陸上自衛隊 25式高速滑空弾の概要と配備理由や中露の同等システムとの比較を解説

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陸上自衛隊 25式高速滑空弾の概要と配備理由や中露の同等システムとの比較を解説

2026年6月7日、静岡県の陸上自衛隊東富士演習場で実施された「富士総合火力演習(総火演)」において、同年3月末に部隊配備を開始したばかりの「25式高速滑空弾(25HGP:Hyper Velocity Gliding Projectile)」の発射車両が国内外の関係者・報道陣に初めて公開されました。

自衛隊員約3,000人・戦車や装甲車約50両・火砲約50門が投入され、約8.2億円分の弾薬が消費された国内最大規模の実弾射撃訓練で、最も注目を集めたのがこの装備でした。

最大のポイントは、この兵器が「日本初の事実上の弾道ミサイル」あるいは「極超音速滑空体(HGV:Hypersonic Glide Vehicle)」として諸外国の軍事専門家から評価されているという点です。

マッハ5(時速約6,000キロメートル)を超える速度で大気圏上層を滑空し、飛行中に軌道を変更することで既存の迎撃システムによる撃墜を極めて困難にするこのシステムは、日本が2022年12月の安保3文書改定で宣言した「反撃能力(敵基地攻撃能力)」を実際に行使するための最も強力なスタンド・オフ・ミサイルです。視

察後に小泉進次郎防衛大臣は「新しい戦い方に素早く柔軟に対応し、我が国の新しい守り方を確立することは喫緊の課題となっている」と語りました。本記事では25式高速滑空弾の概要・配備理由・配備先と生産計画・国防上のメリット・中国・ロシア・米国の同等システムとの比較を詳報します。

サマリー

  • 2026年6月7日の富士総合火力演習で25式高速滑空弾の発射車両が初公開。2026年3月31日に富士駐屯地(特科教導隊)への配備が開始済み
  • マッハ5超で大気圏上層を滑空・機動変換し、飛来する極超音速滑空体は従来の弾道ミサイル防衛(SM-3・PAC-3)では迎撃が極めて困難
  • ブロック1(早期型):射程約500〜900km、2026年配備済み。ブロック2(能力向上型):射程約2,000〜3,000km、ウェイブライダー技術採用、2030年代配備予定
  • 2026年度内の追加配備先:えびの駐屯地(南西諸島・台湾海峡方向)・上富良野駐屯地(北方・北東アジア広域)
  • 三菱重工業との初度量産契約:約601億7,110万円(2023年4月)。米国からFMS(対外有償軍事援助)として3億4,000万ドル規模の試験支援パッケージを締結(2026年3月)
  • 世界の極超音速兵器競争で中国(DF-17・実戦配備済み・マッハ10)、ロシア(アバンガルド・マッハ20)が先行。米国は開発・試験中で日本と同段階
  • 課題:RAND研究所のジェフリー・ホーナング氏らが指摘する「キル・チェーンの米軍依存」——独自の目標情報取得・追尾能力の構築が今後の最大課題

「日本初の事実上の弾道ミサイル」の技術的仕組み

25式高速滑空弾は、防衛省が陸上自衛隊向けに独自開発した地対地ミサイルシステムです。もともと「島嶼防衛用高速滑空弾」として研究開発が進められ、2026年3月の部隊配備に伴って正式名称が付与されました。


飛翔メカニズム

通常の弾道ミサイルが大気圏外に向けて打ち上げられた後に自由落下するのに対し、25式高速滑空弾は全く異なる飛翔プロセスをとります。

固体燃料ロケットブースターで高高度まで加速した後、ブースターを切り離した弾頭部分(滑空体)のみが大気圏上層部に再突入。そのままマッハ5を超える速度で大気圏内を長距離滑空し、目標上空で急降下して直撃します。この間、飛翔軌道を左右に変更する機動(マニューバ)が可能であるため、着弾地点の予測と迎撃が従来の技術では極めて困難になります。


