政府が、能動的サイバー防御の合同拠点となる庁舎を東京・市谷本村町の防衛省隣接地に整備する方針を固めたと、共同通信が2026年9月8日に報じました。
報道によると、新庁舎には警察庁サイバー特別捜査部、自衛隊のサイバー関係部隊、内閣官房の国家サイバー統括室(NCO)が入る見通しです。2027年度から設計に着手し、2032年ごろの完成を目指します。
今回の計画で見るべき点は、単なる庁舎新設ではありません。2026年10月1日にアクセス・無害化措置の制度施行が予定される中、警察、自衛隊、NCOを物理的に近接配置し、平時から情報共有、役割分担、意思決定を行う恒常的な運用基盤を整備しようとしている点です。
一方、9月8日時点で、合同拠点の所在地、入居組織、2032年ごろの完成時期は政府の正式発表ではなく、共同通信が複数の関係者への取材をもとに報じた内容です。防衛省が8月31日に公表した2027年度概算要求の概要では、三文書改定の内容に左右される事業などを金額未定の「事項要求」とする方針は確認できますが、公開概要では合同拠点の所在地や完成時期までは確認できません。
サイバー防御合同拠点のサマリー
確認できている内容:
- 共同通信は2026年9月8日、政府が能動的サイバー防御の合同拠点を東京・市谷本村町の防衛省隣接地に整備する方針を固めたと報じました。
- 報道では、2027年度に設計へ着手し、2032年ごろの完成を目指すとされています。
- 入居組織として、警察庁サイバー特別捜査部、自衛隊のサイバー関係部隊、国家サイバー統括室(NCO)が挙げられています。
- 予定地は、防衛省に隣接する警視庁第5機動隊庁舎の跡地と報じられています。
- NCOは2025年7月にNISCを改組して発足し、サイバー安全保障政策の総合調整を担っています。
- 警察庁サイバー特別捜査部は、重大サイバー事案への対処を担う国の捜査機関です。
- アクセス・無害化措置に関する改正警察官職務執行法は2026年10月1日の施行が予定されています。
- 政府の運用指針では、NCOが国家安全保障局と連携し、警察と自衛隊の役割分担や総合調整を行う仕組みが示されています。
- 防衛省は2027年度概算要求で、三文書改定に左右される事業などを金額を示さない「事項要求」とする方針を採っています。
現時点で政府の公開資料から確認できない内容:
- 合同拠点の正式名称
- 新庁舎の建設費
- 延べ床面積・施設規模
- 各組織の具体的な入居人数
- 施設内に置くシステム・設備
- 2032年ごろという完成時期の正式決定
- NCOの全機能が移転するのか、一部機能のみか
- 自衛隊の具体的な入居部隊
- 2027年度設計費の金額
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 報道日 | 2026年9月8日 |
| 計画 | 能動的サイバー防御の合同拠点庁舎 |
| 予定地 | 東京・市谷本村町、防衛省隣接地と報道 |
| 入居見通し | 警察庁サイバー特別捜査部、自衛隊サイバー関係部隊、NCO |
| 設計 | 2027年度から着手と報道 |
| 完成 | 2032年ごろを目標と報道 |
| 予算 | 「拠点庁舎整備に向けた設計」を事項要求と共同通信が報道 |
| アクセス・無害化措置 | 2026年10月1日施行予定 |
| NCO | 2025年7月発足 |
| 正式発表 | 9月8日時点では合同拠点の詳細な政府発表を確認できず |
なぜ今、警察・自衛隊・NCOを一つの拠点へ集めるのか
政府が進める能動的サイバー防御では、単一の省庁だけで完結しない対応が前提になっています。
政府が2025年12月に策定した「アクセス・無害化措置の運用に関する指針」では、重大なサイバー攻撃やその予兆が認知された場合、国家安全保障会議で対処方針を審議するとしています。
その上で、
- 国家安全保障局が対処方針案を作成
- NCOが警察庁、外務省、防衛省などと調整
- NCOが警察と自衛隊の役割分担を決定
- 警察または自衛隊が法令に基づきアクセス・無害化措置を実施
する構造です。
つまり、制度上も「警察」「自衛隊」「内閣官房」の連携が前提になっています。
これらの組織を同一または近接する施設へ集約すれば、平時から情報交換や共同訓練を行いやすくなり、重大事案発生時に省庁間の連絡・調整にかかる時間を短縮できる可能性があります。
共同通信は、防衛省幹部が専用施設の整備によってセキュリティと利便性の向上が期待できるとの認識を示したと報じています。
アクセス・無害化措置は新庁舎完成を待たず2026年10月に始まる
合同拠点の完成目標は2032年ごろと報じられています。
