犯収法の本人確認、2027年4月に大幅変更 身分証の画像・コピーからICチップ確認へ、企業が見直すべきKYCフロー

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犯収法の本人確認、2027年4月に大幅変更 身分証の画像・コピーからICチップ確認へ、企業が見直すべきKYCフロー

犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)の本人確認ルールが、2027年4月1日に大きく変わります。

変更の中心は、本人確認書類の「見た目」に依存した確認から、ICチップなど電子的に真正性を確認できる方法へ移行することです。非対面では、本人の顔と運転免許証などをスマートフォンで撮影して送信する方法や、本人確認書類のコピーを郵送する方法の多くが廃止されます。対面でも、マイナンバーカードや運転免許証などICチップ付きの写真付き本人確認書類を使う場合、券面を見るだけではなくICチップ情報を読み取る必要があります。

ただし、「2027年4月から本人確認はマイナンバーカードだけになる」「紙の書類がすべて使えなくなる」「スマートフォンのマイナンバーカードへの対応が全事業者に義務付けられる」という理解はいずれも正確ではありません。

ICチップ付き運転免許証や在留カードなども利用でき、ICチップを持たない人に対応する補完的な方法も残ります。また、スマートフォンに搭載したマイナンバーカード情報を使う「カード代替電磁的記録」は法定の本人確認方法として利用できますが、どの本人確認方法や本人確認書類に対応するかは特定事業者が選択できます。

2027年4月までに必要なのは、単なる本人確認ツールの入れ替えではありません。申込画面、店舗・窓口、eKYC、委託先、確認記録、例外処理、マニュアル、社内規程まで含めて本人確認フローを組み直す必要があります。

2027年4月の犯収法本人確認改正のサマリー

  • 2027年4月1日、犯収法施行規則の本人確認方法に関する改正が施行されます。
  • 非対面では、本人の容貌画像と本人確認書類の画像を送信する方式など、画像を中心とした本人確認方法の多くが廃止されます。
  • 本人確認書類のコピーを郵送し、転送不要郵便を組み合わせる方法も原則として廃止されます。
  • 非対面では、マイナンバーカード、運転免許証、在留カードなどのICチップ情報を利用する方法や、公的個人認証などが中心になります。
  • 対面では、ICチップ付き写真付き本人確認書類を使う場合、ICチップ情報の読み取りが必要になります。
  • ICチップから読み取った情報は券面情報と照合し、偽造・改ざんによるなりすましを確認する必要があります。
  • ICチップ付き本人確認書類を持たない人などに対応するため、住民票の写しなどを利用した補完的な確認方法は残ります。
  • 「住民票の写し」は自治体が発行する証明書そのものを指します。本人確認書類をコピー機などで複写した「写し」とは意味が異なります。
  • スマートフォンに搭載したマイナンバーカード情報を使う「カード代替電磁的記録」は、2025年6月24日から対面・非対面双方で利用可能です。
  • スマートフォンのマイナンバーカードをすべての特定事業者が受け付ける義務が新たに生じるわけではありません。対応する本人確認方法は事業者側で選択できます。
  • 2027年4月1日より前に適法に本人確認を完了した既存顧客について、改正だけを理由に一律で本人確認をやり直す必要はありません。
  • 警察庁は、施行までに本人確認システムの改修、社内規程、マニュアルの整備などが必要になることを明示しています。

