2026年米中間選挙は日本の経済安全保障をどう変えるか ねじれ議会で残る関税・対中規制・エネルギーリスク

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2026年米中間選挙は日本の経済安全保障をどう変えるか ねじれ議会で残る関税・対中規制・エネルギーリスク

米国では2026年11月3日、中間選挙が実施されます。連邦下院の全435議席と上院35議席が改選され、トランプ政権の残り2年間を左右する大きな政治イベントとなります。

2026年夏時点で、共和党は上下両院を支配しています。ただし下院は極めて僅差です。米下院の公式情報では共和党218、民主党212、無所属1、空席4となっており、数議席の移動で多数派が入れ替わり得る状況です。上院は共和党53、民主党45、民主党と行動を共にする無所属2で、共和党が比較的安定した多数を確保しています。

選挙分析機関Cook Political Reportは、下院について民主党が多数派を奪還する可能性を高く見ていますが、共和党にも維持する経路が残ると分析しています。一方、上院では共和党が構造的に有利な状況が続いており、現時点で日本が最も警戒すべきシナリオの一つが「下院は民主党、上院は共和党」というねじれ議会です。

ただし、ねじれ議会になればトランプ政権の対外経済政策が停止するわけではありません。

大型の予算・税制・国内法案は通りにくくなる一方、通商法232条など議会が大統領へ委任してきた権限、輸出管理、対中投資規制、制裁など、行政権限を利用する政策は引き続き動かすことができます。日本企業にとっては「議会が止まる一方で、関税や経済安全保障規制は動く」という二重の不確実性が高まる可能性があります。

さらに、半導体、AI、重要鉱物、造船、エネルギー、台湾海峡などをめぐる対中競争は、共和・民主のどちらが議会を支配しても大きく後退しにくい領域です。日本にとって2026年中間選挙は、単なる米国内政のイベントではなく、対米投資、輸出管理、サプライチェーン、防衛、エネルギー調達を左右する経済安全保障上の分岐点となります。

2026年米中間選挙と日本への影響のサマリー

  • 米国の中間選挙は2026年11月3日に実施されます。
  • 下院は全435議席、上院は35議席が改選対象です。
  • 2026年夏時点で、共和党は下院218議席、上院53議席を持ち、上下両院を支配しています。
  • 下院は数議席で多数派が入れ替わる極めて僅差の構造です。
  • Cook Political Reportは2026年7月時点で、下院について民主党が優位な政治環境にある一方、選挙区再編によって共和党にも多数派維持の経路が残ると分析しています。
  • Cookの7月16日時点の評価では、共和党優勢212議席、民主党優勢205議席、接戦が18議席です。
  • 上院では共和党が53対47の多数を持ち、民主党が逆転するには複数の共和党議席を奪う必要があります。
  • Cook Political Reportの最新評価では、ジョージア、メイン、ミシガン、ノースカロライナの4州が接戦となっています。アラスカとオハイオは「共和党やや優勢」と評価されています。
  • 現時点で想定すべき重要シナリオの一つは「民主党下院・共和党上院」のねじれ議会です。ただし、結果を一点予測できる段階ではありません。
  • ねじれ化すれば、税制、歳出、大型国内法案などは成立しにくくなり、民主党下院によるトランプ政権への調査・監督も強まる可能性があります。
  • 一方、大統領に委任された通商権限、輸出管理、制裁などは議会のねじれだけでは停止しません。
  • 日本との2025年通商・投資枠組みに基づく15%関税や最大5,500億ドルの戦略投資について、民主党下院が成立した場合は議会監視が強まる可能性がありますが、中間選挙だけで自動的に撤回されるものではありません。
  • 半導体、AI、重要鉱物などの対中経済安全保障政策は超党派性が強く、議会多数派が変わっても日本への連携要求は続く可能性が高いとみられます。
  • 日本にとっては、自動車・鉄鋼などの関税、半導体輸出管理、重要鉱物の脱中国依存、対米投資、防衛負担、エネルギー安全保障が主要な影響分野になります。

