中国、外国人監視データベースが一時公開、北海道新聞やブルームバーグの記者も対象に

インテリジェンス

投稿日時: 更新日時:

中国、外国人監視データベースが一時公開、北海道新聞やブルームバーグの記者も対象に

米紙ニューヨーク・タイムズは2026年8月2日(現地時間)、中国河北省張家口市当局が運用する外国人監視システムのダッシュボードが、一時的に第三者からアクセス可能な状態でインターネット上に公開されていたと報じました。オランダを拠点とするサイバーセキュリティー研究者が発見したもので、掲載された画面には北海道新聞社や米ブルームバーグ通信の名前も含まれており、両社の記者が監視対象に含まれていたことをうかがわせる内容になっています。中国当局による外国人監視の実態が、具体的なシステムの形で明らかになった点で注目を集めています。

中国河北省張家口市当局外国人監視データベース露呈事案の概要サマリー

  • ニューヨーク・タイムズは2026年8月2日、中国河北省張家口市当局の外国人監視システムのダッシュボードが一時的に外部から閲覧可能な状態になっていたと報じました。
  • システムは外国人のダイナミック・コントロール・プラットフォームと呼ばれるもので、2022年北京冬季五輪の開催地でもある張家口市の公安当局向けに構築されたとみられています。
  • オランダ在住のサイバーセキュリティー研究者マルク・ホーファー氏が2026年1月に発見し、データを保存しました。同サイトは同年5月には閲覧できない状態になっています。
  • 登録されていたのは張家口市に住む外国人700人超を含む約1万2千人分の個人情報で、うち300人超が外国人ジャーナリストだったとされています。
  • 公開された画面には北海道新聞社やブルームバーグ通信の名前も含まれており、両社の記者が対象に含まれていた可能性を示しています。
  • データには氏名、生年月日、性別、住所、職業のほか、監視カメラでの撮影記録、医療記録、公共料金の支払い、航空機や鉄道の搭乗記録(座席番号含む)などが統合されていたとされています。
  • ニューヨーク・タイムズは、同プラットフォームと北京の監視機器供給企業とのつながりも指摘しています。

事案の概要

項目 内容
報道日 2026年8月2日(米東部時間)/日本では8月3日報道
報じた媒体 ニューヨーク・タイムズ電子版(共同通信経由で日本国内でも報道)
対象システム 外国人のダイナミック・コントロール・プラットフォーム
運用主体とみられる組織 中国河北省張家口市公安当局
発見者 オランダ在住のサイバーセキュリティー研究者 マルク・ホーファー氏
発見時期 2026年1月
閲覧不能となった時期 2026年5月
登録されていた人数 外国人700人超を含む約1万2千人分
うち外国人ジャーナリスト 300人超
日本関連の言及 北海道新聞社の記者が対象に含まれていた可能性
含まれていた情報 氏名、生年月日、性別、住所、職業、監視カメラ撮影記録、医療記録、公共料金支払い、交通機関の搭乗記録等
関連企業 北京の監視機器・ロボティクス供給企業との関連が指摘される

何が起きたか

ニューヨーク・タイムズによると、オランダ在住のサイバーセキュリティー研究者は、中国当局が自国民をどのように監視しているかを調べる過程で、2026年1月に外国人のダイナミック・コントロール・プラットフォームと呼ばれるダッシュボードにたどり着きました。認証がかかっていない状態で外部からアクセスできる状態になっており、研究者はこの時点からできる限りのデータを保存しています。同サイトは同年5月に閲覧できない状態になったということです。

このダッシュボードは、2022年北京冬季五輪の開催地としても知られる河北省張家口市の公安当局向けに構築されたとみられています。研究者が確認したログイン履歴には、張家口市内の8カ所の警察署と、他都市の3カ所からのアクセス記録が含まれていたとされ、実際に捜査業務でどの程度活用されていたかは明らかになっていません。

同紙は、ホーファー氏本人を含め少なくとも6人分のデータについて内容の正確性を確認したとしており、そのなかには同紙で北京駐在経験のある記者の情報も含まれていました。氏名の表記に誤りはあったものの、旅券番号など他の情報は正確だったとしています。子どもの氏名まで登録されていたケースもあったと報じられています。