2027年4月1日以降の主な本人確認方法

本人確認の場面 現在利用されている代表的な方法 2027年4月1日以降 実務上の確認点
対面・ICチップ付き写真付き本人確認書類 券面の提示・目視確認 ICチップ情報の読み取りが必要 読取端末、アプリ、券面との照合手順を整備
非対面・本人の顔+本人確認書類画像 顔を撮影し、免許証等の表裏・厚みなどを撮影して送信 廃止 現在のeKYCがこの方式なら移行が必要
非対面・本人の顔+ICチップ情報 容貌画像とICチップ情報を送信 存続 NFC対応端末、IC読み取りフローを確認
非対面・本人確認書類画像+追加確認 書類画像に銀行口座確認等を組み合わせる方法 画像を使うルートは廃止・IC利用へ移行 eKYCベンダーの対応方式を確認
非対面・本人確認書類のコピー+転送不要郵便 コピーを郵送し、取引関係文書を転送不要で送付 原則廃止 郵送KYCの代替フローが必要
公的個人認証(JPKI) マイナンバーカードの電子証明書を利用 存続 電子証明書方式を継続可能
スマホ搭載マイナンバーカード カード代替電磁的記録を送信 利用可能 採用する場合は対応アプリ・確認用プログラム等を整備
ICチップ付き書類を利用できないケース 書類原本や郵便を用いる方法 一部の補完的方法が存続 対象書類と郵送条件をマニュアル化
非居住外国人等 旅券等による確認 別途認められた方法あり 一律に国内居住者と同じフローにしない

この表は代表的なケースを整理したものです。犯収法上の本人特定事項の確認方法には複数の類型があり、顧客属性や取引内容によって利用できる方法が異なります。自社で採用する方法は、所管官庁のQ&Aや業法上の要件も含めて確認する必要があります。

2027年4月の変更は「一つの改正」ではない

今回の本人確認ルールの変更は、2027年4月1日に突然一つの制度へ切り替わるものではありません。

大きく分けると、三つの改正が関係しています。

2025年6月24日に公布された施行規則改正では、非対面本人確認について、本人確認書類の画像やコピーに依存するなりすましリスクの高い方法を整理し、2027年4月1日からICチップ情報などを利用する方式へ移行することが決まりました。

同じ2025年6月24日には、スマートフォンに搭載したマイナンバーカード情報を利用する「カード代替電磁的記録」による本人確認方法も新設されました。こちらは公布日から施行されており、2027年4月を待たず利用できます。

さらに2026年3月6日の改正で、対面で写真付き本人確認書類を提示して本人確認する方法についても、ICチップ付きの本人確認書類ではICチップ情報を読み取る仕組みへ変更されました。こちらも2027年4月1日に施行されます。

つまり、2027年4月の対応を「eKYCだけの改修」と捉えると不十分です。オンライン申込だけでなく、店舗や営業担当者による対面確認も対象になります。

非対面、「身分証を撮影して送るeKYC」は原則廃止へ

現在のオンライン本人確認では、スマートフォンのカメラを使い、利用者自身の顔と運転免許証などを撮影して送信する方式が広く使われています。

犯収法施行規則では、本人の容貌画像と写真付き本人確認書類の画像を送信させ、書類の厚みなども確認できる画像を取得する方法が規定されています。

2027年4月1日以降、この方法は廃止されます。

警察庁は、本人確認書類の画像情報を送信させる方式について、本人確認書類の偽造・改ざんによるなりすましリスクが高いとして、パブリックコメントで存続を求める意見に対しても廃止方針を維持しました。

そのため、現在のeKYCが「顔写真+運転免許証の撮影」「本人確認書類の画像+追加確認」といった画像ベースの方式に依存している場合、2027年4月以降も同じフローを継続できるとは限りません。

最初に行うべきなのは、自社が「eKYCを導入しているか」ではなく、犯収法施行規則上のどの本人確認方法を採用しているかを確認することです。

同じeKYCという名称でも、画像方式、ICチップ方式、公的個人認証方式では法令上の位置付けが異なります。

本人確認書類の「コピー郵送」も原則廃止

郵送で本人確認書類のコピーを受け取り、記載住所へ転送不要郵便を送る本人確認方法についても見直しが必要です。

2025年の施行規則改正では、本人確認書類のコピーを送付させる方法について、偽造・改ざんによるなりすましリスクが低いとはいえないとして、原則廃止する方向が示されています。