2026年米中間選挙の整理表

項目 内容
選挙日 2026年11月3日
下院改選 全435議席
上院改選 35議席
現在の下院 共和218、民主212、無所属1、空席4
現在の上院 共和53、民主45、無所属2
下院の情勢 民主党に有利な全国環境だが、共和党にも多数派維持ルートあり
Cookの下院評価 民主党優勢205、共和党優勢212、接戦18
上院の情勢 共和党が構造的に有利
Cookの上院・接戦州 ジョージア、メイン、ミシガン、ノースカロライナ
日本にとって重要なシナリオ 下院民主党・上院共和党のねじれ
ねじれ時に停滞しやすい政策 予算、税制、大型国内立法
ねじれでも動き得る政策 関税、輸出管理、制裁、対中投資規制など行政権限を使う政策
日本への主要影響 通商、対米投資、半導体・AI、重要鉱物、防衛、エネルギー

米中間選挙とは

米国の中間選挙(Midterm Elections)は、4年ごとの大統領選挙の中間にあたる年に実施される連邦・州レベルの選挙です。2026年は11月3日に投票が行われ、連邦下院では全435議席、上院では100議席のうち35議席が改選されます。これに加えて、多くの州で州知事選挙や州議会選挙も同時に行われます。

大統領そのものを選ぶ選挙ではありませんが、中間選挙の結果によって大統領が所属する政党が議会の多数派を維持できるかが決まるため、その後2年間の政権運営に大きな影響を与えます。与党が上下両院を維持すれば、予算や税制、産業政策などを比較的進めやすくなります。一方、野党が下院または上院の多数派を奪えば、大統領と議会の多数派が異なる「ねじれ議会(Divided Government)」となり、大型法案や予算編成が停滞しやすくなります。

そのため中間選挙は、就任から約2年間の大統領の政策運営に対する有権者の評価を示す選挙としても位置付けられています。特に景気、物価、雇用、移民、外交・安全保障など、その時点で有権者の関心が高いテーマが議席構成に反映されやすく、現職大統領の所属政党が下院で議席を減らす傾向も歴史的に確認されています。

日本にとって重要なのは、米中間選挙が米国内政だけの問題ではない点です。議会の多数派が変われば、予算、税制、対外投資、産業支援策などの進め方が変わります。一方で、関税、輸出管理、経済制裁など大統領や行政機関が既存法に基づいて行使できる政策は、ねじれ議会になっても継続する可能性があります。このため2026年中間選挙は、日米通商、半導体・AI規制、重要鉱物、防衛、エネルギーといった日本の経済安全保障にも直接影響する政治イベントとして見る必要があります。

下院は民主党に追い風、ただし多数派奪還は確定ではない

米国の中間選挙では、現職大統領の所属政党が下院で議席を減らす傾向があります。

Brookings Institutionの分析では、1938年以降の22回の中間選挙のうち20回で、大統領の所属党が下院議席を減らしました。例外は1998年と2002年だけです。

トランプ大統領の1期目だった2018年の中間選挙でも、民主党は下院で41議席を増やし多数派を奪還しました。

2026年も共和党にとって厳しい要素があります。

Pew Research Centerが2026年4月20~26日に実施した調査では、トランプ大統領の職務支持率は34%でした。また、米経済を「非常に良い」「良い」と評価した割合は年初時点で28%にとどまり、インフレや生活費への懸念も強く残っています。

加えて、2026年のイラン情勢とホルムズ海峡の混乱は、エネルギー価格を通じて米国内の家計負担にも影響する要因です。

こうした環境だけを見ると民主党に有利ですが、選挙区割りという別の要素があります。

Cook Political Reportは2026年7月16日、民主党が下院奪還に向けて強い位置にあるとしつつ、共和党主導の選挙区再編によって共和党にも多数派維持の経路が残っていると分析しました。

同日時点では、共和党が優勢な選挙区が212、民主党が優勢な選挙区が205、接戦が18です。

共和党が優勢とされる212議席をすべて守り、18の接戦区の半数を獲得すれば221議席となり、多数派を維持できます。

したがって「民主党による下院奪還が有力な環境」と「共和党にも現実的な維持経路がある」は同時に成立します。

現段階で特定の獲得議席数や確率を一本の予測として扱うより、下院の支配権が極めて競争的な状態にあると見る方が適切です。

上院は共和党に構造的な優位、4州が接戦

上院では事情が異なります。

現在の議席は共和党53、民主党45、民主党と行動を共にする無所属2です。

2026年は共和党側22議席、民主党側13議席が改選されますが、上院選は州単位で争われるため、どの州が改選されるかが大きく影響します。

Cook Political Reportの最新評価では、ジョージア、メイン、ミシガン、ノースカロライナの4州が接戦です。アラスカとオハイオは「共和党やや優勢」とされており、7月1日時点の評価から情勢が動いています。

