関東信越国税局は2026年8月7日、税務調査で知り合った高齢女性から、うそをついて現金約1億5,000万円を受け取っていたとして、竜ケ崎税務署(茨城県)の松尾康成事務官(25)を懲戒免職処分にし、詐欺や所得税法違反などの容疑でさいたま地検に刑事告発したと発表しました。税務調査という職務を通じて知り得た信頼関係を悪用し、約3年にわたって金銭をだまし取っていた事案で、公務員による職権濫用型の内部不正の一例です。
この記事のサマリー
- 公表日:2026年8月7日
- 処分内容:懲戒免職、詐欺・所得税法違反容疑でさいたま地検へ刑事告発
- 対象者:竜ケ崎税務署の松尾康成事務官(25)
- 発端:浦和税務署勤務時に担当した税務調査を通じて、さいたま市内の女性と知り合う
- 手口:調査終了後の2022年11月〜2026年1月、「ひいおばあちゃんとお母さんに仕送りをしている」などとうそをつき、現金約1億5,000万円を受領
- 追加の詐欺容疑:「修正申告書に誤りがあり、新たな税金が発生する」とうそを伝え、約85万6,000円を詐取
- 虚偽の説明:虚偽の公文書を示し「税金を支払えば125億円を受け取れる」などと説明したこともあったとされる
- 別件の所得税法違反:2023〜2025年、競艇の払戻金など約3億3,400万円の所得を申告せず、所得税約1億3,500万円を脱税した疑いで告発
- 資金の使途:2023年1月〜2026年1月、勤務中を含め2,500回超の舟券を購入、総額約8億6,000万円を投じていた
- 本人の説明:「競艇が趣味で賭け金が増え、生活費に事欠くようになり、借入金が増えて被害者から現金を引き出した」
何が起きたか
関東信越国税局によると、松尾事務官は浦和税務署(さいたま市)で勤務していた際に、市内の女性に対する税務調査を担当しました。調査終了後の2022年11月から2026年1月までの間、「ひいおばあちゃんとお母さんに仕送りをしている」などとうそをつき、女性から現金約1億5,000万円を受け取っていたとされています。名目は小遣いや交通費、飲み会幹事の立て替え金などさまざまだったといいます。
このうち約85万6,000円については、「提出した修正申告書に誤りがあり、新たな税金が発生する」などとうそを伝えて詐取した疑いがあるとして、詐欺容疑でも送致・告発されています。松尾事務官は、虚偽の公文書を女性に示し、「税金を支払えば125億円を受け取れる」などと説明したこともあったとされ、税務職員という立場そのものを、信用を得るための道具として利用していたことがうかがえます。
これとは別に、関東信越国税局は、松尾事務官が2023年から2025年にかけて、競艇の払戻金などの収入約3億3,400万円を申告せず、所得税約1億3,500万円を脱税したとして、所得税法違反容疑でも告発しています。一般的に、負けた舟券の購入費は経費に算入できず、収入から除外できません。松尾事務官は2023年1月から2026年1月までの間、勤務中を含め2,500回を超えて舟券を購入し、総額約8億6,000万円を投じていたとされています。
国税局の調査に対し、松尾事務官は「競艇が趣味で賭け金が増え、生活費に事欠くようになり、借入金が増えて被害者から現金を引き出した」と説明し、反省を示したうえで「一生かけてでも返す」と話しているといいます。関東信越国税局の首藤好明総務部長は7日の記者会見で、「国民の税務行政に対する信頼を損なうものであり、申し訳なく、深くおわびする」と謝罪しました。
内部不正として見た場合の論点
本件は、いわゆるサイバー攻撃や不正アクセスとは性質が異なりますが、職務上のアクセス権・立場を私的に悪用したという点で、組織における内部不正の典型的なパターンに当てはまります。当サイトが2026年6月にまとめた内部不正関連の事例でも、函館市において公務員による職権濫用型の内部不正が複数件確認されており、公的機関における職務上の立場の悪用は、繰り返し発生している論点です。
本件で特に注目すべき点は3つあります。第一に、税務調査という職務を通じて知り得た関係性・信頼を、業務終了後も継続的に私的な金銭詐取へ転用していた点です。税務職員は納税者の資産状況・家族構成など機微な情報に接する立場にあり、この立場が生む信頼を悪用されると、被害者側には見抜くすべがほとんどありません。第二に、虚偽の公文書を示すという、公的な権威を偽装する手口が使われていた点です。相手が公務員である以上、公文書の真偽を一般の納税者が疑うことは通常想定しにくく、組織としての信用そのものが加害の道具として使われた形になります。第三に、約3年半という長期間にわたり発覚しなかった点です。この間、職員個人の生活状況(多額の負債、ギャンブル依存の兆候)が組織側で把握・警戒される機会があったかどうかは、内部管理体制の観点から検証に値します。
情報システム部門・組織管理者が確認すべき対策ポイント
- 顧客・取引先の機微な個人情報に接する職務にある従業員について、業務終了後も含めた接触の有無を確認する仕組み(業務外での顧客接触に関する報告義務等)があるかを点検してください。
- 従業員の異常な金銭的困窮の兆候(多額の借入、ギャンブル依存等)を早期に把握できる相談窓口やEAP(従業員支援プログラム)が機能しているかを確認してください。本件でも、生活困窮が長期にわたる不正の引き金になっています。
- 公文書・社内文書のテンプレートや様式が、偽造・悪用されるリスクを踏まえ、真正性を確認できる仕組み(発行記録の一元管理、問い合わせ窓口の周知等)を検討してください。
- 顧客・取引先から「担当者に個人的に金銭を渡した」といった相談が寄せられた場合に、組織として迅速に受け止め調査できる通報・相談体制を整備してください。
- 特に高齢者など、判断力・情報収集力の面で不利になりやすい相手と接する業務については、複数人での対応や定期的な状況確認など、単独の職員に長期的な裁量を与えすぎない設計を検討する価値があります。
今後注目すべき点
本記事執筆時点で、刑事手続きは告発の段階にあります。今後は以下の点が焦点になると考えられます。
- さいたま地検による捜査・起訴の状況
- 被害女性への被害弁償の状況
- 関東信越国税局における再発防止策の具体的な内容
出典
「母に仕送り」とうそ、国税局職員を懲戒免職 調査先から1.5億円受け取る——朝日新聞デジタル
税務署職員の男が約1億3500万円脱税か 関東信越国税局が懲戒処分にし刑事告発——テレ朝news(ABEMA NEWS)








