日本郵便株式会社は2026年9月14日、本人限定受取郵便のサービスを2027年4月1日から見直すと発表しました。
変更の中心は、本人確認書類の券面を目視で確認する方式から、ICチップに記録された情報を使って真正性を確認する方式への移行です。
特定事項伝達型では、利用できる本人確認書類を「運転免許証、マイナンバーカード、在留カード、特別永住者証明書」の4種類に限定し、ICチップ情報を読み取って券面と照合します。スマートフォンに搭載したマイナンバーカードによる本人確認にも対応します。
基本型でも本人確認書類を同じ4種類へ限定し、従来認めていたパスポートや、写真のない本人確認書類2点による確認を終了します。一方、これまで郵便局窓口での受け取りを原則としていた基本型は、希望に応じて住所・居所への配達も可能になります。
また、本人限定受取郵便の「特例型」は2027年3月31日で終了し、現在の利用者には基本型への移行を案内しています。
今回の見直しは、日本郵便単独のサービス変更というより、2027年4月に施行される本人確認制度の厳格化に郵便サービスを合わせる対応です。偽造身分証によるなりすまし対策を強化しつつ、スマートフォンのマイナンバーカードや自宅配達を取り入れて利便性も補う構成になっています。
日本郵便の本人限定受取郵便見直しのサマリー
- 実施日は2027年4月1日です。
- 特定事項伝達型では、本人確認書類をICチップ付き・顔写真付きの4種類に限定します。
- 対象は運転免許証、マイナンバーカード、在留カード、特別永住者証明書です。
- 特定事項伝達型では、ICチップ情報を読み取り、本人確認書類の券面と一致することを確認します。
- 運転免許証のICチップを読み取る際は、4桁の暗証番号2組が必要です。
- 特定事項伝達型では、スマートフォンに搭載したマイナンバーカードによる本人確認にも対応します。
- 基本型でも本人確認書類を同じ4種類へ限定します。
- 基本型では、パスポートや写真のない本人確認書類2点による本人確認を終了します。
- 基本型は、郵便局窓口だけでなく住所・居所への配達にも対応します。
- 特例型は2027年3月31日で終了します。
- 実施日前に差し出された郵便物でも、受け取りが2027年4月1日以降になる場合は新しい規定が適用されます。
見直しの目的は「本人確認書類の見た目」から「ICチップの真正性確認」への移行
今回の見直しで最も大きいのは、本人確認の信頼の置き場所が変わる点です。
従来は、郵便局員や配達員が本人確認書類の券面を確認し、名あて人本人かどうかを判断していました。
2027年4月以降の特定事項伝達型では、本人確認書類のICチップに保存された情報を読み取り、その情報が券面と一致しているかを確認します。
つまり、
「提示されたカードがそれらしく見えるか」
だけではなく、
「カード内の電子情報と券面情報が整合しているか」
まで確認する方式になります。
偽造・改ざんされた本人確認書類によるなりすましを難しくすることが、制度変更の中心です。
背景は2027年4月の犯罪収益移転防止法施行規則改正
日本郵便のリリースでは、特定事項伝達型の見直しについて、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則の改正に伴う対応だと明記しています。
2025年6月には、非対面の本人確認について、本人確認書類の画像やコピーに依存する方式の一部を廃止する改正が行われました。
さらに2026年3月6日には、対面本人確認についても、ICチップ付きの本人確認書類を使う場合にICチップ情報の読み取りを求める改正が公布されています。
施行日は2027年4月1日です。
金融庁も、偽造身分証を利用した口座開設や不正利用への対策として、ICチップ読み取り方式への移行を金融機関へ求めています。
セキュリティ対策Labでは、2027年4月の本人確認制度変更について、犯収法の本人確認、2027年4月に大幅変更 身分証の画像・コピーからICチップ確認へで整理しています。
特定事項伝達型は「4種類+ICチップ確認」へ
特定事項伝達型で利用できる本人確認書類は、2027年4月1日から次の4種類に限定されます。
- 運転免許証
