米国務省の「Rewards for Justice(RFJ)」は2026年9月3日、イラン革命防衛隊サイバー・電子司令部(Islamic Revolutionary Guard Corps Cyber-Electronic Command:IRGC-CEC)の上級幹部Amir Yaryabに関する情報について、最大1,000万ドルの報奨金を提示しました。
RFJによると、YaryabはIRGC-CECの「Cyber Operations Command」を率い、Shahid Hemmat、Shahid Shushtariなど複数の部門を指揮しています。また、IRGC-CECと関係するCyberAv3ngers、Dadeh Afzar Arman(DAA)、Mehrsam Andisheh Saz Nik(MASN)の作戦も監督・統制していると米政府は主張しています。
これらの組織は、防衛、報道、海運、旅行、エネルギー、金融、通信などの重要分野を米国、欧州、中東で標的としてきたとされています。
ただし、今回の発表はYaryabの逮捕や有罪判決を意味するものではありません。また、RFJの一次資料はYaryabを「IRGC-CEC全体の司令官」とは説明しておらず、「IRGC-CECの上級幹部で、Cyber Operations Commandを率いる」としています。
米財務省が2024年2月に公開した資料では、当時Hamid Reza LashgarianをIRGC-CECのトップと説明しています。役職については両者を混同しない必要があります。
Amir Yaryabへの報奨金のサマリー
- 【確認済み】米国務省Rewards for Justiceは2026年9月3日、Amir Yaryabに関する情報に最大1,000万ドルの報奨金を提示しました。
- 【確認済み】報奨金は、外国政府の指示・統制下で米国重要インフラへの悪意あるサイバー活動に関与し、Computer Fraud and Abuse Act(CFAA)に違反する人物の特定・所在地につながる情報を対象とする制度です。
- 【米政府の説明】YaryabはIRGC-CECの上級幹部で、同組織のCyber Operations Commandを率っています。
- 【米政府の説明】YaryabはShahid HemmatとShahid Shushtariを含むIRGC-CECの複数部門を指揮しています。
- 【米政府の説明】これらの部門は米国、欧州、中東の防衛、報道、海運、旅行、エネルギー、金融、通信分野などを標的にしてきたとされています。
- 【米政府の説明】YaryabはCyberAv3ngers、Dadeh Afzar Arman(DAA)、Mehrsam Andisheh Saz Nik(MASN)の作戦を監督・統制しているとされています。
- 【確認済み】DAAとMASNは2024年4月、IRGC-CECのために活動したとして米財務省OFACの制裁対象になっています。
- 【確認済み】CyberAv3ngersは2023年11月から2024年1月、米国内のUnitronics製PLCを少なくとも75台侵害し、うち少なくとも34台は上下水道分野で使用されていました。
- 【確認済み】米政府はCyberAv3ngersについても別途、最大1,000万ドルの報奨金を提示しています。
- 【重要】RFJはYaryabを「IRGC-CEC全体のトップ」とは記載していません。
- 【確認済み】米財務省は2024年2月、Hamid Reza LashgarianをIRGC-CECのトップと説明していました。
- 【確認できず】9月7日時点で、今回確認した司法省・OFACの公開情報からはYaryab本人に対する起訴や個別制裁指定を確認できませんでした。
- 【注意】米政府による組織・人物への帰属や指揮関係の評価であり、裁判による有罪認定とは異なります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 公表日 | 2026年9月3日 |
| 公表主体 | 米国務省 Rewards for Justice |
| 対象者 | Amir Yaryab |
| 米政府が示す所属 | IRGC Cyber-Electronic Command(IRGC-CEC) |
| 米政府が示す役職 | IRGC-CEC Cyber Operations Commandの責任者 |
| 報奨金 | 最大1,000万ドル |
| 報奨対象 | 特定・所在地などにつながる情報 |
| 指揮するとされる部門 | Shahid Hemmat、Shahid Shushtari |
| 監督するとされる関連組織 | CyberAv3ngers、DAA、MASN |
| 主な標的分野 | 防衛、報道、海運、旅行、エネルギー、金融、通信など |
| 主な対象地域 | 米国、欧州、中東 |
| Yaryab本人の起訴 | 9月7日時点で確認できませんでした |
| Yaryab本人のOFAC制裁 | 9月7日時点で確認できませんでした |
米国務省、Yaryabの特定・所在地につながる情報を募集
Rewards for Justiceは、Yaryabについて最大1,000万ドルの報奨金を提示しました。