ここで注意したいのが「写し」という言葉です。

法律上の「住民票の写し」は、市区町村が発行する証明書そのものです。利用者がマイナンバーカードや運転免許証をコピー機で複写したものとは違います。

2027年4月以降も、ICチップ付き本人確認書類を保有していない人などが本人確認できるよう、一定の書類原本と転送不要郵便を組み合わせる方法などが残ります。

したがって、「紙による本人確認が全面廃止される」わけではありません。

実務では、現在のマニュアルで「本人確認書類の写し」と一括している場合、「利用者が作成したコピー」と「住民票の写しなど発行主体が交付する証明書原本」を区別して記載する必要があります。

対面でもマイナンバーカードや運転免許証はICチップを読み取る

2027年4月からの変更はオンラインだけではありません。

対面で写真付き本人確認書類の提示を受ける場合も、マイナンバーカード、運転免許証、在留カード、特別永住者証明書、旅券など、施行規則の要件を満たすICチップ付き本人確認書類では、ICチップ情報を読み取る必要があります。

これまで店舗や営業担当者が「本人確認書類の券面を目視して終わり」としていたフローは見直し対象になります。

警察庁は、ICチップを読み取る目的について、読み取った情報と本人確認書類の券面を照合し、偽造・改ざんされた本人確認書類によるなりすましを防ぐためと説明しています。

単に「ICチップが読めた」という結果だけを残せばよいわけではありません。

本人確認の現場では、読み取ったICチップ情報を画面上で確認できるようにし、券面情報と照合できる運用が必要です。

ICチップから何を読み取るのか

ICチップ付き写真付き本人確認書類では、原則として氏名、住居、生年月日、写真の情報を読み取ります。

旅券のようにICチップへ住居が記録されていない書類では扱いが異なり、必要に応じて現在の住居を別の本人確認書類や補完書類で確認します。

住所変更時にも注意が必要です。

例えば、本人確認書類の裏面には現在住所が記載されている一方、ICチップには旧住所が残っている場合があります。警察庁Q&Aでは、ICチップに記録された旧住所と券面上の旧住所が一致することなどを確認しつつ、現在の住居は券面から適切に確認し、確認記録へ残す必要があるとしています。

このため、店舗マニュアルに「IC読取成功=確認終了」とだけ記載すると、住所変更や券面との不一致を処理できません。

少なくとも、IC読み取り、券面との照合、現在住所の確認、不一致時のエスカレーションまでを一つの手順として定義する必要があります。

IC読取アプリは民間製も利用可能

ICチップ読み取りのために、特定の政府アプリだけを使わなければならないわけではありません。

警察庁Q&Aでは、民間企業が提供するツールやアプリの利用も可能としています。

マイナンバーカードについては、デジタル庁の「マイナンバーカード対面確認アプリ」や、J-LISの「個人番号カード対応版券面事項表示ソフトウェア」なども選択肢として示されています。

一方、どのアプリでもよいという意味ではありません。

警察庁は、ICチップ情報と券面情報を照合して偽造・改ざんを防止するという制度趣旨を満たす性能が合理的に認められる必要があるとしています。

顧客自身の端末を利用する場合も、不正なソフトウェアを使ったなりすましを防止できる設計が必要です。

システム選定では「NFCでカードを読めるか」だけでなく、真正性確認、表示、照合、ログ・確認記録、端末管理まで評価する必要があります。

スマートフォンのマイナンバーカードは「対応必須」ではない

今回の制度変更で誤解されやすいのが、スマートフォンに搭載されたマイナンバーカードへの対応です。

2025年6月24日の施行規則改正により、「カード代替電磁的記録」を利用する本人確認方法が新設されました。

カード代替電磁的記録は、マイナンバーカードに記録された氏名、住所、生年月日などの情報と、その情報が真正であり送信者本人のものであることを証明する情報をスマートフォンへ搭載し、本人確認に利用できる仕組みです。

犯収法上は、対面・非対面のどちらでも利用できます。

非対面でこの方式を利用する場合、従来のように本人の顔を別途撮影して送信させる必要はありません。J-LISとスマートフォン保有者による電子署名を通じて、データの真正性と送信者の同一性を確認できるためです。

