
2025年4月、米国のピート・ヘグセス国防長官が、エンドツーエンド暗号化メッセージアプリ「Signal(シグナル)」を使って、イエメンでの空爆に関する機密情報を複数のプライベートチャットで共有していたことが報じられ、政権内外に波紋が広がっています。
報道によると、このやり取りには妻や兄弟、顧問弁護士が含まれており、正式な政府チャネルを経由せず、個人スマートフォンから情報が発信されていたとされています。
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何が問題だったのか:Signal経由の“非公式な共有”
事の発端は、2025年3月に行われたイエメンのフーシ派への空爆作戦において、ヘグセス氏が個人端末でフーシ派への空爆直前の詳細な時間情報を、妻や兄弟、顧問弁護士が含まれる非公式なSignalグループチャットで複数回共有していたことが明るみに出たことです。これにより、仮にその情報が第三者に傍受された場合、米軍パイロットの命に関わる事態にもなりかねない状況でした。
また、別のチャットでは誤ってジャーナリストが含まれていたことも明らかになっており、情報流出の懸念は「シグナルゲート」としてと呼ばれさらに高まっています。
なお、ヘグゼス氏「メディアはこういうことをするものだ。不満を抱えた元社員から匿名の情報を得て、人々を徹底的に攻撃し、評判を貶めようとする。私には通用しない」と彼は一連の疑惑を否定しています。
防衛省職員による“スマホ利用の盲点”
今回の件では、「機密情報を個人所有のスマートフォンからエンドツーエンド暗号化アプリで発信する」という行為そのものが強く問題視されています。政府関係者の情報管理においては、公式回線や暗号化VPNを利用するのが原則ですが、**Signalのような民間向けアプリは、暗号化されているがゆえに逆に管理の手が届かない“ブラックボックス”**となってしまうのです。
米ペンタゴン自身もこの直後に「Signalがハッカーの標的となっている」と警告を発しており、非公式チャネルでの通信に対する懸念は現実のリスクとして広がっています。
政権内の混乱と内部抗争
この問題を受けて、複数の国防省上級顧問が相次いで辞任または更迭され、「ペンタゴンは内紛状態にある」との批判も噴出。
中でも、元広報官ジョン・ウリオット氏は「省内は混乱の極みにある」とし、政治的動機による情報操作と責任転嫁の連鎖を非難しました。
一方、ホワイトハウス側は公式にはヘグセス氏を擁護し、トランプ大統領は「フーシ派に聞いてみろ、彼は素晴らしい仕事をしている」と発言。このように政権内部では、情報漏洩と国家安全保障の境界が曖昧になりつつある様相を呈しています。
政治的背景:経験なき人材の起用リスク
事件の背後には、ヘグセス氏がかつてテレビ司会者であり、大規模な官僚組織の指揮経験が乏しいという構造的な課題も指摘されています。上院軍事委員会の民主党議員ジャンヌ・シャヒーン氏は「人事の責任は大統領にある」と明言し、任命者としてのトランプ氏を強く批判しました。
日本企業・組織への示唆:チャットアプリの“見えないリスク”
この件は米国の防衛行政における一事件に見えますが、日本企業や官公庁にとっても極めて身近で深刻な教訓を含んでいます。
「安全なアプリ」でも運用が甘ければ脆弱に
Signalは強力な暗号化機能を持ち、多くのセキュリティ専門家からも高く評価されています。しかし、個人端末×非公式利用×誤送信という条件が揃うことで、安全な設計が逆に組織的な可視性を奪う要因となるのです。
「暗号化されているから安全」ではない
通信の秘匿性は確保できても、誰に送っているか、どんな経路で情報が動いているかといった運用管理の設計がなければ意味がないということを、今回の事件は浮き彫りにしています。
経営者層の情報リテラシーが問われる時代
特に経営層や政策決定者の情報リテラシーと、IT部門による技術的・制度的なガイドラインの整備は不可欠です。「知らずに漏れていた」「意図せず記者に届いていた」といった事故を防ぐためには、技術・運用・教育の三本柱が求められます。
一部参照
https://www.npr.org/2025/04/21/nx-s1-5371312/trump-white-house-pete-hegseth-defense-department