中国の最高峰の計算資源を担う国家インフラが、前代未聞の規模で侵害された可能性が濃厚になっています。
2026年4月8日、CNNをはじめとする複数の海外メディアは、中国・天津にある「国家スーパーコンピューティングセンター(NSCC)」がハッキングを受け、軍事や航空宇宙に関する10ペタバイト(PB)以上に及ぶ膨大な研究データが窃取・販売されている疑惑を一斉に報じました。
通信アプリTelegram上の脅威アクター「FlamingChina」や、ダークウェブ上のハッキングフォーラムに現れた「nightbird」と名乗る人物が犯行声明を出しており、事態は中国の国家安全保障を揺るがす深刻な脅威として注目を集めています。
本稿では、CNNの報道内容に加え、新たに公開された内部ネットワークの操作画面、軍事兵器の図面、航空宇宙分野のシミュレーション文書、そして個人情報などの「証拠画像」を紐解き、今回のサイバー攻撃の実態について専門的な視点から考察します。
目次
「10ペタバイト」の機密データ流出疑惑
未知のハッカーグループが中国の重要インフラである天津のNSCCに侵入し、過去最大規模となる10ペタバイトもの機密データを抽出したとされています。
れほど膨大なデータを検知されずに外部へ持ち出すには、数ヶ月に及ぶ長期間のネットワーク潜伏、あるいは内部関係者(インサイダー)の関与が疑われています。
Telegramの「FlamingChina」チャンネルや、ハッカーフォーラムにハッカー nightbirdが投稿された犯行声明では、窃取したデータには航空宇宙工学、軍事研究、バイオインフォマティクス、核融合シミュレーションなどが含まれていると主張されています。


さらに、中国航空工業集団(AVIC)、中国商用飛機(COMAC)、中国人民解放軍国防科技大学(NUDT)、西北工業大学(NWPU)など、中国の軍産複合体や先端技術研究を牽引するトップクラスの機関名が名指しされています。攻撃者はこのデータセットの「完全なリスト」へのアクセス権を10 XMR(暗号資産モネロ)で販売し、フルデータセットそのものは最高入札者へ限定提供する(オークション形式)と宣言しています。
公開された証拠画像が物語る「ハッキングの深度」
ハッカーによる「大言壮語」は珍しくありませんが、今回「nightbird」や「FlamingChina」が公開した複数の証拠画像は、彼らの主張を裏付ける非常に生々しく専門的な内容を含んでいます。
内部ネットワークへの侵入とシミュレーションソフトの痕跡
フォーラムに投稿された画像には、Windowsのエクスプローラーを通じてNSCCの内部ネットワーク共有にアクセスしている様子がはっきりと映し出されています。
このデスクトップ画面には、「Abaqus CAE」や「autodyn.exe」、さらには「ANSYS v190」に関連するファイルなど、航空宇宙や軍事分野で爆発や衝撃、流体解析に用いられるハイエンドなCAE(エンジニアリング・シミュレーション)ソフトウェアのファイルが多数並んでおり、彼らがNSCCの計算ノードを直接操作していたことが伺えます。

バンカーバスターの設計図と航空宇宙(超音速)研究の機密文書
「軍事研究」の証拠として、オリーブドラブ色に塗られた爆弾(またはミサイルの弾頭)のCAD図面らしき画像が公開されています。画像には「2460mm」の全長や、内部構造の直径「370mm」、外殻の厚さ「25.4mm」といった具体的な寸法が記載されています。また、CNN報道によると地中貫通爆弾(バンカーバスター)のシミュレーション動画なども流出データに含まれているとされています。

JAXAのD-SENDプロジェクトの落下試験データとの分析比較
さらに致命的なのが、漏洩した「算例手册(計算例マニュアル)」という中国語の文書です。
この文書は低ソニックブーム(超音速飛行時の衝撃波音)の最適化設計に関する専門的な研究データであり、米国のF-5E戦闘機の飛行試験データ、NASAのX-59の遠場伝播計算、そして日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)が実施したD-SENDプロジェクトの落下試験データなどを詳細に分析・比較しています。


これは、声明にあった「航空宇宙工学」のデータが実際に窃取されていることを完璧に裏付けています。
個人情報(PII)とインフラ設定の流出
流出データは研究内容にとどまりませんいう女性の中国の住民身分証(IDカード)の鮮明なスキャンデータも含まれていました。これは、システムを利用する研究者やNSCC職員の個人情報(PII)までもが侵害されていることを示しています。

加えて、天津のNSCC(国家超級計算天津中心)のドメイン構造「dc=nscc-tj, dc=gov, dc=cn」を示すLDAPダンプ画像や、河北省周辺の座標を示す気象・軍事レーダーのログデータ(FM-128 RADAR)も公開されており、認証基盤の深部から末端の観測データまで、システム全体が根こそぎ掌握されていたことがわかります。
脅威アクターの目的と今後の懸念
「FlamingChina」や「nightbird」の真の目的は依然として不透明です。 リストへのアクセス権をわずか10 XMR(モネロ)で販売するというアプローチは、国家機密データの価値に比べるとあまりにも少額です。
これは、金銭目的のランサムウェアグループやデータブローカーの振る舞いを装いつつ、実際には長期間静かに潜伏してデータを抜き取っていた国家背景のAPT(高度標的型攻撃)グループ、あるいは中国政府の威信を傷つけることを目的とした「ハクティビスト(Hacktivist)」による情報工作である可能性も否定できません。
まとめ:共有インフラにおけるサプライチェーンリスクの極致
現時点で、中国当局やNSCCからこのハッキングに関する公式な被害報告は発表されていません。しかし、CNNの報道や公開された証拠画像(内部ネットワークの操作画面、兵器の寸法図、超音速機のシミュレーションマニュアル、身分証など)は、ハッカーの主張の信憑性を極めて高く裏付けています。
この事件は、スーパーコンピューターのような「国家の最高峰の計算資源」が、皮肉にも機密情報を一網打尽にされる「単一障害点(シングルポイント・オブ・フェイリア)」になり得るという恐ろしい現実を示しました。軍事企業や大学が自組織のネットワークをどれほど強固に守っていても、計算処理を委託する共有インフラ側の認証基盤(LDAP/ADなど)が突破されれば、すべての研究データは容易に漏洩します。
日本の企業や研究機関にとっても、外部のクラウド基盤やHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)環境を利用する際の、データ暗号化とゼロトラストに基づく厳格なアクセス制御の重要性を改めて突きつける重大なインシデントと言えるでしょう。フルデータセットの行方と、国際的な安全保障への影響に警戒が必要です。