一方で、2027年4月からすべての事業者に「スマホのマイナンバーカードを受け付ける義務」が生じるわけではありません。

警察庁Q&Aは、本人特定事項の確認方法のどれを採用するかは特定事業者側に委ねられており、法令で定められた本人確認書類のすべてに対応する必要はないと明記しています。

したがって企業側で必要なのは、「スマホ対応が義務だから導入する」という判断ではなく、自社の本人確認チャネルとして採用するかどうかを決めることです。

採用する場合は、デジタル庁が提供する仕組みや認定された確認用プログラム、外部ベンダーのサービスなどを踏まえ、対面・非対面のどこで利用するかを設計します。

スマホ搭載マイナンバーカードは2027年を待たず利用できる

カード代替電磁的記録による本人確認は、2027年4月施行のIC化と同時に始まる制度ではありません。

制度上は2025年6月24日から利用可能です。

デジタル庁は現在、iPhone、Android、窓口端末・専用機を使った対面利用の手順と、非対面利用のための開発手順を公開しています。

自社開発する場合には、利用申請や確認用プログラムの大臣認定が必要になる構成があります。一方、認められた仕組みを利用する民間ベンダーのアプリを採用する方法もあります。

そのため、2027年4月の制度対応を機にスマホ搭載マイナンバーカードも受け付けるのであれば、法務・コンプライアンス部門だけでなく、アプリ開発、本人確認基盤、委託先管理まで含めて早めに方式を決める必要があります。

すべてを「マイナンバーカード一本化」する必要はない

今回の改正は、マイナンバーカードだけを本人確認書類として認める制度ではありません。

警察庁は、パブリックコメントでも、マイナンバーカードによる公的個人認証だけでなく、ICチップ付き運転免許証などのICチップ情報を利用する方法を引き続き残すと説明しています。

対面確認のQ&Aでも、マイナンバーカード、運転免許証、在留カード、特別永住者証明書、旅券などをICチップ付き本人確認書類の例として挙げています。

さらに、ICチップ付き本人確認書類を保有していない利用者に対応するため、一定の非電子的な確認方法も残ります。

企業は法令上利用可能な方法をすべて実装する必要はありませんが、対応方法を絞りすぎると、本人確認を完了できない顧客が増える可能性があります。

セキュリティ、法令対応、顧客の利用率、窓口運用、システム費用を踏まえて、どの方法を標準ルートとし、どの方法を代替ルートとして残すかを決める必要があります。

施行前に本人確認済みの顧客を全員やり直す必要はない

2027年4月に新ルールへ変わるからといって、既存顧客全員の本人確認を一律でやり直す必要はありません。

警察庁Q&Aでは、新規則の施行前に適法に取引時確認を実施していれば、施行後もいわゆる「済み確認」を利用でき、新制度になったことだけを理由に改めて本人確認を実施し直す必要はないとしています。

非対面本人確認についても、施行前に旧規則で本人特定事項の確認を完了した口座について、一律の再確認を求めるものではありません。

ただし、2027年4月1日をまたぐ申込みには注意が必要です。

例えば、顧客が施行日前に本人確認書類のコピーを発送しても、事業者が受領するのが施行日以降になった場合、旧方式をそのまま使うことはできず、新規則に定める別の方法で改めて本人確認する必要があると警察庁は説明しています。

一方、対面で施行日前に本人確認書類の提示まで済ませ、取引関係文書の送付だけが施行日以降になる場合など、旧手続を完了できるケースもあります。

そのため、移行期間のマニュアルでは単純に「4月1日受付分から新方式」とするのではなく、申込日、本人確認書類の提示・送信・受領日、確認完了日などを基準にケースを整理する必要があります。

