岐阜市の機械小売会社がニセ社長詐欺(BEC詐欺)で4,500万円被害、LINEのQRコード返信から経理担当者を追加

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岐阜市の機械小売会社がニセ社長詐欺(BEC詐欺)で4,500万円被害、LINEのQRコード返信から経理担当者を追加

岐阜市の機械小売会社が2026年7月27日、社長を名乗る人物から届いた偽メールとLINE上の指示を信じ、指定口座へ4,500万円を振り込む詐欺被害に遭いました。最初のメールでは送金を求めず、業務連絡用のLINE登録を理由に従業員のQRコード、部署、役職を返信させています。その後、従業員が作成したLINEグループへ経理担当者を追加させ、取引先への支払いを装って高額送金を指示しました。岐阜県警は2026年1月の時点で、今回とほぼ同じ流れの「ニセ社長詐欺」が急増しているとして警告していました。

サマリー

  • 2026年7月27日午前9時30分ごろ、岐阜市の機械小売会社へ社長を名乗るメールが届きました
  • メールはLINE登録を口実に、従業員のQRコード、部署、役職の返信を求めました
  • 60代の女性社員がQRコードを返信すると、社長を名乗る人物とのLINEグループが作成されました
  • 攻撃者は50代の女性経理担当者をグループへ追加するよう指示しました
  • 経理担当者は同日午後、インターネットバンキングで指定口座へ4,500万円を振り込みました
  • 金融機関が高額送金を不審に思って会社へ問い合わせ、社長本人が社員へ確認したことで詐欺が発覚しました
  • 送金資金の回収状況や、企業メールアカウントへの不正アクセスの有無は公表されていません
  • 2026年は同じ手順のニセ社長詐欺が京都、和歌山、大分、鹿児島、山口などで相次いでいます
項目 内容
発生日 2026年7月27日
報道日 2026年7月28日
被害地域 岐阜県岐阜市
被害企業 岐阜市内の機械小売会社
被害金額 4,500万円
最初の接触手段 社長を名乗る人物から業務用メールアドレスへ送信されたメール
最初の要求 LINEのQRコード、部署、役職の返信
LINE上の指示 経理担当者の追加、指定口座への4,500万円の振り込み
送金手段 インターネットバンキング
発覚のきっかけ 金融機関が高額送金を不審に思い会社へ問い合わせ
捜査機関 岐阜北警察署
事案の分類 ニセ社長詐欺、CEO詐欺、BEC型のなりすまし送金詐欺
メールアカウント侵害 公表情報では確認されていない
資金回収の状況 公表されていない
推奨対策 既知の連絡先による本人確認、複数承認、LINEによる送金指示の禁止

社長を名乗るメールから4,500万円を送金

ぎふチャンの報道によると、2026年7月27日午前9時30分ごろ、岐阜市内の機械小売会社が使用する業務用メールアドレスへ、同社の社長を名乗る人物からメールが届きました。

メールには、業務連絡用のLINE登録を行うため、受信者本人のQRコードと部署、役職を返信してほしいという趣旨の内容が記載されていました。

メールを確認した60代の女性社員は、社長本人からの指示だと信じ、自身のLINEアカウントのQRコードなどを返信しました。その後、社員と社長を名乗る人物が参加するLINEグループが作成されています。

社長を名乗る人物は、さらに経理担当者をグループへ追加するよう指示しました。社員は50代の女性経理担当者を参加させ、攻撃者と実際に送金権限を持つ担当者が直接やり取りできる状態を作ってしまいました。

LINEグループ内では、取引先との仕事を進めるために支払いが必要であり、口座情報を送るので4,500万円の振込手続きを進めてほしいと指示されました。経理担当者は同日午後、インターネットバンキングを使って指定口座へ4,500万円を送金しました。

金融機関からの問い合わせで詐欺が発覚

詐欺が判明したきっかけは、送金を受け付けた金融機関から会社への問い合わせでした。

金融機関は多額の振り込みを不審に思い、会社へ確認を行いました。問い合わせを受けた50代の男性社長が社員へ確認したところ、自身はLINEグループの作成や4,500万円の送金を指示していないことが分かり、警察へ通報しました。

金融機関の異常検知と確認は被害の把握につながりましたが、報道上は送金手続きが実行された後に問い合わせが行われています。資金が送金先口座で凍結されたのか、組戻しや回収ができたのかは明らかにされていません。

