情報セキュリティとは?企業担当者が知っておくべき7要素を解説

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情報セキュリティとは?企業担当者が知っておくべき7要素を解説

昨今、サイバー攻撃や情報漏えいのニュースが後を絶ちません。ランサムウェアによる業務停止、内部不正による個人情報流出、サプライチェーン全体への影響など、情報セキュリティの脅威は年々高度化・巧妙化しています。

リモートワークの普及やクラウドサービスの活用が進む中で、企業はこれまで以上に広範囲かつ複雑な情報リスクに直面しています。

また、GDPRをはじめとする個人情報保護規制や、サイバーセキュリティに関する国際的な基準への対応も求められるようになり、情報セキュリティは企業経営において不可欠な要素となっています。

しかしながら、情報セキュリティが何を指しているのか、その意味を理解している人はそれほど多くありません。

ここでは、情報セキュリティとは何かを改めて整理し、その基本となる3つの要素と、補完的な4つの要素について、事例や対策も交えながら解説していきます。

情報セキュリティとは

情報セキュリティという言葉は広く知られるようになりましたが、その本質は決して漠然としたものではありません。情報を守るうえで、具体的に何を重視すべきなのか、その答えが機密性・完全性・可用性という3つの基本要素、通称「CIA」にあります。

この3要素は、ISO/IEC 27001をはじめとする国際的な基準でも中核をなす概念であり、どんな組織であってもセキュリティ対策を考えるうえでの出発点となります。

ここからは、それぞれの要素が意味することと、実際に問題が生じたときにどのような影響を及ぼすのかを、具体的に見ていきましょう。

機密性(Confidentiality

機密性とは、情報にアクセスできる人を適切に制限し、許可された者以外には閲覧・利用させないようにすることを指します。

企業活動では、顧客情報、取引先との契約内容、新製品の開発計画など、外部に漏れることで大きな損害を生む情報が数多く存在します。こうした情報が不用意に第三者へ渡ってしまえば、信用の失墜や競争優位性の喪失、場合によっては法的責任にもつながりかねません。

例えば、営業担当者が誤って顧客リストを添付したメールを他社に送信してしまったり、退職者のアカウントが放置され、そこから社内文書に不正アクセスされるようなケースは、いずれも機密性の喪失によるインシデントです。

機密性を守るためには、誰が、どの情報に、どの範囲でアクセスできるべきかを明確に定義し、アクセス権限を適切に管理することが基本です。加えて、情報そのものを暗号化し、万が一漏えいしても内容を容易に読み取られないようにすることも可能です。さらに、パスワードの強化や多要素認証の導入により、なりすましなどの不正ログインのリスクも抑えることができます。

完全性(Integrity

完全性とは、情報が正確かつ意図しない形で変更されていない状態を指します。

記録された内容が本来の意味を正しく保っていなければ、どれほど素早くシステムが動いていても、その情報に基づいた業務判断や報告は信頼できるものにはなりません。

例えば、売上データが何らかの原因で一部欠損していたり、入力ミスによって顧客の契約条件が書き換えられていた場合、それは完全性の喪失にあたります。また、内部不正やマルウェアによってファイルの一部が改ざんされるといった、情報の内容そのものが変質してしまうリスクも無視できません。

このようなリスクに対応するには、情報の入力時・更新時における検証処理や、改ざんを検知するための仕組みが不可欠です。具体的には、データ入力に対するバリデーション、重要項目の変更履歴の記録、チェックサムやデジタル署名の活用などが挙げられます。あわせて、業務プロセス上でもダブルチェックや承認フローの整備といった人的対策が効果的です。

可用性(Availability

可用性とは、必要なときに、必要な情報やシステムに支障なくアクセスできる状態を維持することを指します。

どれだけ情報の機密性や完全性が保たれていても、いざという時にその情報を利用できなければ意味がありません。情報は使える状態にあることが重要なのです。

現実の業務において、可用性が失われる事例はさまざまです。例えば、サーバ障害やネットワークトラブルによって業務システムにアクセスできなくなったり、自然災害や停電で物理的にオフィスが使えなくなったりといったケースが挙げられます。

また、近年ではランサムウェアによってファイルが暗号化され、業務が完全にストップしてしまうといった深刻な被害も報告されています。

こうした可用性のリスクに備えるためには、システムが止まらないようにする予防と、万が一止まった場合の復旧の両方を設計しておくことが不可欠です。具体的には、定期的なバックアップの取得、災害時にも業務を継続できる復旧計画(BCPDRP)の整備、障害発生時に自動で切り替えられる冗長構成の導入などが代表的な対策です。

また、システムだけでなく、人や組織の体制にも配慮が必要です。例えば、担当者が不在でも対応できるような手順書の整備や、緊急時の連絡・指示系統の確認も、可用性の一部を支える仕組みといえます。

