
ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の認証取得を目指す際、多くの企業が直面するのが「何から始めればいいのかわからない」「専門用語が難解で対応できない」「どこまで準備すれば審査に通るのか不明」といった課題です。こうした悩みに応える手段のひとつが、ISMS認証取得を支援するコンサルティングの活用です。
しかし、「コンサルに頼むといくらかかるの?」「どこまでやってくれるの?」「自社に本当に必要なのか?」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
本記事では、ISMSコンサルティングの主な支援パターンを4タイプに分け、それぞれの支援内容や向いている企業像、費用の目安について詳しく解説します。コンサルを選ぶ際のポイントや注意点も紹介していますので、自社に最適な支援スタイルを見つける参考にしてください。
目次
ISMS認証取得でよくある課題
ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の認証取得は、企業の信頼性を高める上で大きな意味を持ちます。しかし、実際に取得を目指す企業、とくに初めてISMSに取り組むスタートアップや中堅企業では、次のような悩みに直面することが少なくありません。
期日が決まっているのに、何から始めればいいかわからない
ISMSを取得する目的としてよくあるのが、取引先からの要請や、パートナー契約の条件として「◯月までに取得しておく必要がある」というケースです。限られた期間で構築から審査対応まで完了させなければならないにもかかわらず、社内にノウハウがなく準備が進まずに、焦りばかりが募ってしまいます。
情報セキュリティの専門用語や規格が難解
自力でISMSの取り組みに着手したとしても、ISO/IEC 27001という国際規格に基づいた対応が求められるため、附属書Aとは何か、リスクアセスメントの基準はどうすればいいのか、など、用語や考え方の壁にぶつかる担当者も多くいます。
特に総務部門や情シスでISMSを初めて担当する人にとっては、ガイドラインの読み解きだけでも一苦労です。
何を、どこまでやれば合格できるのかわからない
ISMSは単なる書類審査ではなく、社内の体制構築やルール整備、リスク評価、内部監査などの仕組みづくりが求められます。
しかし、このレベルの文書で審査は通るのか、どこまでリスクを洗い出す必要があるのかなど、ゴールの基準が見えづらいため、手探りで進めることになりがちです。
このような課題を抱える企業にとって、ISMSコンサルの活用は有効な手段のひとつです。とはいえ、どんな支援があるのか、いくらかかるのか、自社に本当に必要なのかといった判断材料がなければ、依頼すべきかどうかも迷ってしまいます。
本記事では、ISMS認証取得におけるコンサルの支援内容とその費用の相場について、解説していきます。
ISMS認証取得コンサルがしてくれること
ISMS認証取得におけるコンサルティングサービスと一口に言っても、その支援内容や関わり方には幅があります。全部丸投げできるタイプから、自力で進めつつ必要な時だけアドバイスがもらえるタイプまで、目的や予算、社内リソースに応じて選ぶことができます。
逆に言えば、コンサルに何を期待するのかが明確でなければ、自社に合ったコンサルティングを受けられないため、事前によく整理しておくことが重要になります。
ここでは、コンサルティングサービスを大きく4つの支援パターンに分けて紹介します。
フルサポート
このパターンでは、初期ヒアリングから文書作成、リスクアセスメント、内部監査、審査対応までを専任コンサルタントが手厚く支援します。場合によっては審査機関とのやりとりも代行してくれることがあり、実質的には「社外情報セキュリティ担当」として並走してもらえるイメージです。
導入から運用までの流れが体系化されており、「何をすべきかが常に明確」という点でも安心感があります。初めてISMSに取り組む企業はもちろん、複雑な業務フローを持つ企業に向いています。
さらには、認証取得後の運用部分を任せられるBPOサービスを提供している会社もあります。費用は他の支援パターンに比べて高くなる傾向がありますが、社内の人的リソースを最小限にすることができることが特徴です。
アドバイザリーと一部作業代行
このパターンは、社内で担当者が主導しつつ、ポイントごとにコンサルからのアドバイスや一部作業の代行を受けるスタイルです。
例えば、リスク評価の進め方だけレクチャーしてもらう、内部監査だけ代行してもらうなど、柔軟な支援形態が特徴です。
費用もフルサポートより抑えられる傾向があり、限られた予算内で、できる限り品質を担保したいという企業や、現状はISMS経験者がいないものの、今後専任者を任命する予定の企業に向いています。
テンプレート提供と最小限のアドバイス
このパターンでは、文書テンプレートや記録フォーマットを提供してくれるのみで、実作業は基本的に自社で対応します。
問い合わせ対応や、月1回のミーティング程度の支援がついてくるケースもありますが、細かいレビューや指導は対応してもらえないことが多いのが特徴です。
一定の情報セキュリティ知識やISMSの実務経験が社内にある場合には、コストを抑えながら自力で取得を目指せる現実的な選択肢になります。
ほかのパターンと比べると費用は抑えられますが、思っている以上にサポートが少ない可能性もあるため、安さのみで選ぶのは絶対にやめましょう。
クラウドサービスによる自走