高額送金に対する金融機関の確認は重要ですが、企業側が銀行の異常検知だけを最後の防波堤として期待することはできません。送金前に社内で指示者本人を確認し、不正な振り込みを承認段階で止める必要があります。

岐阜県警が1月に警告した手口とほぼ一致

岐阜県警察本部サイバー犯罪対策課は2026年1月、「社長の名前を騙った偽メールが急増中」とする注意喚起を公表していました。

注意喚起では、社長を装う人物が会社や従業員のメールアドレスへ、業務プロジェクトへの対応を理由にLINEグループを作成して招待するよう求めると説明しています。

グループ作成後は経理担当者を参加させ、取引先の振込先情報を送るので直ちに送金するよう指示する流れが示されていました。今回の岐阜市の事案は、メールの文面、QRコードの返信、LINEグループの作成、経理担当者の追加、取引先への支払いという口実まで、警告された手口とほぼ一致します。

警察庁も2026年2月、岐阜県警から提供された実際のメール例を掲載し、法人を対象とするニセ社長詐欺への注意を呼びかけました。

警告が出ていたにもかかわらず実害が発生したことは、注意喚起を一度社内メールで回覧するだけでは対策として不十分であることを示しています。従業員が具体的な文面を覚えていない場合でも、送金手続きのルールによって被害を止められる仕組みが必要です。

QRコードの返信が攻撃者への信頼を強める

LINEのQRコードを送る行為は、単に連絡先を交換するだけに見えます。しかし、ニセ社長詐欺では、攻撃者を被害者自身が作成したグループへ招き入れるための重要な工程です。

自分で作成したLINEグループに相手を参加させると、「自分が招待した人物だから本人である」という思い込みが生じやすくなります。しかし、招待されたLINEアカウントが社長本人であるかどうかは、QRコードを送信しただけでは確認できません。

攻撃者は、社長の氏名やプロフィール画像を設定したLINEアカウントで参加できます。社長の名前、会社名、役職は企業のWebサイトや法人情報から入手できる場合が多く、プロフィールが実在の情報と一致していても本人確認にはなりません。

QRコードの返信に加え、今回のメールでは部署と役職も求められています。攻撃者は受信者の社内での位置づけを確認し、送金権限がなければ経理担当者を追加させるなど、次の指示を調整できます。

経理担当者を追加させる二段階構成

今回の事案では、最初にメールを受信した社員と、実際に送金を行った経理担当者が別人でした。

一見すると複数人が関与しているため、相互確認が働くように見えます。しかし、最初の社員が社長本人からの指示だと信じた状態で経理担当者を招待すると、後から参加した担当者も「社内で確認済みの案件」と誤認しやすくなります。

攻撃者は、社内の経理担当者名や連絡先を事前に知らなくても、最初に接触した社員を使って送金権限を持つ人物へ到達できます。

複数人が同じ偽の前提を共有しているだけでは、複数承認は機能しません。送金依頼を受けたLINEグループとは別の連絡経路を使い、社長本人または正式な決裁者へ確認する必要があります。

メールアカウントの不正アクセスは確認されていない

公表された情報では、社長や従業員のメールアカウントが不正アクセスを受けたとの説明はありません。

攻撃者が社長名を表示名として設定したフリーメールを使用したのか、自社に似たドメインを取得したのか、正規アカウントを侵害したのかは不明です。送信元メールアドレスやメールヘッダーも公表されていません。

このため、本件を正規メールアカウントの乗っ取りと断定することはできません。公開情報で確認できるのは、業務用メールアドレスへ社長を名乗る偽メールが届き、LINEへ誘導されたことです。

岐阜県警は、着信メールのアドレスを確実に確認し、社長本人であれば普段利用しているメールアドレスから届くはずだと案内しています。

ただし、正規アカウントが侵害されるBECもあるため、送信元アドレスが正しいだけで送金指示を信用することはできません。高額送金や振込先の新規登録では、メールやチャット以外の経路による本人確認が不可欠です。