民主党が上院多数派を奪還するには、自党の接戦州を守ったうえで、共和党が持つ複数議席を奪う必要があります。そのため、下院より共和党が有利な構造にあることは変わりません。

一方で、4州が接戦となっている以上、「共和党が確実に上院を維持する」と断定できる段階でもありません。

最重要シナリオ「下院民主・上院共和」で何が起きるのか

下院を民主党が奪還し、上院を共和党が維持した場合、2027年1月から米国は典型的なねじれ議会になります。

この場合、トランプ政権が議会を通じて新たな大型政策を実現する余地は大きく狭まります。

予算、税制、社会保障、大規模な産業政策など、法律の成立が必要な政策では民主党下院との交渉が不可欠になります。民主党が下院委員会の委員長ポストを得れば、公聴会、資料提出要求、政権幹部への証言要求などを通じ、通商政策、対外投資、行政権限の行使への監視も強まります。

Brookingsも、共和党がどちらか一院を失えば、トランプ政権の立法フェーズは大きく制約され、議会監視が強化されると分析しています。

ただし、これを「トランプ政権の政策が止まる」と解釈するのは適切ではありません。

外交、通商、輸出管理、経済制裁などでは、大統領や行政機関に大きな裁量が残ります。

ここが日本にとって最も重要なポイントです。

ねじれ議会でもトランプ関税が自動的に止まるわけではない

米国の関税権限は本来、憲法上議会に属しますが、議会は複数の法律を通じて大統領へ通商権限を委任してきました。

例えば通商拡大法232条では、輸入が米国の国家安全保障を脅かすと商務省が判断した場合、大統領が輸入制限を行う権限があります。

CRSによると、2025年の日米枠組み合意後、米国は多くの日本製品について15%の関税率を適用しています。日本車も15%ですが、日本の鉄鋼、アルミニウム、銅には50%の関税が残っています。

民主党が下院を支配した場合、大統領の関税権限を制限する法案や、政権の通商政策への監視が強まる可能性はあります。

しかし、下院だけで大統領に委任された権限を取り消すことはできません。法律を変更するには上院の同意が必要で、最終的には大統領の署名、または拒否権を覆すだけの議会多数が必要になります。

そのため「民主党が下院を取れば対日関税が解除される」という見方は現実的ではありません。

むしろねじれ議会では、国内立法で成果を出しにくくなる一方、既存法に基づく通商政策、輸出管理、外交交渉が引き続き使われる可能性があります。

日本の「5,500億ドル対米投資」は中間選挙で消えるのか

2025年の日米通商・投資枠組みでは、日本側が最大5,500億ドル規模の対米支援を行う仕組みが設けられました。

ここで注意したいのは、「日本が米国へ5,500億ドルを現金で渡す」という制度ではない点です。

CRSによると、日本政府は国際協力銀行(JBIC)など政府系機関を通じ、融資、融資保証などの形で最大5,500億ドルの金融支援を行う枠組みです。対象は半導体、医薬品、金属、重要鉱物、造船、エネルギー、AI、量子技術など、経済安全保障上重要な分野です。

2026年3月19日の日米首脳会談でもこの枠組みは継続され、米商務省は原油輸出インフラ、天然ガス発電、SMRなどの具体案件を公表しています。

中間選挙で民主党が下院を奪還しても、これらの案件が自動的に廃止されるわけではありません。

一方、CRSは米議会が日米枠組みの履行状況を監視し、大統領の関税権限に対する監督を強化する可能性を指摘しています。

ねじれ議会になった場合、日本の対米投資は「トランプ政権との約束」だけではなく、「米議会から見ても米国内の雇用、供給網、国家安全保障に利益がある案件」であることがより重要になります。

対中半導体・AI規制は議会がねじれても継続しやすい

日本への影響で、関税以上に長期的な意味を持つのが対中技術規制です。

米国では、先端半導体やAIを単なる産業政策ではなく、安全保障上の戦略資産として扱う考え方が定着しています。

CRSによると、米国は第1次トランプ政権から中国企業への半導体関連規制を強化し、バイデン政権では先端半導体と半導体製造装置に対する規制を拡大しました。日本とオランダも米国との調整を通じ、中国向け半導体製造装置の輸出管理を強化しています。

