システム障害とは?種類から原因・対策までまとめて解説

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システム障害とは?種類から原因・対策までまとめて解説

近年、クラウドサービスの突然の停止で業務が止まったり、利用しているSaaSにアクセスできなくなったり、あるいは取引先がサイバー攻撃を受けて自社の生産ラインまで影響が及んだりと、ITシステム障害がビジネスに与える影響は深刻さを増しています。もはやシステム障害は、規模や業種を問わずすべての企業が直面しうる経営リスクとなっています。

20年ほど前までは、システム障害といえば、自社サーバーの故障といった物理的な問題が中心でした。しかし、ビジネスがクラウドや多様な外部サービスに依存するようになった今、その原因は複雑化し、影響範囲も予測が困難になっています。一つの障害がサプライチェーン全体を麻痺させることも珍しくありません。

本記事では、システム障害はなぜ起こるのか、その多様な原因を国内の事例を交えながら、障害を未然に防ぐための予防的アプローチから、万が一発生してしまった際に被害を最小限に抑え、事業を継続するための対応的アプローチまでを解説します。

システム障害とは

システム障害とは、システムに何らかの不具合が発生している状態のことです。不具合が発生している状況では、利用者がそのシステムを利用したくても正しく利用できないことが多くあります。これは、アクセスできても正常に動作しない、あるいはまったくアクセスできず業務が止まってしまうといった状況が含まれます。

この状態は、情報セキュリティの3要素(CIA:機密性・完全性・可用性)のうちの可用性が損なわれていることを意味します。可用性とは、必要なときに情報やシステムを利用できることであり、システム障害はその可用性の侵害にあたります。

単なるサーバー停止だけでなく、証明書の期限切れでサービスに接続できない、クラウド障害で業務アプリが使えなくなるといった事例もすべてシステム障害に含まれます。

※可用性についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

システム障害がビジネスに与える影響

システム障害が発生すると、その影響は単なる技術的トラブルにとどまらず、経営全体に波及します。

自社業務の停止

システム障害は、自社の業務を直接的に止めてしまいます。

ECサイトが停止すれば売上はゼロとなり、営業支援システムが止まれば商談や営業事務も進みません。社内システムの障害で経理処理や受発注管理が滞ることもあります。さらに、決済システムが利用できず店舗のレジが動かない、といった日常的な業務に直結するケースもあり得ます。海外調査では ECサイトの停止によって1分あたり約76万円の損失が発生すると試算されているケースもあります。業種や規模によって損失額は変動しますが、障害時間が長引けば長引くほど直接的な損害に直結することは間違いありません。

信用低下

繰り返しの障害は、顧客の信頼を大きく損ないます。

このサービスは安定していない、という印象は一度定着すると覆すのが難しく、ブランド価値や競争力を下げる要因になります。特に金融や医療といった、安定稼働が前提の業界では致命的です。最近ではSNSで障害情報が即座に拡散し、炎上や不買につながるリスクも現実的になっています。

契約・SLA違反

SLA(サービスレベル合意)を満たせない場合、契約違反や損害賠償といった法的リスクが発生します。

同時に、復旧対応にあたる人件費、代替手段の調達、顧客への補償や謝罪など、想定外のコストも増大します。クラウドサービスを利用する企業では、提供元の障害が原因でも、自社顧客への補償義務が二重に発生することもあり、負担はさらに大きくなります。

サプライチェーンへの波及

障害は自社にとどまらず、取引先や業界全体に連鎖する恐れがあります。

2022年の小島プレス工業の事例では、同社がサイバー攻撃を受けた結果、大手自動車メーカーの国内工場が一時稼働停止に追い込まれました。自社の障害が複数の取引先に連鎖的に波及し、社会インフラや産業全体を巻き込む規模に発展する可能性があるのです。

システム障害を引き起こす多様な原因

システム障害にはさまざまな原因がありますが、大きく分けると回線・ネットワーク起因、ハードウェア起因、ソフトウェア起因、人・組織起因、外部起因の5つに整理できます。以下では、それぞれの代表的な内容と事例を紹介します。

