Zoomの注釈機能に複数の脆弱性、会議参加者同士が互いのクライアントを乗っ取り可能な状態(CVE-2026-53413、CVE-2026-53414、CVE-2026-53415)

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Zoomの注釈機能に複数の脆弱性、会議参加者同士が互いのクライアントを乗っ取り可能な状態(CVE-2026-53413、CVE-2026-53414、CVE-2026-53415)

イスラエル発のオフェンシブセキュリティ企業「A Security」は、Zoomの画面共有時に使われる注釈(アノテーション)機能に、参加者が他の参加者のクライアントを侵害できる複数の脆弱性を発見したと公表しました。Zoomは2026年6月・7月にクライアント側の修正パッチを既に配布しており、公表時点で悪用は報告されていません。ただし、脆弱性の深刻度や「クリック不要」という前提について、発見企業とZoom公式の評価には明確な食い違いがあり、両論を押さえておく必要があります。

この記事のサマリー

  • A Securityは、Zoomの注釈機能に3件の脆弱性(CVE-2026-53413、CVE-2026-53414、CVE-2026-53415)を発見したと公表しました。
  • 最も深刻なCVE-2026-53413は、注釈オブジェクトを復元する処理における固定長バッファの書き込み処理の不備で、Zoom側はリモートコード実行につながり得るとしています。
  • Zoomはこれらの脆弱性に対するクライアント修正を、公表の約2カ月前にあたる2026年6月・7月に既に配布済みで、本記事執筆時点で実際の悪用は報告されておらず、CISAの既知の悪用済み脆弱性(KEV)カタログにも登録されていません。
  • A Securityは「クリック不要、ダウンロード不要、画面上に痕跡も残らない」ゼロクリック攻撃だと説明していますが、Zoom公式のセキュリティ速報では、3件すべてについて「ユーザーの操作が必要」とされており、この点で両者の説明は食い違っています。
  • 深刻度の評価も分かれています。A Securityは3件すべてを独自基準(CVSS 4.0)で9.0と評価している一方、Zoom公式の速報(CVSS 3.x)ではそれぞれ8.3・6.5・8.3と、より低いスコアが示されています。
  • A Securityは、脆弱性の発見から実際に動作するエクスプロイトの作成までを、一般に公開されているAIモデルへの20回未満のプロンプトで、1日足らずのうちに完了したと説明しています。

整理表

CVE番号 種別 Zoom公式のCVSS A Security独自評価(CVSS4.0) ユーザー操作の要否(Zoom公式)
CVE-2026-53413 バッファオーバーライト(リモートコード実行の可能性) 8.3 9.0 必要
CVE-2026-53414 バッファオーバーリード 6.5 9.0 必要
CVE-2026-53415 解放済みメモリの使用(Use-After-Free) 8.3 9.0 必要
項目 内容
発見・公表元 A Security(イスラエル発、2026年6月にステルスを解除、3,700万ドルの資金調達を公表)
対象機能 Zoomの注釈(アノテーション)機能、画面共有中に参加者が描画・入力できる機能
修正パッチ配布時期 2026年6月・7月(公表の約2カ月前)
悪用状況 本記事執筆時点で報告なし、CISA KEVカタログにも未登録
影響を受けるバージョン Zoom Workplace(全対応プラットフォーム)7.1.5未満・7.0.6未満、Zoom Workplace VDI Client(Windows)7.0.11未満・6.6.16未満、Zoom Rooms・Zoom Meeting SDK(全プラットフォーム)7.1.0未満、CVE-2026-53415は7.1.5未満
Zoom公式のセキュリティ速報 ZSB-26015、ZSB-26016、ZSB-26017
発見者のクレジット CVE-2026-53413・53414はA SecurityのIdan Levcovich氏、CVE-2026-53415はZoom社内のZoom Offensive Securityチーム

何が起きたか

A Securityによると、Zoomの注釈機能は、画面共有中に描画した内容を単なる画像としてではなく、構造化されたオブジェクトとしてシリアライズし、件数情報とデータの組み合わせとしてネットワーク経由で送受信する仕組みになっています。受信側のクライアントは、送られてきた件数情報をそのまま信頼し、その件数に応じたデータを読み込みます。

同社が最も深刻だとする脆弱性(CVE-2026-53413)は、この処理の中で、固定長128バイトのバッファに対し、送られてきたデータがそのサイズに収まるかどうかの検証が行われていなかったというものです。この項目がオブジェクトの末尾に位置していたため、想定より大きい件数情報が送られると、バッファの範囲を超えてリターンアドレスの領域まで上書きされてしまう可能性があったとされています。

A Securityはさらに、1つの不正な描画データが会議参加者全員に波及し得た理由として、メッセージの送信元を検証する仕組みが欠けていた点を挙げています。通常、画面を共有する側と閲覧する側の間には、それぞれ役割の異なる通信チャネルが存在しますが、受信側の処理系は、メッセージの種類を示す番号だけを見て対応する処理を呼び出しており、そのメッセージがどちらの役割の送信者から届いたものかを確認していませんでした。本来は「受信確認」を意味するはずの経路に「新しいオブジェクト」を意味するメッセージを送りつけることで、受信側のクライアントに、そのオブジェクトをそのまま復元させることができたとされています。

発見企業とZoom公式、評価が分かれる点

今回の事案では、発見企業A SecurityとZoom公式の間で、いくつかの重要な点について評価が分かれています。

第一に、ユーザー操作の要否です。A Securityは、被害者側には会議に参加していること以外何も求められない、クリックもダウンロードも不要で、画面上に痕跡も残らない「ゼロクリック」攻撃だと説明しています。一方、Zoom公式が発行した3件すべてのセキュリティ速報では、CVSSベクターの中で「ユーザーの操作が必要」と明記されており、両者の説明は正面から食い違っています。

