読売・朝日など、偽ニュースサイト対策で「Originator Profile」実装進む 電子署名で発信元と改ざんを検証

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読売・朝日など、偽ニュースサイト対策で「Originator Profile」実装進む 電子署名で発信元と改ざんを検証

日本の新聞社や放送局、広告・IT企業などが、正規のニュースサイトと偽サイトを技術的に識別する仕組み「Originator Profile(OP)」の社会実装を進めています。

Nieman Journalism Labは2026年8月12日、読売新聞、朝日新聞、NHKなどがOPの取り組みに参加し、読売新聞と朝日新聞については、OP-CIP(Originator Profile技術研究組合)事務局次長の説明として、コンテンツ管理システム(CMS)へのOP統合を進めていると報じました。

OPは、Webページに暗号学的に検証可能な発信者情報やコンテンツ情報を付与し、「誰が作成・発信したのか」「正規のサイト運営者か」「公開されたコンテンツが改ざんされていないか」を利用者側で確認できるようにする技術です。

セキュリティ対策Labでもこれまで、読売新聞や朝日新聞のデザインを模倣し、実在する著名人の偽インタビュー記事から投資サービスへ誘導する詐欺サイトを確認しています。見た目やロゴ、記事レイアウトだけでは正規サイトと偽サイトの判別が難しくなるなか、発信元そのものを電子的に証明する仕組みが現実的な対策の一つとして注目されています。

一方、OPは記事内容そのものが「真実である」と保証する技術ではありません。ファクトチェックとは役割が異なり、現時点では一般利用者向けの表示環境やSNS上での検証など、社会実装上の課題も残っています。

Originator Profileのサマリー

  • 【確認済み】Originator Profile(OP)は、Webコンテンツの作成者・発信者と改ざん有無を利用者が検証するための技術です。
  • 【確認済み】OPはVerifiable Credentials(VC)などを利用し、発信者情報やコンテンツ情報にデジタル署名を付与します。
  • 【確認済み】OPは記事内容の正誤を判定するファクトチェック技術ではありません。
  • 【確認済み】2026年3月の実証では、読売新聞社、朝日新聞社など16のメディア・企業と鳥取県、愛知県が参加しました。
  • 【確認済み】実証では、サイト運営者の証明と記事改ざん検知の機能が正常に動作したとOP-CIPが公表しています。
  • 【確認済み】2026年6月時点でOP-CIPには49法人が参加しており、NHK、LINEヤフー、共同通信社、新聞各社、広告会社などが含まれます。
  • 【確認済み】2026年7月3日、OP-CIPは総務省の偽・誤情報対策技術の開発・実証事業への採択を公表し、社会実装拡大や国際標準化を進めています。
  • 【確認済み】2026年7月24日には、OP情報の取得・署名検証・改ざん検知結果を表示する開発者向けブラウザ拡張「OP Inspector」がChromeとFirefox向けに公開されました。
  • 【報道ベース】Nieman Journalism Labは、OP-CIP事務局次長への取材として、読売新聞と朝日新聞がOPをCMSへ統合していると報じています。
  • 【確認済み】セキュリティ対策Labでは、読売新聞と朝日新聞の外観を模倣した投資詐欺サイトを実際に確認しています。
  • 【確認できず】2026年8月21日時点で、主要ブラウザがOPを標準機能として一般利用者向けに表示する段階には至っていません。
  • 【確認できず】Nieman LabはW3C内でOPの検討組織があると報じていますが、今回確認できたW3C一次情報では、Credentials Community GroupなどでOPに関する議論が行われていることは確認できた一方、独立した「Originator Profile Working Group」は確認できませんでした。
項目 内容
技術名称 Originator Profile(OP)
開発主体 Originator Profile技術研究組合(OP-CIP)
設立 2022年12月15日
主な目的 コンテンツ作成者・発信者の識別、サイト運営者の証明、改ざん検知
基盤技術 デジタル署名、Verifiable Credentials(VC)など
ファクトチェック 行わない
2026年3月実証 メディア・企業16社、鳥取県、愛知県
OP-CIP参加法人 49法人(2026年6月時点)
開発者向け確認ツール OP Inspector
OP Inspector公開 2026年7月24日
一般利用者向けUI 開発・検討段階
国際標準化 W3CなどのWeb技術コミュニティで提案・議論を推進