第2次トランプ政権では一部で規制を強化する一方、中国との交渉に伴って一部の規制を緩和するなど、政策の振れも確認されています。

ここで重要なのは、対中規制そのものには超党派の支持がある一方、「どの技術を、どの程度まで止めるか」「同盟国へどこまで同調を求めるか」では政権と議会の間にも差があることです。

したがって、ねじれ議会になった場合、対中経済安全保障が弱まるというより、議会側が政権の規制緩和を牽制する場面も考えられます。

日本の半導体製造装置、素材、精密機器、AIインフラ企業にとっては、米中交渉のたびに規制が緩和・再強化される政策変動リスクへの対応が重要になります。

セキュリティ対策Labでは、2026年5月 トランプ・習近平首脳会談の全合意内容ー台湾への武器輸出は政策変更なしでも米中競争と日本への影響を整理しています。

重要鉱物の「脱中国依存」は民主・共和どちらでも続く

レアアースや重要鉱物も、米議会で超党派性が比較的強い領域です。

2026年1月には、民主党のジーン・シャヒーン上院議員と共和党のトッド・ヤング上院議員らが、中国依存を減らすためのStrategic Resilience Reserveを創設する超党派・上下両院法案を提出しました。法案では重要鉱物の国内供給網を支えるため25億ドル規模の措置が提案されています。

2026年3月の日米首脳会談でも、高市早苗首相とトランプ大統領は重要鉱物、エネルギー、AIなどで経済安全保障協力を強化することで一致しています。

したがって、下院の多数派が民主党へ変わったとしても、「中国への重要鉱物依存を減らす」という大きな政策方向が反転する可能性は低いと考えられます。

日本にとっては米国だけに依存するのではなく、オーストラリア、フランス、カナダなどを含めた調達網の多角化を同時に進めることが重要です。

セキュリティ対策Labでは、日仏レアアース共同調達協定とは?脱中国依存を決定づける「Caremag」と日本経済への波及効果や、特定重要物資とは何かでもサプライチェーン分散を取り上げています。

台湾・日米同盟は大枠で継続、ただし予算と負担分担は政治化しやすい

安全保障政策についても、中間選挙だけで日米同盟の基本構造が変わる可能性は高くありません。

CRSは2026年2月の日米関係報告で、中国への対応や北朝鮮への対処を日米の共通目標として挙げ、第2次トランプ政権もバイデン政権期の同盟強化策の多くを継続していると整理しています。

2026年3月の日米首脳会談では、ミサイルの共同開発・共同生産を含む防衛協力の拡大でも一致しました。

一方、ねじれ議会では国防予算や個別の歳出をめぐる交渉が複雑になる可能性があります。さらに、トランプ政権は同盟国の防衛負担を重視しているため、日本の防衛費、在日米軍をめぐる負担、米国製装備品の調達などが引き続き二国間交渉の材料となる可能性があります。

民主党が下院を取った場合でも、対中抑止や台湾海峡の安定を重視する議員は両党に存在します。

そのため「民主党下院=日米安保の後退」と見るより、同盟の基本線は維持される一方、予算、装備調達、役割分担、対中政策の手段をめぐって議会の関与が増えると見る方が現実的です。

中東情勢とエネルギー価格は選挙と日本経済を同時に揺らす

2026年の中間選挙は、中国だけでなく中東情勢とも切り離せません。

2月末に始まった米国の対イラン軍事作戦Operation Epic Furyと、その後のホルムズ海峡をめぐる混乱は、米国内ではガソリン価格やインフレの問題として政治に跳ね返っています。

日本にとってはさらに深刻です。

経済産業省は2026年3月、ホルムズ海峡を原油タンカーが事実上通航できない状態が続いたことを受け、1か月分に相当する国家備蓄原油の放出を決定しました。4月には約20日分の追加放出も決定しています。

日本は原油輸入の大半を中東に依存しているため、米国の中東政策が変化すれば、原油価格、電力価格、物流費、化学、鉄鋼、自動車など広範な産業へ波及する可能性があります。

一方、日本は2026年3月の日米首脳会談でエネルギーの安定供給を経済安全保障協力の重要分野に位置付け、米国の原油輸出インフラや天然ガス発電などへの投資を進めています。

これは対米投資であると同時に、日本の中東依存を補完するエネルギー安全保障政策としての性格も持ちます。

セキュリティ対策Labでは、ホルムズ海峡 封鎖 危機によるイランの多領域処罰キャンペーンと日本経済への影響や、日米のアラスカ原油 調達/開発 協力は何を変えるのかでもこの構造を分析しています。