回線・ネットワーク起因

インターネット回線の障害やルーター・スイッチの不具合、またはトラフィックの集中による輻輳(ふくそう)などが原因で発生します。

2021年に起きたNTTドコモの通信障害では、工事の切り戻し作業の際にIoT機器からの再接続要求が一斉に殺到し、ネットワーク全体で輻輳が発生しました。その結果、音声通話やデータ通信が全国規模で利用できなくなり、電子決済や物流など社会インフラにも影響が及びました。

ハードウェア起因

サーバやストレージ、HDDSSD、メモリ、電源ユニットといった物理機器の故障や劣化が原因となります。

2020年の東京証券取引所の障害では、共有ディスク装置のメモリ部品が故障し、自動切替機能も作動しなかったため、全銘柄の売買が終日停止しました。ハードウェア障害の典型例であり、冗長化や切替テストの重要性を浮き彫りにしました。

ソフトウェア起因

OSやミドルウェア、アプリケーションに潜むバグ、設定不備、証明書やライセンスの期限切れなどが原因となります。

2018年のソフトバンク大規模通信障害では、通信交換機に搭載されていたエリクソン製ソフトウェアの証明書が期限切れとなったことが直接の原因でした。この障害により、全国の携帯電話サービスが長時間にわたって停止しました。

人・組織起因

システム運用に関わるヒューマンエラーや、組織的な運用体制の不備によるものです。設定ミス、手順の不徹底、属人化などが典型例です。

2021年に相次いで発生したみずほ銀行のシステム障害では、第三者委員会の報告書で運用軽視、現場の声が経営層に届かないガバナンス不全といった組織的課題が根本要因として指摘されました。技術的な要因だけでなく、組織のマネジメントの在り方が障害を拡大させるケースです。

外部起因

悪意のある第三者によるサイバー攻撃や、取引先・クラウドサービスの障害といったサプライチェーンリスクも大きな原因です。

近年はランサムウェア攻撃によって病院の電子カルテシステムが停止し、通常診療に支障をきたす事例が相次いでいます。

また、クラウドサービス側の障害も企業に直結するリスクです。たとえば 2021年に発生した AWS 東京リージョンの Direct Connect 障害 では、ネットワーク機器の不具合が原因で広範な接続障害が発生し、金融機関のスマホアプリや電子決済、証券サービスなど多くの事業者が影響を受けました。自社が直接攻撃を受けなくても、依存している外部サービスの障害によってシステムが利用できなくなるのです。

このようにシステム障害には多様な原因がありますが、実際の障害はこれらの要因が単独で発生するのではなく、複数が複雑に絡み合って発生するケースも少なくありません。そのため、原因を幅広く想定し、総合的な対策を講じることが重要です。

システム障害を防ぐための予防的アプローチ

システム障害を完全に防ぐことは現実的には不可能です。しかし、発生確率を下げ、万が一の際にも被害を最小限に抑えるための予防的アプローチを取ることができます。大きく分けると技術的・物理的対策と組織的対策の二つの視点が重要です。

技術的・物理的対策

システムを安定して稼働させるためには、まず冗長化と単一障害点(SPOF)の排除が欠かせません。電源やネットワーク経路、サーバやストレージを多重化し、自動で切り替わる仕組みを導入することが基本です。2020年に発生した東京証券取引所の障害は、共有ディスク装置の故障に対して自動切替が作動しなかったことが終日売買停止につながりました。この事例が示す通り、冗長化の仕組みを整えるだけでなく、定期的に切替テストを行い実効性を確認しておくことが極めて重要です。

また、容量や処理能力を適切に管理するキャパシティプランニングも重要です。CPUやメモリ、ネットワーク帯域といったリソースの利用状況を常時監視し、ピークアクセスや突発的なトラフィック増加に備える必要があります。2021年に発生したNTTドコモの通信障害では、ネットワーク工事の切り戻し後にIoT機器からの再接続要求が一斉に集中し、輻輳が起きて音声通話やデータ通信が全国規模で利用できなくなりました。こうした事態を防ぐためには、メンテナンス後の接続制御やリトライ方式を見直し、スロットリングなどによるトラフィックが集中しないような仕組みを整えることが効果的です。

さらに、定期的な保守とバックアップも欠かせません。ハードウェアの点検や部品交換、ソフトウェアの脆弱性を解消するパッチ適用といった日常的なメンテナンスは、障害を未然に防ぐ基本的な取り組みです。また、データのバックアップは取得するだけでは意味がなく、実際にリストアして復旧できることを確認するまでが重要です。定期的にリストアテストを実施することで、障害発生時にも迅速に業務を再開できる確実性を高めることができます。

