ISMSとPマークの違いとは?それぞれの特徴を解説

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ISMSとPマークの違いとは?それぞれの特徴を解説

情報セキュリティ対策の代表的な制度として、ISMSとプライバシーマーク(Pマーク)があります。どちらも企業の信頼性向上に貢献しますが、その内容や目的には明確な違いがあります。

自社に最適な認証を選べるよう、それぞれの特徴を解説していきます。

ISMSPマークの違いは何?

ISMSPマークは、どちらも情報を保護する仕組みを第三者が認証する制度ですが、対象とする情報の範囲や規格の違い、導入目的などに明確な差があります。

以下に主な違いをまとめます。

比較項目 ISMS Pマーク
適用範囲 取り決めた範囲(組織、業務、拠点) 全社
対象とする情報 個人情報含む組織のあらゆる情報 個人情報
順守する規準 国際規格(ISO/IEC 27001) 国内(JIS Q 15001,JIPDEC発行の指針)
管理の目的 取り決めた範囲で取り扱う情報資産の保護 組織全体の業務で扱う個人情報の保護
向いている組織 個人情報に限らない機微な情報を扱う組織(例えば、防衛に関わる業務や、システム開発・提供など) 個人情報を主に取り扱う組織(例えば、コールセンターや人材紹介など)
審査機関 ISO認定を受けた審査機関 JIPDECまたはその指定機関
運用負荷 取り決めた範囲によるが、ルールを柔軟に設計できるため、ある程度は調整可能 文書・記録管理の要求が多く、業務にしっかり組み込む必要がある。中小企業では準備負荷が相対的に高くなることも
国際的な効力 国際的効力があるが、認証機関によって通用度に差が出る可能性あり 日本国内のみ

 

認定機関から認定された機関が審査を行なっていますが、この認定機関は国によって異なる場合があります(日本の場合はISMS-AC、アメリカの場合はANABという認定機関となります)。どの国の認定機関から認定されているのかによって、海外での認証の価値に影響する可能性があります。

ISMSはあらゆる種類の情報資産を包括的に管理するのに対し、Pマークは個人情報保護に特化した制度です。

また、ISMSは国際規格であり、グローバル企業や外資系との取引にも有効ですが、Pマークは国内向けの信頼マークとして、日本市場での企業イメージ向上に役立ちます。特に消費者の認知ではまだPマークの方が優位な場合があります。

どちらが優れているというよりも、自社の事業内容や顧客層に応じて、適切な制度を選ぶことが重要です。

ISMSの特徴と強み

ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)とは、組織が情報セキュリティリスクを体系的に管理するための仕組みです。

これは、情報資産の機密性・完全性・可用性を守る国際規格ISO/IEC 27001に基づき、計画・運用・評価・改善(PDCAサイクル)を継続的に回す体制を構築することを求めます。

この認証を取得することの最大の強みは、組織が情報セキュリティ対策を適切に行っていることを、第三者機関が審査し証明してくれる点です。これにより、取引先や顧客からの信頼を獲得し、新規ビジネス機会の拡大に繋がります。特に、大手企業や官公庁との取引や入札条件となるケースが増えています。

また、ISMSの導入プロセス自体がリスクの可視化と管理を促し、セキュリティ事故の発生リスクを構造的に低減します。年次の審査により、セキュリティ対策の継続的な改善が図られ、組織全体のセキュリティ意識とコンプライアンス対応力も向上します。これにより、情報セキュリティをコストではなく経営の武器として機能させることができます。

Pマークが個人情報保護に特化しているのに対し、ISMSはより広範な情報資産全体を対象にしています。

ISMSの認証を取得するメリット・デメリットについては別の記事で詳しく解説しています。

Pマークの特徴と強み

プライバシーマーク(Pマーク)は、日本独自の個人情報保護に特化した認証制度です。

JIS規格(JIS Q 15001)に基づいて、企業が個人情報を適切に保護・管理していることを第三者機関が審査し認証します。

Pマークの取得は、消費者や取引先に対して個人情報の安全性を明確に示すことができるため、特に個人情報を主に扱う事業を行う企業で評価されることが多いです。

オンラインショップ、人材派遣会社、コールセンターなど、個人情報を直接扱う組織では、Pマークの取得が企業の信頼度やブランドイメージ向上に直結することも少なくありません。

また、Pマークを取得すると、社内に個人情報保護の仕組みが構築されます。具体的には、定期的な内部監査や社員教育を通じて、従業員一人ひとりの情報保護意識が高まり、日々の業務の中で適切な情報管理が自然と行われるようになります。

さらに、取得企業にとっては法令遵守の体制強化にも役立ちます。個人情報保護法などの関連法令に対応した管理体制を構築し、取り扱っている個人情報の件数まで把握することになるため、緻密な管理が可能になります。その結果、万が一の事故や漏洩が発生した場合でも迅速な対応が可能となります。

