
この記事ではISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)とは?認証取得するメリットやデメリットを解説します。
目次
ISMSとは
ISMS(Information Security Management System)とは、組織が情報セキュリティリスクを管理するための仕組みです。
サイバー攻撃や内部不正、自然災害など、情報資産を脅かすリスクは多岐にわたります。これらに適切に備えるには、まずどのような情報資産を保有しているのかを把握し、リスクを特定・管理することが不可欠です。
しかし、リスク対策としてツールやシステムを導入するだけでは十分とは言えません。
情報セキュリティを維持・向上させるには、**計画(Plan)、運用(Do)、評価(Check)、改善(Act)**のサイクルを組織全体で回していく体制が求められます。
このような体制を構築するための要求事項を体系的にまとめた国際規格が、ISO/IEC 27001です。
ISO/IEC 27001では、情報資産の機密性・完全性・可用性を守るために必要な管理策や運用ルールが定義されており、これに準じて構築・運用されるマネジメントシステムが「ISMS」と呼ばれます。
ISMSは一度構築すれば完了というものではありません。
リスク環境や事業環境の変化に応じて継続的に運用・改善することで、初めてその価値を発揮します。
認証制度について
ISMSには、組織が構築・運用する体制の適切性を第三者に証明するために、適合性評価制度が設けられています。
これは、第三者機関(認証機関)が、組織のISMSがISO/IEC 27001の基準に適合しているかを審査し、適合していると判断された場合に認証書を発行する仕組みです。
日本国内では、主にBSIグループジャパンやSGSジャパン、JQA(一般財団法人日本品質保証機構)といった認証機関が認証業務を行っています。
審査の流れ
審査は以下の流れで進みます。
- 審査申請
- 第一段階審査
- 第二段階審査
- 是正処置対応(必要に応じて)
- 認証登録
第一段階審査から認証登録までには、通常早くても約3ヶ月程度を要します。そのため、認証取得を目指す場合には、認証登録日から逆算した計画的な準備が求められます。
認証の維持
認証は取得して終わりではなく、年1回のサーベイランス審査(維持審査)、3年ごとの更新審査を受審しなければなりません。つまり、「作って終わり」ではなく、「運用し続ける責任」が組織に課されます。
そのため、ISMSを構築する際には、継続して運用することを考慮した導入計画がとても重要になります。
ISMS認証取得数の増加と背景
日本国内におけるISMS認証の取得件数は増加傾向にあります。2024年12月時点で、ISMS認証の登録数は8,000件を突破しています。
この増加の背景には、以下の要因が挙げられます。
情報セキュリティへの関心の高まり
近年、サイバー攻撃や情報漏えい事件が増加しており、企業は情報セキュリティ対策の強化を求められています。
特に注目されているのは人を狙ったソーシャルエンジニアリングです。データ侵害の大半はソーシャルエンジニアリング攻撃から始まっているとも言われており、人を狙う攻撃は人で防御する、という考え方も広がりつつあります。
このような背景から、人への教育や体制づくりも含めたセキュリティ対策の重要性が高まっていることも影響して、増加傾向にあると考えられます。
取引先からの要求
大手企業や公共機関との取引においては、ISMS認証の取得が条件となるケースも増えています。
取引先ごとにセキュリティ要件を定めたセキュリティチェックに代わり、ISMSを取得していることを条件とする企業や、入札条件にISMS認証取得を含める官公庁なども多くなっています。
ISMS認証を取得するメリット
ISMS認証は取得そのものが目的ではありません。組織にどのような効果・価値をもたらすのかを理解して取り組むことが大切です。
ここでは、認証取得によって期待できる主なメリットを整理します。
新規ビジネス機会の拡大
認証を取得していることにより、「情報セキュリティ対策を組織的に行っている」という対外的な証明になります。
特に、金融機関や大手企業など、情報セキュリティに対する要求が厳しい取引先からは、認証の有無が取引条件になっているケースも珍しくありません。官公庁などの入札案件では、ISMS認証取得が参加条件となる場合もあります。また、取引先から情報セキュリティ対策状況を確認される場合に、ISMS認証を取得していることでパスできるケースもあります。
ISMS認証は、取引においてセキュリティ要件をクリアしやすくなる効果があり、新たなビジネスチャンスを掴むための強力な武器となります。
セキュリティリスクの管理強化
ISMSの構築・運用プロセス自体が、リスクアセスメントをベースに設計されます。
