスト・監視リストの構成と即日発効の意味
今回の措置は、第27号公告(管理リスト20社)と第28号公告(監視リスト20社)という2本の独立した公告により構成されています。
両公告の法的根拠は国家安全保障と国益の保護、および核不拡散をはじめとする国際義務の履行であり、中国の「両用品目輸出管理条例」に基づいています。
管理リスト(第27号)については、中国国内の輸出事業者が掲載組織に対してデュアルユース品目を供給することが原則として全面的に禁止されます。
域外適用条項により、中国国外に所在する組織や個人が中国を原産地とするデュアルユース品目をこれらの組織に転移・提供・再輸出することも法的に禁じられており、現在進行中の取引や契約の履行についても公告と同時に直ちに停止が義務付けられています。
監視リスト(第28号)については、同じ意味での即時停止ではなく、すべての取引に個別許可(Individual License)の申請が義務付けられます。
許可審査は通常の法定審査期限の適用外とされており、商務部が審査を長期化することが法的に可能な設計となっています。
今回の第2弾が第1弾から約5か月で実施された速度感は、中国が段階的な圧力強化という戦略的パターンを確立していることを示しています。
防衛装備移転5類型の撤廃という日本の安全保障政策の歴史的転換が示すように、日本が防衛産業の国際化に向けてアクセルを踏み続けるほど、中国の規制の射程は広がり得ます。
管理リストの構造が示す標的指定の論理
第2弾の管理リストに追加された20組織の構成を精査すると、無差別な報復措置とは異なる、極めて高度な標的設計が読み取れます。
防衛研究所(National Institute for Defense Studies)という防衛省の最高シンクタンクを筆頭に、防衛装備庁直轄の陸上装備研究所・艦艇装備研究所・航空装備研究所という3つの主要研究所が揃って名指しされています。これに2月の第1弾で指定済みの防衛大学校・JAXAを加えると、日本の防衛技術における基礎研究から応用開発・試作・製造・運用に至るエコシステム全体が網羅された設計となっています。
三菱グループからは防衛・宇宙技術株式会社・ソフトウエア株式会社・エンジニアリング株式会社・プレシジョン株式会社・海洋技術株式会社・相模高環境技術株式会社・物流技術株式会社・海事技術株式会社と、子会社レベルまで細分化して指定されています。
これはサプライチェーンの「ブレーク・ポイント(断ち切り可能な最小単位)」を狙った指定であり、親会社がグループ全体を通じて調達を継続することを困難にする設計です。
現代の防衛装備品——電磁レールガン・極超音速滑空兵器(HGV)迎撃システム・ドローンのスウォーム制御には
ネオジムやジスプロシウムといった重希土類が不可欠です。
設計段階や試作段階からこれらの重要鉱物の供給を断ち切ることで、中露が6月27日の共同空中戦略巡航で示した軍事的圧力と経済的圧力を複合的に組み合わせ、日本が掲げる防衛費GDP比2%への増額プロセスに物理的な制約を課す狙いが透けて見えます。
監視リストとコンプライアンスの兵器化—民間インフラ企業を踏み絵で締め付ける仕組み
監視リストへの追加で特に注目されるのは、純粋な軍需・防衛企業に留まらず、商用ドローン・海洋インフラ・通信・原子力・工作機械といった社会インフラを担う民間企業が広範に対象となっている点です。テラドローン・ACSL(国産産業ドローン)、富士通ネットワークソリューションズ、コマツ産機・コマツNTC、OKIグループ5社(通信・ソナー・プリント配線板・電子機器)、三菱原子燃料・日本原燃(核燃料サイクル)などがその代表例です。
監視リストへの指定が生む実務的な打撃は「コンプライアンスの兵器化(Weaponization of Compliance)」として理解する必要があります。
指定組織との取引を行う中国の輸出事業者は、包括的な一般許可(General License)が使えなくなり、すべての取引で個別許可(Individual License)の申請が義務付けられます。その申請書類には最終ユーザーの詳細な「リスク評価報告書」と、当該品目が日本の軍事力向上に一切寄与しないことを法的に確約する「誓約書(Written Commitment)」の提出が要求されます。
さらに重大なのが、商務部が実施するこれらの個別許可の審査プロセスが、通常の法定審査期限の適用外とされていることです。
審査を合法的に長期化することが制度上可能であるこの仕組みにより、企業は中国市場へのアクセスを維持するために防衛関連事業から撤退するか、中国市場を完全に放棄して西側サプライチェーンに専従するかの選択を事実上迫られます。
軍事ドローンのサプライチェーンにおける中国依存の実態で分析した通り、テラドローンやACSLのような国産ドローン企業が監視リストに入ったことは、民間用途と軍事用途の境界線が制度上完全に消失したことを意味します。産業用ドローンのフライトコントローラーやソフトウェアが「デュアルユース」として認定されれば、民間インフラ点検・農業・測量の用途であっても対中輸出規制の射程に入ります。
中国の三重の戦略意図—台湾有事答弁・富士電機拘束・半導体規制報復