共和党が上下両院を維持した場合、日本への影響

共和党が下院と上院の双方を維持した場合、トランプ政権は2027年以降も議会多数派を背景に政策を進めやすくなります。

日本にとっては、現在の日米通商・投資枠組みや戦略投資案件を進めやすい政治環境になります。

半導体、エネルギー、造船、SMR、重要鉱物など、米国内で雇用や生産能力を増やす日本企業の案件は追い風を受ける可能性があります。

一方、これは必ずしも日本企業にとって「安定シナリオ」とは限りません。

トランプ政権の通商政策への議会からの牽制が弱くなれば、米国内生産、部品の現地調達、市場開放、対米購入などを求める圧力が強まる可能性があります。

特に自動車、鉄鋼、医薬品、半導体など、米国が国家安全保障や産業再建と結び付けている分野では、関税や投資条件が政策手段として使われ続けるリスクがあります。

民主党が上下両院を奪還した場合、日本への影響

現時点の上院選挙構造を踏まえると、民主党が上下両院を同時に奪還するハードルは高いとみられます。

ただし、可能性を完全に除外することはできません。

民主党が上下両院を支配した場合、トランプ政権への議会監視は大幅に強化されます。関税権限の制限、政府支出、行政機関への監督などをめぐって議会とホワイトハウスの衝突が増える可能性があります。

上院多数派が変われば、大統領が指名する政府高官や司法ポストの承認にも民主党が大きな影響力を持つことになります。

一方、大統領には拒否権があり、外交・行政権限も残ります。

民主党が上下両院を取っただけで、トランプ政権の関税や対中政策が全面的に撤回されるわけではありません。

また、半導体、重要鉱物、台湾、中国による経済的威圧への対応などは民主党にも強い問題意識があります。政策の手段は変わっても、中国への戦略的依存を減らすという大きな方向は維持される可能性が高いと考えられます。

日本への影響を5つの領域で見る

日本への影響は、共和党か民主党かという一つの軸だけでは判断できません。

第一は通商です。

自動車、鉄鋼、アルミニウム、銅などへの関税は、日本企業の収益や米国内投資判断に直接影響します。ねじれ議会でも大統領の既存通商権限は残るため、関税政策の不確実性は続く可能性があります。

第二は半導体・AIです。

米国の対中輸出管理は日本企業にも実務対応を求めます。日本から直接中国へ輸出する取引だけでなく、米国技術を含む製品、再輸出、クラウド経由の計算資源、AI関連サービスなど規制対象が広がる可能性があります。

第三は重要鉱物です。

米国は中国依存を減らすため備蓄、国内生産、同盟国との共同調達を進めています。日本企業にとっては調達先の分散という防御面だけでなく、精製、リサイクル、磁石、鉱山投資など新たな市場機会にもなります。

第四は安全保障です。

台湾海峡、東シナ海、ミサイル防衛などをめぐる日米協力の基本線は継続する可能性が高い一方、日本側の防衛負担や装備品調達への要求は続くと考えられます。

第五はエネルギーとマクロ経済です。

中東情勢、米国のエネルギー政策、対イラン政策は、原油・LNG価格を通じて日本の物価、貿易収支、企業収益に影響します。

この5領域のうち、中間選挙によって大きく変化しやすいのは「政策の目的」よりも「政策の実行方法と速度」です。

日本が取るべき経済安全保障戦略

2026年中間選挙への日本の対応で最も避けたいのは、「共和党ならこの政策、民主党ならこの政策」と二択で準備することです。

米国の経済安全保障政策は、大統領、上下両院、商務省、USTR、財務省、国防総省、州政府など複数の主体によって形成されています。

日本はまず、ホワイトハウスと議会の双方に政策チャンネルを持つ必要があります。

特に対米投資では、政権との合意だけでなく、投資先の州や選挙区で雇用、税収、供給網、安全保障にどのような利益を生むかを示すことが重要です。そうすることで、政権や議会多数派が変わっても案件を維持しやすくなります。

次に、対中デリスキングを米国だけに依存しないことです。

重要鉱物ではオーストラリア、カナダ、フランスなど、エネルギーでは米国、中東以外の産油国、LNG供給国などとの関係を並行して強化する必要があります。

自由貿易についてはCPTPP、EUとのEPAなど、米国の政権交代に左右されにくい制度を維持する意味が高まります。

Chatham Houseは2026年、米中のどちらにも全面依存しない市場志向国による「第三の極」という考え方を提案しています。これは政府の正式政策ではありませんが、日本が日米同盟を中核に置きつつ、CPTPP、EU、英国、豪州などとの経済ネットワークを厚くするという点では参考になります。

