ベルギー連邦検察、NATO欧州連合軍最高司令部(SHAPE)の中国系カナダ人インターンをスパイ容疑で逮捕

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ベルギー連邦検察は2026年7月25日、NATO(北大西洋条約機構)の欧州連合軍最高司令部(SHAPE、モンス市所在)でインターンとして働いていた中国系カナダ人の女を、第三国のためのスパイ活動と犯罪組織への参加の疑いで逮捕したと発表しました。逮捕の端緒は、SHAPEの保安部門が女の行動を不審に思い、ベルギー軍情報保安総局(SGRS)に通報したことでした。連邦検察は事件を直ちに管轄下に置き、シャルルロワの連邦司法警察(PJF)に捜査を委ねています。7月23日に女の自宅とSHAPEの職場が捜索され、24日に予審判事がスパイ活動と犯罪組織参加の容疑で逮捕状を発付しました。捜索にはコンピュータ犯罪ユニット(CCU)も参加しており、事案がサイバー領域に及ぶ可能性が示唆されています。ベルギー国防相テオ・フランケン氏は関係機関の警戒を評価するコメントを出しています。

サマリー

  • ベルギー連邦検察が2026年7月25日、SHAPEの中国系カナダ人インターンをスパイ容疑で逮捕と発表
  • 容疑は第三国のためのスパイ活動と犯罪組織への参加
  • SHAPEはモンス市にあるNATOの最高軍事司令部(連合軍作戦司令部の拠点)
  • 端緒はSHAPE保安部門が不審な行動を察知し、ベルギー軍情報保安総局(SGRS)へ通報
  • 7月23日に自宅とSHAPE職場を捜索、24日に予審判事が逮捕状を発付
  • 捜索にはコンピュータ犯罪ユニット(CCU)と科学捜査部門が参加
  • SHAPEは作戦即応性・指揮統制・任務に影響はなく業務は中断なく継続と説明
  • どの第三国・どの犯罪組織のためのスパイ活動かは非公開
  • 容疑者の氏名は捜査継続中のため公表されず

項目 内容
発表日 2026年7月25日(ベルギー連邦検察)
逮捕日 2026年7月24日(予審判事が逮捕状発付)
捜索日 2026年7月23日(自宅およびSHAPE職場)
容疑者 中国系カナダ人の女性(氏名非公表)
立場 SHAPEのインターン
容疑 第三国のためのスパイ活動、犯罪組織への参加
発覚の端緒 SHAPE保安部門がSGRSへ通報
捜査担当 シャルルロワ連邦司法警察(PJF)、予審判事は第一審裁判所エノー県モンス支部
参加部門 コンピュータ犯罪ユニット(CCU)、シャルルロワ・モンスの科学捜査部門
SHAPEへの影響 作戦・指揮統制・任務に影響なし

何が起きたか―SHAPE保安部門の通報から逮捕へ

ベルギー連邦検察の発表によると、逮捕された中国系カナダ人の女性は、NATOの欧州連合軍最高司令部(SHAPE)でインターンとして勤務していました。連邦検察は声明で「彼女は第三国のためのスパイ活動を行い、犯罪組織の一員であった疑いがある」と述べています。

事件が明るみに出た端緒は、SHAPEの内部でした。ベルギー現地報道および連邦検察の声明によると、容疑者はSHAPEの保安部門の注意を引く行動をとっており、同部門がその事実をベルギー軍情報保安総局(SGRS)に通報しました。スパイ活動は連邦検察の管轄事項であるため、連邦検察が直ちに事件を引き受け、捜査をシャルルロワの連邦司法警察(PJF)に委ねています。スパイ活動と犯罪組織への参加という容疑で初期調書が作成され、事件はその後、第一審裁判所エノー県モンス支部の予審判事に委ねられました。

複数の捜査上の手続きを経て、2026年7月23日木曜日にシャルルロワの連邦司法警察による作戦が実施されました。この作戦には、コンピュータ犯罪ユニット(CCU)やシャルルロワおよびモンスの科学技術捜査部門を含む複数の連携部門が支援に加わっています。捜索は容疑者の自宅とSHAPEの職場で行われ、翌24日金曜日、予審判事がスパイ活動と犯罪組織参加の容疑で容疑者を逮捕・勾留する決定を下しました。

連邦検察は、この作戦の成功はSGRS、SHAPE、連邦司法警察の効果的な協力の結果だとしています。そして、捜査が継続中であり捜査の利益のため、それ以上の情報開示は差し控えるとしています。容疑者の氏名や、どの第三国・どの犯罪組織のためのスパイ活動だったのかについては明らかにされていません。