Originator Profileとは 「誰が発信したか」を暗号学的に検証

Originator Profileは、インターネット上のコンテンツについて、その作成者や発信者を利用者が確認できるようにする技術です。

OP-CIPの公式説明では、記事の内容そのものではなく、「誰が作成・発信したのか」「発信者がどのような組織なのか」「どのような編集方針や情報発信ポリシーを持つのか」といった情報を第三者の確認を経て、検証可能な形でWebページへ付与します。

技術的には、Verifiable Credentials(VC)を基礎としたデータモデルが使用されています。

OPの開発者向け文書では、発信者情報やWebサイト情報、コンテンツ情報などにデジタル署名を付与し、利用者側のソフトウェアが署名を検証することで、情報が途中で改ざんされていないことを確認できる仕組みが説明されています。

WebサイトについてはSite Profile、記事などのコンテンツについてはContent Attestationといった仕組みが用意されており、発信主体とコンテンツを関連付けて検証できる設計です。

読売新聞・朝日新聞を模した偽サイトはすでに確認されている

OPが想定する問題は、将来の生成AIによる偽ニュースだけではありません。

セキュリティ対策Labでは、実際に読売新聞や朝日新聞のWebサイトを模倣した詐欺サイトを確認しています。

2025年11月には、Google広告などから読売新聞を模した偽サイトへ誘導し、黒柳徹子さんと吉川晃司さんが対談したかのような架空の記事を表示して、「Ashita AI」と称するサービスへ登録させるキャンペーンを確認しました。

Google広告で読売新聞のフィッシングサイトへ誘導 吉川晃司さんと黒柳徹子さんの偽対談、詐欺広告に注意

朝日新聞についても、同紙のデザインを模倣し、黒柳徹子さんとムロツヨシさんによる対談記事に見せかけて、投資関連サービスへ誘導する偽サイトをセキュリティ対策Labで確認しています。

Google広告で朝日新聞のフィッシングサイトへ誘導 ムロツヨシさんと黒柳徹子さんの偽対談、詐欺広告に注意

こうした偽サイトは、新聞社のロゴ、記事レイアウト、写真、コメント欄などをコピーすることで、正規の記事であるかのように見せます。

朝日新聞社のCTO室も2025年5月、同社のニュースサイトとページ構成やコンテンツが同じ偽サイトを検出し、暗号資産関連の詐欺サイトへ誘導するケースへの対応例を紹介しています。

外見だけで正規サイトかどうかを判断することが難しくなっていることが、新聞社自身の運用からも確認できます。

OPなら偽サイトと本物をどのように判別するのか

従来の偽サイト対策では、URLやドメインを確認することが重要とされてきました。

しかし、一般利用者にとって、よく似たドメイン名やサブドメインを正確に判別することは容易ではありません。HTTPSが表示されていても、それだけで「読売新聞や朝日新聞が運営するサイト」であることを意味するわけではありません。

OPは、この問題に対して「正規の発信者であることを電子的に証明する」という方法を取ります。

例えば、正規の新聞社サイトに、その新聞社の組織情報とWebサイトを結び付けた検証可能な証明情報が配置されていれば、対応ブラウザや検証ツールは署名を確認し、そのページが正規の発信者によるものかを表示できます。