情報セキュリティを強化する追加要素

CIA3要素は情報セキュリティの基礎として重要ですが、現代の複雑な業務環境や高度化する脅威に対応するには、それだけでは不十分です。

近年では、より実務的かつ運用レベルでの管理を支える観点として、4つの補完的な要素が重要視されるようになっています。これらは、情報の正当性や信頼性、そして後からの検証可能性を担保するものであり、セキュリティ対策の実効性を高めるためには欠かせない視点といえます。

真正性(Authenticity

真正性とは、情報の出所や発信者が正当であることを確認できる状態を指します。

誰がその情報を作成し、どこから送られてきたのかを明確に証明できなければ、その情報の信頼性も意味も大きく損なわれてしまいます。

現代のビジネスにおいて、メールやチャット、業務アプリケーションを通じて膨大な情報が飛び交っています。その中には、外部パートナーからの契約書案、経営層からの指示、顧客からの申し込み情報など、発信者が誰かによって意味が大きく変わる情報が数多く含まれます。もし、これらの情報がなりすましや改ざんによって偽装されたものであれば、企業の判断は根本から誤らせられてしまいます。

例えば、フィッシングメールによって経理担当者が偽の請求書に振込をしてしまうケースは、真正性の確認が不十分だった典型です。また、社内システムのログイン時に本人確認が甘く、第三者が操作した内容が正規のものとして扱われてしまう状況も、真正性の欠如によるリスクと言えます。

このような事態を防ぐには、情報が本物かどうかを確認するための仕組みが必要です。代表的な対策としては、電子署名の利用や、送信元ドメインの認証(SPFDKIMDMARC)、システムログイン時の多要素認証などが挙げられます。また、社内外を問わず、重要な情報は発信者確認を行うという運用ルールを徹底することも有効です。

信頼性(Reliability

信頼性とは、情報やシステムが一貫して正しく動作し、期待どおりの結果を継続的に提供し続ける能力を指します。あるときは正確でも、別のときには誤作動を起こすようなシステムは、信頼性が高いとは言えません。重要なのは、正しく動くことが一度きりではなく、いつでも、何度でもという状態を維持できていることです。

この信頼性という概念は、似たような要素である完全性や可用性と混同されがちです。しかし、それぞれ守ろうとしているものは異なります。

完全性は情報が正しいかどうか、つまりデータの中身が改ざんされていないことを意味し、可用性は必要なときにその情報やシステムが使えること、つまりアクセスのしやすさや稼働の確保を指します。

これに対し信頼性は、中身が正しいことや、アクセスできることに加えて、安定してそれが続くことを保証する視点です。たとえば、業務システムが頻繁にフリーズしたり、Webアプリが日によって動作結果にバラつきがある場合、完全性や可用性は一時的に満たされていたとしても、信頼性は失われているといえます。

信頼性が損なわれたシステムでは、ユーザーが「今日はうまく動くだろうか」と不安を抱くことになります。また、重要な判断やサービス提供の場面でミスが発生すれば、信用の失墜や損害につながるおそれもあります。

こうした事態を防ぐには、システム設計段階から冗長化や障害耐性を考慮し、リリース後も定期的な保守やパフォーマンス検証、ログの継続監視を行うことが重要です。また、エラー発生時に自動で再処理を行うリトライ機能や、障害発生時でも最低限のサービス提供が可能なフェールセーフ設計も、信頼性を支える重要な工夫です。

責任追跡性(Accountability

責任追跡性とは、情報やシステムに対して誰が・いつ・どのような操作を行ったのかを記録・管理し、後から確認できる状態を指します。

これは単なるログの蓄積ではなく、行動の証跡を明確に残すことで、業務の透明性と安全性を高めるための仕組みです。

情報漏えいやデータの改ざんなど、セキュリティインシデントが発生した際、まず必要となるのは、何が、いつ、誰によって行われたのかという事実の把握です。これが曖昧なままだと、対応が後手に回り、被害が拡大したり、組織としての説明責任を果たせなかったりするリスクがあります。

例えば、社内のクラウドストレージに保存された機密ファイルが削除されていたにもかかわらず、誰が操作したのか不明であれば、調査も対策も行き詰まります。また、アクセス制御はされていたとしても、その後の操作ログが記録されていなければ、不正利用や誤操作を追跡できません。

こうしたケースでは、セキュリティ対策が形式的に整っていても、運用面での見える化がなされていないことが原因となります。

責任追跡性を確保するには、まず操作ログやアクセス履歴を信頼性のある形式で記録し、一定期間保管することが基本です。加えて、これらの記録を改ざんされないよう保護し、必要に応じて監査や分析が行える状態にしておくことが求められます。また、実際に問題が発生した場合に備えて、ログの分析スキルや対応フローの整備も欠かせません。