日本に必要なのは「米国離れ」ではなく、「米国との同盟を維持しながら、米国政治の変動に耐えられる選択肢を持つこと」です。

日本政府・官公庁・企業経営層への示唆

2026年の米中間選挙を、日本政府や企業経営層が単なる米国内政として見るのは適切ではありません。選挙結果によって変わるのは、米国の対中姿勢そのものよりも、政策を実行する手段、速度、優先順位です。特に「下院民主党・上院共和党」のねじれ議会となった場合、大型立法や予算は停滞しやすくなる一方、関税、輸出管理、制裁、対外投資規制など、行政権限で動かせる政策は継続する可能性があります。

日本政府にとっては、米国との関係をホワイトハウスとの首脳外交だけに依存させないことが重要になります。中間選挙後に議会多数派が変われば、歳出、通商、産業政策、対中政策への議会関与が強まります。外務省、経済産業省、防衛省などは、政権との協議に加え、上下両院の主要委員会や超党派議員との関係を維持し、日米協力が米国内の雇用、供給網、抑止力、経済安全保障にどのような利益をもたらすのかを継続的に示す必要があります。

経済安全保障政策では、「米国との連携強化」と「米国政策への過度な依存回避」を同時に進める必要があります。半導体、AI、重要鉱物、造船、エネルギーなどでは日米協力を深めつつ、CPTPP、EU、英国、オーストラリア、カナダ、フランスなどとの制度・供給網も厚くし、米国の政権や議会構成が変わっても機能する多層的な経済安全保障体制を構築することが求められます。

官公庁にとっては、対米投資や産業支援策を「個別案件」ではなく国家戦略として評価する視点が必要です。最大5,500億ドルの対米投資枠組みも、単なる対米配慮ではなく、日本企業の市場アクセス、重要物資の調達、エネルギー安全保障、先端産業へのアクセスをどう確保するかという観点から検証する必要があります。米国側の要求に応じるだけではなく、日本側の供給網強靱化や技術基盤強化につながる案件を優先すべきです。

企業経営層にとっては、米国の政治変動を「関税が上がるか下がるか」だけで見るのは不十分です。半導体輸出管理、対中投資規制、重要鉱物政策、原産地規則、米国内調達要件、補助金条件などが複合的に変化すれば、事業ポートフォリオや設備投資の前提そのものが変わります。特に中国と米国の双方で大きな事業を持つ企業は、米中対立が長期化することを前提に、技術、データ、製造、調達、販売のどこまでを分離できるかを経営レベルで検討する必要があります。

また、対米投資ではホワイトハウスとの関係だけでなく、投資先の州政府、知事、上下両院議員、地域社会、労働組合まで含めた政治的な持続性が重要になります。政権交代や議会多数派の変化があっても、「地域雇用を支える」「重要物資の米国内供給能力を高める」「中国依存を減らす」と説明できる投資は継続性を持ちやすくなります。

エネルギー安全保障も経営課題として扱う必要があります。2026年のホルムズ海峡をめぐる混乱は、地政学リスクが短期間で原油価格、電力価格、物流費、原材料コストへ波及することを示しました。政府は原油・LNGの調達先多角化や備蓄政策を進め、企業側もエネルギー価格の急騰や長期供給途絶を前提とした事業継続計画を再評価する必要があります。

最も重要なのは、中間選挙の結果そのものより、米国で「議会政治」と「行政権限」が異なる方向へ動く可能性を前提にすることです。ねじれ議会では、予算や大型法案が停滞する一方、関税や輸出管理は行政主導で変化する可能性があります。共和党が上下両院を維持した場合でも、保護主義や同盟国への負担要求が強まる可能性があります。

日本政府と企業に求められるのは、米国のどちらの党が勝つかを予測することではありません。どの選挙結果でも機能する政策・事業構造を持つことです。

そのためには、日米同盟を中核に置きながらも、重要鉱物、エネルギー、先端技術、市場アクセスを複数国・複数制度へ分散し、米中いずれか一国の政策変更だけで国家や企業の重要機能が止まらない構造へ移行する必要があります。2026年米中間選挙は、その必要性を改めて確認する経済安全保障上の分岐点といえます。

出典