中国商務部は本措置の目的を「日本の再軍事化および核兵器保有の企てを阻止するための正当な合法的対抗措置」と公式に説明していますが、この措置の形成過程には三層の戦略的意図が重なっています。
第一の層は台湾有事への言及に対する直接的な外交報復です。
2025年11月に高市早苗首相が「台湾有事が発生した場合に集団的自衛権を行使できる存立危機事態を構成する可能性がある」と国会答弁で示唆したことが、中国が「一つの中国原則の著しい違反」として認定した直接のトリガーとなりました。2月の第1弾制裁発動後も日本が防衛費増額や攻撃型ミサイル発射演習を継続したとして、6月29日の第2弾に踏み切ったと中国側は説明しています。
第二の層は富士電機社員拘束事件の口実化です。
2026年5月に大連で拘束された富士電機の社員2名の事案では、レアアース磁石を取り外せる構造を持つモーターなどの加工品の輸出が密輸と認定されました。この事件は「法を遵守していると主張する日本企業も実際には抜け穴を突いている」というナラティブを補強する格好の材料となり、民間インフラ企業まで監視リストを大幅に拡大させる大義名分として機能しました。
第三の層は米国主導の半導体輸出規制網に対する非対称反撃です。
米国はオランダ・日本などの同盟国と連携してASML・ニコン・キヤノンなどの半導体製造装置メーカーに輸出制限を課してきました。CSISが指摘するように、日本は中国産レアアースや特殊金属を輸入して高付加価値な部材・素材に加工し米国の防衛産業・半導体エコシステムに供給する「クリティカルな中間処理拠点」です。中国が日本の組織を標的にすることで、米国の防衛調達網を間接的に締め付ける非対称戦略となっています。
レアアース17元素の禁輸と「サイレント・ディレイ」が生む産業コスト
本措置の直接的な物質的影響として、中国のデュアルユース管理リストに掲載されている素材群の調達コスト上昇と供給途絶リスクが挙げられます。
報道ではジスプロシウム・イットリウム・サマリウム等の希土類、ガリウム・ゲルマニウム・インジウム・タンタル・チタン・タングステン・各種フェロアロイ等の戦略鉱物が例示されています。第27号・第28号公告の本文は対象物質を網羅的に列挙しておらず、中国のデュアルユース管理リスト上の品目に該当するものが規制対象となります。中国は世界のレアアース精製・分離において約70〜80%のシェアを持ち、この支配的地位は短期間での代替が困難です。
EVの駆動モーター・スマートフォン・ミサイル誘導システム・軍用ドローンに不可欠なネオジム磁石(NdFeB)の熱減磁を防ぐジスプロシウムやテルビウムへのアクセスが制限されれば、防衛装備品のみならず民生用EVや産業機器の生産コストが上昇します。中国国内の日本商工会議所の報告によれば、中国側の輸出ライセンス発給の大幅な遅延(サイレント・ディレイ)により、民生用レアアース磁石の日本向け輸出量がすでに減少傾向にあることが確認されており、事業継続計画(BCP)への影響はすでに現実のものとなっています。
日仏レアアース共同調達協定(Caremag プロジェクト)が示すように、日本はレアアースの中国依存度を2010年の尖閣諸島問題以降92%から60%程度まで低下させてきましたが、精製・分離の工程における代替インフラの構築はいまだ進行中であり、中間処理能力の代替には相当の時間を要します。
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各国の分析と戦略対応
中国の対日輸出規制強化は、日中間の二国間摩擦を超えてグローバルな地経学的断層(フォルト・ライン)を生み出しており、各国機関が独自の生存戦略を固めています。今回の第27号・第28号公告はこうした文脈の延長線上に位置しています。
米国のCSISは中国の輸出管理体系の高度化について「輸出管理軍拡競争(Export Control Arms Race)」と定義する論考を公表し、米国自身が輸出管理を過度に攻撃的な外交ツールとして濫用すれば、同盟国が米国製コンポーネントをサプライチェーンから排除する「デザイン・アウト(Design-out)」を招くリスクを警告しています。
CSISの分析では、日本は中国産レアアースや特殊金属を輸入して高付加価値な部材・素材に加工し米国の防衛産業・半導体エコシステムに供給する「クリティカルな中間処理拠点」であるとされており、中国が日本の組織を標的にすることで米国の防衛調達網のアキレス腱を間接的に突く非対称戦略の有効性が指摘されています。
台湾の中華経済研究院(CIER)は中国のレアアース輸出規制が台湾産業に与えるリスクについて継続的な分析を公表しています。
台湾のハイテク産業が使用するレアアースの多くは中国で採掘された後に日本で精製・加工を経て台湾へ輸出される構造にあり、日本の加工企業が原材料調達に行き詰まればTSMCをはじめとする台湾のITサプライチェーンへ波及し得ます。台湾の工業技術研究院(ITRI)はネオジム・ジスプロシウムの高度なリサイクル技術を国家プロジェクトとして推進しており、2028年までに年間0.5トンの国内生産能力を確保する計画です。
韓国の対外経済政策研究院(KIEP)は中国の輸出管理強化の法制度的進展を継続的に追跡分析しています。