一方、アクセス・無害化措置の制度施行は2026年10月1日です。
警察庁の2025年サイバー情勢資料でも、改正警察官職務執行法が2026年10月1日に施行予定であることを踏まえ、オフェンシブ・セキュリティ分野の人材育成や資機材整備を進めていると説明しています。
このため、合同庁舎は能動的サイバー防御を開始するための前提施設ではありません。
2026年10月から2032年ごろまでの期間は、現在の庁舎・指揮系統・通信環境を使って制度を運用し、その後、より恒常的な合同拠点へ移行する構図とみられます。
この時間差から、今回の庁舎整備は短期的な制度開始への対応というより、能動的サイバー防御を長期的な国家機能として定着させるための施設整備と位置付けることができます。
関連記事:能動的サイバー防御、制度設計から実装段階へ 2026年10月1日に無害化措置開始
警察庁サイバー特別捜査部は何を担うのか
警察庁サイバー特別捜査部は、関東管区警察局に設置されている国の捜査機関です。
警察庁は同部について、
- 重大サイバー事案への対処
- 高度な技術を必要とする事件の捜査
- 海外からのサイバー攻撃への対処
- 外国捜査機関との連携
を担うと説明しています。
能動的サイバー防御では、警察にアクセス・無害化措置を実施する権限が追加されました。
警察庁の採用資料では、国外のサーバーに対するアクセス・無害化措置は警察庁の警察官に限って実施できる仕組みとなり、サイバー特別捜査部の警察官による対応を想定していると説明されています。
そのため、新たな合同拠点が実現した場合、サイバー特別捜査部は単なる捜査部門ではなく、能動的サイバー防御の実働主体の一つとして配置されることになります。
自衛隊はサイバー要員を2027年度に約2万人体制へ
防衛省・自衛隊もサイバー分野の体制拡大を進めています。
防衛力整備計画では、2027年度をめどに、
- 自衛隊サイバー防衛隊などのサイバー関連部隊:約4,000人
- サイバー関連業務へ従事する人員を含めた全体:約2万人
の体制を目指しています。
自衛隊サイバー防衛隊は、陸・海・空自衛隊の共同部隊として設置されています。
防衛省は、自衛隊のネットワークを常時監視するだけでなく、日本へのサイバー攻撃に際して「相手方によるサイバー空間の利用を妨げる能力」の構築も進めています。
能動的サイバー防御の合同拠点が整備されれば、こうした自衛隊側の能力と警察の法執行能力を、NCOが調整する運用を一か所に集約しやすくなります。
NCOは「司令塔」、警察・自衛隊は「実行主体」
NCOは2025年7月、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)を改組して発足しました。
NCOの役割は、自らすべてのアクセス・無害化措置を実施することではありません。
政府の運用指針では、NCOは国家安全保障局と連携し、
- 攻撃状況の把握
- 関係省庁との調整
- 警察と自衛隊の役割分担
- 対処方針との整合性確保
などの総合調整を担います。
NCOの公式サイトでは、現在の所在地として東京都千代田区永田町と東京都港区赤坂の2拠点が掲載されています。
共同通信は、NCOの大部分が現在、赤坂の民間ビルに入居していると報じています。
仮に市谷の合同拠点へ主要機能が移れば、防衛省・自衛隊と物理的に近接することで、国家安全保障分野のサイバー対応をより一体化することになります。
「同じ建物に入る」ことで何が変わるのか
サイバー対応はオンラインで完結するように見えますが、国家安全保障レベルの対応では、物理的な施設も運用能力を左右します。
機密情報を扱う環境を共有しやすくなる
国家を背景とした攻撃や重要インフラへの攻撃では、特定秘密や捜査情報など高い機密性を持つ情報を扱う可能性があります。
専用施設であれば、入退室管理、通信設備、会議環境、情報システムなどを前提から設計できます。
省庁間の調整時間を短縮できる
アクセス・無害化措置では、技術的に可能だから直ちに実施するわけではありません。
国家安全保障、外交、法執行、被害防止など複数の観点から判断する必要があります。
関係部署が同じ施設にいれば、重大事案の際に担当者が同一の状況認識を共有しやすくなります。
共同訓練を常態化しやすい
本番で初めて警察と自衛隊が連携するのではなく、平時からサイバー演習、インシデント対応訓練、技術検証などを実施できます。
専用の解析・演習設備を集約できる
警察庁はサイバーレンジ、高速演算装置、解析基盤などを整備しており、防衛省もサイバー領域の意思決定支援や高度な防御基盤を整備しています。