SHAPEとは―NATOの最高軍事司令部

今回の事案の重大性を理解するには、舞台となったSHAPEの位置づけを押さえる必要があります。

SHAPE(Supreme Headquarters Allied Powers Europe、欧州連合軍最高司令部)は、ベルギー南部のモンス市に置かれたNATOの最高軍事司令部です。連合軍作戦司令部(Allied Command Operations)の拠点であり、32か国から成る大西洋横断的な安全保障同盟であるNATOのすべての作戦の計画立案と実行を担う中枢機関です。

つまり、NATOの軍事作戦の心臓部に、第三国のために活動していた疑いのある人物がインターンとして入り込んでいたことになります。インターンという立場は組織の末端に見えますが、司令部内部の物理的なアクセスや、日常業務を通じた情報への接触が可能であり、諜報活動の拠点としては看過できないリスクを持ちます。

SHAPE側の説明―作戦への影響はなし

事案の重大性にもかかわらず、SHAPEは自組織の機能への影響を否定しています。

SHAPEの報道官は、NATOまたはSHAPEの作戦即応性、指揮統制の体制、あるいは進行中の任務が影響を受けたという兆候はないと述べました。「SHAPEは中断することなく職責を果たし続けている」としています。

この説明は、被害の封じ込めが完了していることを示すと同時に、インターンがアクセスできる情報の範囲が限定的であった可能性も示唆しています。ただし、実際にどの程度の情報が第三国に渡ったのかは、今後の捜査で明らかになる部分です。国家安全保障の観点からは、たとえ作戦中枢の機密が守られていたとしても、司令部の人的構成、内部の運用手順、施設のセキュリティ体制といった情報が漏れること自体が、長期的な脅威となり得ます。

ベルギー政府の反応と背景

ベルギー国防相のテオ・フランケン氏(N-VA)は、ベルギー通信社ベルガに寄せた反応の中で、関係機関の警戒を評価する姿勢を示しました。SHAPEの保安部門が不審な行動を早期に察知し、情報機関への通報から逮捕まで比較的短期間で対応が進んだ点は、防諜体制が機能した事例として位置づけられています。

この事案は、欧州における中国の諜報活動をめぐる懸念が高まる中で発生しました。ベルギーでは近年、中国が関与したとされる諜報・サイバー事案が相次いで報じられています。ベルギー連邦議会外交委員会の委員長を務めるエルス・ファン・ホーフ氏は、2021年に中国のスパイに自身のノートパソコンをハッキングされていたことが後に判明したと公表しました。また、ベルギー連邦検察は、2023年11月にベルギーの情報機関VSSEが中国の関与が疑われるハッキングを受けたとされる事案についても捜査を開始しています。今回のSHAPEインターンの逮捕は、こうした一連の対中防諜の流れの中に位置づけられます。

なお、逮捕された女性がカナダ国籍であることから、カナダ政府も反応を示しています。カナダの公安省はCBCニュースに対し、捜査中であるため詳細についてコメントできる立場にないとしつつ、「カナダ政府のすべての法執行機関と情報機関は、ベルギーでの逮捕に関連して説明されたような脅威関連の活動に対処するうえで支援となるパートナー機関と強固な関係を維持している」と説明しています。

経済安全保障・組織防衛の観点から

この事案は日本の組織にとっても示唆に富んでいます。国家安全保障に直結する諜報事案ですが、その手口の入り口は「インターン」という、どの組織にも存在する一般的な受け入れ形態でした。

第一に、内部要員による脅威(インサイダーリスク)の管理です。今回、機密性の高い組織の中枢に、第三国のために活動する人物が正規の立場で入り込んでいました。外部からのサイバー攻撃と異なり、正規のアクセス権を持つ内部要員による情報持ち出しは、技術的な防御では捕捉が困難です。今回の発覚が、技術的検知ではなくSHAPE保安部門による行動の観察に端を発している点は重要です。人の行動を注視する防諜的な視点が、内部脅威の検知において依然として有効であることを示しています。

第二に、短期・臨時要員のアクセス管理です。インターン、業務委託、派遣といった短期的な立場の要員に対して、業務に必要な最小限の情報アクセスに限定する原則(最小権限の原則)の徹底が求められます。受け入れ時のバックグラウンドチェック、アクセス範囲の明確な設定、そして退任時の権限失効を確実に行う仕組みが、この種のリスクを低減します。

第三に、捜査にコンピュータ犯罪ユニット(CCU)が関与している点です。現代の諜報活動は物理的な文書の持ち出しにとどまらず、デジタルデータの窃取やサイバー領域での活動を伴うことが一般的です。組織における情報アクセスのログ管理、外部への異常なデータ送信の監視、記憶媒体の持ち込み・持ち出し制御といった技術的な統制が、諜報活動の検知と事後の立証の両面で重要になります。

ベルギー連邦検察は、捜査の継続と捜査の利益を理由に、今後は追加の情報発信を控えるとしています。第三国の特定や具体的な諜報活動の内容など、事案の全容が明らかになるには時間を要する見通しです。


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