Pマークの取得維持には一定のコストと時間が必要ですが、その投資は企業の信頼性を大きく高めるものとして、多くの組織にとって有効です。特に個人情報の取り扱いが企業活動の中心となる企業において、顧客満足度の向上や新規顧客獲得に有利に働きます。

なお、個人情報保護をより高度に、かつ国際的な枠組みで取り組みたい企業にとっては、「ISO/IEC 27701(プライバシー情報マネジメント)」という選択肢もあります。

ISMS(ISO/IEC 27001)の拡張規格として設計されており、情報セキュリティとプライバシー保護の両立を一体的に管理できるため、個人情報保護を目的とするならば、Pマークに代わる、あるいは次のステップとして活用することも選択肢となるでしょう。

どちらの認証が合っているか?

ISMSPマークのどちらを選ぶべきかは、企業の事業内容や情報の取扱い方、今後のビジネス展開をどう描いているかによって変わってきます。

たとえば、個人情報の取扱いを中心に事業を展開している企業であれば、まずはPマークの取得を検討するのが現実的です。Pマークは、日本国内では認知度が高く、取得のためのガイドラインや運用方法も比較的明確に整備されています。実際に、コールセンターや人材派遣業などの業界では、Pマークの取得が取引の前提条件になるケースも少なくありません。

一方で、今後の事業拡大や取引先の多様化、外部委託やシステム開発などを見据えるのであれば、ISMSの方がより適しているといえます。ISMSは、個人情報に限らず、機密情報、業務データ、顧客との契約書、ソースコードなどを含むすべての情報資産を対象としたセキュリティ体制の構築が求められるため、汎用性が非常に高いのが特徴です。

さらに、情報セキュリティリスクを事業全体のリスク管理の一部として捉えるという視点は、今や中小企業にとっても不可欠なものになりつつあります。ISMSの導入によって、単に情報漏えいを防ぐだけでなく、業務の棚卸し、ルールの体系化、責任範囲の明確化など、組織運営そのものの健全化が期待できるでしょう。

加えて、ISMSは国際標準に基づいているため、外資系企業や海外との取引、クラウドサービス提供といった国境を越えたビジネスにも対応できます。Pマークではカバーしきれない要件や、法的背景を含めたグローバル対応力を求める場合には、ISMSの方が長期的に有効です。

Pマークは個人情報保護というテーマにおいて実用性の高い制度ですが、今後の展開やリスクへの対応を俯瞰して考えると、ISMSの方が成長を支える土台として力を発揮しやすい認証制度だといえるでしょう。

そのため、将来に備えた情報管理の仕組みを整えたい、セキュリティを競争力にしたい、という企業にこそ、ISMSをおすすめします。また、外的要因から認証取得を検討する場合でも、例えば入札要件が、ISMSまたはPマークを取得していること、となっている場合には、ISMSを取得しておくほうが、運用などを見据えても活用しやすくなるでしょう。

場合によっては、Pマーク取得後にISMSへステップアップする形や、ISMSPマークを同時に取得することも現実的な選択肢の一つとなります。

一方で、Pマークは取りたくないが、個人情報保護は強化したいという企業にとっては、ISMSを先に取得し、その後にISO/IEC 27701の認証を追加するという手もあります。これにより、情報セキュリティとプライバシー保護の両方を国際的なフレームワークで包括的に管理でき、海外との取引やSaaSビジネスにも適した体制が構築できます。

目的に応じた取り組みが大切

ISMSPマークの取得は、ゴールではなく、情報セキュリティや個人情報保護への取り組みを継続的に改善していくための手段です。自社に合った認証制度を選ぶことは重要ですが、それ以上に重要なのは、なぜ認証を取得するのか、どのような価値を組織にもたらしたいのかを明確にすることです。

例えば、取引先からの要求に応じるため、認証マークを掲げて信頼性を高めたい、という外的要因がきっかけだったとしても、それを単なる取得目的で終わらせるのではなく、自社の課題解決や業務改善にどう活かすかを意識することで、認証の本当の価値が見えてきます。

ISMSは、全社的なリスク管理の視点から情報セキュリティを捉えるため、経営や事業成長と密接に関わります。Pマークは、個人情報をとにかく厳重に管理したい、という場合に相性がいいでしょう。

どちらの制度も、取得しただけで安全になるわけではありません。認証後も、体制の見直しや教育、内部監査など、継続的な取り組みを通じて初めて実効性が生まれます。

自社にとって本当に守るべき情報は何か、それをどう管理・運用していくべきかを見極めた上で、最適な認証制度を選ぶことが、長期的な信頼性と競争力の確保につながります。