本人確認フローは「受付→真正性確認→照合→記録」まで見直す

2027年4月対応では、本人確認画面だけを変更して終わりにしないことが重要です。

最初に、自社で現在使っている本人確認ルートをすべて棚卸しします。

確認項目 見直す内容
チャネル 店舗、訪問営業、Web、スマホアプリ、郵送、代理店など
現在の確認方法 画像、コピー、ICチップ、公的個人認証、郵送など
対応書類 マイナンバーカード、運転免許証、在留カード、旅券、住民票など
2027年4月以降の可否 廃止対象か、継続可能か、新方式への変更が必要か
IC読取 読取端末、スマートフォン、アプリ、SDK、委託サービス
照合 IC情報と券面情報を誰が、どの画面で、どう照合するか
顧客の本人確認 対面・非対面それぞれで本人との一致をどう確認するか
例外処理 IC非対応書類、読取不能、住所変更、非居住外国人、代理人など
確認記録 何を、いつ、どのシステムへ記録・保存するか
委託先 eKYCベンダー、代理店、コールセンター等の対応状況
移行処理 2027年4月1日をまたぐ申込みをどう扱うか

この棚卸しを行うと、影響範囲が本人確認サービスだけではないことが分かります。

例えば、店舗でICチップを読むのであれば、端末調達、アプリ配布、MDM、ネットワーク接続、権限管理、障害対応が必要です。

非対面でIC読み取りを利用する場合は、利用者のスマートフォンがNFCに対応しているか、対応できない利用者に何を案内するか、途中離脱時にどの代替フローへ誘導するかまで設計する必要があります。

マニュアルで書き換えるべき10項目

警察庁は、2027年4月1日までの準備期間を設けた理由として、特定事業者に本人確認システムの改修だけでなく、部内規程やマニュアルの整備が必要になることを明示しています。

実務マニュアルでは、少なくとも次の項目を見直す必要があります。

項目 マニュアルに定める内容
1. 採用する本人確認方法 対面・非対面・郵送ごとに利用可能な方式を明記
2. 受け付ける本人確認書類 書類ごとのIC有無、補完書類、対象外書類を整理
3. ICチップ読み取り 利用端末、アプリ、読み取る項目、操作手順
4. 券面との照合 IC情報と券面のどこを比較し、不一致をどう判断するか
5. 住所変更 ICと券面の住所が異なる場合の確認・記録手順
6. 読み取り不能 端末障害、IC破損、顧客拒否時の代替方法
7. なりすまし疑い 偽造・改ざんが疑われる場合の取引停止、上席報告、警察等への連絡
8. スマホ搭載マイナンバーカード 採用する場合の受付チャネル、利用アプリ、確認方法
9. 確認記録 記録項目、保存先、保存期間、アクセス権限
10. 施行日前後の移行 2027年4月1日をまたぐ申込みの取扱い

特に「読めなかった場合は券面目視で代替する」といった例外を安易に設けないことが重要です。

警察庁は、ICチップ付き写真付き本人確認書類について、読み取りを拒否した場合や機器故障の場合に、追加の本人確認書類を提示させるだけで補完する方法は認めていません。

機器の一時的な不具合であれば、合理的な期間内にICチップ情報を読み取り、本人確認を完了することは可能とされています。また、別途法令で認められた本人確認方法へ切り替えることもできます。

例外フローも法令に沿って設計する必要があります。

「IC不一致」を不正検知フローにつなげる

IC読み取り対応は、単なる本人確認事務のデジタル化ではありません。

読み取ったICチップ情報と券面情報が一致しなければ、偽造・改ざんされた本人確認書類を使っている可能性があります。

警察庁Q&Aは、取引相手が第三者になりすましている疑いがある場合には、警察等へ通報するよう求めています。

そのため、店舗担当者が画面上で「不一致」と確認して終わるのではなく、その後の処理を決めておく必要があります。

取引をどの段階で保留するのか、誰へエスカレーションするのか、AML/CFT部門や不正対策部門へ何を共有するのか、確認記録や証跡をどう保全するのかを事前に定めます。