2つの発展段階(ブロック)

区分 名称 射程 技術的特徴 配備時期
ブロック1 早期装備型 約500〜900km 固体燃料推進・円錐形弾頭形状 2026年3月31日〜
ブロック2 能力向上型 約2,000〜3,000km ウェイブライダー技術採用(低高度長距離滑空・レーダー探知の遅延) 2030年代予定

ウェイブライダー(Wave-rider)とは、超音速飛翔時に発生する圧縮波を翼の揚力として利用する高度な空力技術であり、これによりブロック2は現在のブロック1と比べて射程が3倍以上に延びると見込まれています。

発射プラットフォーム:重装輪回収車の車体をベースとした大型トラック型の専用発射車両を採用。固体燃料のため事前の燃料注入が不要で、長期間の保管後も即応体制を維持できます。すでに艦艇・C-2輸送機への搭載試験も実施されており、多様なプラットフォームへの拡張が将来的に計画されています。


配備理由—反撃能力の宣言と周辺安全保障環境の劇的変化

日本が25式高速滑空弾の配備を進め、当初予定の2031年から2026年へと5年以上前倒しした背景には、日本周辺の安全保障環境の不可逆的な変化があります。

安保3文書改定(2022年12月)

岸田内閣はこの改定で、戦後の「専守防衛(盾のみ)」の枠組みを転換し「反撃能力(敵基地攻撃能力:矛)」の保有を正式に宣言しました。25式高速滑空弾はその反撃能力を実際に行使するための中核的なスタンド・オフ・ミサイルとして位置づけられています。

中国の脅威

中国人民解放軍は東シナ海・尖閣諸島周辺での活動を常態化し、A2/AD(接近阻止・領域拒否)能力の構築に注力しています。さらにマッハ10のDF-17など極超音速兵器を2019年以来実戦配備しており、地域の軍事バランスを著しく損なわせています。

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北朝鮮の脅威

国連安保理決議に違反した弾道ミサイル開発を継続し、変則軌道で飛翔する極超音速兵器の試験を繰り返しています。

従来の防衛システムの限界

日本のBMD(弾道ミサイル防衛)は艦艇発射のSM-3と地上配備のPAC-3に依存してきましたが、マッハ5超・軌道変更可能な極超音速滑空兵器への対処は物理的に極めて困難です。この非対称な状況を打開するため、「相手の防空網の外(スタンド・オフ)から効果的な反撃を行う能力」が不可欠と判断されました。

防衛省は今後5年間(2023〜2027年度)で約43兆円(約2,680億ドル)という戦後最大規模の防衛予算増額計画を発表しており、25式高速滑空弾の開発・生産はその中核的プロジェクトに位置づけられています。戦略的には「日本に侵攻すれば看過できない反撃を受ける」という抑止認識を相手国に持たせる「拒否的抑止力」の確立が目的です。

関連




配備先と生産量—600億円の三菱重工契約と米国3億4,000万ドルの試験支援

段階的な配備計画

段階 時期 場所 戦略的意味
第1段階 2026年3月31日 富士駐屯地(富士学校 特科教導隊) 初期展開・運用教範作成・乗員教育
第2段階 2026年度内 えびの駐屯地(第2特科団・宮崎県) 東シナ海・南西諸島・台湾海峡方向をカバー
第2段階 2026年度内 上富良野駐屯地(第1特科団・北海道) ロシア極東方向の牽制・ブロック2配備時の戦略拠点

えびの駐屯地への配備は、射程500〜900kmで九州から東シナ海・南西諸島を射程に収め、台湾有事に際して侵攻する艦艇・上陸部隊を打撃できる前線拠点です。上富良野駐屯地への配備は、ロシア極東軍への牽制に加え、将来的にブロック2(射程2,000〜3,000km)が導入された際に北東アジア広域をカバーする戦略的抑止拠点となることを見越した布陣です。