2026年に同じLINE誘導型の被害が全国で続く

2026年は、社長や代表者を装うメールからLINEグループを作成させ、経理担当者へ送金を指示する被害が全国で相次いでいます。

地域・組織 発生日 被害額 主な手口
群馬県前橋市の建設設備会社 2026年3月19日 5,000万円 社長を装うチャットから高額送金を指示
京都市中京区の貿易会社 2026年6月17日 5,880万円 社長を装いチャットグループを作成、当日に2回送金
和歌山市の企業 2026年6月18日 3,800万円 メールからSNSへ誘導し、経理担当者を追加して2口座へ送金
大分市の社会福祉法人 2026年6月29日 1,990万円 LINEグループへ経理担当者を追加し、2口座へ送金
鹿児島県内の2社 2026年6月 合計1,500万円超 社長名入りメールからSNSグループを作成
山口県内の法人 2026年7月20~21日 500万円 LINEで口座残高を確認し、翌日に送金
岐阜市の機械小売会社 2026年7月27日 4,500万円 QRコード返信、経理担当者追加、当日送金

国内6,000法人超を標的にしたLINE誘導型CEO詐欺では、同じ文面や誘導方法が多数の企業へ送られている状況を取り上げています。

京都市の貿易会社が5,880万円を送金した事案と、和歌山市の企業が3,800万円を送金した事案は、2日連続で発生しました。

大分市の社会福祉法人の1,990万円被害や、山口県内の法人の500万円被害も、業務メールからLINEへ移し、経理担当者へ送金を指示する構造が共通しています。

これらの事案は手口が似ていますが、同じ攻撃者や犯罪グループによるものかは確認されていません。同じシナリオが複数の犯罪者に共有・模倣されている可能性もあります。

2026年の不正送金事案全体については、ビジネスメール詐欺やなりすましチャットによる被害まとめでも整理しています。

同額の4,500万円が流出した上場企業の事例

岐阜市の事案とは手口の細部が異なりますが、2026年6月にはジェリービーンズグループがなりすましメールによる送金指示で4,500万円を流出させた事案も公表されています。

被害額は今回と同じ4,500万円です。同社は再発防止策として、送金手続きにおける本人確認、承認プロセス、経理業務の見直しを進めました。

企業の規模や上場・非上場を問わず、送金指示の確認がチャットやメール内だけで完結すれば、多額の資金が短時間で流出する可能性があります。

さらに、株式会社はてなが最大約11億円の虚偽送金指示を受けた事案では、詐欺被害が企業の業績、株価、ガバナンス評価へ直接影響しました。送金詐欺は経理担当者だけの問題ではなく、経営上の重大リスクとして扱う必要があります。

情報システム部門への示唆

情報システム部門は、メールセキュリティだけで今回の手口を防ごうとせず、財務・経理部門の送金手続きと一体で対策を進める必要があります。

LINEグループの作成、QRコードの返信、経理担当者の招待を役員から求めるメールを検知した場合は、警告または隔離するルールを設定してください。本文に口座番号や送金という単語がなくても、LINE、QRコード、グループ作成、部署、役職といった語句の組み合わせが手掛かりになります。

自社ドメインにはSPF、DKIM、DMARCを設定し、社外から役員名と同じ表示名を使って送信されたメールへ警告を付けます。ただし、技術的対策だけでは正規アカウントの侵害やフリーメールによる表示名詐称を完全には防げません。

一定額以上の送金、新規口座への振り込み、口座変更は、依頼者、承認者、実行者を分離してください。社長や役員からの緊急指示であっても、既知の電話番号へのコールバック、対面、会社が承認した別の経路で本人確認を行います。

受信したメールやLINEに記載された電話番号は確認先に使用しません。攻撃者が用意した連絡先へつながる可能性があるため、社内電話帳や既存の連絡先を使う必要があります。

業務でLINEを利用しない企業は、LINE上の送金指示を一律に無効とするルールを明文化してください。業務で利用する場合も、送金、残高、口座情報、認証情報を扱う用途から除外します。

インターネットバンキングでは、一人の担当者だけで振込登録から実行まで完了できない構成にします。作成者と承認者を分け、承認端末や認証要素も分離してください。

金融機関から不審送金の問い合わせを受けた場合に備え、誰が即時停止を判断し、社長、財務責任者、警察へ連絡するかを決めておきます。送金後に詐欺へ気付いた場合は、社内調査の完了を待たず、金融機関へ組戻しと送金先口座の凍結を依頼することが重要です。

訓練では一般的なフィッシングメールだけでなく、「LINEグループを作ってQRコードを送ってほしい」という実際の文面を使用してください。従業員がメールを見破れなかった場合でも、経理の承認手続きで止められるかを確認する必要があります。

出典