第二に、深刻度の評価です。A Securityは3件すべてを、CVSS 4.0の基準で9.0と評価していますが、この数値はどのZoom公式速報にも記載されていません。Zoomは自社でCVE番号を発行しており、米国立標準技術研究所(NIST)が近年これらのスコアを日常的に再評価しなくなっていることも踏まえると、Zoom公式のより低いスコア(8.3・6.5・8.3、CVSS3.x基準)が実質的な基準として扱われる可能性が高いとみられています。

第三に、バッファオーバーリードの脆弱性(CVE-2026-53414)の影響範囲です。A Securityは、被害者のクライアントから未初期化のヒープメモリを取得でき、その中には実行中のコードやvtableポインタ、すなわちアドレス空間配置のランダム化(ASLR)を回避するために必要な情報が含まれていたと主張しています。一方、Zoom公式の速報では、同じ脆弱性について「サービス拒否(DoS)につながる可能性がある」との説明にとどまり、機密性への影響は「なし」と評価されています。

第四に、発見の帰属です。2件(CVE-2026-53413・53414)はA SecurityのIdan Levcovich氏の功績とされている一方、解放済みメモリの使用に関する脆弱性(CVE-2026-53415)は、Zoom社内の「Zoom Offensive Security」チームの功績とされています。A Security自身も、この3件目についてはZoom側が報告を受け取る前から既に把握しており、サーバー側で対策済みだったことを認めています。

AIを活用した脆弱性研究という側面

A Securityは、Zoomの注釈機能を狙った理由として、Android版クライアントがクローズドソースであり、広く導入されている一方でネイティブコードの攻撃対象領域が大きい点を挙げています。同社はまず、Javaレイヤーから到達可能な関数を自動的にランク付けする手法を試みましたが、70のライブラリにまたがる3,762件の関数の中で、実際に脆弱だったライブラリは45位にランクされ、この手法だけでは見つけられませんでした。最終的に、実際に動作するクライアントを機能ごとに動的にトレースする手法に切り替えたことで、当該のライブラリと、その独自の注釈プロトコルを特定できたとしています。

A Securityは、脆弱性の発見から実際に動作するエクスプロイトの作成までを、一般に公開されているAIモデルへの20回未満のプロンプトで、1日足らずのうちに完了したと説明しています。同社は使用した具体的なAIモデル名を明らかにしていません。研究者のLevcovich氏は、この種のエクスプロイト開発における参入障壁は「崩壊しており、元には戻らない」と述べています。

なお、この発表は、OpenAIが自社のサイバーセキュリティ研究プログラム「Daybreak」を分割し、より高度な能力を持つモデル「GPT-5.6-Cyber」の提供を、審査を経た限られたパートナーのみに絞ったという発表の翌日に行われました。OpenAIは、この種の能力にはアクセス制限(ガーディング)が必要だとする立場を示していますが、A Securityは、自社の成果が誰でも利用できる一般公開モデルから得られたものだと強調しています。

情報システム部門が確認すべき対策ポイント

  • Zoom Workplace(クライアント)、Zoom Workplace VDI Client、Zoom Rooms、Zoom Meeting SDKを利用している場合、修正版(Zoom Workplaceは7.1.5以降または7.0.6以降、VDI Clientは7.0.11以降または6.6.16以降、Zoom Rooms・Meeting SDKは7.1.0以降、CVE-2026-53415分は7.1.5以降)が適用されているか確認してください。パッチはすでに6月・7月に配布されているため、通常の自動更新が有効であれば多くの環境で対応済みと考えられますが、念のため確認することをおすすめします。
  • 会議室端末(Zoom Rooms)やVDI環境など、通常の業務PCとは別管理になりがちな端末についても、パッチ適用状況を点検してください。
  • ベンダーが公表する脆弱性情報を評価する際、発見者側の主張とベンダー公式のセキュリティ速報の双方を確認し、深刻度・悪用条件・影響範囲について食い違いがないかを確認する習慣をつけることをおすすめします。今回のように、同じ脆弱性でも発見企業とベンダーの評価が大きく異なるケースは珍しくありません。
  • AIモデルを用いた脆弱性研究・エクスプロイト開発の効率化が急速に進んでいる状況を踏まえ、自社が利用するソフトウェアのパッチ適用サイクルを、これまで以上に短縮する必要がないか、あらためて検討する価値があります。

同社では過去にもZoomの脆弱性を継続的に取り上げており、Zoom VDIクライアント(Windows)に高深刻度の脆弱性(CVE-2025-64740)Zoom「Zoom Rooms」の脆弱性を修正するアップデート(CVE-2025-67460)もあわせてご参照ください。

今後注目すべき点

本記事執筆時点で、これらの脆弱性が実際の攻撃で悪用された形跡は確認されていません。今後は以下の点が焦点になると考えられます。

  • Zoomが今回の脆弱性について、技術的な詳細を公式に開示するかどうか
  • 発見企業とベンダーの評価の食い違いについて、第三者機関による検証が行われるかどうか
  • AIを活用した脆弱性研究の効率化が、他のビデオ会議・コラボレーションツールの脆弱性発見にも波及するかどうか

出典

Zoom Annotation Flaws Could Let a Meeting Participant Hijack Another Attendee’s Client——The Hacker News

ZSB-26015——Zoom公式セキュリティ速報

ZSB-26016——Zoom公式セキュリティ速報

ZSB-26017——Zoom公式セキュリティ速報

Zoom VDIクライアント(Windows)に高深刻度の脆弱性(CVE-2025-64740)——セキュリティ対策Lab