米大手ネットワーク機器メーカーのCisco(シスコ)において、内部の開発環境が不正アクセスを受け、ソースコードが流出する重大なインシデントが発生しました。
複数の米国サイバーセキュリティメディアの最新の報道によると、このインシデントの根本原因は、広く利用されているコンテナ脆弱性スキャナ「Trivy」を標的とした大規模なソフトウェア・サプライチェーン攻撃であることが判明しました。
【30秒でわかる本記事の概要】
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Ciscoの内部開発環境が侵害され、ソースコードおよびクラウド環境のデータが窃取された。
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原因は、脅威アクター「TeamPCP」による脆弱性スキャナ「Trivy」のサプライチェーン攻撃で盗まれた認証情報(クレデンシャル)の悪用である。
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TeamPCPはTrivyのGitHub Actions(
trivy-action)に悪意のあるコードを混入させ、CI/CDパイプラインのメモリから直接シークレットを抽出していた。 -
Ciscoのみならず、Trivyを利用する世界中の1万以上のCI/CDワークフローが影響を受けている可能性がある。
目次
インシデントの概要:Ciscoのソースコード流出
米国のセキュリティインテリジェンスや著名ポッドキャスト「Risky Business」の報道により、クラウド環境を専門に狙う脅威アクター「TeamPCP」が、Ciscoのソースコードおよびクラウド環境を侵害したことが明らかになりました。
今回の侵害の侵入経路は、Ciscoのシステム自体の脆弱性ではなく、「開発パイプライン(CI/CD)からの認証情報の漏洩」でした。Ciscoの開発環境で使用されていた脆弱性スキャンツール「Trivy」が事前にTeamPCPによってバックドア化(不正に改造)されており、そこで窃取された開発者トークンやクラウド認証情報が悪用され、内部リポジトリへのアクセスを許してしまったのです。
根本原因:「Trivy」を狙ったTeamPCPのサプライチェーン攻撃
Ciscoへの不正アクセスの発端となったのは、2026年3月19日(UTC)に発生したAqua Securityのオープンソース脆弱性スキャナ「Trivy」へのサプライチェーン攻撃です。
セキュリティ企業Phoenix SecurityやSentinelOneの調査によると、TeamPCPは以下の極めて巧妙な手口で攻撃を展開しました。
GitHub Actionsとバイナリの改ざん
TeamPCPは、Trivyの公式GitHub Actionsである aquasecurity/trivy-action の77個のバージョンのうち、76個のタグを悪意のあるコミットへ強制プッシュ(force-push)し、マルウェアを混入させました。また、Trivyのバイナリ(v0.69.4〜v0.69.6)もバックドア化され、Docker HubやGHCRなどに公開されました。
関連:Trivyへのソフトウェア サプライチェーン攻撃が再発-GitHub Actions改ざんでCI/CD シークレット流出リスク
CI/CDランナーのメモリからの認証情報抽出
Trivyはコードのプッシュ時やコンテナのビルド時に自動で実行されるため、CI/CDパイプラインのシークレット(AWSキー、GitHub Personal Access Tokenなど)にアクセスする特権を持っています。マルウェアはランナープロセス(Worker)のメモリを直接ダンプし、50以上のファイルパスから認証情報をかき集め、AES-256およびRSA-4096で暗号化して攻撃者のサーバーへ送信しました。
巧妙な隠蔽工作
情報の窃取が完了した直後、背後で通常のTrivyの脆弱性スキャンが正常に実行・完了する仕組みになっていました。そのため、開発者はパイプラインの出力ログを見ても異常に気付くことができず、被害の発見が遅れました。
影響範囲と関連する攻撃(LiteLLMへの波及など)
Trivyは世界中で1万以上のCI/CDワークフローに組み込まれており、影響はCisco一社にとどまりません。TeamPCPは、Trivyから盗み出したGitHubトークンなどを悪用し、さらに別のオープンソースプロジェクトへと横展開(ラテラルムーブメント)を行っています。
実際にこの攻撃の直後、AI開発向けの人気Pythonパッケージ「LiteLLM」のPyPIリポジトリでも、TeamPCPによるクレデンシャルスティーラー(CanisterWorm)の混入が確認されています。セキュリティツールや開発支援ツールへの信頼を逆手に取り、連鎖的にサプライチェーンを汚染していく手口は、現代のソフトウェア開発において最も警戒すべき脅威となっています。
企業・開発部門が直ちに行うべき対策
もし自社のCI/CDパイプライン(GitHub Actions、GitLab CI、CircleCIなど)で、影響を受けるバージョンのTrivyを使用していた場合、以下のアクションを至急実施する必要があります。
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すべてのシークレットの無効化と再発行(ローテーション) 該当期間(
2026年3月19日以降)にTrivyを実行したパイプラインに存在したすべての認証情報(クラウドプロバイダーのアクセスキー、ソースコード管理のトークン、デプロイキーなど)は侵害されたものとみなし、直ちに無効化しローテーション(再発行)を行ってください。 -
バージョンの確認と固定
aquasecurity/trivy-actionを利用している場合、バージョンタグでの指定は危険です(v0.35.0のみ改ざんを免れたとされていますが、完全なハッシュ値でのピン留めが強く推奨されます)。バイナリを使用している場合は、バックドア化されたv0.69.4〜v0.69.6の利用を直ちに停止してください。 -
不正なアクセスのログ監査
GitHubやAWS、Azure、GCPなどの監査ログを確認し、未知のIPアドレスや不審な時間帯にCI/CD用のサービスアカウントからのアクセスがなかったかを徹底的に調査してください。
まとめ
今回のCiscoでのソースコード流出は、「セキュリティを担保するためのツール(脆弱性スキャナ)自体が、マルウェアの配布経路になり得る」という、皮肉かつ極めて破壊的なサプライチェーン攻撃の恐ろしさを浮き彫りにしました。
企業は今後、ソフトウェア部品表(SBOM)の管理に加え、CI/CD環境におけるシークレットの最小権限化と厳格な監査体制の構築が不可避の課題となります。
【よくある質問(FAQ)】
Q. Ciscoのソースコード流出に顧客データは含まれていますか?
現在の報道段階ではソースコードとクラウド環境のデータへのアクセスが確認されていますが、顧客データの流出有無に関するCiscoからの正式な声明は現在確認されていません。今後の公式発表を注視する必要があります。
Q. どのバージョンのTrivyが危険ですか?
GitHub Actionsの aquasecurity/trivy-action においては76個のタグが改ざんされており(v0.35.0のみ安全とされています)、バイナリやDocker Hub経由では v0.69.4、v0.69.5、v0.69.6 が悪意のあるバージョンとして特定されています。
Q. Trivyを利用していましたが、ログにエラーはありませんでした。安全ですか?
安全ではありません。今回のマルウェアはクレデンシャルを窃取した後、正常にTrivyのスキャンを実行して終了するため、ログ上はエラーが出ず正常に動作したように見えます。該当バージョンを使用していた場合は、侵害を前提としたクレデンシャルのローテーションが必要です。
出典