制度上の対象は、外国政府の指示または統制の下で、米国の重要インフラに対する悪意あるサイバー活動へ参加し、米国のComputer Fraud and Abuse Actに違反する人物の特定または所在地につながる情報です。
RFJは今回、その対象としてYaryabに関する情報を求めています。
ここで注意したいのは、「1,000万ドルの懸賞金がYaryab本人の逮捕に一律で支払われる」という制度ではない点です。
報奨金は最大額であり、RFJが定める要件を満たす情報が対象となります。
※今回の発表だけをもって、Yaryabが米国で有罪判決を受けたことにはなりません。
防衛・海運・ホテル・航空・エネルギー・金融などを標的と米政府
RFJによると、Yaryabが指揮するとされるShahid HemmatとShahid Shushtariは、サイバー作戦とサイバー空間を利用した情報作戦を行ってきました。
標的分野として米国務省が挙げているのは、防衛、報道、海運、旅行業界のホテル・航空会社、エネルギー、金融、通信です。
対象地域は米国だけではなく、欧州、中東にも広がっています。
ただし、RFJのページでは個々の被害組織名、攻撃日時、侵入経路、被害規模までは示されていません。
これらの部門がどの攻撃を実行したのかについては、別の捜査資料や政府アドバイザリと照合して判断する必要があります。
CyberAv3ngers、DAA、MASNの作戦も監督と米国務省
RFJはさらに、YaryabがIRGC-CEC関連組織であるCyberAv3ngers、Dadeh Afzar Arman(DAA)、Mehrsam Andisheh Saz Nik(MASN)の作戦を監督・統制していると主張しています。
DAAとMASNについては、米財務省が2024年4月にIRGC-CECのフロント企業として制裁対象に指定しています。
米財務省によると、MASNは旧Mahak Rayan Afrazとしても知られ、米財務省を含む10以上の米国企業・政府機関を狙った複数年のサイバーキャンペーンに関連していました。
DAAについても、IRGC-CECのために悪意あるサイバーキャンペーンへ関与したと米財務省は説明しています。
同時に個人4人も、スピアフィッシングやマルウェアを利用した米国組織への攻撃に関与したとして起訴・制裁対象となりました。
今回のYaryabに関する発表は、こうした既存のIRGC-CEC関連企業・攻撃グループの上位に位置する作戦指揮系統について、米国務省が新たに人物名を示したものと位置付けられます。
CyberAv3ngersは米国のPLC少なくとも75台を侵害
Yaryabが作戦を監督するとされた組織の中でも、重要インフラ防御の観点で特に知られているのがCyberAv3ngersです。
CISA、FBI、NSAなどの米政府機関は、CyberAv3ngersをIRGCに関連するサイバーアクターと評価しています。
2023年11月から2024年1月にかけて、CyberAv3ngersは米国内で使用されていたイスラエルUnitronics製のPLCを少なくとも75台侵害しました。
このうち少なくとも34台は上下水道分野で利用されていました。
標的となった機器の多くはインターネットへ直接公開され、初期パスワードのまま、またはパスワードなしで運用されていました。
攻撃者はPLCの既存ロジックを削除・置き換えたり、機器名称や設定を変更したりするなど、遠隔管理を妨害する操作を行っています。
米国務省はCyberAv3ngersについても別のRewards for Justiceページを設け、関連する悪意あるサイバー活動の情報に最大1,000万ドルの報奨金を提示しています。
IOCONTROLで民間のICS・SCADA機器を標的
Rewards for JusticeはCyberAv3ngersについて、「IOCONTROL」と呼ばれるマルウェアを利用し、世界各地のICS/SCADAやIoT機器を標的にしてきたと説明しています。
対象にはPLC、HMI、ルーター、ファイアウォール、IPカメラなどが含まれるとしています。
今回のYaryabに関するRFJページも、CyberAv3ngers、DAA、MASNなどの関連グループがマルウェアを使って世界の民間インフラを標的にしてきたと説明しています。
2026年もイラン関連APTによる米重要インフラ攻撃を当局が警告
米政府は2026年にも、イラン関連アクターによる重要インフラへの攻撃を警告しています。
CISA、FBI、NSA、環境保護庁、エネルギー省、米サイバー軍は4月、インターネットへ接続されたPLCを狙うイラン関連APTについて共同アドバイザリを公開しました。
7月22日の更新では、Rockwell Automationだけでなく、Schneider ElectricやSiemensのPLCも標的として観測されたとしています。
米政府が確認した活動には、PLCプロジェクトファイルへのアクセスや改変、HMI・SCADA表示の操作、操業への影響、金銭的損失などが含まれます。
ただし、この2026年の一連のPLC攻撃について、公開された米政府のアドバイザリはすべてをCyberAv3ngersやYaryabへ帰属させているわけではありません。