韓国は2022〜2023年のガリウム・ゲルマニウム・黒鉛規制で受けたサプライチェーンショックの経験から、重要鉱物・素材の中国依存度を2030年までに50%以下に引き下げる「3050戦略」を推進しています。2026年5月19日に韓国産業通商資源部と日本の経済産業省が締結したエネルギー安全保障強化の協力枠組み(ホルムズ海峡封鎖時の原油・LNGスワップ・メカニズムを含む)は、かつて輸出管理問題で対立した日韓がサプライチェーン防衛で歴史的な協調を開始したことを示しています。
官公庁・商社・製造業エグゼクティブが評価すべきリスクと戦略対応
今回の措置が経営・政策レベルで問いかけるのは「自社(自機関)はどのレイヤーのリスクに晒されているか」という構造的な問いです。
第一に確認すべきは域外適用の自社への該当性です。
自社もしくはグループ会社が中国産デュアルユース品目(レアアース・精密工作機械・電子部材等)を、管理リスト掲載の80組織のいずれかに直接提供するサプライヤーポジションにある場合、違法となる可能性があります。中国現地法人・合弁パートナー・代理商を通じた間接的な取引も域外適用の射程に入ることから、法務・輸出管理部門による現行取引のスクリーニングが急務です。
第二に評価すべきは調達途絶シナリオでのBCP(事業継続計画)の強度です。
自社製品に含まれるネオジム・ジスプロシウム等の重希土類、ガリウム・ゲルマニウムなどの戦略鉱物の中国依存度と在庫水準を定量的に把握し、代替調達先(オーストラリア・カナダ・日仏Caremag協定等)への切替期間とコスト増を経営判断として数値化する必要があります。経済産業省が推進する重要物資の国家備蓄スキームとの連携も検討に値します。
第三に判断を迫られるのは中国事業戦略の見直しです。
監視リストの対象企業(テラドローン・ACSL・OKI・コマツ・富士通ネットワークソリューションズ等)が示すように、「純粋な民生企業」であっても技術のデュアルユース性を理由に指定されるリスクがあります。中国向け事業を継続する場合のコンプライアンスコスト(個別許可申請・誓約書作成・通常の法定審査期限の適用外による審査長期化リスク)と、中国市場から撤退・縮小した場合のビジネスインパクトを比較した戦略的意思決定が求められます。
「経済的相互依存の武器化」が「外科手術的」に精緻化した今日、防衛産業に直接関与しない企業であっても、レアアース・デュアルユース技術・知財という「接点」が少しでもあれば対象になり得る時代となっています。カントリーリスクの評価軸として、中国事業を「安全保障リスク」の文脈で定期的に棚卸しする体制を経営プロセスに組み込むことが、今後の不可欠な要件となっています。
出典
- 商务部公告2026年第27号——将20家日本实体列入出口管制管控名单(管理リスト)– 中国商務部(2026年6月29日)
- 商务部公告2026年第28号——将20家日本实体列入出口管制关注名单(監視リスト)– 中国商務部(2026年6月29日)
- China adds 20 Japanese entities to export control list – Xinhua(2026年6月29日)
- China imposes export controls on 40 Japanese entities as tensions with Tokyo rise – AP News(2026年6月29日)
- China blacklists more Japanese entities as row deepens – Japan Times(2026年6月29日)
- 中国、禁輸リストに20団体追加 高市首相の有事答弁受け対抗強化 – 47news(2026年6月29日)
- 日本政府、中国に抗議し撤回要求 規制リスト追加「極めて遺憾」 – 47news(2026年6月29日)
- MOFCOM Spokesperson’s Remarks on Export Control Measures Concerning Japan – 中国商務部英語版(2026年6月29日)
- Japan’s Fuji Electric workers detained in China, possibly over rare earths – Kyodo News(2026年)
- Reining in the Export Control Arms Race – CSIS(戦略国際問題研究所)
- Taiwan faces risk from China’s rare earth rules – Chung-Hua Institution for Economic Research(台湾中華経済研究院)
- China’s Tit-for-Tat with the U.S.? Concerns over China Tightening Its Grip on Export Controls – KIEP(韓国対外経済政策研究院)
- Korea and Japan Forge Energy Alliance Amid Iran War Shock – The Economy(2026年5月)








