沖縄県ワシントン事務所-開設から閉鎖まで10年の活動実績と問題点

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沖縄県ワシントン事務所-開設から閉鎖まで10年の活動実績と問題点

2015年4月に開設され、米国連邦議会関係者を中心に延べ5,778名との面会を重ねてきた沖縄県ワシントン事務所(Okinawa Prefecture DC Office, Inc.)が、2025年6月に閉鎖されました。基地問題での情報収集・発信という明確な目的を持ちながら、開設時の株式会社設立に関する行政手続きの重大な不備・9年間にわたる県議会への未報告・公文書の不存在という問題が明らかになり、県議会での決算不認定・百条委員会設置・予算削除という前例のない事態に発展したものです。

【この記事のサマリー】

  • 沖縄県ワシントン事務所は2015年4月、翁長雄志知事時代に普天間基地移設問題をアメリカ側に直接訴えることを目的として開設されました。
  • 令和6年3月末時点で米国連邦議会関係者3,030名・国防総省関係者73名・シンクタンク有識者等2,216名など延べ5,778名と面会し、知事訪米支援・情報収集・情報発信を実施していました。年間予算は約1億円(人件費・活動費含む)です。
  • 問題の核心は、駐在職員のビザ取得のために設立した株式会社(Okinawa Prefecture DC Office, Inc.)について、県議会への報告が9年間にわたり行われず、設立を明確に決定した文書が存在しないという行政手続き上の重大な不備です。
  • 2025年3月の県議会で運営経費の全額削除修正案が可決、玉城知事が再議を断念し閉鎖が確定。2025年6月13日に解散・退去手続きが完了しました。
  • 2024年12月に沖縄復帰後4例目となる百条委員会が設置され、現在も調査継続中。2026年度に再設置を目指した約5,700万円の予算要求案も提出されています。

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開設の目的

沖縄県ワシントン事務所は、翁長雄志知事時代の2015年4月に開設されました。設置の直接的な目的は、普天間飛行場(宜野湾市)の辺野古移設に反対する知事の立場を、日本政府を介さずアメリカ側に直接訴えるためです。

沖縄県は当初、米国内において非営利団体(NPO等)としての事務所設立を目指していました。一般的に、自治体の海外拠点は非営利の形をとることが通例です。しかし、米国側から「事務所の活動目的が政治的である」との理由で非営利組織としての認可が下りませんでした

その結果、沖縄県はワシントンD.C.の中心部(1101 Connecticut Avenue, NW, Suite 450)に、県が100%出資する営利企業である株式会社「Okinawa Prefecture DC Office, Inc.」を設立するという異例の形態を採用しました

沖縄県の公式サイトによれば、ワシントン駐在の主な役割は

基地問題に関する情報収集として米国の政策動向・議会審議の情報収集を行い、沖縄の状況などの情報発信として知事の考えや沖縄の現状を正確に米側に伝え、知事訪米の対応として国務省・国防総省・連邦議会議員・シンクタンク・市民団体などとの調整・記者懇談会・シンポジウム・交流レセプションの設定を担っていました。

活動実績—令和6年3月末時点で延べ5,778名と面会

沖縄県の公式発表によれば、令和6年(2024年)3月末時点までに以下の活動実績が確認されています。

面会先 延べ人数
米国連邦議会関係者 3,030名
国務省関係者 123名
国防総省関係者 73名
NSC(国家安全保障会議)関係者 3名
副大統領経験者 1名
報道関係者 224名
県人会関係者 108名
シンクタンク有識者等 2,216名
合計 5,778名

事務所の最も中核的な機能は、米国連邦議会議員や国防総省、国務省の担当者に対して、沖縄県知事のキャンペーン公約に沿って、普天間飛行場の閉鎖・撤去、辺野古新基地建設への反対、オスプレイ配備への反対、さらには日米地位協定の抜本的見直し(米軍への国内航空法等の適用を含む)を訴える事でした

なお年間予算は人件費・活動費を含めて約1億円が計上されていました。

さらの危機発生時の対応としても事務所は機能しました。

例えば、2024年6月末に沖縄で米兵による痛ましい性的暴行事件が相次いで明るみに出た際、事務所は7月を通じて米国議会や政府当局者を継続的に訪問し、事態の深刻さを共有するとともに、再発防止に向けた厳格な対応を求める要請活動を行いました。このような活動は、事件に対する米国内の政治的認識を高め、再発防止へのプレッシャーをかける上で一定の役割を果たしたと考えられます。