データベースに収集されていた情報の内容

登録されていた情報は、氏名、生年月日、性別、婚姻状況、住所、職業、場合によっては宗教といった基本属性にとどまりません。監視カメラによる交差点や商業施設、モスクなどでの撮影記録、医療機関の受診歴、公共料金の支払い履歴、航空機や鉄道の搭乗記録(座席番号を含む)、スキーリゾートでの顔認証による撮影記録まで、複数の情報源が横断的に統合されていたとされています。

具体例として、モンゴル国籍の女性について、居住する集合住宅からショッピングモール、レストラン、スーパーマーケットへの移動履歴が記録されていたケースも報じられています。個人の生活パターンを日常的に追跡できる粒度の情報が、地方の公安当局レベルで運用されていたことになります。

日本人記者を含む対象範囲

ニューヨーク・タイムズが掲載したダッシュボードの画面には、北海道新聞社やブルームバーグ通信の名前が確認できるものが含まれており、両社の記者が監視対象になっていたことをうかがわせています。登録された約1万2千人のうち300人超が外国人ジャーナリストだったとされ、香港や台湾出身者も含まれていたと伝えられています。

対象者が実際に張家口市に滞在していたかどうかにかかわらず、同市を訪れる可能性のある人物として事前に情報が蓄積されていたとみられる点は、記者や駐在員の渡航・取材活動に関わるリスクとして留意が必要です。

専門家の見解、中国の監視の乱立

カナダの調査機関SecDev Groupの上級研究員グレッグ・ウォルトン氏は、今回の露呈は特異な事象ではなく、中国国内で拡大を続ける監視ベンダー・請負業者・公安機関の生態系がもたらす、いわば監視の乱立の帰結だと指摘しています。同氏によれば、新たな監視プラットフォームが増えるほど、機密性の高い個人データが設定ミスや複製、外部からアクセス可能な状態で放置される場所も増えていくことになります。

ニューヨーク・タイムズは、このプラットフォームと、公開されている入札文書を通じて、警察向けにロボティクスや監視関連の機器・サービスを供給する北京の企業とのつながりも指摘しています。地方公安当局が民間ベンダーを通じてこうしたシステムを調達している構図がうかがえます。

日本企業・在中邦人にとっての含意

今回の事案は、単発のシステム設定ミスという以上に、中国国内における対外国人監視インフラの構築状況を映し出すものといえます。官公庁や商社をはじめ、中国に駐在員や出張者を送り出す企業にとっては、以下のような観点から留意する価値があります。

第一に、記者やジャーナリストに限らず、中国国内での日常的な移動、医療機関の利用、決済履歴、交通機関の利用歴といった情報が、地方レベルの公安当局によって横断的に収集され得るという点です。渡航前のリスク評価やBCP(事業継続計画)の観点から、中国国内での機微な情報のやり取りや行動パターンについて、あらためて社内での注意喚起を行う余地があります。

第二に、こうした監視システムが公開入札を通じて民間ベンダーから調達されている構図は、経済安全保障の観点からも注視に値します。監視関連技術や機器を手がける企業との取引関係にある日本企業にとっては、供給網の先で自社製品・技術がどのように利用されているかを把握しておくことが、レピュテーションリスクや各国の輸出管理規制上のリスクを回避するうえで重要になります。

第三に、今回の露呈が民間の研究者による偶発的な発見によってもたらされた点も見逃せません。地方政府レベルで構築されたシステムであっても、一時的にせよ第三者が外部からアクセスできる状態になっていたという事実は、同種のシステムが他の地域にも存在し、同様のリスクを抱えている可能性を示唆しています。

今後注目すべき点

本記事執筆時点で、中国当局からの公式な反応は確認されていません。今後は以下の点が焦点になると考えられます。

  • 中国政府や河北省当局からの公式なコメントや反論の有無
  • 対象とされた日本人記者や海外メディア各社の対応
  • 同種のシステムが張家口市以外の地域にも存在するかどうか
  • 監視機器を供給しているとされる企業をめぐる、各国の輸出管理・人権関連規制上の扱い
  • 日本の外務省や報道機関団体からの反応の有無

出典

中国、外国人監視を露呈 サイトに個人情報、閲覧可能状態で公開 日本記者の情報も(産経ニュース、共同通信配信)

The New York Times: How China Keeps Tabs on Foreigners(2026年8月2日) https://www.nytimes.com/2026/08/02/world/asia/china-surveillance-foreigners-database.html