LINEヤフーは2026年7月24日、LINE広告等のサービス利用企業が広告の配信対象を設定する作業に関連して、本来同社のシステムに保存されるべき記録が誤って削除されていたと公表しました。削除されていたのは、企業がアップロードした顧客データとLINEユーザーを突合した際に生成される記録で、個人情報保護法が第三者提供に係る記録として保存を義務づけているものです。対象期間は2022年12月15日から2026年6月9日までの約3年半に及びます。原因はデータ管理に関する定期的な見直しの際に、本来保存対象とすべき記録が対象外として扱われてしまったことでした。情報の漏洩や不正利用は確認されていませんが、ユーザーが自身のデータがどの企業に利用されたかを開示請求した場合、その履歴が不完全になっている可能性があります。削除された記録は個人情報保護法上の保存義務に反するもので、法令違反に該当します。
サマリー
- LINEヤフーが2026年7月24日、LINE広告等の第三者提供に係る記録を約3年半分誤削除していたと公表
- 対象期間は2022年12月15日〜2026年6月9日
- 削除されたのは個人情報保護法が保存を義務づける記録で、法令違反に該当
- 原因はデータ管理の定期的な見直しの際に本来保存すべき記録を対象外として扱ったこと
- 削除対象人数・規模は不明(データ管理の不備のため特定できず)
- 情報の漏洩・不正利用・二次被害は確認されていない
- ユーザーの開示請求時に、自身のデータがどの企業に合致したかの履歴が不完全になる可能性
- ユーザーのサービス利用や企業の広告・メッセージ配信には影響なし
- 既にシステムを修正し、対象期間以降の記録は適切に保存されている
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 公表日 | 2026年7月24日 |
| 公表主体 | LINEヤフー株式会社 |
| 事象 | LINE広告等の第三者提供に係る記録の誤削除 |
| 対象期間 | 2022年12月15日〜2026年6月9日(約3年半) |
| 削除された記録 | LINEユーザーの内部識別子、アップロード企業の内部識別子、アップロードデータの項目、登録日時 |
| 根拠法令 | 個人情報保護法(第三者提供に係る記録の保存義務) |
| 原因 | データ管理の定期的な見直しで本来保存対象の記録を対象外として扱った |
| 対象人数・規模 | 不明 |
| 漏洩・不正利用 | 確認されていない |
| ユーザーへの影響 | 開示請求時に履歴が不完全になる可能性 |
| 現在の対応 | システム修正済み、対象期間以降は適切に保存 |
何が起きたか――保存義務のある記録が誤って削除された
LINEヤフーは「LINE広告」「LINE公式アカウント」「ビジネスマネージャー」といった企業向けサービスを通じて、広告やメッセージのターゲティング機能を提供しています。この仕組みでは、企業が自社の顧客データ(メールアドレスや電話番号など)をLINEヤフーのシステムにアップロードし、それを暗号化(ハッシュ化)したうえでLINEのユーザーデータと突合することで、その企業の顧客に対してLINE上で広告やメッセージを配信できるようになっています。
この突合の際、企業側のデータと合致したLINEユーザーの内部識別子などをLINEヤフー側で記録することが、個人情報保護法によって義務づけられています。これは、ある企業に個人データが提供されたという事実を記録として残し、後からユーザーが「自分のデータがどこに渡ったか」を確認できるようにするための仕組みです。しかし今回、この保存すべき記録が2022年12月15日から2026年6月9日までの約3年半分にわたって削除されていました。
原因は、データ管理に関する定期的な見直しの際、本来は保存対象とすべき記録が対象外として扱われてしまったことです。悪意ある削除や外部からの攻撃ではなく、社内のデータ管理プロセスにおける設定・運用上の不備によるものでした。LINEヤフーは既にシステムを修正しており、対象期間以降の記録は適切に保存されているとしています。
削除された記録の中身
LINEヤフーが公表した、削除された記録に含まれる主な項目は以下の4点です。
LINEユーザーを識別するための内部識別子、データをアップロードした企業の内部識別子、企業側がアップロードしたデータの項目、そしてデータの登録日時です。
これらは、いずれも「どのLINEユーザーのデータが、どの企業のアップロードしたデータと、いつ合致したか」を示す記録です。氏名や住所、メールアドレスといった直接的な個人情報そのものが漏れたわけではなく、企業がアップロードした顧客データ自体は突合後に即時消去されているとLINEヤフーは説明しています。しかし、この記録が失われたことで、第三者提供の履歴を正確に辿ることができなくなりました。
個人情報保護法上の位置づけ――なぜ「法令違反」なのか
今回の事案が単なるデータの消失にとどまらず「法令違反」と報じられているのは、削除された記録が個人情報保護法によって保存を義務づけられているものだからです。
個人情報保護法は、事業者が個人データを第三者に提供した際、その提供に関する記録を作成し、原則として一定期間保存することを義務づけています。これは第三者提供に係る記録の作成・保存義務と呼ばれ、ユーザーが自分の個人データがどこに提供されたかを後から確認できるようにするための、本人の権利を担保する重要な仕組みです。
