
東京海上日動火災保険株式会社と東京海上日動あんしん生命保険株式会社は2025年5月2日、両社の元委託代理店店主によって、保険料の詐取および一時的な流用が行われていたことを公表しました。被害が確認された期間は2015年から2025年にわたり、総額は東京海上日動で約8,800万円、あんしん生命で約320万円にのぼります。
目次
不正行為の概要
不正を行っていたのは、愛知県名古屋市守山区に所在した元代理店「ムーヴ」の店主、石本誠氏(68歳)。同氏は、顧客に対して東京海上日動やあんしん生命の名義口座ではなく、自身の個人口座を振込先として記載した請求書を発行し、保険料を詐取、もしくは一時的に流用していました。
特に「一時的な流用」とされる行為は、募集人が一旦他目的に使った資金を後に補填するというケースであり、外部からは発見が困難な構造でした。
以下は不正が確認された金額と期間の内訳です
保険会社 | 詐取金額 | 一時的な流用金額 | 不正期間 | 不正発覚日 |
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東京海上日動 | 約98万円 | 約8,704万円 | 2015年4月15日~2025年1月23日 | 2025年1月27日 |
あんしん生命 | 該当なし | 約324万円 | 2015年4月30日~2015年8月31日 | 2025年3月3日 |
発覚の経緯
2025年1月22日、東京海上日動の営業部門に顧客から「保険料を支払ったのに未払い通知が届いた」との照会があり、両社は調査を開始。契約内容や入出金記録の照合を通じて不正の全貌が明らかになりました。
現時点では、架空契約や顧客の意図と異なる契約が存在した事実は確認されていません。
再発防止策
両社は以下の取り組みを通じて再発防止を図るとしています:
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ホームページを通じて、指定口座以外への入金を行わないよう注意喚起
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募集人・代理店に対して、個人口座への振込をさせないよう指導徹底
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代理店の保険料未納契約数が異常に多い場合の点検体制強化
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東京海上日動ではさらに、振込先口座変更時の案内確認強化や、解除直前契約の保険料入金チェックも導入予定
また、コンプライアンス研修や定期点検の徹底により、社員・代理店のモラル向上と早期発見体制の確立を目指すとしています。
一般的な内部不正対策(募集人・代理店・社内関係者向け)
内部不正は、組織の信頼と顧客資産を損なう重大なリスクです。以下に、金融・保険業界における内部不正を防止・早期発見するための基本的な対策をまとめます。
権限管理・分離統制の強化
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「請求・回収」「口座管理」「会計処理」などの職務を明確に分離
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業務担当者と監督者(上長・監査部門)で相互牽制が効く体制を構築
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銀行口座や支払処理の承認権限を階層化・ローテーション
ログ管理・アクセス制限の徹底
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顧客データ・契約情報へのアクセスは役割ベース(RBAC)で制限
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重要な操作(契約変更、振込先変更、保険料処理など)に対してはアクセスログを取得・定期点検
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個人端末・個人口座との接続・登録は禁止
募集人・代理店への統制と教育
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代理店・募集人に対する行動規範(コード・オブ・コンダクト)を明文化
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保険料や契約手続きにおいて私的口座の使用を禁止
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不正事例・リスク認知に関する年次研修・eラーニングの義務化
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契約更新時・定期監査時に誓約書を再取得
苦情・内部通報制度の整備
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顧客・従業員・代理店関係者からの内部通報(ホットライン)を匿名で受け付ける窓口の設置
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通報内容に対して迅速・中立な対応部署(監査室・コンプライアンス室)を明確化
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通報件数・傾向について経営層と共有し、組織としての改善策に反映
定期的なリスクアセスメント・モニタリング
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保険料未納契約、急な解約、異常入金等をデータ分析ベースで自動検知
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代理店・部署単位での不正兆候パターン(KRI: Key Risk Indicators)を定義
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ハイリスクな代理店・エリアには重点監査や抜き打ち点検
社内文化・牽制環境の醸成
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「不正を許さない」という経営陣の明確なメッセージ発信
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業務改善提案と合わせて内部通報が推奨される文化を育成
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不正摘発後の対応についても隠蔽せず社内共有・再教育