攻撃者が見た目を完全にコピーしても、正規の新聞社が保有する署名情報まで自由に作成できるわけではありません。

そのため、利用者が「ページのデザインが本物に似ているか」ではなく、「正規の発信者として検証できるか」を基準に判断できるようになります。

サイト運営者の証明と記事改ざん検知を実証

OP-CIPは2026年3月31日、総務省の「インターネット上の偽・誤情報等への対策技術の開発・実証事業」の成果を公表しました。

実証には、朝日新聞社、読売新聞社、産経新聞社、毎日新聞社、時事通信社、The Japan Timesなど16のメディア・企業と、鳥取県、愛知県が参加しました。

OP-CIPによると、実証では主に2つの機能が正常に動作することを確認しています。

1つ目は、サイト運営者が実在する組織であることを証明するSite Profileです。

2つ目は、記事が発信後に書き換えられていないことを確認するContent Attestationによる改ざん検知です。

Webサイトや記事を公開する段階で検証可能な情報を付与し、閲覧側で発信者とコンテンツの真正性を確認できる環境を構築しました。

読売・朝日はCMSへ統合とNieman Labが報道

Nieman Journalism Labは8月12日、OP-CIP事務局次長の吉池亮氏への取材内容として、読売新聞と朝日新聞がOPを自社のCMSへ統合していると報じました。

一方、OP-CIPの一次資料で確認できるのは、両社が2026年3月までの実証に参加し、サイト運営者の証明と記事改ざん検知について検証したことです。

そのため、商用環境における導入範囲や、すべての記事にOPが付与されているかといった詳細については、現時点ではNieman Labの取材情報と公式実証情報を分けて見る必要があります。

OP-CIPには2026年6月時点で49法人が参加しています。

新聞社では読売新聞東京本社、朝日新聞社、毎日新聞社、日本経済新聞社、地方紙各社などが参加し、放送分野ではNHK、日本テレビ、TBSテレビ、フジテレビ、IT・広告分野ではLINEヤフー、NTT、電通、博報堂などが名を連ねています。

OP Inspectorを公開 ただし現在は開発者向け

OP-CIPは2026年7月24日、ChromeとFirefox向けブラウザ拡張「OP Inspector」を公開しました。

OP Inspectorは、Webサイトに付与されたOP情報を取得し、署名の検証結果やコンテンツ改ざん検知の状態を表示するためのツールです。

鍵の失効や設定ミスによるエラーの確認、検証結果の可視化、検証データの確認などが可能です。

ただし、OP-CIPは現在のOP Inspectorを開発者向けの検証・デバッグツールと位置付けています。

一般利用者向けには、より分かりやすいインターフェースを持つ別の拡張機能を将来的に提供する計画です。

つまり、技術的には「正規サイトであることを検証する」段階まで進んでいますが、一般利用者が日常的に偽サイトを識別できる環境はまだ普及途上です。

OPは「この記事は真実」と保証する技術ではない

OPについて最も注意すべき点は、記事内容そのものの正しさを保証する技術ではないことです。

OP-CIPも公式FAQで、OPはファクトチェックを行う技術ではないと明記しています。

例えば、OPによって「この記事は朝日新聞社が発信したものであり、公開後に改ざんされていない」と確認できたとしても、記事内の個々の主張や数字が必ず正しいと技術的に保証されるわけではありません。

逆に、OPが付いていないサイトが直ちに偽情報サイトであるという意味でもありません。

OPが提供するのは、情報の内容に対する判定ではなく「来歴と発信主体に関する信頼材料」です。

この点を誤解して「OP付き=真実」「OPなし=偽物」という単純なホワイトリストとして運用すると、本来の目的から外れる可能性があります。

C2PAとは役割が異なる

生成AI時代の情報真正性技術としては、C2PAのContent Credentialsも広く知られています。

C2PAは、画像や動画などのデジタルコンテンツについて、作成元や編集履歴などの来歴情報を暗号学的に検証できるようにする標準です。

一方、OPはWebページやサイトの発信主体そのものを利用者が確認することに重点を置いています。

項目 Originator Profile C2PA
主な対象 Webサイト、Web記事、広告、発信組織 画像、動画、音声などのデジタル資産
主な目的 誰が作成・発信したか、サイト運営主体、改ざん有無の確認 コンテンツの作成元や編集履歴など来歴の確認
デジタル署名 利用 利用
ファクトチェック 行わない 行わない
強み 発信組織とWebサイトを結び付ける 個々のメディア資産の来歴管理
現状 国内で実証・社会実装を推進 国際的な仕様として実装が拡大