そのため、リスクの可視化・管理が組織文化として根づきやすくなり、セキュリティ事故の発生リスクを構造的に低減する効果があります。
また、前述の通り認証取得をすると毎年審査が発生するため、必然的に1年間でPDCAサイクルを1回は実施することになります。一定の強制力が働くことで、構築後に運用をせず放置する事態を防止することが可能になります。
その結果、改善のサイクルが実施され、継続的にセキュリティリスクに対応していくことができます。
組織内部の意識改革、コンプライアンス対応
ISMS導入には経営層の関与が必須です。そのため、経営者から一般従業員に至るまで、情報セキュリティ意識の向上と責任分担が明確化され、組織力そのものが強化される効果も期待できます。
個人情報保護法、マイナンバー法、不正アクセス禁止法など、各種法令への対応も、ISMS構築を通じて体系的に行いやすくなります。
ISMS認証は、体制とコンプライアンの強化に寄与し、インシデント発生時の説明責任を果たすための土台作りにも繋がります。
ISMS認証のデメリット
一方で、ISMS認証にはデメリットや課題もあります。
コスト負担が大きい
構築・運用にかかるコスト(人件費、外部コンサル費用、認証費用など)は無視できません。小規模な企業でも数百万円規模、大企業では数千万円規模の投資が必要となることもあります。
認証取得に伴うコストは、得られるビジネスメリット(取引機会拡大、信頼性向上など)と天秤にかけ、投資対効果(ROI)の観点から慎重に判断しなければなりません。
運用負荷が継続的にかかる
認証後も、リスクアセスメントの定期実施、内部監査、マネジメントレビュー、是正処置対応など、日常業務とは別に情報セキュリティ運用業務が発生します。
これに対応するため、専任担当者の配置や、全社的な協力体制が求められます。
ISMSの取り組みに着手するタイミングで、年間どれくらいの工数が必要になるのか、想定をしておくことも認証維持のためのポイントとなります。
形式主義に陥るリスク
ISMS運用が「審査を通すこと自体」を目的化してしまうと、現場の実態とかけ離れた形骸化したルールや手順が生まれます。このような状況では、情報セキュリティリスクを実質的に低減することはできません。
さらに、審査では現場へのヒアリングも行われるため、実態と規程類が乖離している場合は指摘対象となり、是正対応に追加コストが発生するリスクもあります。
これを防ぐためには、現場運用を踏まえた現実的なルール設計と、定期的な現場ヒアリングを通じたギャップの把握・改善が重要です。
ISMS認証を取得するために必要なこと
ISMS認証を取得するためには、単にセキュリティ製品を導入したり、規程を整備したりするだけでは不十分です。
重要なのは、組織全体で情報セキュリティリスクを管理する「仕組み」を確実に回し続けることです。
そのためには、次の要素をバランスよく整備・運用していくことが不可欠です。
取り組みのポイント
- 経営層のコミットメント
ISMSはトップマネジメントのリーダーシップが前提です。経営層が明確に「情報セキュリティは経営課題である」という意思を示し、資源(人・予算)を投入しなければなりません。 経営層が本気で取り組む意思を見せなければ、ISMSは形骸化します。 - リスクアセスメントと管理策の適用
組織の業務内容・規模・特徴に応じて、情報資産を洗い出し、リスクを評価し、適切な管理策(ISO/IEC 27001附属書Aの管理策など)を選択・実施する必要があります。 リスクを正しく捉えずに管理策だけ整備しても、実効性のない体制になりがちです。 - 文書化と記録の整備
情報セキュリティ方針、リスク評価基準、運用手順書、監査記録など、多くの文書・記録が求められます。単なる書類作成ではなく、「現場で運用できるリアリティ」が重要です。 現場運用とかけ離れた文書は、内部監査や外部審査での指摘リスクを高めます。 - 教育・訓練の実施
ISMSの成功は、従業員一人ひとりの意識と行動にかかっています。全従業員に対して定期的な教育・訓練を実施し、理解度の確認・向上を図ることが求められます。 現場の無意識なミスが最大のセキュリティリスクになるため、教育は形式だけでなく実効性を重視する必要があります。 - 内部監査とマネジメントレビュー
構築したISMSが適切に機能しているかをチェックするため、年1回以上の内部監査と、その結果に基づくマネジメントレビュー(経営層レビュー)が必要です。 問題点を洗い出し、改善策を講じ、PDCAサイクルを回し続けることが、ISMSの価値を維持・向上させる鍵となります。
まとめ
ISMS認証は、単なる「書類作り」でも「審査対応」でもありません。リスクを正しく捉え、組織全体で継続的にマネジメントしていく力を育てる取り組みです。
この記事で紹介した内容、ポイントを押さえて、単なる認証取得にとどまらず、組織力そのものを高めることを目指して取り組みましょう。