情報セキュリティの脅威とは?リスクとの違いも解説

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情報セキュリティの脅威とは?リスクとの違いも解説

情報セキュリティに取り組む際、「脅威」と「リスク」という言葉が頻繁に登場します。この2つは混同されやすいですが、セキュリティ対策を適切に講じるためには、それぞれの意味と違いを正確に理解することが欠かせません。 本記事では、情報セキュリティにおける脅威の定義と種類を整理した上で、リスクとの違いを具体例を交えて解説します。これらの概念を正しく理解することで、自社に必要な対策の優先順位付けや、経営層への説明がより的確に行えるようになります。

情報セキュリティの脅威とは

脅威の定義

情報セキュリティにおける「脅威」とは、情報資産に対して損害や悪影響を与える可能性のある事象や行為のことを指します。ISO 27000では、脅威を「システムまたは組織に損害を与える可能性のある、望ましくないインシデントの潜在的な原因」と定義しています。

重要なのは、脅威はあくまで「可能性」であり、実際に被害が発生したかどうかとは別の概念だという点です。たとえば、マルウェアの存在自体が脅威であり、実際に感染してデータが流出した場合は「インシデント」や「被害」と呼ばれます。

脅威の3つの分類

脅威は発生源によって大きく3つに分類できます。

意図的脅威(人為的・故意)

悪意を持った人間による攻撃や不正行為が該当します。サイバー攻撃、内部不正、産業スパイなどがこれにあたります。攻撃者は金銭的利益、機密情報の窃取、業務妨害など明確な目的を持って行動するため、対策も攻撃者の動機や手法を想定したものが求められます。

偶発的脅威(人為的・過失)

悪意はないものの、人間のミスや不注意によって発生する脅威です。メールの誤送信、設定ミス、USBメモリの紛失、パスワードの使い回しなどが代表例です。従業員教育や業務プロセスの見直しによって発生頻度を下げることが可能ですが、完全にゼロにすることは困難です。

環境的脅威(非人為的)

自然災害や設備の故障など、人間の行為とは関係なく発生する脅威です。地震、台風、洪水、火災、停電、ハードウェアの経年劣化などが含まれます。発生を防ぐことはできませんが、バックアップや冗長化、事業継続計画(BCP)によって被害を最小限に抑えることが可能です。

代表的な脅威の具体例

IPA(情報処理推進機構)が毎年発表する「情報セキュリティ10大脅威」は、日本における脅威の動向を把握する上で参考になります。

組織向けでは、「ランサム攻撃による被害」が6年連続で1位となっており、ランサム攻撃が最も深刻な脅威として認識され続けていることがわかります。攻撃者がデータを暗号化して身代金を要求するだけでなく、窃取したデータを公開すると脅す「二重脅迫」の手口が主流となっています。また、2026年版では「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初選出で3位に入りました。生成AIの普及に伴い、AIを悪用した攻撃の高度化や、従業員による生成AIへの機密情報の入力など、新たな脅威への関心が高まっていることを示しています。

個人向けでは、「フィッシングによる個人情報等の詐取」が8年連続で選出されており、この攻撃手法が依然として広く蔓延していることを示しています。SMSを使ったスミッシングや、実在する企業を精巧に模倣した偽サイトなど、見分けることが難しい手口が増加しています。

リスクとは

リスクの定義

情報セキュリティにおける「リスク」とは、脅威が脆弱性を突いて実際に損害を発生させる可能性と、その影響度を組み合わせた概念です。ISO 27000では「目的に対する不確かさの影響」と定義されていますが、より実務的には「脅威が顕在化した場合に、どの程度の損害が、どの程度の確率で発生するか」と理解するとわかりやすいでしょう。

リスクを構成する3つの要素

リスクは以下の3つの要素から成り立っています。

脅威(Threat

前述のとおり、情報資産に損害を与える可能性のある事象や行為です。

脆弱性(Vulnerability

脅威に対する弱点や欠陥のことです。ソフトウェアのセキュリティホール、設定の不備、従業員のセキュリティ意識の低さ、物理的なセキュリティの甘さなどが該当します。脆弱性が存在しなければ、脅威があっても被害は発生しません。

情報資産(Asset

組織にとって価値のある情報やそれを扱うシステムのことです。顧客データ、技術情報、財務情報、業務システムなどが含まれます。守るべき資産が明確でなければ、適切な対策を講じることはできません。

この脅威と脆弱性の組み合わせにより情報資産に与える影響が、情報セキュリティにおけるリスクといえます。

リスクの大きさを評価する際には、一般的に「発生可能性」と「影響度」の2軸で判断します。発生可能性は脅威が顕在化する確率、影響度は顕在化した場合の損害の大きさを指します。

脅威とリスクの違い

概念的な違い

脅威とリスクの最大の違いは、脅威が「外部または内部から発生する潜在的な危険要因」であるのに対し、リスクは「その脅威が実際に損害をもたらす可能性と影響度」を評価した結果である点です。

脅威は存在そのものの有無で捉えますが、リスクは「高い」「中程度」「低い」といった程度で表されます。また、脅威は基本的に組織がコントロールできないものが多いのに対し、リスクは脆弱性への対策によってコントロールが可能です。