合同施設の具体的な設備は公表されていませんが、将来的に共用または連携可能な環境を設計する余地があります。
なぜ防衛省の隣接地なのか
共同通信によると、予定地は東京・市谷本村町にある防衛省隣接地で、警視庁第5機動隊庁舎の跡地です。
防衛省市ヶ谷庁舎の所在地は東京都新宿区市谷本村町5番1号です。
市ヶ谷地区には防衛省内部部局、統合幕僚監部、陸・海・空幕僚監部、情報本部、防衛装備庁などが集まっています。
その隣接地へサイバー関係機関を集約すれば、防衛省・自衛隊側との連携面では合理性があります。
一方、警察庁やNCOは防衛省とは別の組織です。
合同施設を防衛省隣接地に置く場合でも、指揮命令系統まで防衛省へ統合されるわけではありません。
能動的サイバー防御では、警察と自衛隊がそれぞれ異なる法的根拠に基づいて措置を実施し、NCOが総合調整する仕組みが維持されます。
2027年度概算要求の「事項要求」とは
共同通信は、防衛省が2027年度概算要求で「拠点庁舎整備に向けた設計」を金額を示さない事項要求として盛り込んだと報じています。
防衛省が8月31日に公表した概算要求概要では、2027年度の要求について、
- 現行の防衛力整備計画に基づく事業は所要額を計上
- 現在検討中の三文書改定に左右される事業などは予算編成過程で検討し「事項要求」とする
方針を示しています。
歳出ベースの要求額は約9兆円ですが、これに金額未定の事項要求が加わります。
したがって、合同拠点の設計費や最終的な建設費は、今後の2027年度予算編成過程で具体化する可能性があります。
9月8日時点では、公開されている概算要求概要から合同拠点の建設費を確認することはできません。
2032年完成までに見るべきポイント
今後、合同拠点計画を確認する際は、庁舎の完成時期だけでなく、運用面の具体化を見る必要があります。
主な確認項目は次のとおりです。
- 2027年度予算案で設計費がいくら計上されるか
- 正式な建設予定地が政府から公表されるか
- 庁舎の規模・完成時期
- NCOのどの機能が移転するか
- サイバー特別捜査部の全部または一部が移るのか
- 自衛隊のどの部隊・機能が入居するか
- 共同オペレーションセンターを設置するか
- 各機関の情報システムをどこまで接続するか
- 機密情報の共有ルール
- 共同訓練や演習の実施体制
- 外国政府・捜査機関との連携設備を置くか
- 民間の重要インフラ事業者との情報共有機能を持つか
特に、同じ建物に入ることと、実務上の情報共有が進むことは同義ではありません。
組織間の権限、システム、情報区分、意思決定手順まで設計されて初めて、合同拠点としての効果が出ます。
企業への直接的な義務は生じない
今回報じられた合同拠点整備そのものによって、一般企業に新たな報告義務や設備導入義務が発生するわけではありません。
企業側への影響は、能動的サイバー防御の制度運用が進むことで、政府との情報共有や重大サイバー事案への対応が今後変化していく点にあります。
サイバー対処能力強化法は、
- 官民連携
- 通信情報の利用
- アクセス・無害化措置
を柱としています。
2026年10月1日には、官民連携とアクセス・無害化措置に関する制度施行が予定されています。
重要インフラ事業者では同日、重要インフラのサイバーセキュリティ対策のための統一基準も施行予定です。
企業側では、政府合同拠点の完成を待つのではなく、
- 重大インシデント時の政府への連絡経路
- 攻撃元IP、ドメイン、マルウェアなどの証跡保存
- ログ保存期間
- 脅威情報を外部へ提供する社内承認手順
- 重要インフラとしての報告義務
- 警察・NCO・所管省庁との連携
を確認しておく方が実務的です。
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関連記事:重要インフラのサイバーセキュリティ対策 統一基準を解説
今回の拠点整備をどう見るか
今回の報道は、日本の能動的サイバー防御が「法律を作る段階」から「組織・人員・設備を固定化する段階」へ移りつつあることを示す動きです。
2026年10月1日にアクセス・無害化措置が始まる一方、合同拠点の完成目標は2032年ごろです。
この約6年の差を考えると、新庁舎は制度開始のための暫定施設ではなく、警察・自衛隊・NCOによるサイバー安全保障体制を長期的に運用する恒久拠点として検討されているとみることができます。
ただし、現時点では共同通信の関係者取材によって明らかになった計画段階です。
今後、防衛省の予算案、建設・設計の調達情報、NCOや警察庁の組織改編などで、合同拠点の具体像が公式資料として確認できるかを追う必要があります。