- マイナンバーカード
- 在留カード
- 特別永住者証明書
いずれも顔写真とICチップを備えた本人確認書類です。
これまで利用できたパスポートなどは対象外になります。
日本郵便は、本人確認書類のICチップ情報を確認したうえで、名あて人本人であるかを確認します。
運転免許証のICチップ読み取りでは、4桁の暗証番号2組の入力が必要です。
スマートフォンのマイナンバーカードにも対応
特定事項伝達型では、2027年4月からスマートフォンに搭載されたマイナンバーカードによる本人確認も可能になります。
利用者のスマートフォンからマイナンバーカード情報の送信を受け、その情報を使って名あて人本人かを確認します。
利用には、スマートフォンへのアプリ導入など事前設定が必要です。
デジタル庁によると、スマートフォンのマイナンバーカードは、マイナンバーカードの機能をiPhoneやAndroid端末へ追加して利用する仕組みです。対応端末では顔や指紋などの生体認証も利用できます。
物理カードの提示以外に本人確認手段を増やすことで、ICチップ確認の厳格化と利便性を両立させる狙いがあります。
基本型も本人確認書類を4種類へ限定
本人限定受取郵便の基本型でも、本人確認書類を次の4種類へ限定します。
- 運転免許証
- マイナンバーカード
- 在留カード
- 特別永住者証明書
これまでは、パスポートなどの写真付き本人確認書類1点や、写真のない本人確認書類など2点を組み合わせる方法も利用できました。
2027年4月以降は、これらの取り扱いを終了します。
特定事項伝達型と異なり、基本型ではスマートフォンに搭載されたマイナンバーカードによる本人確認は行いません。
基本型は自宅・居所への配達が可能に
基本型では、本人確認書類の選択肢を絞る一方、受け取り方法を拡大します。
現在は郵便局窓口での受け取りが原則ですが、2027年4月以降は利用者の希望に応じて住所・居所へ配達します。
本人確認を厳格化する一方で、受け取りのために郵便局へ出向く必要を減らし、利便性を補う変更です。
特例型は2027年3月末で終了
本人限定受取郵便の特例型は、2027年3月31日をもって提供終了となります。
現在、特例型を利用している差出人には、基本型の利用を案内しています。
日本郵便の資料によると、本人限定受取郵便は2001年に開始され、2003年には当時の本人確認制度との関係から、確認方法を簡素化した特例型が追加されました。
今回、本人確認制度そのものがICチップ確認を中心とする方向へ変わることで、本人限定受取郵便の型も整理されることになります。
なぜICチップ確認が必要なのか
背景には、偽造された本人確認書類を使ったなりすましがあります。
金融庁は、本人確認書類の真正性を確認する仕組みとしてICチップ読み取りの早期導入を金融機関へ促しています。
2026年1月には、偽造したマイナンバーカードを使って銀行口座を開設し、クレジットカードやローンなどを不正利用したとされる事件も報じられました。
関連記事:偽造マイナンバーカードで口座開設、クレカなど約6億円不正使用か
また、本人確認書類の画像だけを確認する方式については、生成AIや画像編集技術の高度化で偽造が見抜きにくくなるという問題もあります。
関連記事:AIによる文書偽造の急増、書類の見た目の正しさはもう通用しない
ICチップ確認へ移行することで、券面画像だけを偽造した本人確認書類を使う攻撃の難易度を上げられます。
効果1:偽造本人確認書類によるなりすましを減らす
今回の変更で期待される主な効果は、本人確認書類の真正性確認を強化できることです。
券面だけを目視する方式では、精巧に作られた偽造カードを人の目で見分ける必要があります。
ICチップ読み取りでは、カード内部の電子情報と券面を照合できます。
金融庁は、偽造身分証による口座開設・不正利用への対策としてICチップ確認が有効だとしています。
ただし、ICチップを利用すればすべてのなりすましを防げるわけではありません。
正規カードそのものの盗難、不正な暗証番号取得、本人をだまして正規の手続きを行わせる詐欺などは別途対策が必要です。
効果2:郵便を使ったKYCの制度適合を維持
特定事項伝達型は、犯収法などの本人確認制度に対応する郵便サービスです。