ICチップ確認の導入を「受付事務の変更」とだけ捉えると、この不正検知・インシデント対応の部分が抜け落ちます。

eKYCベンダーには「2027年対応済みか」だけでなく方式を確認する

外部のeKYCサービスを利用している企業も、自社側で確認が必要です。

「2027年4月の犯収法改正に対応予定」とベンダーから説明を受けるだけでは、どの本人確認方法へ移行するのか分かりません。

少なくとも、現在利用している方式、廃止される方式からの移行先、対応する本人確認書類、IC読み取り方法、公的個人認証やカード代替電磁的記録への対応、利用者がNFCを使えない場合の代替手段を確認します。

また、本人確認画面だけでなく、自社の顧客管理システムへ返却されるデータや証跡が変わる可能性もあります。

APIの項目、本人確認ステータス、エラーコード、不一致結果、確認記録として保存するデータが変わる場合は、自社システム側の改修も必要です。

委託しているから法対応もベンダー任せ、とはなりません。自社が採用している本人確認方法が新規則を満たすかを特定事業者側で確認する必要があります。

改正の背景には偽造身分証によるなりすまし

今回、本人確認書類の画像やコピーからICチップへ軸足を移す背景には、偽造された本人確認書類を使ったなりすましへの対策があります。

警察庁は、画像やコピーを使う本人確認について、本人確認書類の偽造・改ざんによるなりすましリスクが高いことを、改正理由として繰り返し挙げています。

セキュリティ対策Labでも、「偽造マイナンバーカードで口座開設、クレカなど約6億円不正使用か」で、偽造されたマイナンバーカードを使って銀行口座を開設し、クレジットカードやローンなどを不正利用したとされる国内事件を取り上げています。

また、生成AIを含む画像生成・編集技術の高度化により、「書類画像が自然に見える」という理由だけで真正性を判断することも難しくなっています。「AIによる文書偽造の急増、書類の見た目の正しさはもう通用しない」では、画像の見た目ではなく、発行元や電子的な真正性を確認する必要性を整理しています。

今回の犯収法改正は、こうした「画像を見る本人確認」から「発行された電子情報を検証する本人確認」への移行として捉えると、システム対応の目的が分かりやすくなります。

情報システム・コンプライアンス部門への示唆

2027年4月1日までの対応は、コンプライアンス部門だけで完結する法改正対応ではありません。

最初に法務・AML/CFT部門が、新規則で自社が採用する本人確認方法を決めます。その上で、情報システム部門がIC読み取り、eKYC、アプリ、API、確認記録などへの影響を洗い出し、営業・店舗・カスタマーサポートが実際の顧客対応へ落とし込む必要があります。

特に優先したいのは、現在の本人確認方法の棚卸しです。

「WebはeKYC」「店舗は免許証確認」「郵送はコピー」というサービス名や運用名ではなく、それぞれが犯収法施行規則上のどの確認方法に該当するかまで確認します。

次に、廃止対象のフローを特定し、2027年4月以降に使う標準ルートと代替ルートを決めます。

標準ルートをICチップ方式にする場合も、マイナンバーカードだけに限定するのか、運転免許証や在留カードも受け付けるのかでシステム要件は変わります。スマホ搭載マイナンバーカードを採用するかどうかも、この段階で決めます。

システム改修後は、正常系だけでなく、ICが読めない、住所が更新されている、券面とIC情報が一致しない、顧客がIC読み取りを拒否する、施行日前後をまたいで申込みが続くといった例外ケースをテストします。

金融庁も、2026年の業界団体との意見交換で、2027年4月1日の施行に向けて各金融機関がシステム対応を着実に進めるよう求めています。

セキュリティ対策Labの「金融庁がマネー ロンダリングと金融犯罪の対策と取り組み 課題を公表」でも、金融犯罪対策全体の中で本人確認のIC化を取り上げています。

今回の改正対応では、制度施行日だけをゴールにするのではなく、「偽造された画像やコピーを見抜く」という従来の運用から、「真正性を電子的に検証できる情報を使い、不一致を不正検知へつなげる」運用へ変えることが重要です。

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