両者は競合するというより、Webサイトの発信主体と、そこに掲載される画像・動画の来歴をそれぞれ補完する技術と考える方が適切です。

SNSや検索結果上ではまだ課題が残る

偽ニュースサイトの多くは、検索広告、SNS広告、Facebook投稿などを入口として利用者を誘導します。

この場合、利用者は偽サイトを開く前に、SNSの投稿文や広告クリエイティブだけを見て判断することになります。

Nieman Labによると、現在のOPはHTML上のWebページを対象としているため、FacebookなどのSNS投稿そのものにOPの検証結果を直接表示する段階には至っていません。

OPが広く効果を持つためには、Webサイト側の実装だけでなく、ブラウザ、検索エンジン、ニュースアグリゲーター、SNSなどが検証結果を利用者に分かりやすく提示できることが重要になります。

OP-CIPも国際標準化を進めており、2025年にはW3CのTPACで技術仕様を紹介しました。2026年5月にはW3C Credentials Community GroupのAPAC会合でOriginator Profileに関するセッションが開催されています。

なお、Nieman LabはW3CにOPのワーキンググループが設けられていると報じていますが、今回確認したW3Cの公開一次情報では、Credentials Community Groupなどで議論されていることは確認できた一方、独立した「Originator Profile Working Group」の設置は確認できませんでした。

新聞社だけでなく自治体・企業サイトにも必要になる可能性

OPの利用対象は報道機関だけではありません。

2026年3月の実証には鳥取県と愛知県も参加しており、OP-CIPは行政機関、医療、金融、災害情報など、発信主体の確認が重要な分野での活用を想定しています。

災害時には自治体やインフラ事業者を装った偽情報が拡散することがあります。

企業でも、公式リリース、採用情報、IR情報、キャンペーンサイトなどをコピーした偽サイトが作られれば、利用者が詐欺や個人情報窃取へ誘導される可能性があります。

そのため、OPの考え方は「メディアのフェイクニュース対策」という範囲を超え、企業や行政が公式情報の発信元を証明する仕組みとして活用される可能性があります。

情報システム・セキュリティ部門への示唆

Originator Profileが普及した場合、企業のWebサイト管理では「HTTPSを導入しているか」だけではなく、「自社が正式な発信主体であることを第三者が検証できるか」という観点が加わる可能性があります。

特に、ブランドを悪用したフィッシングや偽サイトが繰り返し作られる企業、金融機関、EC事業者、自治体、報道機関では、公式サイトの真正性を利用者側で検証できる仕組みは有効です。

一方、デジタル署名を利用する仕組みでは、署名鍵の管理も新たな重要資産になります。

秘密鍵が漏えいすれば、正規組織を装った署名情報を生成されるリスクが生じるため、鍵の保管、失効、ローテーション、権限分離、インシデント発生時の緊急失効手順まで含めた運用が必要です。

CMSへOPを組み込む場合には、記事公開フローと署名処理をどのように接続するか、改稿時に署名をどう更新するか、障害時にどのように検証状態を維持するかも設計する必要があります。

また、偽サイト対策としてOPだけに依存するのではなく、ブランド監視、類似ドメイン監視、検索広告・SNS広告の監視、テイクダウン対応、DMARCなどのメール認証、利用者への注意喚起と組み合わせることが重要です。

読売新聞や朝日新聞を模した偽サイトの事例が示すように、攻撃者は「見た目の信頼」をコピーして詐欺へ利用します。

今後は、利用者に見た目で判断させるのではなく、発信元を技術的に検証できる仕組みをWebの標準機能として組み込めるかが、偽サイト対策の重要な論点になりそうです。

出典