米司法当局は、ランサムウェア被害企業を支援する立場にあった交渉担当者が、逆にALPHV、いわゆるBlackCat側の共謀者へ交渉情報を流し、身代金の最大化に加担していたとする訴追文書を公開しました。対象となったのはフロリダ州在住のAngelo Martino被告で、米フロリダ南部地区連邦地裁に提出された訴追文書では、2023年4月ごろから2025年4月ごろにかけて、州際通商に対する恐喝共謀に加わったとされています。
概要
文書によると、Martino被告はシカゴに拠点を置くサイバーインシデント対応会社 Company 1 において、ランサムウェア交渉担当として勤務していました。その一方で、Ryan Clifford Goldberg被告、Kevin Tyler Martin被告らと共謀し、被害組織のネットワークへ不正侵入し、データ窃取と暗号化、そして暗号資産による身代金要求を行っていたとされています。訴追文書は、ALPHV BlackCatが2021年後半以降に世界中の組織を攻撃したランサムウェアであり、医療機関、学区、法律事務所、金融機関などに被害を与えていたと説明しています。
交渉担当が両面で動いていた 点
今回の事案が衝撃的なのは、Martino被告が単に攻撃側の一員だっただけではなく、被害企業の交渉窓口として選任された案件でも、BlackCat側へ機密情報を渡していたと訴追されている点です。訴追文書では、Martino被告が Company 1 の交渉担当としてランサム交渉を進める一方、共謀者へ direction and confidential information を提供し、身代金額を最大化する見返りとしてその一部を受け取っていたとされています。
直接的なサイバー攻撃にも関与したとされる
文書はさらに、Martino被告がGoldberg被告、Martin被告とともに、少なくとも複数の被害組織に対しALPHV BlackCatランサムウェアを展開したとも主張しています。例えば、フロリダ州タンパの医療機器企業とされる Victim 6 では、約1000万ドルの身代金を要求し、最終的に約127万4000ドル相当の暗号資産が支払われたとされています。ほかにも無人航空システム製造企業、エンジニアリング企業、製薬企業、医師事務所などが被害先として列挙されており、Martino被告らはデータ窃取とサーバー暗号化によって経済的損失への恐怖を生じさせたとされています。
少なくとも5件で被害企業側の交渉に関与
訴追文書では、Martino被告が交渉担当として関与しながら、攻撃側へ情報提供していた例として5件が具体的に挙げられています。被害企業はホスピタリティ企業、非営利組織、金融サービス企業、小売企業、医療企業で、これらはいずれも米国内で事業を行う組織とされています。文書によると、それぞれの案件で最終的に支払われた身代金は約1648万4000ドル、約2679万3000ドル、約2566万ドル、約610万ドル、約21万3000ドルで、5件合計では7525万ドル超に達します。被告は、こうした交渉の最中に共謀者へ情報を渡し、支払額を引き上げる方向で助言したと訴追されています。
日本ではランサムウェア交渉グループの活用は勧めない
今回の事案を踏まえると、日本国内ではランサムウェア交渉人を利用する事はお勧めしません。
攻撃者と実際に渡り合えるだけの技術的理解と実務経験を備えた人材は極めて限られており、単に身代金の減額交渉を行うだけでは、攻撃者の意図や侵害範囲、復旧可能性を正しく見極められないおそれがあります。
また、そもそも金銭を支払ったとしても、復号鍵が正常に提供される保証はなく、窃取データの削除や再流出防止も担保されません。支払いによって被害が終息するとは限らず、むしろ再攻撃や追加恐喝を招く可能性すらあります。
また、今回の米国の訴追文書が示したように、被害対応に関与する立場の人間が攻撃側へ情報を流していた疑いも現実に起きています。外部の交渉支援会社を使う場合でも、その担当者が本当に被害企業側だけを向いているのかは、企業からは見えにくいのが実情です。こうした事情を踏まえると、日本企業としては、交渉そのものに過度な期待を置くのではなく、初動封じ込め、証拠保全、バックアップからの復旧、関係当局との連携、再発防止の徹底を軸に対応を組み立てるべきです。