この記録が削除されたことによる直接的な影響は、ユーザーの開示請求に現れます。ユーザーは個人情報保護法に基づき、自分のデータがどの企業に第三者提供されたかについて開示を請求する権利を持っています。しかし今回、記録が削除されているため、ユーザーが開示請求(LINEヤフーのパーソナルデータ開示手続き)を行っても、自身のデータがどの企業のアップロードしたデータに合致したかについて、履歴が不完全になっている可能性があります。つまり、ユーザーが本来行使できるはずの「自分のデータの行き先を知る権利」が、記録の欠落によって十分に果たされなくなる恐れがあるということです。
さらに問題を複雑にしているのは、削除された記録の対象となる人数や規模が特定できないことです。データ管理の不備によって記録そのものが失われているため、そもそも何人分の、どの範囲の記録が削除されたのかをLINEヤフー自身も正確に把握できない状態にあります。
漏洩や配信への実害は確認されず
一方で、LINEヤフーは今回の事案による実害については限定的だと説明しています。
まず、データの不正利用や漏洩は発生していないとしています。企業がアップロードした顧客データ(メールアドレス、電話番号など)自体は、突合後にLINEヤフーのシステムから即時消去されており、企業とLINEヤフーの間でのデータの不適切な共有や不正利用、漏洩といった二次被害も確認されていないとのことです。データの突合は暗号化(ハッシュ化)のうえ、同社のプライバシーポリシーに則して行われたものだと説明しています。
また、今回削除されたのは個人情報保護法に基づき保存していた記録の一部であり、LINEヤフーのサービス提供に必要なユーザーデータそのものではありません。そのため、ユーザーによるサービス利用や、企業による広告・メッセージ配信には影響がないとしています。
つまり、実際の広告配信の仕組みやユーザーの利便性が損なわれたわけではなく、あくまで「法令上保存すべき記録が失われた」という、コンプライアンス上の問題が本質です。
相次ぐLINEヤフーのデータ管理インシデント
今回の事案で見過ごせないのは、LINEヤフーで広告関連のデータ管理をめぐるインシデントが立て続けに発生している点です。
わずか11日前の2026年7月13日、LINEヤフーはLINE GAMEの「LINEポコポコ」などで利用者の内部識別子が外部の広告ツールへ送信されていた事案(約710万件、約4年間気づかれず)を公表したばかりです。こちらも氏名・住所などの個人情報は含まれず不正利用も確認されていないものの、内部識別子という広告関連のデータが、長期間にわたり気づかれないまま不適切に扱われていたという点で、今回の事案と共通する構造を持っています。
さらに遡れば、LINEヤフーは2023年11月に発覚した約52万件の個人情報流出を受けて総務省から複数回の行政指導を受け、個人情報保護委員会も改善状況を継続的に確認してきました。2024年から2026年にかけては、LINEアルバムの誤表示による通信の秘密の漏洩、LYPプレミアムのパスワード上書き不具合など、システムやデータ管理に起因するインシデントが繰り返し発生しています。
生活インフラとして数千万人規模のユーザーを抱えるプラットフォームにおいて、広告のターゲティングという大規模なデータ処理の裏側で、法令が求める記録管理が徹底されていなかったことは、同社のデータガバナンス体制の継続的な課題を示しています。
情報システム部門が学ぶべき教訓
今回の事案は情報漏洩ではなく「保存すべきデータの誤削除」という、やや特殊なインシデントです。しかし、データを扱うすべての組織にとって普遍的な示唆を含んでいます。
第一に、法令が保存を義務づけるデータの識別と保護です。多くの組織では、不要なデータを削除してストレージを最適化する運用が行われています。しかし、その削除対象の選定において、法令上の保存義務がある記録を誤って対象に含めてしまうと、今回のような事態が生じます。データのライフサイクル管理では、削除ルールを設計する段階で、法務・コンプライアンス部門と連携し、保存義務のあるデータを確実に除外する仕組みを組み込む必要があります。
第二に、削除処理の可逆性と検証です。今回、削除された記録の人数・規模が特定できないのは、記録そのものが失われ、削除の事実を裏付けるメタ情報も残っていないためとみられます。重要データの削除処理には、削除ログの保全、一定期間の論理削除(即時の物理削除を避ける)、削除前後の件数検証といった、後から追跡・検証できる仕組みを設けることが望まれます。
第三に、定期的な見直しプロセス自体のリスク管理です。今回の原因は「データ管理に関する定期的な見直し」という、本来はガバナンスを高めるための作業の中で発生しました。運用改善やクリーンアップの作業こそ、変更の影響範囲を事前に評価し、保存義務データへの影響がないかをレビューする統制が不可欠です。良かれと思って行った見直しが、かえって法令違反を招いたという点は、あらゆる組織が留意すべき教訓です。
LINEヤフーは、本件についてユーザーからの問い合わせ窓口を設けています。ユーザーのサービス利用や広告配信に直接の影響はないものの、自身のデータの第三者提供履歴を確認したい場合は、同社のパーソナルデータ開示手続きを通じて請求できます(ただし対象期間の履歴は不完全な可能性があります)。