組織的対策

技術的な仕組みを整えても、それを有効に機能させるためには組織としての体制づくりが欠かせません。まず重要なのは、経営層が情報セキュリティ方針の中で可用性を重視する姿勢を示すことです。これに基づき、可用性の観点からリスクアセスメントを実施し、単一障害点の存在や外部サービスへの依存、証明書やライセンスの期限管理といったリスクを網羅的に洗い出し、優先順位を付けて対応することが求められます。

また、組織内の体制整備も不可欠です。2021年に相次いで発生したみずほ銀行の障害では、技術的要因に加えて、IT現場の声が経営層に届かないガバナンス不全が根本原因と指摘されました。このような教訓からも分かるように、責任者を明確に任命し、経営層がITリスクに継続的に関与する仕組みを整えることが必要です。加えて、サプライチェーン全体のリスクを管理するために、取引先やクラウド事業者に求めるセキュリティ水準を契約で明示し、定期的な確認を行うことも有効です。

さらに、ヒューマンエラーを減らすためには従業員教育と訓練が欠かせません。設定ミスや運用上の見落としは、多くの障害の直接的な引き金となります。手順書を整備してそれに従う文化を定着させるとともに、定期的なセキュリティ教育や障害対応訓練を実施することで、組織全体の対応力を底上げすることができます。

そして最後に重要なのが、事業継続計画(BCP)の策定です。障害を完全に防ぐことはできないという前提に立ち、どの業務が停止するとどの程度の影響があるかを分析する事業影響度分析(BIA)を行い、復旧の優先順位を決定します。その上で、目標復旧時間(RTO)や目標復旧時点(RPO)を明確に設定し、業務を継続・復旧するための具体的な手順を定めることが必要です。例えば、ランサムウェア攻撃を受けた医療機関では、システムが停止しても紙カルテで診療を継続できるよう代替運用を準備しておくことがBCPの一環となります。BCPは一度作れば終わりではなく、定期的な訓練で実効性を検証し、改善を重ねることで初めて機能するものです。

障害発生時の対応的アプローチ

どれほど予防策を講じても、システム障害を完全に防ぐことはできません。障害が発生してしまった際に被害を最小限にとどめ、いかに迅速に事業を復旧させるかも重要なポイントです。そのためには、あらかじめ定められたインシデント対応の流れに従って行動することが不可欠です。

一般的に、インシデント対応は、検知・初動対応、原因究明、復旧、再発防止の4つのフェーズに分けられます。以下では、それぞれの内容を順に解説します。

検知・初動対応

システム障害が発生した際に最も重要なのは、いち早く異常を検知し、適切に初動対応を取ることです。検知が遅れれば遅れるほど、影響範囲は広がり、復旧にも多大な時間とコストを要することになります。

そのために、監視体制の整備は欠かせません。サーバやネットワークの稼働状況、アプリケーションのログ、外形監視による応答状況などを多層的に監視し、異常をリアルタイムで検知できる仕組みを整える必要があります。最近では AIOpsAIを活用した運用監視)やログ分析基盤を活用し、アラートを自動で集約・相関分析して障害の兆候を早期に見つける取り組みも進んでいます。

障害を検知した後は、初動対応がカギを握ります。影響範囲を迅速に把握し、利用者や顧客に一次報告を行うと同時に、社内の緊急対応チームを招集して暫定措置を講じることが求められます。暫定措置には、トラフィックを一部制限して全体停止を防ぐ、障害が起きていない系統に迂回させる、代替サービスに切り替えるといった対応が含まれます。

また、クラウド事業者や大手SaaSベンダーでは、障害発生時にまず「ステータスページ」で利用者へ状況を即座に開示するのが一般的です。このように透明性を持って早期に情報を共有することで、顧客の不安や混乱を和らげる効果も期待できます。

原因究明

初動対応で影響拡大を抑えた後は、障害の原因を突き止めるフェーズに移ります。原因究明は復旧の方向性を決めるうえで不可欠であり、誤った判断をすると復旧が遅れたり、再発のリスクを残したりする恐れがあります。