生産契約と予算

三菱重工業は25式高速滑空弾の主契約企業であり、防衛装備庁は2023年4月6日に約601億7,110万円の初度量産随意契約を締結しました。防衛省の予算資料では以下の配分が確認されています。

区分 予算額
早期装備型(ブロック1)の研究・調達 158億円
能力向上型(ブロック2)の開発 2,003億円
極超音速兵器の基礎技術研究 58.5億円
2026年度の前倒し生産追加枠 31億円(約1,980万ドル)

米国FMS(対外有償軍事援助)による試験支援

日本国内には数千キロメートルを飛翔するミサイルの全行程を安全に追跡・評価できる射場が存在しないため、米国の試験インフラを活用する大規模なFMS契約が締結されています。

2025年3月に米国務省が2億ドル規模のFMSを承認し、2026年3月には3億4,000万ドル(約500億円強)規模への拡張が米国防安全保障協力局(DSCA)から議会に通知されました。このFMSには射場施設・飛行中断システム(Flight Termination System)・テストデータ分析・無線周波数割り当てなどの包括的な技術サポートが含まれます。


国防上のメリット—防空網突破から移動式展開による残存性まで

防空網突破能力(Penetrability)

25式高速滑空弾の最大の戦術的優位は、現在あらゆる国が保有するミサイル防衛網(IAMD)に対する圧倒的な突破力です。

マッハ5超の速度で飛来し、なおかつ飛翔中に軌道を左右に変更できるため、迎撃ミサイルが「どこに向かっているか」を予測して先回りすることが物理的に極めて困難です。これにより敵の厳重な防空体制下にある航空基地・海軍基地・指揮統制センターなどの重要インフラを高精度で無力化する能力を日本が初めて獲得します。

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多様なプラットフォームと移動式展開による残存性(Survivability)

発射機が特定の基地に固定されず移動できることは、敵の「日本の発射機を先制的に破壊する」という選択肢を大幅に困難にします。防衛省はすでに艦艇や航空自衛隊のC-2輸送機への搭載試験を実施しており、日本列島内の任意の場所に迅速に分散・隠匿して展開できることが検証されています。

スタンド・オフ能力と自衛隊員の安全確保

射程500〜900km(ブロック1)という距離は、射撃部隊が敵の脅威圏外に留まりながら作戦を実施できることを意味します。防衛省の評価書でも「自衛隊員の安全と生存性を確保しつつ、侵攻を効果的に阻止するためには脅威圏外からの対処が不可欠」と明記されています。


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課題:キル・チェーンの米軍依存

RAND研究所の日本安全保障専門家ジェフリー・ホーナング氏は「自衛隊が独自のターゲティング・プロセスを完遂するためのノウハウやインフラを有しているとは思えない。少なくとも当面の間、日本はキル・チェーン(目標の探知から識別・追尾・交戦・戦果判定に至る一連のサイクル)のすべての部分において米軍に依存せざるを得ないだろう」と分析しています。ハドソン研究所の村野将氏も「遠方にある移動式ミサイルランチャーや艦船をピンポイントで攻撃するには、衛星コンステレーションや無人機による常時ISR(情報・監視・偵察)能力が必要だが、日本にはその能力が不足している」と指摘しています。独自の宇宙ISR網の整備が今後の最大課題です。