この要素は、セキュリティだけでなく内部統制や業務の健全な運用にも深く関係しています。誰がどのように業務に関与しているかを明らかにできる、というのは、不正防止・業務改善・説明責任のすべてにおいて土台となる考え方です。

否認防止(Non-Repudiation

否認防止とは、ある操作や行為が確かに当人によって行われたことを証明し、後から「やっていない」と主張できないようにするための仕組みを指します。これは、情報の正しさや処理の正当性を裏付けるだけでなく、トラブルや不正発覚時の責任の所在を明確にするという意味でも、セキュリティにおける極めて重要な視点です。

業務システムを通じて契約内容が確定された後に、「そんな手続きはしていない」と担当者が発言した場合、ログや証拠が不十分であれば、対応は困難を極めます。あるいは、顧客への重要な通知をメールで送信したはずなのに、相手から「受け取っていない」と言われた場合にも、その送信を確かに行った証拠がなければ、信頼関係が損なわれかねません。

このような言った、言っていないの水掛け論を防ぐために、否認防止の仕組みが求められます。具体的な対策としては、電子署名やタイムスタンプの付与、送受信記録の保持、承認手続きのログ化などが挙げられます。これにより、誰がどのタイミングでどのような意思表示や操作を行ったかを、後から客観的に証明することが可能になります。

また、否認防止は社外との契約や取引だけでなく、社内の業務オペレーションでも重要です。上長の承認のもとに業務を進めたはずが、のちに「そんな承認はしていない」と否定された場合、記録が残っていなければ業務担当者が不利益を被ることもあります。

責任追跡性が、行為を追跡する性質だとすれば、否認防止は、その行為が確かに本人によってなされた、と確定させる性質です。

なぜこの7つが重要なのか

以下の表は、情報セキュリティにおける7つの要素とその意味を整理したものです。

要素 意味
機密性 許可された者のみが情報にアクセスできる状態
完全性 情報が正確で改ざんされていない状態
可用性 必要なときに情報にアクセスできる状態
真正性 情報の出所が正しく、本人によるものである状態
信頼性 情報やシステムが安定して正しく動作する状態
責任追跡性 操作の履歴が記録され、誰が何をしたか把握できる状態
否認防止 行為を後から否定できないようにする状態

これらの要素が欠けると、単なるセキュリティ上の不具合にとどまらず、顧客離反、事業停止、株価下落、法的責任など、経営レベルでの深刻な打撃につながります。実際に起きた国内事例から、その重要性を見てみましょう。

KADOKAWA・ニコニコ動画の大規模障害(2024年)

20246月、角川グループがランサムウェアの被害に遭い、ニコニコ動画を含む複数のサービスが停止。さらに約25万人分の個人情報が漏えいしました。2か月に及ぶサービス停止は、可用性の欠如によって業務継続が困難となった典型例です。加えて、機密性が損なわれたことで、株価は約20%下落、顧客からの信頼も大きく失われました。

岡山県精神科医療センターのシステム感染(2024年)

医療機関におけるランサムウェア感染により、患者対応が停止。最大4万人分の個人情報が流出した可能性がありましたが、責任追跡性が十分でなかったため、調査・報告には9か月を要しました。これは、否認防止やログ管理体制の不備によって、事後対応に重大な遅れと信頼喪失をもたらした例といえます。

三菱UFJニコスの業務端末設定ミス(2025年)

業務端末の誤設定により、別顧客のカード情報が閲覧可能な状態となる問題が発生。これは機密性の欠如に加えて、信頼性(業務システムの安定した設計・運用)に対する疑問を生みました。このような設定ミスは一見些細に思えても、社会的には情報を預けるに値しない企業と見なされる大きなリスクです。

安全な事業推進に不可欠な情報セキュリティ

情報セキュリティは単なる技術対策ではなく、事業を安定して継続するための経営課題でもあります。

取り組み方は一つではなく、自社の規模や業種、リスクレベルに応じてさまざまなアプローチが考えられます。中小企業向けの SecurityAction による自己宣言から始める方法もありますし、社員教育やセキュリティポリシーの整備から着手するのも有効です。継続的に取り組むのであれば、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証の取得も視野に入るでしょう。

※ISMS認証取得のメリット・デメリットは、こちらの記事で解説しています。

さらに、クレジットカード情報を扱う場合にはPCI DSSの準拠、自動車業界であれば自工会のガイドライン、医療・製薬分野なら32ガイドラインといった、業界固有の基準にも対応する必要があります。

自社にとってどの程度の取り組みが適切なのかを見極めるためには、専門家のアドバイスを受けるのも非常に有効です。

まずは自社の情報セキュリティ課題にどのようなものがあるのか、整理してみると良いでしょう。