具体例で理解する違い

例として、「従業員がフィッシングメールを受信する」という状況を考えてみましょう。

フィッシングメールの送信自体は「脅威」です。攻撃者が存在し、メールを送ってくることを組織が止めることはできません。

一方、リスクの評価は脆弱性の程度や、情報資産の価値によって変わります。たとえば、脆弱性の程度としては、従業員がフィッシングを見分ける訓練を受けているか、メールフィルタリングが適切に機能しているか、などです。情報資産の価値としては、騙された場合にアクセスされる情報の重要度が該当します。

同じ脅威であっても、セキュリティ教育が徹底されている組織と、まったく行われていない組織では、リスクの大きさは大きく異なります。

もう一つ例を挙げましょう。「地震の発生」は環境的脅威です。これは日本にいる限りすべての組織に共通して存在します。しかし、リスクの大きさは組織によって異なります。データセンターを耐震設計の建物に設置し、遠隔地にバックアップを保持している組織と、単一拠点でバックアップもない組織では、同じ脅威に対するリスクは全く異なります。

なぜ区別が重要なのか

対策の優先順位付け

脅威とリスクを区別することで、限られたリソースを効果的に配分できます。脅威だけを見ていると、すべての脅威に対応しようとして対策が分散してしまいます。リスク評価を行うことで、自社にとって本当に対処すべき優先度の高い領域が明確になります。

例えば、高度なAPT攻撃(持続的標的型攻撃)は深刻な脅威ですが、特定の業種や規模の企業でなければ標的になる可能性は低いかもしれません。そのような組織がAPT対策に多大なコストをかけるよりも、発生頻度の高いフィッシングや内部不正への対策を優先した方が合理的です。

経営層とのコミュニケーション

セキュリティ担当者が経営層に予算や対策の必要性を説明する際、脅威の存在だけを伝えても説得力に欠けます。「こんな攻撃があります」だけでなく、「当社ではこの脅威に対してこれだけの脆弱性があり、顕在化した場合の被害額は推定でいくらになる」というリスクベースの説明ができれば、意思決定を促しやすくなります。

対策の効果測定

リスクという概念があることで、対策の効果を定量的に評価できます。「脆弱性を減らすことでリスクがどれだけ低減したか」という観点で対策の投資対効果を測定できるため、継続的な改善活動が可能になります。

実務での活用:リスクアセスメントの基本

脅威とリスクの違いを理解したら、実務ではリスクアセスメントというプロセスでこれらを活用します。基本的な流れは以下のとおりです。 まず、守るべき情報資産を洗い出し、それぞれの重要度を評価します。次に、各資産に対する脅威を特定します。すべての脅威を網羅する必要はなく、自社の事業や環境に関連性の高いものに絞ることが現実的です。続いて、各脅威に対する脆弱性を洗い出します。既存の対策がどの程度有効か、どこに弱点があるかを確認します。 ここまでは定性的な洗い出しです。次に、洗い出した内容をもとに、リスクの大きさを「発生可能性」と「影響度」の2軸で評価します。 例えば、ある企業で「従業員がフィッシングメールに騙されて認証情報を窃取される」というリスクを評価する場合を考えてみましょう。脅威は「フィッシング攻撃」、脆弱性は「従業員のセキュリティ意識」「メールフィルタリングの精度」などです。発生可能性は、過去にフィッシングメールがどの程度届いているか、従業員が訓練を受けているかなどから判断します。影響度は、窃取された認証情報でアクセスできるシステムや情報の重要度から判断します。この2つを掛け合わせてリスクの大きさを算出し、許容できるレベルを超えているものについて対策を検討します。

リスク対応の選択肢としては、リスクの低減、リスクの移転、リスクの回避、リスクの受容の4つがあります。先ほどのフィッシングの例で考えてみましょう。 リスクの低減は、対策を実施して発生可能性や影響度を下げることです。従業員へのセキュリティ教育の実施、メールフィルタリングの強化、多要素認証の導入などが該当します。 リスクの移転は、リスクを第三者に移すことです。サイバー保険への加入や、メールセキュリティの運用を専門業者に委託することなどが考えられます。 リスクの回避は、リスクの原因となる活動自体をやめることです。この例では「メールの利用をやめる」ということになりますが、業務上現実的ではありません。このように、リスク回避は選択肢として存在しても、実際には取れないケースが多くあります。 リスクの受容は、対策コストと比較してリスクをそのまま許容することです。例えば、影響度が極めて低い情報しか扱わない部門であれば、追加対策を見送るという判断もあり得ます。 すべてのリスクをゼロにすることは不可能であり、これらの選択肢を組み合わせながら、経営判断として最適なバランスを取ることが重要です。

まとめ

情報セキュリティにおける脅威とは、情報資産に損害を与える可能性のある事象や行為であり、意図的脅威、偶発的脅威、環境的脅威の3つに分類されます。一方、リスクは脅威、脆弱性、資産価値の3要素から成り立ち、実際に損害が発生する可能性と影響度を評価した概念です。

この2つを正しく区別することで、対策の優先順位を適切に判断でき、経営層への説明も説得力を持たせることができます。自社を取り巻く脅威を把握した上で、脆弱性と資産価値を考慮したリスク評価を行い、合理的なセキュリティ投資につなげていくことが重要です。