原因を特定するためには、監視ログやシステムの各種メトリクス、設定変更の履歴などを迅速に収集・分析することが求められます。障害発生直前に行ったリリースや設定変更が引き金になっていないかを確認する「変更管理」の視点も重要です。また、障害が単一要因ではなく複数要因の組み合わせで起きるケースも多く、システム全体を俯瞰した分析体制が必要となります。

2020年の東京証券取引所の障害では、単なるハードウェア故障にとどまらず、自動切替が作動しなかったという設計上の要因も重なっていました。こうした技術的要因+運用上の要因が複合的に絡むケースがあるため、原因究明は複数部門が連携して進めることが欠かせません。

さらに、障害原因が自社内にない場合、クラウドサービスや外部ベンダーとの情報連携も不可欠です。近年ではクラウドやSaaSを経由した障害が増えており、自社だけで原因を突き止められないケースが多いため、平時からベンダーと協力体制を構築しておくことが求められます。

その一方で、障害の原因が自社内で特定できない場合には、外部の専門機関に調査を依頼することも選択肢となります。特にサイバー攻撃や不正アクセスの可能性があるケースでは、フォレンジック調査によってログや証跡を科学的に分析し、侵入経路や影響範囲を正確に把握することが有効です。こうした外部支援を適切に受けるには、体制をあらかじめ準備しておくことも重要になります。

復旧

原因が判明したら、次のステップはシステムや業務の復旧です。復旧の目的は、障害で停止したサービスや業務を可能な限り早く再稼働させ、利用者や顧客への影響を最小限に抑えることにあります。

具体的には、故障した機器の交換や不具合の修正、影響を受けたデータの復元などを行い、システムを正常な状態に戻します。被害が大きい場合は完全復旧に時間がかかるため、事業継続計画(BCP)で定めた優先順位に従い、暫定的な代替システムや手作業による運用で業務をつなぐことが必要です。

復旧の過程では、関係部門や顧客への情報提供も欠かせません。状況や見込みを適切に共有することで、不要な混乱を防ぎ、信頼失墜を最小限に抑えることができます。

再発防止

システムが復旧したら、発生した障害の根本原因を分析し、なぜその問題が発生し、なぜ検知や対応が遅れたのかを明らかにします。その上で、監視体制や設計、運用手順を改善し、同じ要因で再度障害が発生しないようにします。また、対応プロセスそのものを振り返り、報告ルートが適切だったか、復旧手順に無理がなかったかを評価することも欠かせません。これにより、障害対応の体制そのものを強化できます。2021年に相次いだみずほ銀行のシステム障害では、技術的な対策だけでなく、経営層と現場のコミュニケーション不足という組織的課題が繰り返し問題になりました。再発防止策を検討する際は、こうした事例が示す通り技術面だけでなく、体制やガバナンスの改善まで含めて検討する必要があります。

さらに、改善内容は手順書やマニュアルに反映し、定期的な訓練を通じて実効性を確認することが大切です。障害対応を一度きりの対応で終わらせず、PDCAサイクルを回していくことで、組織全体の対応力を継続的に高めることができます。

まとめ

本記事では、システム障害の多様な原因から、具体的な予防策、そして発生後の対応策までを網羅的に解説してきました。

ITシステム障害は、ハードウェアの故障やソフトウェアのバグといった技術的な問題だけでなく、運用体制の不備やサプライチェーンリスク、サイバー攻撃などが複雑に絡み合って発生することが多いです。その影響は自社にとどまらず、取引先や社会インフラ全体にまで波及する可能性がある、まさに避けては通れない経営リスクです。

完璧な予防は不可能であり、障害は必ず起こるものという前提に立つことが、有効な対策を講じるための第一歩です。その上で重要なのは、予防的アプローチと対応的アプローチを両輪で進めることです。

予防的アプローチとしては、単一障害点の排除やバックアップといった技術的対策に加え、経営層が主導するITガバナンスの確立、リスクアセスメントの実施、そして障害発生を前提とした事業継続計画(BCP)の策定が挙げられます。一方で対応的アプローチでは、実際に障害が発生した際に、検知から報告、復旧、そして再発防止までの一連のインシデント対応プロセスを、迅速かつ的確に実行できる体制と訓練が求められます。

自社の現状を把握し、できるところから一歩ずつ対策を積み上げていきましょう。その対策が、予測不能な時代においてビジネスの継続性を確保し、将来の成長を支える取り組みとなるはずです。