福岡地裁、行政書士被告を厳重注意 開示された供述調書PDFを同業者3人に提供、刑訴法抵触のおそれ

セキュリティニュース

投稿日時: 更新日時:

福岡地裁、行政書士被告を厳重注意 開示された供述調書PDFを同業者3人に提供、刑訴法抵触のおそれ

自動車損害賠償責任(自賠責)保険の請求を巡り、弁護士法違反(非弁活動)に問われている行政書士の被告が、検察側から開示された供述調書の写しをPDF化し、同業の行政書士3人へ提供していたことが福岡地裁の公判で明らかになりました。

毎日新聞によると、井野憲司裁判長は2026年8月26日の公判で、この行為が開示証拠の目的外使用を禁じる刑事訴訟法に抵触するおそれがあると指摘し、被告を厳重注意しました。提供先にデータを削除させるよう求めています。

問題となった供述調書は、福岡県行政書士会の理事が検察官の聴取に応じた際に作成されたもので、被告の起訴内容について「非弁活動に当たる」とする趣旨の内容でした。報道によると、PDFを受け取った行政書士らは県行政書士会の会議で理事を繰り返し批判し、理事が検察側に出廷できない旨を伝える事態に発展しました。

刑事訴訟法281条の4は、検察官から開示された証拠の複製等について、当該事件の審理や法律で定められた関連手続、その準備以外の目的で第三者へ交付、提示、オンライン提供することを禁止しています。同281条の5は、被告人本人が目的外で提供した場合について、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金を定めています。

ただし、今回のPDF提供が実際に刑事訴訟法違反として成立すると裁判所が判断したわけではありません。公判で示されたのは「抵触するおそれがある」との指摘であり、刑事責任の成否は確定していません。

供述調書PDF提供問題のサマリー

  • 【報道で確認】弁護士法違反に問われている行政書士の被告が、検察側から開示された供述調書の写しをPDF化し、行政書士3人へ提供しました。
  • 【報道で確認】被告は「行政書士の友人3人に意見を聞きたかった」と説明しているとされています。
  • 【報道で確認】供述調書は、福岡県行政書士会理事を検察官が聴取した際に作成したものでした。
  • 【報道で確認】PDFを受け取った行政書士らは県行政書士会の会議で理事を繰り返し批判しました。
  • 【報道で確認】理事が検察側に証人として出廷できない旨を伝える事態となり、検察側は弁護側に抗議しました。
  • 【報道で確認】井野憲司裁判長は2026年8月26日の公判で、刑事訴訟法に抵触するおそれがあるとして被告を厳重注意しました。
  • 【報道で確認】裁判長は提供先にデータを削除させるよう求めました。
  • 【報道で確認】弁護側は、それまで不同意としていた供述調書の証拠採用に同意し、予定されていた理事の証人出廷は取り消されました。
  • 【法令確認】刑事訴訟法281条の4は、検察官から開示された証拠の複製等の目的外使用を禁止しています。
  • 【法令確認】同281条の5は、被告人本人による違反について1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金を定めています。
  • 【未確定】今回のPDF提供について、刑事訴訟法違反が成立すると確定したわけではありません。
  • 【未確定】提供されたPDFが3人以外へさらに共有されたかどうかは、公表情報から確認できませんでした。
項目 内容
判明日 2026年8月26日の福岡地裁公判
被告 弁護士法違反に問われている行政書士
問題となった資料 福岡県行政書士会理事の供述調書の写し
データ形式 PDF
提供先 同業の行政書士3人
被告の説明 友人3人に意見を聞きたかったと報道
その後の状況 提供先の行政書士らが行政書士会の会議で理事を批判
裁判への影響 理事が出廷困難と伝え、検察側が抗議
裁判長の対応 刑訴法抵触のおそれを指摘し厳重注意
データへの対応 提供先に削除させるよう要求
関連法令 刑事訴訟法281条の4、281条の5
刑事責任 今回事案については未確定

検察側から開示された供述調書をPDFで3人へ提供

毎日新聞によると、問題となったのは、福岡県行政書士会理事について検察官が作成した供述調書です。

検察側はこの調書を証拠として請求していましたが、被告側の見解とは異なる内容だったため、弁護側は当初、証拠採用に同意していませんでした。

被告は検察側から開示された供述調書の写しをPDF化し、同業の行政書士3人へ提供しました。

被告は「行政書士の友人3人に意見を聞きたかった」と説明していると報じられています。

刑事裁判では、被告人の防御権を保障するため、検察官が保有する証拠の一部が被告側へ開示されます。一方、開示された証拠には事件関係者の供述や個人情報などが含まれる場合があるため、利用目的には法的な制約があります。

提供先が行政書士会の会議で理事を批判

今回の問題は、PDFが3人へ渡っただけでは終わりませんでした。

毎日新聞によると、PDFを受け取った行政書士らは、被告の行為は非弁活動に当たらないとの立場から、福岡県行政書士会の会議で供述者である理事を繰り返し批判しました。

その後、理事が検察側に対して証人として出廷できない旨を伝える事態となり、検察側は弁護側に抗議しました。

8月26日の公判では、弁護側がそれまで不同意としていた供述調書の証拠採用に同意し、裁判長は予定されていた理事の証人出廷を取り消しました。

つまり、開示証拠の外部提供が裁判外の場での批判につながり、予定されていた証人の出廷にも影響する状況となりました。

井野裁判長が「審理の運営に悪影響を与える可能性がある」として慎重な行動を求めたと報じられているのも、この経緯を踏まえたものです。

刑事訴訟法281条の4、開示証拠の目的外使用を禁止

刑事訴訟法281条の4は、被告人や弁護人などが検察官から開示を受けた証拠の複製等について、法定の目的以外で第三者へ渡すことを禁止しています。

対象となるのは、検察官が被告事件の審理準備のために閲覧・謄写の機会を与えた証拠に関する複製等です。

同条は、当該事件の裁判や、費用補償、再審請求、非常上告など法律が列挙する関連手続、その準備に使用する目的以外で、人に交付、提示、電気通信回線を通じて提供してはならないと定めています。