「イラン関連APTによる攻撃が続いていること」と「Yaryabが個別の2026年攻撃を指揮したこと」は分けて扱う必要があります。
セキュリティ対策Labでも、この共同アドバイザリと2026年のOT攻撃について取り上げています。
関連記事:英国の小規模発電設備がサイバー攻撃で停止 Telegraphはイラン系ハッカー関与、4日間停止と報道
日本政府もCyberAv3ngersによる水道PLC侵害をリスク事例として整理
CyberAv3ngersによる米国水道施設への攻撃は、日本政府も重要インフラを取り巻く脅威の事例として取り上げています。
内閣サイバーセキュリティセンターが2024年にまとめた資料では、2023年11月の米ペンシルベニア州Aliquippa水道局への攻撃について、IRGC傘下のCyberAv3ngersがイスラエル製制御システムへ侵入した事例として紹介しています。
同資料では、水道局が対象システムをネットワークから遮断し、手動操作へ切り替えたことで、飲料水や給水への影響はなかったと整理しています。
日本の重要インフラ事業者にとっても、IRGC関連アクターの活動は海外だけの事例ではなく、OT機器のインターネット公開、初期認証情報、リモート保守、ネットワーク分離を見直す際の具体的な脅威モデルになります。
情報システム・重要インフラ事業者への示唆
今回の米国務省発表は、新しい脆弱性や新型マルウェアの公開ではなく、米政府がIRGC-CECのサイバー作戦を担うと評価している人物と、その関連組織の指揮関係を可視化したものです。
防御側で重要なのは、人物名だけをIOCのように扱うことではありません。
CyberAv3ngersの過去事例では、インターネットへ直接公開されたPLC、初期パスワードや認証なしの機器など、基本的な設定不備が侵入につながりました。
重要インフラ、製造、エネルギー、物流、ホテル・航空、通信などの事業者は、インターネットから到達可能なOT/IoT機器を改めて棚卸しし、不要な直接公開を停止する必要があります。
リモート接続が必要な場合は、VPNやアクセスゲートウェイ、多要素認証、接続元制限を利用し、ベンダーの初期認証情報は必ず変更します。
OT環境では、PLCやHMIの設定・ロジック変更を検知できる仕組み、定期的なバックアップ、正常なプロジェクトファイルを復元できる手順も重要です。
また、IRGC-CEC関連活動はOTだけではありません。
米財務省がDAAやMASNについて示したように、スピアフィッシング、ソーシャルエンジニアリング、マルウェアを使ったIT側への侵入も確認されています。
OT担当部門だけで対応するのではなく、メール、ID、VPN、管理者アカウント、委託先アクセス、インターネット公開機器を横断して監視する必要があります。
さらに、地政学的な緊張が高まった際には、通常時より攻撃活動が活発化する可能性を考慮し、重要インフラや海外拠点では監視レベルを引き上げる運用も検討すべきです。
一方、国家関与の判断は各企業が独自に行うべきではありません。
攻撃元IP、使用言語、政治的メッセージだけでIRGCやイラン政府の関与を断定せず、政府機関や信頼できる脅威インテリジェンスの帰属評価と、自社で確認した技術的事実を分けて扱うことが重要です。
出典
- Amir Yaryab – Rewards for Justice
- CyberAv3ngers – Rewards for Justice
- Treasury Sanctions Actors Responsible for Malicious Cyber Activities on Critical Infrastructure – U.S. Department of the Treasury
- Treasury Designates Iranian Cyber Actors Targeting U.S. Companies and Government Agencies – U.S. Department of the Treasury
- IRGC-Affiliated Cyber Actors Exploit PLCs in Multiple Sectors, Including U.S. Water and Wastewater Systems Facilities – CISA
- Iranian-Affiliated Cyber Actors Exploit Programmable Logic Controllers Across US Critical Infrastructure – FBI
- CISA, FBI, EPA and U.S. Government Partners Update Warning of Iran-Affiliated Threat Actors Targeting U.S. Critical Infrastructure Programmable Logic Controllers – CISA
- サイバーセキュリティ2024 – 内閣サイバーセキュリティセンター
- 英国の小規模発電設備がサイバー攻撃で停止 Telegraphはイラン系ハッカー関与、4日間停止と報道 – セキュリティ対策Lab