他国の同等ミサイルとの比較—極超音速兵器の世界的軍備競争

システム名 射程 最高速度 配備状況 特徴
日本 25式高速滑空弾(HVGP) ブロック1:500〜900km / ブロック2:約2,000〜3,000km マッハ5以上 2026年3月〜ブロック1配備開始 通常弾頭特化・固体燃料・ウェイブライダー技術(ブロック2)
中国 DF-17(DF-ZF HGV搭載) 約2,500km マッハ10 2019年〜実戦配備済み 通常・核両対応・道路移動式・台湾・沖縄在日米軍・グアムを射程に収める
ロシア アバンガルド(Avangard) 6,000km以上 約マッハ20 実戦配備済み ICBMベース・核抑止主眼・桁違いの速度
米国 LRHW / CPS(共通HGV:C-HGB) 2,700km以上 マッハ5以上 開発・試験中 陸軍・海軍共通の極超音速滑空体・通常弾頭の精密打撃に特化
米国 ARRW(AGM-183A) 非公開 マッハ5以上 開発中 爆撃機からの空中発射型
北朝鮮 火星8型 / 火星11E 中〜長距離 マッハ5以上 試験発射複数回 独自のHGVを主張・急速に技術水準を引き上げ
フランス V-MAX / V-MAX 2 非公開 マッハ5以上 試験機(2023年初飛行成功) 欧州初の極超音速試験機

競争の現状と日本の位置づけ

世界の極超音速兵器開発競争において最も重要な事実は、中国・ロシアが米国・日本を数年単位でリードしているという現実です。

中国のDF-17は2019年の実戦配備以来、台湾のみならず沖縄の在日米軍基地・グアム周辺までを射程に収める脅威として機能しています。ロシアのアバンガルドはICBMをブースターとするマッハ20超の戦略核抑止力です。

これに対して米国はLRHW/CPS(陸軍・海軍共通の極超音速滑空体C-HGBを使用)の試験を進めており、DARPA(国防高等研究計画局)もOpFires・HAWC・TBGプログラムなど多角的なアプローチで開発を加速させています。

日本の25式高速滑空弾は、米国のLRHWやARRWと同様に「通常弾頭による精密打撃」に特化しており、核による恫喝ではなく軍事目標のピンポイント無力化を目的とします。また、CSIS・RAND研究所などの米国の安全保障研究機関は、日本の25式高速滑空弾を「米国・日本の連合インド太平洋防衛において、中国の極超音速兵器に対する非対称を部分的に縮小する重要なカウンターバランス」として評価しています。

なお、世界の極超音速兵器開発競争は現在、プロトタイプの速度実証フェーズから「いかに安価に大量に製造・配備できるか(Manufacturability)」という製造能力とサプライチェーンの競争フェーズへとシフトしています。

日本が三菱重工業に対して早期に600億円規模の初度量産契約を締結した背景には、有事に持続的に弾薬を供給できる国内製造基盤を早期に確立するという明確な意図があります。


FAQ

Q. 「スタンド・オフ・ミサイル」という言葉の意味は何ですか? A. スタンド・オフとは「射撃側が敵の脅威圏(攻撃が届く範囲)の外に留まりながら攻撃できる」という意味です。25式高速滑空弾は射程500〜900km(ブロック1)のため、陸上の発射車両が日本本土の安全な場所にとどまりながら、侵攻してくる敵艦隊や占領された離島を攻撃できます。これにより自衛隊員を直接の危険にさらさずに反撃できます。





Q. 「反撃能力」とはどういう意味ですか?専守防衛との違いは? A. 「専守防衛」は「攻撃されて初めて防御するために最小限度の実力を行使する」という従来の日本の基本方針です。「反撃能力(旧称:敵基地攻撃能力)」は2022年の安保3文書改定で追加された概念で、「ミサイル攻撃を受けた場合、相手の発射拠点に反撃する能力」を指します。25式高速滑空弾はその反撃能力を具体的に実現する装備の一つです。

Q. 日本が核弾頭を搭載することはありますか? A. 25式高速滑空弾は通常弾頭専用として開発されており、核弾頭の搭載は設計されていません。日本は「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則を維持しており、核弾頭搭載は政策・条約上も実施されません。

Q. ブロック2の射程2,000〜3,000kmはどこまで届きますか? A. 日本本土から発射した場合、射程3,000kmあれば北京・上海・ウラジオストク・平壌をすべて射程に収めます。これが将来的に戦略的抑止力の大幅強化につながる理由です。ただしブロック2は2030年代の配備予定であり、現段階ではブロック1(500〜900km)が運用されています。


参考情報