近年増えてきたパターンとして、ISMS対応のためのクラウドツールを活用するパターンがあります。規程作成、リスク管理、教育管理、内部監査などのプロセスをシステム上でガイド付きで実施でき、ExcelやWordなどのドキュメントを利用するよりも文書類の管理がしやすいのが最大の特徴です。
コンサルタントによるサポートはオプションになっていることも多く、基本的には自社内で自走するスタイルになるため、担当者がツールのガイドを理解し、主体的に進める姿勢が求められます。その分、費用は抑えられますが、本当に自走が可能かは事前に検討した方が良いでしょう。
このように、ISMSコンサルには多様な形がありますが、コンサル = 全部やってくれる人、ではないことをまず認識しておきましょう。
自社の体制や目標に合った支援パターンを知ることが、ミスマッチを防ぐ第一歩となり、結果的に一番費用対効果を高くすることができます。
パターンごとの費用相場
ISMS認証取得のコンサルティングは、支援範囲の広さや、コンサルタントが関与するのか、ツールを活用するのか、それらがどの程度深く関わるのかによって、費用が大きく異なります。
先ほど紹介した4つの支援パターンごとに、一般的な費用相場と向いている企業や状況について紹介します。
ここで紹介する相場は、スタートアップや中小企業が依頼する場合の目安です。部門数が多くなれば、支援の工数が増加するため費用も増加する傾向にあることには注意してください。
支援パターン | 費用目安 | 向いている企業・状況 |
フルサポート | 120〜200万円 | 社内にノウハウがなく、確実に取得したい。作業などもできるだけコンサルにやってもらいたい。 |
アドバイス中心と一部作業代行 | 50〜120万円 | 自社主導で進めつつ、要所で支援がほしい。 |
テンプレート提供と最小限のアドバイス | 30〜70万円 | ISMS経験者が社内におり、最低限の支援で済ませたい。 |
クラウドサービスによる自走 | 初期10〜30万+月額2〜3万程度 | ITリテラシーが高く、内製化したい。ドキュメントから解放されたい。 |
選定のコツと注意点
ここまでISMS認証取得の支援パターンと費用相場を紹介してきましたが、実際にどれを選べばいいのかとなると、迷う方も多いと思います。
ここからは、コンサルや支援サービスを選定する際のポイントと注意点を解説します。
コンサルに頼るべきかを判断する
そもそもコンサルを使うかどうかは、社内にISMSの構築経験者がいるか、取得期限に余裕があるか、自社で今後もISMSを運用していきたいかの3点で判断できます。
社内にISMSの構築経験者がいないにもかかわらず自力でISMSを構築して認証取得を目指すのは、担当者に相当の胆力が求められます。このような場合、コンサル支援を活用するのは有効でしょう。
次に、取得期限に余裕があるかどうかですが、時間的余裕がない場合には、自力での取得やツールのみの利用ではなく、コンサルの支援を活用するのが安全です。
最後に、ISMS構築後の運用を内製化する想定があるかどうかですが、内製化する場合であっても、コンサルタントによる支援は有効です。ただし、フルサポートよりも、ある程度自分たちで手を動かしながら取り組みを進めることをお勧めします。そうでなければ、いざ内部の人だけで運用したくとも、実際にやってないからわからない、という事態になりかねません。
コンサルに依頼するときは、支援のフィット感で選ぶ
価格だけで選んでしまうと、途中でコンサルタントと合わないと感じることもあります。以下のようなポイントで比較すると、自社に合った支援形態が見えてきます。
次の3つは、コンサル企業を選ぶときに注意しましょう。
- 安さだけで選んでしまう:安いからという理由だけで安易にコンサル企業を選ぶと、必要な対応をしきれず結果的に自社での手戻りが多くなり、時間もコストもかかることがあります。
- 想定している支援内容と異なる:テンプレート提供が中心のコンサル企業にアドバイスを期待してしまったり、逆にテンプレート提供で十分なのに作業の引き受けまで提案されてしまうと、期待通りの費用対効果が見込めなくなってしまいます。
- 取得後の運用まで見据えていない:アドバイスの内容が認証取得のことしか考えていない場合は、その後の運用で大きな負担がかかったり、放置してしまい形だけのISMSになってしまったりする可能性があります。
※ISMS認証取得を外部に委託する際のポイントを、こちらの記事で詳しく解説しています。
また、実際にコンサルがどのような支援をしてくれるか、支援内容の実例と注意点については、こちらの記事をご覧ください。
コンサルの特徴と費用感を理解して、最適な支援を選ぼう
ISMS認証の取得は、情報セキュリティに取り組む企業としての信頼性を示すうえで、今や不可欠な取り組みとなっています。
しかし、いざ始めようとすると何をすればいいのか、どこまで社内でできるのか、コンサルティングはいくらかかるのか、という悩みにぶつかる方も多いはずです。
本記事では、そのような疑問を解消するため、ISMSコンサルの支援内容を4つのパターンに分類し、それぞれの支援範囲・特徴・費用相場を整理しました。
なるべくコストを抑えたい、とにかく確実に取得したい、ISMSを自社に根付かせたいなど、企業ごとに事情や目的は異なります。だからこそ、価格だけではなく支援の形が自社に合っているかどうかを基準に選ぶことが、失敗しないコンサル選びのポイントとなります。
コンサルを活用することで、ISMS認証取得のハードルは大きく下がります。一方で、最終的には社内での理解と運用体制の確立が成功の決め手となります。
今回ご紹介した内容を参考に、あなたの会社にとってベストな支援スタイルはどれか、一度考えてみてはいかがでしょうか。