ロビー・コンサルティング企業から支援を受ける

沖縄県は米国内でのロビイング活動をより効果的に展開するため、米国の有力なロビー・コンサルティング企業である「Mercury Public Affairs, LLC」等の支援も受けていました。Mercury Public Affairs社(登録番号: 6170)の申告記録によれば、同社はカタール大使館、エクアドル大使館、サムスン電子などと並んで沖縄県をクライアントとして抱え、米国内の非政府組織や学術機関との連携を通じたリサーチや助言を提供していました。このように、沖縄県は米国の首都において、一地方自治体でありながら主権国家に匹敵する本格的なロビイング・ネットワークの構築を試みていたことがわかります。

問題点

問題の第一の核心は、事務所の設立プロセスにおける異常な不透明さです。

沖縄県が100%出資する「ワシントンDCオフィス社」を設立するにあたり、行政機関として本来不可欠である「文書による意思決定(稟議書の作成と決裁)」が行われていなかったことが、後日の第三者委員会の調査で判明しました

地方自治法において、公金の支出や法人の設立に関する厳格な手続きが定められており、文書主義は行政の適法性と透明性を担保する根幹です

県は2024年11月に公表した92ページに及ぶ報告書の中で、「事前の検討不足や関係法令の理解不足に起因して、文書による意思決定や必要な手続の整理が欠如し、法定の手続がなされない状態が続くこととなった」と法的瑕疵を全面的に認めました

国就労ビザ申請における虚偽記載疑惑

前述の通り、米国の非営利団体としての登録が認められなかったため、県は株式会社を設立しました

株式会社の駐在員として就労ビザを取得するためには、その社員が当該法人に正規に雇用され、法人の管理下にある実態を証明する必要があります。これに対し沖縄県は、米国移民局(USCIS)に提出した書類において、駐在職員の役職を「社長」などの役員職として不正確に報告しました。さらに重要な点として、申請書類には「職員は沖縄県から直接雇用されていない」「当該コーポレーション(法人)が雇用を管理している」と記載されていました

しかし実態としては、これら駐在職員は沖縄県の地方公務員法に基づく公務員としての身分を完全に保持したまま派遣されており、給与の支払いや実質的な人事権は沖縄県本体が直接握っていました

すなわち、政治的活動を行う目的で株式会社という隠れ蓑を使いつつ、米国の移民当局には公務員であることを隠蔽した(事実と異なる申告をした)という「虚偽申請」の構造が、県議会から厳しく追及されることになりました

2024年11月の県議会向け説明会において、玉城知事の側近である知事公室長は「実態と齟齬がなく改善を要する事項は認められない」と苦しい釈明を試みましたが、不適切な書類提出があった事実と議会への説明不足については謝罪に追い込まれました

百条委員会の設置経緯

一連の問題が浮上した当初、県議会での質疑において県執行部の答弁が繰り返し訂正・修正されるという異常事態が続きました。読売新聞は「前代未聞」と表現しており、「質疑を通して解明できないレベルに至っている」との認識が野党側に広まりました。

2024年12月10日、県議会は野党・中立系会派の賛成多数で「ワシントン事務所の違法状態の早期是正を求める警告決議」を可決。同日、野党系会派による百条委員会設置を求める動議も賛成多数で可決されました。玉城知事は「真摯に受け止める」とコメントしています。

沖縄の日本復帰後に百条委員会が設置されるのは2014年2月以来、4例目となります。委員長には沖縄自民・無所属の会の座波一議員が就きました。

百条委員会での主要な証言

2024年12月26日の初会合でワシントン事務所の初代所長と副所長を参考人として招致することが確認されました。以後、複数回にわたる参考人招致・証人尋問で、設立当時の実態が次々と明らかになっています。

初代副所長・山里永悟氏(現土木総務課長)の証言(2025年2月7日・3月3日)として、「翁長知事が駐在事務所を設置すると公約していたので『行け』という感じ。何をすればいいかも分からない」と当時の困惑を証言しました。

山里氏は2015年3月に米国異動の内示を受け、4月には「着の身着のまま」で渡米。翁長氏の初訪米(5月)に合わせて法人登録を急ぐ「短兵急なスケジュール」だったといいます。「手探りの中で法人登録を急ぐことになった」とも述べ、知事の公約実現が法的確認よりも優先された構造が浮き彫りになりました。またFARA(外国代理人登録法)の登録が取り消された場合について問われ、「実質的に活動が規制され駐在の存在意義が厳しくなる」とも証言しています。

2代目所長・運天修氏の証言(2025年3月14日)として、「事務所の出納や会計が委託業者に任せきりだった」「会計的に法人なら当然やるべきことができない形というのは非常に不安があった」と述べ、

「運営のあり方に懸念を持っていた」ことを認めました。株式の公有財産登録がなかった点については「持ち株が1,000ドルと少額で地方自治法上、資産にあたるかどうか当時は判断がつかなかった」と述べ、本庁に確認するよう進言したとも明かしています。