銀行、証券、クレジットカード、その他の特定事業者は、取引時確認の一部として本人限定受取郵便を利用する場合があります。
2027年4月の規制変更後も郵便による本人確認を利用できるよう、日本郵便側もICチップ確認へ移行する必要があります。
今回の見直しにより、
「本人限定受取郵便を使えば従来どおり」
ではなく、
「2027年の本人確認基準を満たす本人限定受取郵便」
へサービスを更新する形になります。
効果3:スマホ対応で本人確認手段を増やす
本人確認書類を4種類へ絞ると、利用者によっては受け取り手段が減ります。
その一方で、特定事項伝達型ではスマートフォンのマイナンバーカードを追加します。
物理カードのICチップ確認だけでなく、スマートフォン上の公的な本人確認情報を利用できるようにすることで、本人確認の電子化を進めます。
ただし、この方式は基本型では利用できません。
利用者向け案内では、特定事項伝達型と基本型で対応する本人確認方法が異なる点を分けて説明する必要があります。
効果4:基本型は自宅配達で利便性を補う
基本型では、本人確認書類の種類を減らす一方で、住所・居所への配達を追加します。
本人確認強化は利用者の負担を増やす可能性がありますが、自宅で受け取れるようにすることで一部を補います。
特に、郵便局の営業時間内に窓口へ行きにくい利用者にとっては受け取りやすくなります。
金融機関・カード会社など差出人側への影響
本人限定受取郵便を本人確認フローに組み込んでいる企業では、2027年4月までに顧客向け案内を見直す必要があります。
確認したい項目は次のとおりです。
- 現在、基本型・特定事項伝達型・特例型のどれを利用しているか
- 特例型を利用している場合、基本型への切り替えが必要か
- 顧客へ案内している本人確認書類の一覧を更新するか
- パスポートや2点確認が使えなくなることを案内しているか
- 特定事項伝達型でスマホのマイナンバーカードを案内するか
- 運転免許証利用者へ暗証番号2組が必要なことを案内するか
- 2027年4月1日をまたぐ郵便物の扱いを確認したか
- FAQ、申込画面、規約、コールセンター台本を更新するか
特に、実施日前に差し出しても、受け取りが4月1日以降になる場合は新ルールが適用されます。
3月末に発送する本人限定受取郵便については、顧客案内との食い違いが生じないよう確認が必要です。
利用者側で確認したいこと
本人限定受取郵便を受け取る利用者は、2027年4月以降、次を確認できます。
特定事項伝達型
- 利用できる物理カードは4種類
- 運転免許証はICチップ読み取り時に暗証番号2組が必要
- スマートフォンのマイナンバーカードも利用可能
- 事前のアプリ設定などが必要
基本型
- 利用できる本人確認書類は4種類
- パスポートは対象外
- 写真のない本人確認書類2点による方法は終了
- スマートフォンのマイナンバーカードは利用不可
- 希望すれば住所・居所への配達が可能
本人確認厳格化は「認証強化」とは別の論点
今回の見直しは、郵便物を受け取る人物が誰かを確認する「本人確認」の強化です。
企業システムへのログインで使うパスワード、MFA、パスキーなどの「ユーザー認証」とは別の概念です。
たとえば、本人限定受取郵便で正しく本人確認してアカウントを発行しても、その後のログインがパスワードだけであれば、フィッシングや認証情報窃取のリスクは残ります。
KYCとアカウント認証は、別々に設計する必要があります。
2027年4月は本人確認フロー全体の見直し時期になる
日本郵便の今回の変更は、郵便サービス単体の仕様変更ではありません。
2027年4月には、犯収法に基づく対面・非対面の本人確認方法も変更されます。
金融機関、クレジットカード会社、暗号資産交換業者など、本人確認を行う事業者では、
- 店頭
- eKYC
- 郵送
- 本人限定受取郵便
- スマートフォンのマイナンバーカード
を別々に更新するのではなく、本人確認フロー全体を整理する方が実務的です。
特に、本人確認方法ごとに「利用可能な書類」「ICチップ読取」「例外時の代替方法」「顧客案内」が異なるため、施行直前に運用変更を集中させない方が安全です。