PDFファイルをメールやオンラインサービスなどで第三者へ送る行為も、条文上の「電気通信回線を通じて提供」に該当し得ます。

一方、今回、被告が述べたとされる「友人3人に意見を聞きたかった」という目的が、刑事裁判の準備として許される範囲に入るかどうかについて、福岡地裁が違法と確定判断したとは報じられていません。

裁判長は「刑訴法に抵触するおそれがある」と指摘した段階です。現時点で、今回の行為を刑事訴訟法違反と断定することはできません。

被告人による目的外提供には罰則規定

刑事訴訟法281条の5は、281条の4に違反した場合の罰則を定めています。

被告人または被告人だった者が、検察官から開示された証拠の複製等を法定目的以外で第三者へ交付、提示、オンライン提供した場合、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象となります。

弁護人については規定が異なり、財産上の利益その他の利益を得る目的で提供した場合に同じ罰則が適用されます。

今回報道されているのは被告本人によるPDF提供です。

ただし、罰則規定が存在することと、今回の行為についてその構成要件が満たされることは別問題です。裁判長の厳重注意をもって、直ちに別の犯罪が成立したと整理することはできません。

開示証拠の規制は「情報漏えい防止」だけが目的ではない

企業の機密資料や個人情報の持ち出しであれば、一般的には情報漏えいの問題として捉えられます。

一方、刑事裁判の開示証拠では、保護すべき利益がそれだけではありません。

証拠には、被害者、目撃者、証人などの供述、プライバシー情報、業務情報が含まれる場合があります。外部へ提供されれば、関係者への圧力、批判、接触などにつながり、証人が自由に供述できる環境や裁判手続そのものへ影響する可能性があります。

刑事訴訟法281条の4第2項も、目的外使用に違反した場合の措置を検討する際には、行為の目的や態様だけでなく、関係人の名誉、私生活や業務の平穏が害されているかなどを考慮するとしています。

今回の事案では、PDFを受け取った第三者による批判を受け、供述者が出廷困難と伝える状況になったと報じられています。

開示証拠のアクセス管理が、単なるデータ保護ではなく、司法手続の公正性や関係者保護に直結することを示す事例といえます。

元の裁判は自賠責請求を巡る非弁活動の成否が争点

被告が現在問われているのは、自賠責保険の請求を巡る弁護士法違反です。

起訴状によると、被告は2023年5月から2024年4月ごろ、交通事故で負傷した5人から依頼を受けて自賠責保険を請求し、共済組合などから支払いを拒まれた後、弁護士資格がないにもかかわらず異議申し立てなどの法律事務を報酬目的で取り扱ったとされています。

被告側は、問題となった業務が弁護士法上の非弁活動には当たらないとの立場で争っています。

弁護士法72条は、弁護士または弁護士法人ではない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件や行政庁への不服申立事件など一般の法律事件に関する法律事務を業として取り扱うことなどを原則として禁止しています。

同法77条は72条違反について罰則を定めています。

ただし、今回の被告について有罪判決が確定したわけではありません。また、自賠責保険請求に関する行政書士の業務がどの範囲まで弁護士法72条の対象となるかについても、本件裁判で争われています。

「流出」より重要な証拠データのアクセス統制

今回の事案は、意図しない誤送信やシステムへの不正アクセスによる情報漏えいとは性質が異なります。

報道内容によれば、被告本人がPDFを作成し、意図して3人へ提供しています。

情報管理の観点では、「外部へ出してよいデータか」という判断を本人だけに委ねた場合のリスクを示しています。

法律事務所、企業法務部門、士業事務所などでは、訴訟資料、捜査資料、内部調査資料、懲戒資料などについて、通常の社内文書より厳しいアクセス管理が必要になる場合があります。

資料をクラウドストレージやメールで共有できる状態であっても、それが法的に第三者へ提供してよいことを意味するわけではありません。

法務・コンプライアンス部門への示唆

訴訟や内部調査で取得した資料については、「機密」などのラベルだけでなく、利用できる目的と共有可能な範囲を明確にする必要があります。

特に検察官から開示された刑事事件の証拠については、刑事訴訟法上の利用制限があるため、一般的な社内資料と同じ感覚で第三者へ転送すべきではありません。

実務上は、資料ごとに入手元、法的根拠、共有可能な人物、保存期間、削除期限を管理し、外部共有が必要な場合には弁護人など法務専門家へ事前確認する運用が重要です。

クラウドストレージでは外部共有リンクを原則無効にし、メール添付やファイル転送サービスへのアップロードを制限することも検討できます。

また、訴訟資料を第三者の意見聴取に利用する必要がある場合には、資料そのものを提供する必要があるのか、匿名化や要約で足りるのか、正式に専門家として関与させる必要があるのかを事前に整理することが重要です。

今回の事案では、第三者へ渡った証拠データが裁判外での批判に使われ、証人予定者の出廷にも影響する事態になったと報じられています。

機密情報管理では「何人に渡ったか」だけでなく、「受領者がその情報を使って誰に働きかけられるか」「業務や意思決定へどのような影響を与えられるか」まで想定する必要があります。

今後は、今回のPDF提供について刑事訴訟法上の責任が別途問われるのか、元の弁護士法違反事件について福岡地裁がどのような判断を示すかが確認ポイントになります。

出典