基地対策課・玉元宏一朗課長の証人尋問(2026年1月7日)として、株式会社の実態について「沖縄県が作ったものか不明だった」と証言。2020年11月に当時の関係者から聞き取りを行ったとした上で、国内での株式会社に該当するかは「不明だった」と述べています。

これらの証言から浮かび上がる構造は、「知事の公約実現を最優先にした拙速なスケジュール」が日本国内の法的手続きの確認を省略させ、その状態が9年間にわたり放置されたというものです。

予算宙づりという異常事態

2025年度の一般会計当初予算案にワシントン事務所の事業費約3,900万円が盛り込まれていたことをめぐり、与野党の対立が議会運営そのものに影響を及ぼしました。

与党側(オール沖縄:社民・立憲民主・共産・沖縄社会大衆党)は事務所の役割を評価し事業費を約2,600万円に減額する修正案を提示。

日本共産党の比嘉瑞己議員らは「米国に対して沖縄の声を伝える事務所の役割は重要である」と存続を訴えました。一方、野党側(自民・公明・維新)は「県の調査検証委員会の報告で疑惑がさらに深まった」として修正案を拒否し、全額削除を主張しました。

この対立の結果、2025年度一般会計当初予算案が約2週間にわたり審議が行われない「宙づり」状態に陥るという異常事態が発生しました。2025年3月28日の最終本会議で野党・中立会派が提出した全額削除修正案が賛成多数で可決され、玉城知事は再議を断念しました。

住民訴訟—4つの争点と「初代所長」への疑義

百条委員会による調査と並行して、司法の場でも県政の責任追及が進んでいます。一般社団法人日本沖縄政策研究フォーラム(仲村覚理事長)らが、玉城知事個人に対して約3億2,500万円の損害賠償を求める住民訴訟を那覇地方裁判所に提起したものです。

原告側代理人の照屋一人弁護士は、訴訟の争点として以下の4点を提示しています。

まず意思決定の欠如と設立の違法性として、稟議書等の決裁文書が存在せず地方自治法が定める適正な行政手続きを経ていません。

次に駐在職員の身分と地方公務員法違反として、株式会社に出向させる法的根拠が曖昧であり、公務員の身分取り扱いに違法性があります。

さらに米国ビザ申請における虚偽記載の疑いとして、米国移民当局に対して直接雇用関係を否定する虚偽の申告を行い、違法な滞在状態を生み出した疑いがあります。

最後に不透明な資金の流れとして、違法な状態で設立・運営された法人に対して長年にわたり多額の県費が不正に支出されたと主張しています。

なお、ワシントン事務所の初代所長・平安山英雄氏は長年米国総領事館で勤務し米国政府との関係構築に精通した人物であり、その経歴の人物が適切な手続きを経ずに設立された組織の運営に関与していたとする点について、原告側の関係者から「平安山氏や米国務省関係者をも欺く形で不透明な運営が行われていたのではないか」との疑義が呈されています。

処分と2年連続の決算不認定

2025年11月13日、沖縄県は現職職員6人を訓告処分(うち1人は文書訓告、5人は口頭訓告)としました。玉城知事は自身の給与を減額する議案を県議会に提出する方針を示しています。

2025年11月26日には2024年度一般会計決算も賛成少数で不認定となり、沖縄復帰後初の2年連続の決算不認定という前例のない事態となりました。監査委員は「全ての入出金の内容を確認できなかった」として玉城知事に対応を求めています。

百条委員会の調査期限は「調査が終わるまで」と設定されており、2026年5月時点でも継続中です。玉城知事は再開に意欲を示し2026年度予算に約5,700万円の要求案を計上しましたが、百条委員会の調査が完結していない中での再設置に対して議会の理解が得られるかは不透明な状況が続いています。

よくある質問(FAQ)

Q. ワシントン事務所は完全に廃止されたのですか? 2025年6月13日に株式会社の解散手続きとオフィス退去が完了し、現在は閉鎖状態です。ただし玉城知事は再開を目指しており、2026年度に約5,700万円の予算要求案を提出しています。百条委員会の調査継続中であることから、再設置の見通しは不透明です。

Q. 百条委員会はどのような機関ですか? 地方自治法第100条に基づく調査特別委員会で、真相究明のため証人を喚問できる強力な権限を持ちます。偽証には罰則が科されます。沖縄では1972年の復帰後4例目の設置となります。

Q. 米国法律上の問題はなかったのですか? 米国の法律上は違法な点は確認されていないとされています。問題は「沖縄県としての行政手続き上の不備」であり、県議会への未報告・公文書の不存在・公有財産としての未登録・公務員の兼業状態が主な問題点です。


参考情報